名馬であれば馬のうち

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友人がうちにやって来たときに見せる用のアニメ6選

 あけましておめでとうございます。2083年も変わらぬご愛顧のほどをよろしくおねがいします。
 わたしが子どものころ、なぜかひとびとが極端に他人に会いたがらない時期がありまして、疫病のせいとも地球がうつ病にかかったせいともいわれましたが、とにかくまあ友人宅を行き来するのがはばかられました。御存知の通り、その後ジェフ・ベゾスイーロン・マスクが共同で発表したコピーロボットのおかげでフィジカルな接触はキャベツ繊維で覆われた人形に代理され、生殖も専ら試験管の中で行われるようになり、わたしたちはこうして一日中湿布を剥がして抽出したフェンタニルを舐めながらハッピーに生きているわけで、それはそれで愉快なのですが、しかし月の裏側で剛力彩芽のミイラを発見した呪いで死んだマスクはともかく、ベゾスは世界を救う前にやることがあったのではないでしょうか? 具体的には kindleバイスの改善とか? なんで150年も生きていていまだに1400兆ドルの資産の使いみちをあやまりつづけるのか?
 

 さて、人々がフィジカルな接触をまがりなりにも取り返したとき、まず再開したのは他人のうちにあがってアニメを見せ合う行為でした。
 他人の領域へ侵入し、アニメを上映するのは人間としての本性であり、人間が「殺し合うサル」に進化したのもアニメのせいであるというのはもはや定説です。
 アインシュタインはかつて「第三次世界大戦でどのような兵器が使われるかについては、わたしはわからない。しかし、第四次世界大戦で使われる兵器ならわかる。アニメだ」といいました。
 他人にアニメを見せる。すなわち、戦争です。相手の視界を支配し、思考を乗っ取り、その後の人生を決定的に変えてしまう。あのときあなたが『ゆゆ式』を、『あいまいみー』を、『キルミーベイベー』を見せなかったら今頃あの人も健在だったでしょうが、しかし変容した運命は、失われた未来はけして帰ってこない。
 わたしたちはそのような覚悟で家に招いた友人にアニメを見せあいます。血を伴わない啓蒙はありえません。革命には犠牲がつきものです。あなたが本心から友人を想い、その救済を願うのであれば。
 
以下、NetflixAmazon Prime Video、あるいは Youtube などで視聴できる作品(2020年5月現在)に限定しております。あとまあ色々過去記事とかぶってたり有名作しか紹介してなかったりしますが、主題が主題なので。


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1.『おかしなガムボール』S2EP8「ええっ、パパが仕事!?」

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(本編途中まで公式で公開中。続きはアマプラやネトフリやGYAOなどで観られる)

・ネコの男の子ガムボールと金魚の男の子のダーウィンのきょうだい二人を中心としたスラップスティックなコメディ。
・「ええっ、パパが仕事!?」は、おっちょこちょいで無職で怠け者のリチャード(ガムボールのパパ)がひょんなことからピザ配達の職を得たことで宇宙の法則が乱れ、各地で異常気象や異常現象が多発する。しっかりものでちょっと強迫症っぽいママは宇宙の崩壊を止めるべく、パパに配達をやめさせようと車で飛び出すのだが……といった話。
・「ええっ、パパが仕事!?」っていうタイトルがすでにひどすぎていいですよね。いきなり22話から観てもパパがどういうキャラかが一発でわかる。
・10分そこそこで家庭の危機が宇宙の危機へと発展する壮大なSF。JGバラード以来のイギリス・ニューウェーブSFのひとつの達成といえる。いうだけならここは自由の国だぜ。
・ママからパパをクビにするように迫られた雇い主のピザ屋店員の「宇宙の法則を乱したからといって、クビにする理由にはならないよ!」は本作でも屈指の名台詞のひとつ。コンプライアンスの大切さを考えさせられます。

2.『リック・アンド・モーティ』S1S1「アドベンチャーのはじまり」(22分)

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(番組トレイラー)

アメリカではもはやミレニアル世代の一般教養。*1ひとことで言うなら「邪悪な『ドラえもん』」。思春期に悶々とするダメ少年モーティと、その祖父で天才科学者のリックが異次元や宇宙へ繰り出してさまざまな冒険に挑む。といえば聞こえはいいが、七割くらいはリックによるモーティへの虐待である。*2
・第一話にはそのアニメのすべてが詰まっているとよく言われますが、『リック・アンド・モーティ』の第一話もまさにそれ。テンポよく繰り出される悪趣味なギャグの数々、自分の目的のためなら自分の孫すら冷酷に利用するリックの暴虐性、とにかく主体性がなく欲望ドリヴンで流されまくるモーティ少年のダメダメさ、非常に細かい引用ネタの数々、細部はめちゃくちゃなようで実にコントロールの効いたプロット……。
 なにより象徴的なのはラストにおけるリックの感動的なセリフでしょう。リックというキャラクターと、作品全体の品性をよくあらわしています。
・これを見せた人物から後日「あんなひどいアニメを見せるあんたはひどいひとだ」というクレームがつきました。でも、そのときわたしに『プリパラ』を見せたおまえのほうがよほどひどい蛮行を働いたのではないでしょうか。

3.『ミッドナイト・ゴスペル』S1EP2「士官とオオカミ」(20分)

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(番組予告編)

・2010年代を代表するTVアニメ『アドベンチャー・タイム』を生み出したペンドルトン・ウォードがアドベンチャー・タイムの映画版制作をサボ……映画版制作の傍ら生み出したサイケデリックアヴァンギャルドアニメ。
・作り方がすごい特殊なんですよ。まず主人公の声を当てているコメディアンが数年前にやっていたポッドキャストだかラジオだかのインタビュー番組からゲストとのトークを抜き出して(400以上あるエピソードから10個を厳選)、それを九割五分残しながらアニメの世界観に馴染むように脚本へ起こす。で、コメディアンとゲスト本人にまた声をアテてもらう*3
 主人公役のコメディアンはともかく、ゲストのほうは薬物中毒やセックス中毒から脱しようとするセレブたちのリアリティ番組の司会で有名になった医師、元アル中の活動家兼作家、葬儀業界を革命しようとしているユーチューバー、悪魔崇拝に基づいて男児を殺害したとして逮捕され冤罪説も根強い元服役囚などなど日本ではまったく無名、アメリカでもそこまで馴染みのないであろう半分素人みたいな人々ばかり。
・なので、当然、演技にも慣れておらず、ときどき素で主人公の名前を主人公を演じているコメディアンの本名と呼び間違えたりする。そして、その素材をそのまま使ってしまう。これだけでもまさにカオス。
・さらにケイオティックなのがペンドルトン・ウォードのアニメーション。70年代テイストをリファインしつつ『アドベンチャー・タイム』のドラッギーな回を*4さらに濃縮したようなアヴァンギャルドな画や展開はもはやなにかをキメながらストーリーボードを描いたとしかおもわれません。
・基本的にアニメ部分ではアニメで、ヴォイスの部分のはヴォイスでそれぞれ乖離した感じで進んでいきます。が、観ていくうちに死やドラッグや瞑想についての語りが、シカとカバをかけあわせたようなイヌがピエロのおもちゃみたいな生物にとらわれて食肉工場で加工される風景や、ゾンビの大群を撃ちまくって大統領といっしょにホワイトハウスから脱出する場面や、脱獄しようとして永劫の死を繰り返す囚人の輪廻とシンクロしていくような不思議な感覚があり、そこがトリップ感につながります。映像ドラッグアニメのニューブラック、それが『ミッドナイト・ゴスペル』です。
・「士官とオオカミ」は、さっき言った「シカとカバをかけあわせたようなイヌがピエロのおもちゃみたいな生物にとらわれて食肉工場で加工される」エピソードなのですが、そのイヌみたいな生物が語る内容はアル中を経たアメリカ人女性作家の遍歴です。
・わかりやすさを取るならEP5 「喜びのせん滅」がオススメ。

4.『サウスパーク』S18EP6「フリーミアムは無料じゃない」

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(公式プレビュー)

・おまえのために言う。ソシャゲをやめろ。いますぐスマホを置け。わからないなら、いいか、「フリーミアムは無料じゃない」を見ろ。FGOをやめろ。おまえのための思って見せているんだ。道徳教材なんだよ。『サウスパーク』は。

 

5.『レギュラーSHOW〜コりない2人〜』S1EP1「悪魔のジャン・ケン・ポン!」(11分)

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(公式の本編フル)

・『おかしなガムボール』の「ええっ、パパが仕事!?」では10分で宇宙の次元へ達していましたが、毎回そのエスカレーションをやるコメディアニメが『レギュラーSHOW』です。ちょっとダメなアオカケスのモーデカイと社会生活不能レベルでダメなアライグマのリグビーが特に目的もなくダラダラと愉快に生きる様はひとびとに勇気と希望を与えてくれます。
・そのゆるいルックに反して実はギチギチに計算された作品でもあります。短い尺に配された伏線、キャラクター描写、状況や設定の壮大さ、話の面白さ、手仕舞いの切れ味、いずれも『レギュラーSHOW』は2010年代でも完成度ではトップクラスの短編連作アニメといえるでしょう。おなじく2010年代のカートゥーンネットワークの看板アニメ『アドベンチャー・タイム』や『スティーブン・ユニバース』と違って日本語版のDVDが出てない
のが残念。っていうか一時期はアメリカ版もセレクションしかなかった気がする。

6.『リラックマとカオルさん』S1EP3「梅雨」(11分)

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(番組予告編)

・国民的人気IPリラックマを題材にして生きづらい社会人女性の深刻なリアルを描いたネトフリオリジナルストップモーションアニメ。
・「梅雨」は現代と怪談噺といえるでしょう。リラックマに生えたキノコを焼いて食べる場面もけっこうホラーなのですが、最大の恐怖でありサプライズはラスト一分半のあいだに詰まっています。これを観たらあなたは今後リラックマを純粋な眼で見ることはできなくなるでしょう。イノセンスの破壊。それがアニメ鑑賞の本質です。




出てるシーズンは全部買え。

*1:『エイス・グレード』を観ればわかる

*2:いちおうリックはリックなりに孫や家族への愛情はもっているのだが、根がクレイジーなので伝わらない

*3:例外は最終話。理由は観ればわかります。むしろこのための手法だったんだなと

*4:もともとATもドラッギーなアニメなんですが