名馬であれば馬のうち

読書、映画、その他。


読書、映画、その他。


最終試験

 何の科目だったかは忘れたがテストを受ける。どうやらジャンプマンガに関わることらしい。学生たちはひとりずつ教官の部屋に呼び出されて最終試験を受けさせられる。僕はその科目の授業に(珍しく)毎回欠かさず出席していたので、パスできる自信を持っていた。
 待合室はのどかな暖色系の壁紙で、その壁際に整列した椅子に座り、7,8人の学生が自分の番を静かにしかしダルそうに待っていた。僕は三番目。最初に呼び出されたある先輩は十分くらいで出てくる。二番目の学生は二三分で退出する。学生によってテストの内容が違うのだろうか。



 名を呼ばれて部屋に入る。薄い緑で統一された小奇麗な部屋の奥、木漏れ日のさすテラスウィンドウの前に樫材っぽい机が置いてある。机には iMac のような太いデスクトップパソコンが乗っていて、教官がぼんやりとその画面を眺めている。青いカジュアルなシャツを着た、金髪の若い白人である。
 手招きされておずおずと教官の前に立つ。
「『幽遊白書』は観たことあるか?」と訊かれる。
 観た? アニメか? 「『幽遊白書』は漫画が基本」という自分の常識と微妙に食い違う質問に、すこし不安をもよおされる。
「原作は二十回くらい読みました。アニメは……一回半、かな? 通しては」と答える。
 教官はそれならば、と試験の形式を説明する。
 教官が僕にあるジャスチャーを行う。それは『幽遊白書』のワンシーンを再現したもので、僕はジャスチャーを見てその後の展開を当てなければいけない。
 楽勝である。幽遊白書のストーリーならほとんど憶えている。
 出題。教官はいきなり僕に軽く抱きつく。なにごとかセリフを口にする(よくおぼえてない)。僕はなんだかその場面におぼえのある気がする。抱き合っているのは桑原と幽助だ。
「この後、桑原が生きる死ぬか、どちらかを当てて欲しい」
 二択だ。あまりにシンプルな設問に、僕は焦る。記憶がのどもとで詰まって脳に浮いてこない。たしか、原作で桑原が死にかけるのは武闘会編だけだ。しかし、明らかに提示されたシーンは該当しない。
 さんざん迷ったすえ、僕は「死ぬ」と答えてしまう。
 直後、最終巻のラストシーンを思い出して桑原が最終的に生き残ることを思い出し、自分の間違いを悟る。いやしかし、いったん殺されて生き返る場合もあるんじゃないか。少年マンガなんだし。というか、その場合の「正解」の扱いはどうなるんだろう。
「55点だな」と教官はつぶやく。
 55点? 合格点は60点くらいではなかったか? ということは、僕は試験に落ちたのだろうか。受けたこともないはずの講義を必死で受講した思い出が蘇ってきて、なんだかかなしくなる。
 教官はパソコンで再現に使ったシーンをディスプレイに表示する。桑原と幽助がかっこ良く抱擁をかわした直後、仙人じみた亀のようなキャラクターが出てきて二人を見守りながら、「55点だ。その努力を買って、合格点はくれてやろう」的なセリフを言う。
 つまり、Cはもらえる、というわけだ。
 なんとなく腑に落ちない感じで僕は部屋を辞す。
 待合部屋で、知り合いから「おっ、ストレスで55点になった顔だ」と言われる。みやると、ニヤケ顔の彼の横で、何者かが「ストレスで55点」という札を首からさげてうなだれている。意味がわからない。



 外では同じく試験を終えた友人(小学校時代の同級生)が待っており、一緒に帰ろうと言う。
 廊下から通じる裏口のような出口の横にたてかけてあるパイプ椅子に、最初に試験を受けた先輩が座って、漫画本を読んでいる。その先輩にも言葉をかけたはずだが、会話内容はおぼえていない。試験に落ちて、来年度の予習のために漫画本をけなげに読んでいるのかな、と思ったのはおぼえている。



 友人と校舎の外に出ると、視界に網のはられた広壮なテニスコートだか野球グラウンドだかが飛び込んでくる。今思うと京都大学のキャンパスに少し似ている気がする。色調は全体的にくすんだ青色で、人っ子ひとりいないし、声も音もなかった。
 そんな敷地をぼんやり二人だって歩いていると、なにげなしに友人が僕の受けた試験の内容を訊ねてくる。答えると、彼が受けた試験の内容も話してくれる。
 どうやら『ToLOVEる』関連の選択式ペーパーテストだったらしい。彼は『ToLOVEる』を一切読んだことがない(僕もない)ため前半の問題をことごとく間違えた。後半はどうであったのか、試験の成績はどうだったのか、結局彼がパスしたのかしてないのかはおぼえてない。そもそも、言及されないままに夢が途切れてしまったのかもしれない。