例によって動画リンクが多いので重いですが。
デイヴィッド・ロバート・ミッチェルと Disasterpeace
『イット・フォローズ』監督の新作『アンダー・ザ・シルバーレイク』日本版予告編
めずらしく音楽ネタから入ります(『ザ・プレデター』で『don't starve』が出てきてたよね、という話からはじめるつもりが記事を書いたときにすっかり忘れてた)。
『アンダー・ザ・シルバーレイク』が日本公開される時期となりました。はやいな。アメリカ映画なのに、なんと全米公開より早い。
それもそのはずで、監督のデイヴィッド・ロバート・ミッチェルは前作の『イット・フォローズ』で日米ともに一躍名を売った期待の新鋭。次代のタレントということで、日本の配給会社も気合が違うわけです。
『イット・フォローズ』は実にいろんな褒めかたができる作品でした。
わけても印象的だった部分として「劇伴音楽」をあげる人も多いんじゃないでしょうか。
そんな『イット・フォローズ』のサントラを作曲し、今回の『アンダー・ザ・シルバーレイク』で監督と二度目のタッグを組むのが Disasterpeace。
『イット・フォローズ』のとき、一部界隈はこの名前を見て震撼しました。あの Disasterpeace が、と。
どの界隈が?
インディーゲーム好き界隈です。
元々インディーゲームの作曲家として有名な人です。その制作経緯含めて*1伝説となったプラットフォームアクションゲーム『FEZ』(めっちゃすき)において評価を確立したのち、
これまた世界的な話題を呼んだパズルゲーム『mini metro』(めっちゃすき)、
そしてリリース自体は『イット・フォローズ』日本公開より微妙に遅れますがアクションRPG『Hyper Light Drifter』(めっちゃすき)、
いずれもその年を代表するアウォード・ウィナー的名作インディーゲームの作曲を務めた、いわばインディーゲーム界のアレクサンドル・デプラとも呼べる存在なのです。
越境するインディー系短編アニメーション作家たち
そして、ここ最近のシーンを観察するに、どうもインディーゲームで見た名前が映画に関わっていたり、映画で見たクリエイターがインディーゲームを作っていたりすることが妙に多い。
ゲームと映画は元々つながりの深い業界同士ですから、単に私がここ二三年でインディーゲームに触れるようになった影響で個人的に視野が広がっただけ、ともいえなくもないかもしれません。
が、それにしても、「そこを出してくるか」というラインを目にする機会が多くなってきている。
代表的なところで言えば、3D短編アニメーションの若き巨匠デイヴィッド・オライリー。
メジャーどころの仕事だとスパイク・ジョーンズ監督『Her/世界にひとつだけの彼女』の作中内でホアキン・フェニックスが遊んでいるゲームのアニメーションや、『アドベンチャー・タイム』のゲスト監督回(「コワレタセカイ」)などがあります。 *2『Her』にちょっと噛んだだけの人物を映画人として上げるのはどうなんだ、というご意見もあるでしょうが、今回はそういう流れなので我慢して聞いてください。
もともとはローファイなポリゴンを使用したシュールでスラップスティックな、しかしどこか切なさをはらんだ作風の短編アニメで注目を浴びていた作家です。
彼は2010年に集大成的な作品*3『THE EXTERNAL WORLD』を公開したのち、上記の商業作品ゲスト参加以外はオリジナルのアニメプロジェクトをやっていなかったのですが、では何を作っていたかといえば、ゲームです。
山になる(そして山でいる他はほぼ何もできない)ゲーム『Mountain』
原子から銀河まであらゆる「もの」に変化していく『Everything』
といった野心的なゲー……ゲームかなあーー??? これ??? 的なゲームを発表し、プレイヤーの度肝を抜きまくりました。
インタビューによると、ノンリニアな物語を描き出せることにゲーム制作の魅力を感じているそうで、やはりストーリーテリングのヴァリエーションのあり方として接近したと思しい。
彼に限らず短編アニメーション作家がインディーゲームに参入してくる例は増えてきておりまして(『Plug & Play』、『Night in the Woods』)で、作家的な個性を発揮する場としてインディーゲームという場は魅力的なのでしょう。
余談になりますが、オライリーといえばインディーアニメーション評論家・プロデューサーの土居伸彰の『21世紀のアニメーションがわかる本』でも触れられていますが、彼を紹介した土居先生自身も審査員として関わっている映画祭でインディーゲーム特集を開いたり、ゲーム製作にかかわられたりもされているようで、これも「流れ」っぽいかんじがする。
アナプルナの野望〜インディーゲーム編〜
そして近年におけるインディーゲームと映画のクロスオーバーでもっとも見逃せないのが、アナプルナの暗躍です。
オラクル創業者の娘でウルトラ金持ちのミーガン・エリソンが2011年に設立するや、毎年のようにアカデミー賞ノミネート作品を送り出している映画製作会社アナプルナ・ピクチャーズ。
そのアナプルナが母体となって2016年にできたのがゲームパブリッシャー、アナプルナ・インタラクティブ(Annapurna Interactive)です。
インディー的な感性の映画を豊潤な資金力で多数製作しハリウッドのアナプルナの名に恥じず、創立以来、優秀なゲーム開発者・スタジオを援助してはいい意味で珍奇な作品群を商業ラインに乗せ、映画方面とおなじく批評的な大成功をおさめています。
その最良の収穫が、『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと(What Remains of Edith Finch)』。
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とある若い女性が幼少期を過ごした実家に舞い戻り、不可思議な死を次々と遂げていった自分の一族の謎を追体験するアドベンチャーゲームで、その卓抜したストーリーテリングによりゲーム・アワードを始めとして数々の賞を受賞。各種批評紙の評点を集計した metacrtic のスコアも異例の90点超えと昨年度でも最も注目されたインディーゲームです。わたしもだいすき。
『フィンチ家』はアナプルナ新作としては第二弾ですが、第一弾となったパズルゲーム『Gorogoa』も興味深い。
なんといいますか、説明しにくいのですが、多数のレイヤーが重なったフラクタルな絵画のような画面をクリック(タッチ)することで仕掛けを説いてストーリーを解き明かしていく作品です。
そして最近発売されたオリジナルタイトル第三弾が『Donut County』。
これはまあドローンのヘリコプターを欲しがるドーナツ屋のアライグマがドーナツの配達先で謎のアプリを駆使しして謎の穴を作り出し、その穴にドーナツを注文した動物たちを含むさまざまなオブジェクトを落としていくことで塊魂的に穴を広げ、落として貯めたポイントでドローンをゲットし友達の女にぶち壊されるという内容のゲームで、何を言っているのかと思われそうですが、まあそういうノリです。
とにかくビジュアルがポップでかわいく、オフビートな会話のノリがすてき。
『塊魂』っぽいといえば、本家『塊魂』の開発者である高橋慶太の新作『Wattam』もアナプルナがパブリッシャー。たのしみですね。
ちなみにわたしは未プレイですが、Apple Store でやたらプッシュされているしゃれおつインタラクティブノベル『Florence』も今年のアナプルナの仕事です。
今年の待機作としては他にもローポリで幻想的な雰囲気が特徴のRPG『ASHEN』や、ある惑星が恒星の超新星爆発によって滅ぶ直前の二十分間を繰り返しその謎を探るオープンワールド探索アドベンチャー『Outer Wilds』などが控えており、さらには発売予定日はまだ不明ながらユニークなインターフェイスで話題をさらった推理アドベンチャー『Her Story』の続編もラインナップには見えます。
いずれもゲームファンとして、いや、人間存在として見逃せない作品ばかり。
とまあ、ご覧のとおり、アナプルナはビジュアルやデザインは洗練されているもののAAAタイトル的な狂騒やわかりやすいエンタメからは遠く離れた侘び寂びに満ちたゲームを世に出しまくっています。
ゲームのパブリッシャーの役割は映画のプロデュースと異なるわけで、どこまで映画のほうのノウハウが役に立っているかはわかりませんが、大手から相手にされないようなめんどくさいが観客にとって魅力的な個性を持つ作家にカネをあたえていいものを作らせるスタンスはまさにアナプルナの精神そのものです。
アナプルナがゲーム業界に参入した理由については今日のところは疲れたので後日また調べたいと思いますが、アナプルナの「本気度」をかんがみるに、アートのプラットフォームとしてのインディーゲームが映画と同レベルの強度を獲得しつつあること、あるいはそのような潮流が生じていることを見込んだのかな、と推察します。
そうした潮流の一現象として、映像作家だったり作曲家だったりがインディーゲームと映画のあいだを横断している。
かなり、むりやりなまとめですが、そういうことにしておきましょう。単にわたしの好きなものを並べただけの記事だということがバレないように。
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