名馬であれば馬のうち

読書、映画、ゲーム、その他。


読書、映画、その他。


ぼんやりした話

越えていく物語たちのポリフォニー――ゲーム『未解決事件は終わらせないといけないから』に影響した作品について

(미제사건은 끝내야 하니까、2024)(注1:本記事はゲーム『未解決事件は終わらせないといけないから』、小説『白光』『新参者』『終わりの感覚』、映画『ファーザー』の軽度〜中度のネタバレを含みます) (注2:基本的には、『未解決事件』をクリアした…

プレイヤーの破滅を目的とするゲームについて―『Balatro』の感想

「塗辺くん」ふいに、真兎が言った。「もしかしてだけど、カードは――」 「「こことは別の場所にある?」」 絵空も声をそろえ、まったく同じ質問をした。 青崎有吾「フォールーム・ポーカー」 store.steampowered.com インターネットは今日も平和 インターネ…

死にたくもないし生きたくもないし歩きたくもない――『信長の野望・出陣』について

数えた足跡など 気づけば数字でしかない BUMP OF CHICKEN「カルマ」 走る街を見下ろして のんびり雲が泳いでく 毎日、歩いている。 そりゃ、歩くだろう、とおもわれるかもしれない。動物なんだから。そこそこ健やかな人間は一生のうちにおよそ一億五千万歩を…

2023年読んだ新刊まんがベスト(短編集・単発長編/五巻以内完結篇)

proxia.hateblo.jp ↑出した時点で「もう今年は短編集とかのほうのランキングはいいかな〜」みたいなムードだったんですが、村長から「マンガを怠けるな」とお叱りを受けたのでなんとかない気力を奮って作りました。 【レギュレーション】 ・1.2023年内に発売…

2023年に遊んでおもしろかったゲーム20選+α

前説 2023年のゲームトップ20 1.The Cosmic Wheel Sisterhood 2.Kentucky Route Zero 3.Cyberpunk 2077: Phantom Liberty 4.Chicory: A Colorful Tale(チコリー:いろとりどりの物語) 5.ゼルダの伝説:ティアーズ・オブ・キングダム 6.The Case of the Gol…

夢と魔法の王国への旅2023 告知エディション

上方の ぜいろく共が やって来て 東京などと 江戸をなしけり (落首) 上野観光連盟|上野の歴史−4 暑い日がつづきます。黄昏の世界です。しかし、あまりにも激しく燃え上がり、あまりにも詩的なので、あたかも新しい夜明けのようです。*1 あまりにダルいの…

小惑星の魔女は鬼道占師――The Cosmic Wheel Sisterhood について

おのれの能力を越えて上昇しようとするような輩に用心しよう。死を免れない人間に否定されたるものごとを探し求める者たちに。 ――ジェフリー・ホイットニー『エムブレム選集』 store.steampowered.com The Cosmic Wheel Sisterhood はタイトルを裏切らないゲ…

murashit 先生へのおたより:「メタフィクション表現の四分類についてのメモ」についてのメモ

【注意:今回の記事は私信みたいなものなので、知らない人が読んでもおもしろくない可能性があります】 murashit.hateblo.jp オギャーッ オギャーッ フフフ……騙されたな その泣き声は……わたしだ!!! という茶番はともかく、murashit さん*1からのお便り…

ゲームの夢、映画の魔――『IMMORTALITY』について

(本記事は本ブログに珍しく、あまりネタバレが含まれていない。ちょっとはあります) 君という光が私を見つける 真夜中に 宇多田ヒカル「光」 (本編より) 視覚芸術分野において「見ることと見られることについての作品」というフレーズで評することは若干…

文字と声と亡霊たちの天国――『ディスコ・エリジウム ザ・ファイナル・カット』について

「けど、”ディスコ”・エリジウムでしょ……。おかしくないかしら? ディスコは過去のもの、忘れられたものでしょう?」 「過去は未来だが、未来は死んでいる!」 ――『ディスコ・エリジウム』 『ベイビー、あんたが探してんのは結局あんた自身なのよ』 ――舞城王…

ORGANISM という未来の廃墟に行った。ーーVRChat紀行

廃墟というのは裏返しの未来にすぎない。 -ウラジミル・ナボコフ ORGANISM いままで行った vrc のワールドでトップクラスによかった。 pic.twitter.com/iJZ1KhpE2Q— 集 (@uraq_) 2022年5月21日 エメラルドの鹿に導かれて電話ボックスから出ると、そこは誰の…

第94回アカデミー作品賞候補作の(ほぼ)全所感。

今年に入ってから映画の感想をブログに残していないことに気づいたのでよくないなーとおもったので、時期も時期もだし、アカデミー賞の作品賞候補になっている十作品のうち、日本で公開済みの九作品についての感想を書いておきます。正直、そこまで興味持て…

黒い太陽の中心を制御する黒い太陽の中心――『stikir』、『OMORI』、『Milk inside a bag of milk inside a bag of milk』、『Milk outside a bag of milk outside a bag of milk』

眠りに落ちる前の最後の九分間がいちばん好きだった。 現実と幻想が交錯する瞬間を待ち望んでいた。その一瞬のために起床し、一日を生き抜く。私のいちばんの夢は一日じゅう眠ることだった。実現したらなんとすてきだっただろう! でも、その夢はゆっくりと…

ひさしぶりだな、俺だ、今 VRChat にいる。おまえはどこに?

あっちこっちへ 余計な話が多い まるで聞いた話が全部右から左に流れていくように 興味が持てん ――『邦キチ!映子さん』Season 7 第八話 はじめに忠告しておくけれど、このテキストは長く、一貫性を欠いており、有益な知見も含まれていない。帰ってくれ。 Gu…

名バであれば、ウマのうち。ーー『ウマ娘 プリティーダービー』について

「そのほうが語って聞かせるレースをことごとく観戦する暇が、いつそのほうにあったのか不思議なことよ。そのほうはこのコロナ渦、一歩もスマホの前から動いた様子さえないように朕には思えるのだが。 」 「私が見、またおこなうことはすべてこのスマホ画面…

本物のサイバーパンク体験はPS4の壊れたナイトシティにしか存在しない――『サイバーパンク2077』

過去を忘れることはできず、現在を思い出すことはできない。――マーク・フィッシャー PC、PS5、Xbox series X。 完成された棺桶(コフィン)で『サイバーパンク2077』を遊んでいる人間は不幸だ。 なぜならきらびやかな高解像(ハイ・レズ)だとしてもそれは紛い物…

『レキヨミ』も読まずに天国へ行くつもりかい?

神。信頼。犠牲。正義。 信心。望み。愛。 言うまでもなく、”姉”も。そう、そう。これはいつだってそう。 ーーマーガレット・アトウッド『昏き眼の暗殺者』鴻巣友季子訳 レキとヨミは姉妹です。森の奥にふたりで暮らしています。妹のヨミは薬を作る才能はあ…

より深い『シュガー・ラッシュ:オンライン』理解のためのインターネット

あなたはより深い『シュガー・ラッシュ:オンライン』理解に至りたいと思ったことはありませんか? わたしはあります。 わたしはより深い『シュガー・ラッシュ:オンライン』理解に至りたいと思ったので至るための文章を書こうとしました。それを読んであな…

インディーゲームと映画の(雑な)関係――Disasterpeace、デイヴィッド・オライリー、アナプルナ

例によって動画リンクが多いので重いですが。 デイヴィッド・ロバート・ミッチェルと Disasterpeace 『イット・フォローズ』監督の新作『アンダー・ザ・シルバーレイク』日本版予告編 めずらしく音楽ネタから入ります(『ザ・プレデター』で『don't starve』…

「これは京都SFフェスティバルの参加レポではない」(I'm not the Kyofes Report.)

アイム・ノット・シリアルキラー(字幕版)発売日: 2017/11/03メディア: Prime Videoこの商品を含むブログを見る *去る人物から京都SFフェスティバルのレポを書けといわれたので書きますが、ほとんどはフィクションです。 まじめに内容を知りたい方は、https:…

アメリカのピカレスクで多弁な娘たちの映画についてのメモ:『アイ、トーニャ』、『モリーズ・ゲーム』、『レイチェル:黒人と名乗った女性』

とりあえず、「この三作って似てるよね」という思いつきからはじまったものの、おもいついてから二週間経っても、あんまりうまく膨らみませんでした。後々のためのメモとしての残しておきます。 このところ、アメリカを騒がせたバッドアスな実在女性たちにつ…

『おそ松さん』2期OP曲=『スター・ウォーズ:最後のジェダイ』説

前回までのあらすじ 引っ越しの準備で映画を観ている時間がない。 君子危うくも最後のジェダイ 「君氏危うくも近うよれ」を朝から晩まで聴いています。『おそ松さん』二期のオープニング・ソングです。この曲を十回、二十回、三百四十二回、千九十六回、とヘ…

ケネス・ブラナー版『オリエント急行殺人事件』について

『オリエント急行殺人事件』*1の映像化と呼ばれる作品は世界にだいたい五つくらいありまして、ここではシドニー・ルメット監督&アルバート・フィニー主演版(映画、1974年、以下「ルメット版」)、フィリップ・マーティン監督*2&デイヴィッド・スーシ…

文学フリマで読んだ本。

11月の東京文学フリマで買っ(てきてもらっ)た本を読み終わったので、感想など。評論系がほとんどです。 東京大学お茶の会『月猫通り 2158号(特集:ショートアニメ)』 友人が寄稿していたので入手。 気がついたらなんとなく増殖してたショートアニメの…

私たちは悪魔と取引してデザインされた死を遊んでいる

『ゆゆ式』を思い出そう。『終末少女旅行』を思い出そう。 あなたはいつだって、「この問題」を無敵の少女たちに押しつけてきた。 その罰として、あなたは今、悪魔と契約したコップに成り果てている。 Cuphead Launch Trailer 人生では一回しか体験できず、…

Baby, Please Drive me. ――『ベイビー・ドライバー』の感想

(Baby Driver, エドガー・ライト監督, 2017, 米) 音楽が鳴っているあいだはきみも音楽。 ――T・S・エリオット*1 パンフレットにも載ってある「カーチェイス版『ラ・ラ・ランド』」という惹句に尽きる。ミュージカル的な快楽の点ではララを越えてさえいるの…

「なぜあなたはFGOのガチャを回すのですか」

不自然な弁明ではなく、解明すること。これが与えられた使命である。 ――シュテファン・ツヴァイク、『マリー・アントワネット』(下巻、角川文庫、中野京子・訳) 一度羽生に訊ねたことがある。 なぜFGOをやるんですか、と。 羽生がなかなか答えないので…

『ジョン・ウィック:チャプター2』について:ギリシャ神話・背中・亡霊・犬

『ジョン・ウィック:チャプター2』("John Wick: Chapter 2"、チャド・スタエルスキ監督)『ジョン・ウィック:チャプター2』予告編 #John Wick: Chapter 2 (以下は『ジョン・ウィック2』を既に観た人向けの完全にネタバレなやつです。 まだ観てない人は…

Brigsby Bear、ならびに監禁映画と毒親マンガの流行

今観たい映画ナンバーワン wikipedia に載っているあらすじをそのまま訳すと以下のようになる。 ジェイムズ・ポープは赤ん坊のころに病院から誘拐され、以来子供時代から大人になるまでずっと地下シェルターで『ブリグズビー・ベアー』以外のことを一切知ら…

1930年代から2000年代までの各10年ごとの映画ベスト10

はじめに 他人がなんか楽しくワイワイしながら盛り上がってるさまを眺めるのはとてもくやしいものです。わたしだってワイワイしたい。 最近の twitter でのワイワイ案件としては「◯◯年代映画ベスト10」があります。年代ごとにベストな映画を10本挙げるとかい…