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2022年1月の新作まんがベスト10+5

 あけましておめでとうございます。
 以下は、2022年の一月に第一巻が発売された新作まんが10選と、同じく2022年に発売された単発長編・短編集5選です。
 基本的にはおもしろいと感じた順にならんでいるものと思し召しあそばせ。


 よくある質問:
 Q.来月もやるの? マンスリーでやるの?
 A.わからない。これまでの経験からいえば今月っきりになる可能性が高い。

【2022年1月に第一巻が発売された連載もの】

1.『とくにある日々』(なか憲人)

 今月のベスト。なかよしの高校生ふたりを中心に展開されるオフビートな学園コメディ。単純に奇想コメディとしてめちゃめちゃ笑えるんですけど、画的としてエモーショナルな瞬間が何度もあって謎の感動を呼びます。panpanyaテレンス・マリックに撮らせたみたいな。


2.『桔香ちゃんは悪役令嬢になりたい!』(原作・相馬康平、作画・日下氏)

 アニメの影響で悪役令嬢を目指すイタい小学生桔香ちゃんとそれぞれの思惑と成り行きから彼女の下僕として侍ることになった仲良しグループの四コマギャグ。要するにまあみんな大好きな「本物になりたいニセモノ」の話であって、それは”悪役令嬢”に憧れるけれど空回りすることでもあるし、彼女よりもキャラの濃いメンツに囲まれているということでもある。姉フィクとしても優秀。


3.『百合の園にも蟲はいる』(原作・羽流木はない、作画・はせべso鬱)

 名門女子校に赴任してきた男性教諭・円谷。なんとなく馴染めなさを感じていたところにクラスでいじめ疑惑が浮上し、彼はそれを解決しようと乗り出すが……という教師ものの学園コメディドラマ。『女の園の星』とは異なり、生徒たちのダークでラジカルな面を見せる……というとよくあるまんがのようだけれど、主人公もなかなかキレているところがおもしろい。イカれたキャラしか出てこないまんがはよいまんが。キレどころのタイミングもよい。

 

4.『艦隊のシェフ』(原作・池田邦彦、作画・萩原玲二

 池田邦彦に対する認識が変わったのは『国境のエミーリャ』を読んだくらいからでしょうか。連作短編をまとめる技量が抜群にすごい。第二次世界大戦中の日本海軍の駆逐艦で烹炊兵と呼ばれた料理係たちの奮闘を描くお料理グルメ×戦争まんがである本作でも、綿密な取材に裏打ちされた人情ありスリルありの人間ドラマが分厚く発揮されています。っていうか、スパイものが好きなんだなあ、池田先生。

5.『おいしい煩悩』(頬めぐみ)

 グチャグチャに泣きはらしてる人間の顔は好きですか。大好きなあなたには、コレ。『おいしい煩悩』。一話に一ページぶちぬきでグッチャグチャに泣いて許しを乞うている主人公が見られます。ノリとしては黒崎冬子から品の良さを抜いたような印象でしょうか。引き出しがあまりなさそうなのが今後の不安。
 

6.『夜嵐にわらう』(筒井いつき)

 私たちの筒井いつき先生はいまも世界のどこかで暗黒百合を描き続けている。そう思うだけで勇気がもらえる気がするんです。このまんがでは生徒たちから陰湿ないじめを受けている教師が、突然登校してきたやべー不登校児に執着されたことから、クラスがめちゃくちゃな暴力教室になっていきます。そう、いつもの100パーセントの筒井先生です。

7.『ミューズの真髄』(文野紋)

 ドアマットみたいな人生を送ってきた主人公が一念発起してやりなおす、という物語は類型としてさして珍しいものではなく、そういうもののなかではシチュエーションがあまりにも『凪のお暇』と被りすぎだろう(女性向けまんがのフォーマットの範疇かもですが)とは思います。しかし、ディティールに乗っている情念というかパッションみたいなものはオリジナルで迫力がある。


8.『天使だったらよかった』(中河友里)

 ずっと仲良しでやってきた夏瑚(女)、泰星(男)、憂奈(女)の高校生幼馴染三人組。しかし、ある日、泰星と憂奈がつきあいはじめて、主人公・夏瑚は疎外感をおぼえだす。複雑な気持ちを抱えていた夏瑚だったが、ある時、憂奈が想像を絶するサイコパス野郎と判明し……という三角関係BSSNTR返しメフィストフェレスまんが。キャラや展開はめちゃくちゃ濃いのだが、まんがとしてはするりと飲める喉越しのよさが匠の業前。


9.『目つきの悪いかわいい子』(ハミタ)

 属性一点賭けシチュエーションラブコメ(俗に言う高木さん系)と見せかけておいてシリアスな話をやる、というのは、特段珍奇というわけでもないんですが、これはそのなかでも手続きが誠実な印象。
 

10.『花は咲く、修羅の如く』(原作・武田綾乃、作画・むっしゅ)

 京都の高校で放送部やるやつ。『響け!ユーフォニアム』の放送部バージョンと理解すれば早い。第一巻ではキャラや設定紹介止まりといった印象ですが、その時点ですでに厚みがあり、今後の地獄が楽しみです。
 

【2022年1月に発売された単発長編・短編集】

1.『苦楽外』(宮澤ひしを)

 エグみを抜いた前期五十嵐大介といった印象の海棲怪奇譚。奇譚という表現がしっくりくる温度感。


2.『リボンと棘 高江洲弥作品集』(高江洲弥)

 『先生、今月どうですか?』でプロップスを高めつつある高江洲弥の天才性と全方位に満遍ない嗜好が遺憾なく発揮されている短編集。死体を埋める百合ならぬ埋められた死体百合の「ある日森の中」と、小学生が人喰い植物人外の力に溺れる「誘い花」が特にマーベラス。読んでいると、人はハルタ作家として生まれるのではなく、ハルタ作家になっていくのだなあ、とおもいます。


3.『黄色い耳(((胎教)))』(黄島点心)

 異才・黄島点心の黄色シリーズ?第三作(だったとおもう)。中編が二篇載っており、前半の方では黒ギャルが友達とDV彼氏を山に埋めてもう一回その山に行ったら謎の耳キノコの化け物と出会ってセックスして恋仲となり耳たぶに耳キノコの子を孕む、といういつもの文章にしたら気が狂っているのかな? という勢いのあるストーリーでまあこういうのに関しては読んでくださいとしか言いようがない。
 

4.『絶滅動物物語』(うすくらふみ、今泉忠明・監修)

 主に人間の手によって絶滅した動物(正確にはアメリカバイソンなどギリギリ絶滅しなかったものも含む)にまつわる物語。動物関連書籍でよく名をみかける今泉忠明監修。リョコウバトやステラーカイギュウ、ドードーといったわりと有名どころを扱いつつ、人間の業をえぐります。現存しない動物たちの生きていたころの姿を再生する、という地味に難業をクリアした力作。


5.『SUBURBAN HELL 郊外地獄』(金風呂タロウ)


 郊外で気の狂ってしまった現代人の姿を描くサイコホラー短編集。きちんと「土地と人間」の呪いに落とすところがホラーとして端正。