名馬であれば馬のうち

読書、映画、ゲーム、その他。


読書、映画、その他。


読書

同じ人が書いたSFを読む。――『圏外通信 2021裏』『〈未来の文学〉完結記念号 カモガワGブックス vol.3』

「本の話をしよう。お前の書いた小説を読もう。」 江波光則『密葬 -わたしを離さないで-』 「まず、おたがいに本音で話しあおう」とホロ映像がいった。「だれだって本を読むのは好きじゃない。そうだろう?」 トマス・M・ディッシュ、浅倉久志・訳「本を読…

新潮クレスト・ブックス全レビュー〈11〉:『靴ひも』ドメニコ・スタルノーネ

ドメニコ・スタルノーネ『靴ひも』、Lacci、関口英子・訳、イタリア語 その資料が果たして私なのだろうか。読んだ本に引かれた下線が私なのだろうか。本のタイトルや引用文にびっしりと書き込まれた紙が私なのだろうか。(中略)二十歳のときに認(したた)…

新潮クレスト・ブックス全レビュー〈10〉:『西への出口』モーシン・ハミッド

モーシン・ハミッド『西への出口』、Exit West、藤井光・訳、英語 私達はみな、時のなかを移住していく。 (p.167) 西への出口 (新潮クレスト・ブックス)作者:モーシン ハミッド出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2019/12/24メディア: 単行本 内戦下にある国…

新潮クレスト・ブックス全レビュー〈9〉:『トリック』エマヌエル・ベルクマン

エマヌエル・ベルクマン『トリック』、Der Trick、 浅井晶子・訳、ドイツ語 「魔術っていうのは、素晴らしく美しい嘘なんだよ」 p.141 トリック (新潮クレスト・ブックス)作者:エマヌエル ベルクマン出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2019/03/29メディア: 単…

第二十八回東京文学フリマで買った本を読む+メモ

これまでのあらすじ 文学フリマで買って読んだ本 『深界調査記録』もちくず倉庫 『立ち読み会会報誌 第二号』立ち読み会 『Re-Clam vol.2』Re-Clam編集部 『ルヴェル新発見傑作集 「遺恨」』エニグマティカ叢書 『whodunit best vol.5』京都大学推理小説研究…

新潮クレスト・ブックス全レビュー〈8〉:『ハイウェイとゴミ溜め』ジュノ・ディアス

『ハイウェイとゴミ溜め』(Drown、ジュノ・ディアス、江口研一・訳、1996→1998)ハイウェイとゴミ溜め 新潮クレストブックス作者: ジュノディアズ,Junot D´iaz,江口研一出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1998/07/01メディア: 単行本購入: 2人 クリッ…

文学フリマで読んだ本。

11月の東京文学フリマで買っ(てきてもらっ)た本を読み終わったので、感想など。評論系がほとんどです。 東京大学お茶の会『月猫通り 2158号(特集:ショートアニメ)』 友人が寄稿していたので入手。 気がついたらなんとなく増殖してたショートアニメの…

新潮クレスト・ブックス全レビュー〈7〉:『人生の段階』ジュリアン・バーンズ

『人生の段階』(Levels of Life、ジュリアン・バーンズ、土屋政雄・訳、著2013→訳2017) 人生の段階 (新潮クレスト・ブックス)作者: ジュリアンバーンズ,Julian Barnes,土屋政雄出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2017/03/30メディア: 単行本この商品…

新潮クレスト・ブックス全レビュー〈6〉:『マリアが語り遺したこと』コルム・トビーン

『マリアが語り遺したこと』(コルム・トビーン、とち木伸明・訳、著2012→訳2014) マリアが語り遺したこと (新潮クレスト・ブックス)作者: コルムトビーン,Colm T´oib´in,栩木伸明出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2014/11/27メディア: 単行本この商…

地獄に落ちた少女ども――『魔女の子供はやってこない』を読むための六夜(5)(終)

第五話「魔法少女帰れない家」 イングロリアス・バスターズ [Blu-ray]出版社/メーカー: ジェネオン・ユニバーサル発売日: 2012/04/13メディア: Blu-ray クリック: 6回この商品を含むブログ (52件) を見る 第五話では本書を貫くイメージのひとつである「絵画…

新潮クレスト・ブックス全レビュー〈5〉:『終わりの感覚』ジュリアン・バーンズ

『終わりの感覚』(The Sense of an Ending) 原・2011 訳・2012年12月 訳者・土屋政雄 終わりの感覚 (新潮クレスト・ブックス)作者: ジュリアンバーンズ,Julian Barnes,土屋政雄出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2012/12メディア: ペーパーバック購入: 2人 …

地獄でなぜ悪い ーー『魔女の子供はやってこない』を読むための六夜(4)

第四話「魔法少女粉と煙」 ハロウィンの季節 ーー『魔女の子供はやってこない』を読むための六夜(3) - 名馬であれば馬のうちのつづき。 矢部嵩の twitter アカウント名は「konakemuri」といいます。粉と煙。まさに第四話の主要モチーフです。 地獄でなぜ悪い…

地獄にスノードームで勝算はあるのか? ーー『魔女の子供はやってこない』を読むための六夜(2)

良い地獄を待っているーー『魔女の子供はやってこない』を読むための六夜(1) - 名馬であれば馬のうち のつづき 第二話「魔女家に来る」 第一話は夏子がぬりえちゃんちへやってくる話でした。第二話はぬりえちゃんが夏子のうちにやってくる話です。二〇一五年…

良い地獄を待っているーー『魔女の子供はやってこない』を読むための六夜(1)

フィクションを読む、とは、こうした記述の運動を把握し、固有の色彩とマチエールを味わい、複数の動きがあるなら相互の関係を見出し、あるロジックを持つ総体に組み上げ、評価することだ、と、取り敢えずはしておきましょう。(佐藤亜紀『小説のストラテジ…

『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』(ジョン・ロンソン、光文社新書)

ツイッターは、かつては何気なく、深く考えずに自分の考えをつぶやくことのできる場だった。ところが今では、常に不安を感じながら、慎重に物を言わねばならない場に変わってしまった。*1 www.ted.com(本書に関連したロンソンのTEDトーク。ウィンドウ右下の…

光のほうへ――アンソニー・ドーア『すべての見えない光』/千字選評(4)

アンソニー・ドーア『すべての見えない光』(藤井光・訳、新潮クレスト・ブックス、2016年) 二千字になっちゃった。 空気は生きたすべての生命、発せられたすべての文章の書庫にして記録であり、送信されたすべての言葉が、その内側でこだましつづけている…

不可能とアンビバレントによる快楽 ―― ジュンパ・ラヒリ『べつの言葉で』/千字選評(3)

そろそろお気づきかと存じますが、フフフ、本連載は〈新潮クレスト・ブックス〉全レビュー企画です。フフフ、ウソです。 ジュンパ・ラヒリ『べつの言葉で』(中嶋浩郎・訳、新潮クレスト・ブックス、2015年9月30日)べつの言葉で (新潮クレスト・ブックス)作…

あなたが選んでくれた国――千字選評(2):『陽気なお葬式』リュドミラ・ウリツカヤ

『陽気なお葬式』リュドミラ・ウリツカヤ(奈倉有里・訳、新潮クレスト・ブックス、2016年2月25日) ここにいる、ロシアに生まれた人々は、生まれ持った才能も受けた教育も、あるいは単に人間としての素養も、何もかも違ったが、ひとつ共通点があった――みん…

爆弾のある日常――千字選評(1):『あの素晴らしき七年』エトガル・ケレット

これまでのあらすじ 「読書、映画、その他」と書いてあるのに、「アニメ、映画、その他」みたいな状況になってきたので書評を書く訓練などしたい。ほっとくとだらだら長くなるのでとりあえず千字前後を目標に。 『あの素晴らしき七年』エトガル・ケレット(…

モーテン・ストーム『イスラム過激派二重スパイ』

イスラム過激派二重スパイ (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ II-8) (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ2)作者: モーテン・ストームほか,庭田よう子出版社/メーカー: 亜紀書房発売日: 2016/06/28メディア: 単行本この商品を含むブログを見る 寒…