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2020年上半期のベスト映画5作

 つってもコロナで数ヶ月くらい新作映画観られなかったんですけどね。いやまあ新作は配信でもありましたが。配信もなんかどん詰まってなかった?
 そういうわけで例年より新作映画に接する機会が少なかったので、毎年20作くらい挙げる上半期ベストも五作に絞りました。五作だとちょうどいい感じに悩ましくなりますね。

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2020年上半期のベスト5作

1. 『ジョジョ・ラビット』(タイカ・ワイティティ監督、米)


タイカ・ワイティティ監督がヒトラーに!映画『ジョジョ・ラビット』日本版予告編

https://proxia.hateblo.jp/entry/2020/02/18/044654

 最後にいい感じの音楽がかかってダンスが始まる映画は名作。市街戦のシーンのサム・ロックウェルは最高だったよね。タイカ・ワイティティはどんくさい映画しか撮らないイメージで、正直ジョジョにもそういう節はないでもないけれど、これは全体的にいいテンポだった。

2. 『ハスラーズ』(ローリーン・スカファリア監督、米)


映画『ハスラーズ』大ヒット上映中!

 ある空間でわしゃわしゃ集まってきゃいきゃいするシーンの多幸感、という点では『ストーリー・オブ・マイライフ』と同じかもしれない。

3. 『アンカット・ダイヤモンド』(サフディ兄弟監督、米)


Uncut Gems Trailer #2 (2019) | Movieclips Trailers

 どんくさいといえば、サフディ兄弟もあいかわらずどんくさい映画撮ってるな―と思うんですけど、これはそのどんくささが全体のテイストとアダム・サンドラーのたたずまいに好い作用を与えている。

4. 『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』(グレタ・ガーウィグ監督、米)


『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』6月12日(金)全国順次ロードショー

 
 シアーシャ・ローナンを出すときの選択肢ってシアーシャ・ローナンを最高に撮る以外の選択肢がないと思うんですが、グレタ・ガ―ウィグは少なくともそこをよくわかっていた。それとティモシー・シャラメにどういうポーズをさせたらいいかもわかっていた。そのふたつさえクリアできたら後は求愛ダンスみたいなもんさ。時系列シャッフルも観客を殴って判断能力を失わせ、みせたいものをむりやりみせるための手段だと思う。

5. 『ナイブス・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(ライアン・ジョンソン監督、米)


映画『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』予告編(60秒)

 いまさらわたしが指摘するまでもない厳然たる事実として、ミステリという形式は映画に決定的に向いてない。そしてミステリ映画の歴史とは、その向いてない形式をどうスクリーンにアダプトしていくかという制作者たちの血と汗の歴史なわけですが、『ナイブス・アウト』は形式・内容共にそうしたミステリ映画史のひとつの結晶といえます。社会問題すらタイプキャストに組み込むという徹底した本格フリークっぶり。

その他面白かったやつ

『ザ・ファイブ・ブラッズ』(スパイク・リー監督)
 最近のスパイク・リーではおもしろい方に属することはたしか。時勢とかみあいまくった幸運も大いにある。

『音楽』(岩井澤健治監督)
 音楽の初期衝動を描いた映画なんていくらでもあるけれど、そういうのの大半が「最初から美人」だったのに対して『音楽』は「最初から最後までブサイク」で感動させてくれるのが凄い。
 
『ミッドサマー』(アリ・アスター監督)
 「あのクマは無視していいの?」「クマはクマだよ」

『ひとつの太陽』(チョン・モンホン監督)
 台湾映画。役者を信頼しきっているのがいい。

『アップグレード』(リー・ワネル監督)
 意思と肉体が乖離しつつ進む格闘アクションがフレッシュ。まああるっちゃあるアイデアかもなんだけど、どう描けばいいかをよくわかっている。ようやくリー・ワネルの映像作家としての才能が開花した感。『透明人間』も楽しみ。

『リチャード・ジュエル』(クリント・イーストウッド監督)
「ぶっちゃけた話、今のクリント・イーストウッドとか褒めてるのは権威主義と惰性だろ?」とか言ってるやつは全員バカ。今のクリント・イーストウッドみたいな変なバランスの映画作家出してから言え。
 とは言い条、そのユニークなバランスが巨匠の地位を利用して好き勝手やっても周囲が看過してくれる、という部分も来ていて、女性記者の扱いとかはその残念な副作用ではある。

『パラサイト 半地下の家族』(ポン・ジュノ監督)
 一級のエンタメであることは間違いない。ポン・ジュノあんまり好きな監督ではないんですが、これは楽しかった。

『泣きたい私は猫をかぶる』(佐藤順一&柴山智隆監督)
 岡田麿里脚本か〜〜〜と思って観たら、岡田麿里のエグみがうまい具合にオミットされつつ巧いところはちゃんと巧い脚本になっていた。観客に明示してこなかった関係性の積み重ねみたいのの出し方が抜群だよねこの人。猫の世界の描写はジブリ劣化コピーっぽくて、山崎貴といい、これはもう和風ファンタジーのひとつの呪縛なんだなあといった印象。


三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』(豊島圭介監督)
 正直、ドキュメンタリーとしては上等とはいえないんですが、三島と芥正彦のマッチングが最高。 

『初恋』(三池崇史監督)
 もうハジケようとしてハジケきられるお年でもないんだな……という感傷もおぼえつつ、チープ一辺倒に堕さないスラップスティックが成立していることに感動する。

『ジュディ 虹の彼方に』(ルパート・グールド監督)
 よくないところも多いんだけど、やはり愛嬌があるのは題材と主演の故か。

『ペイン・アンド・グローリー』(ペドロ・アルモドバル監督)
 遺書のような映画撮っておいて最後の最後で「ワイはまだ死なへんで〜〜〜」とやるのは、さすがというか、負けた気分になる。


 劇場行けないあいだ、映画なくても死なねえな〜と思ってましたけど、再開して『デッド・ドント・ダイ』観に行ったらやっぱり”良く”て、映画ないと生きてる感じしないな〜と思いました。下半期はいっぱい映画観られるといいですね。

ジョジョ・ラビット (字幕版)

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