名馬であれば馬のうち

読書、映画、ゲーム、その他。


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2023年に遊んでおもしろかったゲーム20選+α

前説

HADESやHollow Knightなどをやりなおしているあいだに2023年が終わってしまいました。この一年はほんとうに一年だったのでしょうか。365日のうち20日ぐらいちょろまかされたりされていないか。だれに? そりゃあ、あんた……任天堂


オマエーッ!


Steamの年間まとめによれば、わたしは2023年に新作旧作ひっくるめて56本のレビューを書いていたそうです。基本的にエンドクレジットまでたどりついた作品にしかレビューを書かない主義であるのをふまえると、あたかもたいそうな廃人のようでありますが、それらのほとんどは2時間か3時間で終わる作品ばかりです。わたしが廃人なのはライフスタイルとは関係なく、心が廃れているからです。その心が2時間か3時間かくらいのプレイにしか耐えられないのです。2,3時間で完結しない場合は飽きて別のゲームへふらふら移ります。それがわたしの性なのです。にもかかわらず。
なぜ、現代のAAAタイトルはプレイヤーに無条件に100時間の投資を要求するのでしょうか。その100時間に実りある体験が詰まっているならまだしも、100時間のうちの80時間くらいは(なんのゲームとは申しませんが)無駄に細かく分類されている銃弾をやりくりするためにインベントリを整理したり、(なんのゲームとは申しませんが)FF8のリノアキャッチみたいなクソダルイベントを2時間ごとに1回のペースで繰り返させるのです。どのような論理と権利があって、そのような虚無を1万数千円で売りつけてくるのでしょうか。[サラ・モーガンは悪く思っている……]
制作費に5億ドルかけているからでしょうか。広告費に10億ドルかけているからでしょうか。あるいは、単純接触時間の長さだけがプレイヤーに感動をもたらすための唯一のゲームデザインの黄金則だからでしょうか。むしろそうした細やかな雑作にこそプレイヤーのユニークな体験が宿り、自分だけの思い出になっていくからでしょうか。
おそらく、どれも正解ではないのでしょう。
その100時間は必要な100時間なのか、あるいはそうでないのか、という問いが存在するとして、それにただしく答えられるひとは地球上のどこにもいません。
わたしたちはかつてない時代にいます。単体のパッケージについて100時間でひとつらなりの体験を、どう語り、どう受容すればいいのか。誰も知らないのです。
でも、そういうものが現に生み出され、現に嗜まれている。
探索可能な1000以上の無の惑星で、無のミネラルを採掘する体験が、最終的には正当化されてしまうなにかがあのおぼろげな100時間のどこかにある。
途方もないことです。
途方もない時代です。

2023年のゲームトップ20

基本的には2023年にリリースあるいは翻訳された新作ですが、一部旧作が混じります

1.The Cosmic Wheel Sisterhood

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魔女宇宙タロット制作&占いADV。ADVの歴史は手入力式だったプレイヤーの行動を開き直って選択式にしたときから、有限も有限すぎるゲーム内での未来の帰結がいかに未知で無限であるかと錯覚させるかの詐術の歴史でもあったとおもうのですが、本作はプレイヤーと主人公に(メタ的な手法に依らず)ある程度の距離を作った上で「プレイヤー自身が未来を作っている」という錯覚を作り上げてくれます。そして、その錯覚を錯覚と作り手自身も知悉した上で、物語として肯定してくれるのが強い。*1
まあ、しかし、なによりキャラがいい。絵がいい。てざわりがいい。窮極的には、ビデオゲームとはルックなのではないかとおもいます。

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2.Kentucky Route Zero

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届け物を届けるためにトラック運転手が麦わら帽子をかぶったイヌやゆかいな仲間たちとともにケンタッキーを彷徨うADV。
マーク・トウェインに曰く、「ユーモラスな物語はアメリカのものであり」、その良し悪しは「話の中身(マター)」ではなく「語りのやりかた(マナー)」にかかっている。「ユーモラスな物語は重々しく語られ」、「何か面白いことがあるなんてことを少しでも勘づいているそぶり」など見せず、「好きなだけあちこちさまよい、特にどこにもたどり着かなくても構わない」。*22024年のいま、この条件に当てはまるアメリカ産のゲームをわたしはいまやひとつ知っている。
KRZはアメリカのお話であると同時に、演劇や現代美術、そしてビデオゲームのアドベンチャージャンルの歴史も踏まえています。それはビデオゲームアメリカの歴史を語る上で欠かせないものになったという本作なりのステイトメントであり、リスペクトやオマージュやノスタルジーを超え、ひとつのおおきな流れのなかに自らを位置づけようとする誇大妄想の叫びでもある。そうした狂いこそが、もっとも本作を特別なものにしているのでしょう。




3.Cyberpunk 2077: Phantom Liberty

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あのときの未来の続編。

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サイバーパンクとはノワールである、と看破した開発陣の慧眼はいくら称えても足らないくらいなのですが、ではノワールに徹しきれる物語がどれだけあるのか。宣伝広告の中に存在しない自由を素朴に信じ、その憧れのためにどこまでも都合よく使われるチンピラでしかない主人公とは、無限にクエストを課されるオープンワールドRPGのプレイヤー自身の似姿でもあったわけですが、今回は立場を同じくする仲間たち(と呼ぶにはあまりに複雑な利害と友情とつながった間柄)がいて、かれらに勇気づけられるときもあれば絡め取られるときもある。
ネトフリの『サイバーパンク2077:エッジランナーズ』の功績は大きいですよね。『エッジランナーズ』は本DLC配信前後のメジャーアップデートでもかなり優遇されていたわけ*3ですが、あのアニメこそが Cyberpunk 2077 におけるノワールを定義づけてくれました。つまりは、夜空に大きく輝いて見えるのに、手を伸ばしてもけっして届くことのない月。あるミステリ書評家がかつて「人間の魂の暗部を描く――これはノワールの芯である」*4と述べていたのにはおおむね同感で、その昏さのみを見つめる作品も数多いのですが、一方でそのすり潰されそうなほどに稠密な暗闇のなかで、わずかに射し込む光明をつかもうともがく姿を描くのもまたノワールであるとおもうのです。
Phantom Liberty はそれをほぼ理想的に達成してくれました。
引用されるのがジョン・カーペンターの『ニューヨーク1997』であるというのがまたニクい。『ニューヨーク1997』から生まれたもうひとつのゲーム史的傑作がなんであったかを思い出すのなら、本DLCで課される内容と語られる内容がこれまでのビデオゲームが積み上げてきた歴史の上で成り立っているのだと感得されることでしょう。

4.Chicory: A Colorful Tale(チコリー:いろとりどりの物語)

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世界一のアーティスト=その世界を保っている大魔法使い、みたいな世界で、その大魔法使いから唐突に大魔法使いたる役目を押し付けられたお調子者の弟子のイヌ、チコリーの冒険を描くお絵かきADV.
特にインディーゲームにおいては創作者の苦しみを表現しようとしたものは無数に存在するわけですが、Chicory ほど繊細かつ開かれた形で描いたものはかつてあったかどうか。
本作では難しさを抱えているさまざまなひとびと(獣人ですが)に出会います。成功したアーティストであるがゆえに、他人と自分自身から過大な期待を負わされて精神的につぶれてしまう師匠。表面上はへらへらとポジティブにふるまいながらも、心のどこかでは突然ふってわいた地位に自分の実力が見合ってないんじゃないかというインポスター症候群めいた不安をおぼえる主人公。その主人公に対して嫉妬し「業界はやはりコネなんだ!」と怒りをおぼえる絵師志望のハリネズミ。明日の面接が不安で朝からずっと浜辺で砂のお城をつくりつづけているイタチ。たいした理由はないのに「無性に”ツラいな〜”という日」がつづいて心が落ち着かないオポッサム……。だれもがとりたてて表には出さないけれど、どこかで大なり小なり不安定な感情を抱えています。
では陰鬱に塗りつぶされた世界かといえば、さにあらず。本作の世界にはそうした不安によりそい、共感し、元気づけてくれるひとびと(だから獣人なんだけど)もたくさんおります。かれら自身もまたなにがしかの苦しさを持っていて、そこがまたよい。思いやられながら思いやる。朗らかだけど憂鬱で、ダウナーだけどハッピー。そうした互恵といえるほど立派でも余裕のあるわけでもない関係こそが、人間同士のいとなみなのだと確認させてくれる貴重な作品です。




5.ゼルダの伝説:ティアーズ・オブ・キングダム

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ブレワイといっしょでラストのエモさにごまかされている気がしないでもないのですが、ちゃんとラストでエモくなれるということはそこまでのデザインが緻密に組み立てられているということなのだろうし、なんだかんだパズルを楽しく解いた気もするし、クリアから半年以上経った今となっては「とても良かった」という感触が残ってて、その気持ちは本物だとおもいたい。
だって、もう、縦の軸のゲームでさ、縦の軸のアクションのクライマックスやられたら感動しちゃうでしょう。しない? あなたにはひとの心がないんですか。いや、ひとの心がないのはブレワイであんな目に合わせたゼルダ姫をティアキンで百倍増しにひどい目に合わせなおす任天堂でしょうよ。こんな倫理観のひとたちに世界中の子どもたちがあそぶゲームや観る映画をつくらせていいんですか? まあでも劇場アニメ版『マリオ』を共同で作ったイルミネーションのメインコンテンツって泥棒だしな……。
ベストの五指に入っている理由の七割くらいはミネルさまです。


6.The Case of the Golden Idol

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The Game Awards の配信を某動画サイトで観ていたのですが、その冒頭で流れた本作の新作続編CMに対するコメントが「なにこれ?」といったような戸惑いの反応ばかりだったのを見て去年イチ悲しくなりました。The Case of the Golden Idol をご存知ない? なにも失ったことがないなら、それでいいけど*5
ひとことでいえば、『Return of the Obra Dinn』を2Dにして歴史改変SFにしてユーモラスで気持ち悪いおじさんたちを大量に投入した推理パズルADV、といったかんじでしょうか。「大量のユーモラスで気持ち悪いおじさんどもって、それ、要るやつ??」という疑問をおもちの向きもあるかとはおもいますが、断言しましょう、必要です。
ストアページのスクショやムービーを見てわかるとおり、この独特の絵からみなぎってくる謎のパワー、それそのものが本作の世界を織りなしているのです。
推理パートは理不尽すぎず簡単すぎないほどよいバランスで、それを解き明かす過程自体も愉しいのですが、謎を埋めていくことによって物語がプレイヤーのなかで読み取られていく過程のほうもまたエキサイティング。ここのあたりが『Return of the Obra Dinn』フォロワーの面目躍如たる部分でもあるでしょう。RotOD作者のルーカス・ポープ御大(埼玉県在住)絶賛も納得です。ちなみにエンディングのあとに全ストーリー解説もついてくるという親切仕様。
翻訳は有志のMODですが、これも凝っていてすばらしい仕事です。




7.Terror of Hemasaurus

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なんかデカくてつよいやつになりたい? なら、これ。
愚かな人類にイライラしてる? なら、これ。
ビルをぶっこわしてスカッとしたい? なら、これ。
ゴジラみたいな怪獣になって愚かで無力な人類をビルごとひねる潰す横スクロールアクション。ベースとなっているのは、何年か前にドウェイン・ジョンソンで映画化されたことでおなじみ(?)の『Rampage』(1986)。とにかく爽快。怪獣になって愚かで無力な人類を滅ぼしたい人にオススメです。途中で挟まるストーリーも諷刺がラジカルに利いててなかなかおもしろい。


8.Birth

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骨や臓物や植物でビジュアルを作り上げることに異常な執着を持つ Madison Karrh によるポイント・アンド・クリック式パズルADV。公式のストア紹介文によれば、「街中で見つかる骨や臓器から、寂しさをいやす生き物を作り上げるパズルゲーム」です。おぞましそうでしょう?
しかし、実際プレイしてみると、思いがけない温かさに満ちたゲームです。この感触はあまり類を見ない。
二時間ほどで終わる個人開発のゲームにわたしが求めるのは、そうしたユニークなテイストであるのです。新鮮な驚きとは、ミックやゲームのシステムだけに宿るものとはかぎらない。




9.Astrea: Six Sided Oracles

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Slay the Spire 的なデッキビルド式ローグライトカードゲーム……のサイコロ版。サイコロでデッキビルドというとテリー・キャヴァナー(『VVVVVV』などの開発者)の『Dicey Dungeons』があるわけですが、DDがヤッツィーっぽかったのに対して Astrea はStSフォロワーであることに呵責がない。
運と技術のバランスをいかに配分するかというゲームデザインの根本がつねに問われるデッキビルドものですが、「賽は投げられた」というフレーズがあるように、サイコロといわれるとかなり運よりな印象を受けがちです。しかし、本作ではその出目をスキルなどで事前/事後にかなりの程度、操作できてしまう。ここは発明ですよね。自分ではどうにもならないはずの運をテクニカルに操作ことで、逆に「運を自分で支配している」というプレイングの快感を演出している。そういう運要素の人為的操作ってふつーのカードゲームのデザインの基盤にもかならず含まれていたり(もっともシンプルな例がカードの追加ドローやリドローができるカード)するんですが、そこが明示的になることで単なるStSフォロワーとも違った味わいを生んでいます。

まあ、本作の詳細に関してはわたしよりうまく説明しておられる方がいらっしゃるのでそちらをお読みください。
yobitz.hatenablog.com

ふだんはあんまりデッキビルド系って熱心にはフォローしてないんですが、去年だと他にはポーカーを破壊していくポーカーベースのデッキビルド『Aces & Adventures』がたのしかったですね。


10.The Excavation of Hob's Barrow

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その昔、アドベンチャーサブジャンルにポイント・アンド・クリックというのがありました。画面上に表示されているキャラクターを主にマウスで操り、調べたい対象や移動先などをクリックして導くタイプのアドベンチャーです。90年代にルーカスアーツ(『The Monkey Island』など)の隆興とともに拡がりを見せ、一時代を築きましたが、さまざまな要因により2000年代には滅んだ*6……とおもわれていましたが、なんか00年代なかばにしぶとく復活し、こんにちに至るまで一定のファン層と文化を形成してきました。
ところで、Wadjet Eye Games というインディー・ディベロッパー/パブリッシャーがあります。The ShivahGemini Rueといった昔ながらの硬派なポイント・アンド・クリック・アドベンチャーを出している、というか、それしか出さないウルトラ硬派な会社です。ポイント・アンド・クリックというのは、操作キャラクターの出ない(つまり三人称視点ではなく一人称主観視点の)ビジュアルノベル的なインタフェースを持ったものを指す場合もある*7のですが、ワジェット・アイのゲームは日和らねえ。常に昔ながらのポイント・アンド・クリック一筋で勝負します。
The Excavation of Hob’s Barrow はそのような文脈において生み出されたハードコア・ポイント・アンド・クリック・アドベンチャーのひとつ。
19世紀のイングランドで、片田舎の墳墓の発掘調査にやってきた若き女性考古学者が、姿を現さない調査の依頼主を探すうちに墳墓と自分の因縁、そして村にまつわるある謎に気づいていく……という内容のフォークホラーです。
ちょっとローファイめのグラフィックによって描き出される悪夢的カットシーン、それもまあ、嘔吐する中年男性、なにやら木の枝にしばりつけられた中年男性、酔って目のすわった中年男性、魔女めいた老婆のアップ、穴の中でミミズに囲まれたブサイクな手作り人形、といった見ていてご褒美感ゼロの禍々しいイメージが連発されます。たしかにこのスロウでぬめっとした不吉さの提示はこのジャンルでしか出来ないような気がする。
スタイルこそはオールドスクールですが、操作感やシステム周りは現代的で、プレイ自体も快適です。
問題は、ワジェット・アイズ、というよりテキスト量が膨大になりがちなわりに売れにくいこの手のポイント・アンド・クリック全般にありがちな問題なのですが、日本語訳がないこと。けっこう特殊な単語が出てきたりするので、TOEIC2点のわたしにはつまづきながらのプレイでした。





11.South Scrimshaw, Part one

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トップ10の紹介も終わったところで、それそろ本記事の締切である1月1日の終わりも迫ってきたので、ここからはなるべく簡単に行きたい。
あ〜〜〜でもな〜〜〜これも本来ならトップ10クラスだったんだよな〜〜〜。数時間で終わる無料のデモ版なのに、とにかくフレッシュだった。
地球とは別の星に住むクジラの子どもの追う自然ドキュメンタリー番組風のビジュアルノベルです。このクジラがまたおもしろくて、成長していくにつれて海中の植物や動物や岩石や骨などを取り込んで個体それぞれに独自の共生環境を自分の身体表面に作り上げていく。生きる鯨骨生物群集みたいなものですかね。仔クジラが旅の道中で出会っていく大人クジラたちの個体ごとの違いを眺めるだけでも非常に愉しい。
クジラたちを取り巻く世界もまた作り込まれていて、テキストボックス中の注釈みたいな感じでその星の動物たちの生態や、ドキュメンタリーを撮っている調査班の設定などが明かされていく。時には注釈のなかに注釈gああり、注釈の注釈の注釈までいき、おもってみなかった情報に出会うことも。
ビジュアルノベルとしては取り立てて珍奇な仕掛けなどはほどこされていないし、デモ版というのもあってストーリーらしいストーリーも今のところないのですが、ただ「世界がある」という手触りが得られる。主人公の仔クジラも超絶かわいい。
フルヴァージョンが楽しみな一作です。日本語はこれもなし。

今年も海のゲームいっぱいねえ、ありましたね……山にクジラがいたゲームも……


12.Suzerain

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出たのは2020年で、翻訳MODが紹介されたのは2022年ですが、わたしは23年に初めてプレイしました。とある小国の大統領となり、外交では対立する大国のあいだで板挟みになり、内政では庶民と企業のあいだで板挟みになり、議会では右翼と左翼のあいだえ板挟みになり、家庭では家族と仕事のあいだで板挟みになり、内閣では友情と政局のあいだで板挟みになる、と、とにかくあらゆるところにジレンマの潜む、胃の痛くなるリソース管理系アドベンチャーRPGです。とにかくテキストとキャラクターが豊富で魅力的。これが非公式とはいえ訳されてプレイできるというのは、ひとつの奇跡といえます。




13.Diablo 4

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こいつです、おまわりさん。こいつが犯人です。こいつがわたしの貴重な時間を盗み、わたしの生産性をいちじるしく損ないました。ぜったい、許せねえ。なんですか、この……ボタンぽちぽちしているだけでなんか大量の雑魚をつぎつぎと屠ってレベルアップしていき使えるのか使えないのかわかんないスキルをゲットし強化しつつ、落ちている武器や防具などを絶えず選りすぐっていくだけで気持ちよくなれるゲームデザインは? こんなのあったらワンセッション二時間とか三時間とか平気で飛ぶに決まってるじゃないですか? 
ええ? ハックアンドスラッシュ? 知らないですね。そんなジャンル、聞いたことも触ったこともないです。
ええはい。たしかにそれはわたしのライブラリです。Grimdawnは……やったことあったかな……ある気がします。でも、ちょびっとです。舐めただけです。勝手にひとのプレイ時間をチェックしないでください。そういうの、違法捜査でしょ。知り合いの議員にいいつけてやるからな。
なんかストーリーとか? ぜんぜんよくわかんないんですけど、善良なひとびとの人生が神出鬼没のSEXY DEVILによって狂わされていくさまは見ていてなんだかいい感じがします。何の話なのかはシリーズほとんどやってないのでマジでぜんぜんわかんないんですけど。
でも、ストーリーがあるのはいいことだと思います。だって、クリアすればもうやめられるってことでしょう。
え?
クリアしても、やめられない?
なんで??? なぜ……?

14.Slay the Princess

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「森の小屋の地下に閉じ込められた姫を殺害せよ」と命じられた勇者に扮して姫を討伐しにいくビジュアルノベル。これ以上のことはあまり多く語れないので、さっさとプレイしてほしいところですが、日本語版がまだありません。要望が多ければローカライズしてくれるそうなので、要望を出しましょう。
構造としてはそこまで新鮮味は(特に日本では)ないのかもしれませんが、それを成立させるための手数とトーンのチューニング、テキストの味付け、そして声優の演技が極まっています。
結局のところ、わたしたちはみなバッド・テイストなゲームが好きなのです。




15.Shogun Showdown

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横方向にに一マスずつしか進めないというデザインがシンプルながらも効いているローグライト。日本語訳も地味にがんばっているとおもいます。


16.VIEWFINDER

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意外にプラットフォーマー的なセンスが要求される騙し絵的写真パズル。このアイデアを成立させるの大変だったろうな……とおもわされますが、TGAでインディー部門にノミネートされていたので、報われましたね。


17.Peglin

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Peggleにローグライト要素を足した結果、全人類にある悟りを開かせた。そうか、パチンコってローグライトだったんだ!


18.パラノマサイト FILE23 本所七不思議

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2023年のこの時代にゲーム中で設定した名前ではなく、パソコンのユーザーネーム(Steamの登録名だったかな?)でプレイヤーに呼びかける懐かしいメタネタをしかけてくるADVがあるなんて、という感動。しかしそれはもちろんジャブ程度のもので、本作の最大の楽しみなアクの強いキャラたちが織りなす、どこかファニーな群像バトル劇にあります。


19.Mothlight

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なんだかよくわからないが、16歳の少年の「とにかく俺は Dark Soul が好き」という熱情が前のめり気味に伝わってくるツクール製RPG。この作者は今は転生して『Angel’s Gear』とかあいかわらず尖ったゲームを作っています。


20.ファミレスを享受せよ

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ユニークさとウェルメイドさをふせもった個人開発者はなかなかおめにかかれないものです。『イルカにうろこがないわけ』では意外にゲームデザインのバランスのセンスめいたものも持っているんだなと気付かされる。そうか、このひとはバランス感覚が武器なんだ。

トピック別

【余談1:ゲームの翻訳の2023年】

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なにはともあれ、もはや説明不要な領域に達しつつある伝説のADV、Kentucky Route Zeroが”良質な”日本語でも遊べるようになったことをまず寿ぐべきでしょう。ローカリゼーションと訳者の重要性がこれほどまでに真剣に受け止められた年があったでしょうか。
わたしたちは『Baldur’s Gate 3』を発売年内にあそべるようになりました。『Chicory』もリリースから数年で翻訳されました。『Where the Water Tastes Like Wine』も日本語でプレイ可能になりました(わたしはなんかセッティングがうまくいかずに未プレイ)。特に翻訳なくても十分遊べたのだけれど『VVVVVV』も十数年越しに公式訳が出ました。わたしは難しくて投げ出してしまったけど作者独特の世界観が魅力的な『Angel's Gear』、いいかげん『To the Moon』やらななあとおもってるうちに公式有志訳された『imposter factory』、ツクール製RPGパズルADVとしては圧倒的な賛辞を受けている(個人的には合いませんでしたが)『RAKUEN』の六年越しのローカライズ『ストレンジャーシングス』前後の80年代ジュブナイルシンセホラーリバイバルムーブメントの流れにありながらも日本では訳されてなかったせいでいまいち認知されてない『OXENFREE』と、23年になって出たその続編『OXENFREE 2』。いまや最重要インディーパブリッシャーの一翼にのしあがった New Blood Interactive が贈るぬるぬるエイトビット悪魔祓いADV『FAITH』の有志訳、あの歴史的メタウォーキングシムのデラックス版というか事実上の続編『The Stanley Parable: Ultra Deluxe』、『潮汐少女:現象』や『上に天井がある。』のようなヴィヴィッドな小品ADVにすばやく翻訳がついた例、ゲームボーイ用の開発環境で作られかなりセンシティヴなテーマを扱うADVをひらがなで繊細に訳した『彼は私の中の少女を犯し尽くした - HFTGOOM』、あるいはKRZのように不十分だった訳をファンの愛の力で改めた『Milky Way Prince – The Vampire Star』(そして同じ翻訳者が訳した新作『Mediterranea Inferno』)もあれば、翻訳不可能ではないかと囁かれた『Pentiment』は……まあ、たしかに、知識を要する翻訳というもののハードルの高さを思い知らされました。


翻訳といえば、22年の『7 days to end with you』みたいな翻訳ゲーム*8を23年の新作でやりたい向きにオススメなのが『Chants of Sennaar』。他人のしゃべっている言葉や店の名前などがまったくわからない状態で、会話や探索で拾った記号から単語を推測していくパズルADVです。『7 days~』と似たようなシステム(推測まわりのインターフェイスは『Return of the Obra Dinn』あたりを参考にしてるっぽい)ではある。このゲーム自体のローカリゼーションまわりで地味にがんばっているのは、単語単位で確定させていくと、やがて他人の話しているセリフもちゃんとなめらかな文章として均されるというとこ。たとえば、「イヌ」「ネコ」「吠える」という単語をそれぞれ確定させたとして、そのままだと他人のセリフも「『イヌ』、『吠える』、『ネコ』。」とぶつぎれでカタコトっぽい文になりそうですが、ちゃんと「『イヌがネコに吠えていますね。』」という自然な文章にコレクトしてくれる。ここらへんが「外国語を学習して上手くなっている」感を演出できていて、いいなあ、と感じました。


ちなみにわたしが今年もっとも期待している翻訳待機作は『Decarnation』と、『文字遊戯』です。特に『文字遊戯』はすべてが漢字で出来た世界を冒険するRPGなのですが、これを中国語から翻訳するという偉業。デモ版に触れてそのとんでもなさを体感してほしい。

【余談2:きみもやがては他人のノスタルジー

80年代にカナダへ移民した南インド系の家族を描いた『Venba』や、南フランスで過ごした子ども時代が反映された『Dordogne』など、昨年はなにかと他人の国のノスタルジーが話題でした。*9
そんな他人の国のノスタルジー系ゲームで昨年最大の話題作と言えば、インドネシア発の青春アドベンチャーA Space for the Unbound』だったでしょうかストーリー面ではともかく、ビジュアル面では約束どおりのものを出してくれましたね。ストーリー面はともかく。美麗なピクセルアートで活写された90年代後半のインドネシアの田舎町のディティールは唯一無二の豊穣さで、コントラストの利いた陽光と影とサモサの屋台が織りなす風景は、なぜか日本人の「懐かしさ」にもクリティカルヒットします。『ヤンヤン 夏の思い出』(エドワード・ヤン監督)を観て台湾の夏休みノスタルジーに共感するようなものかもしれない。他国でも日本の80-90年代ノスタルジーが消費されているというし、実のところ、わたしたちのノスタルジーはわたしたちに固有のようで、けっこう普遍的なのかもしれません。特にアジア圏は意外と日本とコンテンツが共通しているっぽいし。日本カルチャーって思ったより人気あったっぽいんですよ。もう過去形だけどね。そして、今や日本という場のそのものがノスタルジーの対象になりつつある気がする。
たとえば、中国の90年代のノスタルジーを描いたループものADV『完璧な一日』というのもあって、かなり日本カルチャーが出てきてビックリします。ミニ四駆(『爆走兄弟烈&豪』!)に、ファミコンに、『餓狼伝説』に、ゴジラに……作中では純正品として描かれてますけど、たとえばファミコンとかはパチモンのホビーパソコンが主流だったはずですがそれはまあ。



(これがあの伝説のネットミームか……と感動した瞬間)


逆に去年『Fading Afternoon』を発表したロシア人開発者の yeo はヤンキーとかヤクザ(それも任侠映画な)とか、終わりゆく日本のアウトローをそれこそ80年代90年代的な風景とともに哀感たっぷりに描いていて、なんというか、他人の国のノスタルジーにうれしくなるのは自分だけではないのだな、とおもったりもします。

ノスタルジーとはまた違ったところで他国を感じられるのはWWIIに実際にあった台湾の爆撃被害(と日本による植民地支配の悲劇)を扱った『台北大空襲』は、当時の日台の複雑な関係がゲームのそこかしこに仕込まれていて、つきなみな言い方ですが、歴史を学べます。

インドネシアシンガポールを中心とした伝奇的事物を織り込んだ「イーストパンク」を標榜するハクスラGhostlore』も去年はちょっと触っただけだったので、いずれちゃんとプレイしたいな……。

【余談3:ガッカリしたゲーム】

わたしは欲望に忠実なので、事前の期待との落差でゲームに対する評価を決めてるところあるんですけれど、それでいえば2023年では『Starfield』と『Sea of Stars』の赤字がひどかった。この記事を書く前はその恨み言を1万字くらいぶちまけようかという勢いだったのですが、なんかここまでノンストップで記事を書いてきて色々疲れたのでやめておきます。

【余談4:ループもので苦しみを描くことについて】

In Stars and TIme』をやったときにループものについて考えさせられました。映画とかアニメとかの映像作品のループものって、ループ毎に繰り返されるルーチンをカットしたり、あるいはそこまでしなくてテンポよく編集して視聴者をいらつかせないようにするじゃないですか。去年は『リバー、流れないでよ』という例外も出ましたけど。
ゲームもジャンルとしてループものをやる場合は、結構ルーチンをカットできたりもしますよね。
でも、ループもののクリシェとして「終わりのないループに苦しんで狂っていく主人公」的なやつがあって。そういうのって、主人公の主観ではまさに毎回お定まりのルーチンを省略できないからこそ病みが積みかさなっていくじゃないですか。
つまり、視聴者と主人公の感覚をシンクロさせるには視聴者にも主人公のループを余すところなくリアルタイムに味わわせておくべきで、まあふつうのループものはそんな情動に主眼置かないわけですけど、『In Stars and Time』ではおそらくエンディングから逆算した結果意図せずうっかり置いてしまって、その結果大変なことになってしまったんですよ。
ここのあたりの「ループをあえてリアルタイムで繰り返すこと」について、『minits』や『Twelve Minutes』や『リバー、流れないでよ』あたりと比較しつつ考えておきかったんですけれど、そろそろ1月2日の1時を超えそうなので、今回はやめておきます。

【余談5:良かったサントラ】

歌モノでは終末青春恐竜人類バンドもの『Goodbye Valcano High』はバンドものだけあって、よかったですね。いかにもアメリカのインディーロックっぽい透明感が前面に出ていて。
www.youtube.com


あとさすがにジャンル的に向いてないかなっておもってプレイしてないんですが、『クラブ・スーサイド』の「ねえ、ねえ」がすばらしかった。
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サントラとしては『Celeste』などでおなじみの Lena Raine がコンポーザーを務めた『Chicory』、Mr.Saucemanの『Pizza Tower』、ローファイながらも耳残る『ファミレスを享受せよ』とか……アッ、1時だ。


といわけで、わたしはいまから後生大事に新年までとっておいた『Alan Wake 2』と『Baldur’s Gate 3』をプレイする旅に出ます。三ヶ月くらい探さないでください。サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ。

*1:そういえば、年末に murashit 先生とお話させていただいた(精確には murashit 先生は御簾の向こう側にやんごとなく御座し、その隣に侍っている御側衆の取次を介してやりとりした)ときに、ビデ美の話の流れで、プレイヤー個人の資質として「自己関与寄りにプレイしがちな性向/ミミクリ寄りにプレイしがちな性向」があるのではないか、といった話題になり、そのときにロールプレイもロールプレイとひとことでいっても、さまざまな態度がありそうだな、などとぼんやり考えたりもしたのですが、TCWSにはあまり関係ないのでここでは放っておきます。

*2:柴田元幸・訳「物語の語り方」

*3:電車乗れる機能とかもうエッジランナーズロールプレイのためでしかないだろ

*4:殊能将之 読書日記 2000〜2009』no.4683

*5:by 円城塔

*6:カットシーンをいちはやく導入するなどゲームの映画的な発展に寄与していたのですが、コンソールやPCの進化によってグラフィックが向上していくと、むしろポイント・アンド・クリックは映画的な演出や体験に不向きになってしまった。

*7:すくなくとも『Milk outside a bag of milk』ではそう言っていた

*8:「だからあれは翻訳ではないだろ」というお叱りは甘んじて受けましょう。

*9:ちなみにわたしはVenbaはクリアしましたけど、Dordogneは未プレイ