名馬であれば馬のうち

読書、映画、ゲーム、その他。


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2021年の新作ベストゲーム10+やった新作+良かった旧作

あけおめ。
とりあえず、2021年のまんがと映画とゲームのベスト記事を出したいとおもったのですが、このうち早めに出すことの公益性が高いのはゲームだなと判断したのでゲームからやります。ほら、まだ steam のセールやってるしね。
以下、「2021年に steam で正式リリースされたゲーム」と「2021年に邦訳されたゲーム」は新作扱い。


新作ベスト10

1.ENDER LILIES

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 実はまだクリアしてません。数時間やった時点でもうこれベストでええやろって気分になり、ベストになりました。
 いわゆるメトロイドヴァニア。世界観はダクソ風味で戦闘の難易度もそれなりに高い。でも理不尽に高すぎないあたりがちょうどいいというか、こういう洗練されたレベルデザインがイマっぽい。
 でもなんといってもすばらしいのは物語と世界観ですよね。
 主人公がほとんどなにもわからない状態で怪物だらけの世界にほっぽりだされるところからスタートするわけですが、冒険を進めていく過程でだんだんと世界やそこにいたひとびとの物語の断片が提示されていく。だいたいは悲劇的でありつつも、人と人とのつながりが確かに感じられて、たいへんに切ない。すごいエモい。ぎりぎりソウルライクといってもいいようなゲームだけれど、世界観のテイストはどちらかといえば『Momodora』や『Minoria』に近いでしょうか。クリーチャー化したシスターとかがガチで殺しにくるやつ。
 パブリッシャーの Binary Haze Interactive は、『ルーンファクトリー』シリーズなどをてがけいた故ネバーランドカンパニーの元社員が立ち上げた会社で、インタビューなどを管見するかぎり、結構開発にもコミットしているようですね。本作はそのパブリッシングタイトルの第一作。ドワンゴから派生した Why So Serious(『NEEDY GIRL OVERDOSE』とか) などと同じく、今後の日本のインディーゲームシーンを占っていくパブリッシャーとなっていくのではないでしょうか。

2.Inscryption

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 今さらなんか言うことある? ってくらい去年バズったデッキ構築型カードゲーム&アドベンチャー
 そもそもわたし、「ゲームマスターや対戦相手がゲームの盤外にいて、そのことを常に意識させられる」系のビデオゲームに弱いんですよね。そんなジャンル化するほどあったっけ? って、まあ、ほとんどなくて、今想定してるのはステッパーズ・ストップの『くもりクエスト』なんですけれど。
 で、インスクリプションでは「盤外にも世界があること」がフレーバー程度ではなく、ちゃんと演出的にも効いています。たとえば、カードゲームで対戦するときのライフはなぜか歯をトークンとして用いているわけですが、ということは切羽詰まったらペンチで自分の歯を抜くとライフを増やせる!
 
 正気か? 

 ダークでウィアードな雰囲気とゲーム性とメタ要素が見事にからまった白眉なシーンです。
 そして、対戦相手に一個の人格(まあストーリー的には人間ではないんですが)があることがこれまたストーリー的に大変重要になってくる。飛び道具を使っているようでいて、「ゲームのキャラにどう親しみを持たせるか」という難問を巧みに攻略していて、ダニエル・ミューリンズはインディー随一のストーリーテラーなのだなと再確認させられました。そんな、やろうと思えばいくらでもウェルメイドに作れる手腕を持った人物がよりによってこんなヘンテコで噛み砕きにくいお話を作るのが、作者の自意識が直に反映されるインディーゲームの魅力でもあるといいますか、これが楽しみで steam セールで無限にゲーム買って一生積んでるんだよなあ、というおもいです。積むなよ。はい。
 ミューリンズはほんとうに変な自意識を持ったゲーム開発者なので、そこが能く現れている前作 the hex もぜひ翻訳してもろてミューリンズの変さを日本語圏にも知らしめたいところですが、どうですか、日本のパブリッシャーのみなさん?

3.Death's Door

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 死者の魂を刈り取って捕獲するおしごとをしているカラスさんが飛んだり跳ねたり剣を振り回したりします。あとなんか人間の身体を乗っ取って歩行するようになったイカと深夜にデートしたりとか。ハイ、このコンセプトの時点で優勝。V9。永遠に不滅です。
「死神ゲーにハズレなし」が常識となって久しいインディーゲーム界隈ですが、本作はわけても傑作です。
 ジャンルとしてはゼルダライクを軽く3DにしたようなアクションRPG&パズル。謎解きそのものはオーソドックスで間口が広い*1つくりで、戦闘も心地よい歯ごたえがあるくらい。あの 『Titan Souls』*2ディベロッパーだけあって戦闘まわりについては警戒していたのですが、ボスの行動パターン把握もさほど難解ではなく、マップ上に適度に配置された回復ポイントのおかげで探索のストレスと達成感がうまい具合にバランスされています。
 ややローポリめのかわらしくもダークなビジュアルも見どころで、そこで語られる生と死、そして労働の物語はジャンル相応にしつこくない程度でありながらも、たしかにプレイヤーの心に余韻を残します。ボス戦ごとに倒したボスのお葬式をやるゲームって他になくないですか?
 Inscryption と同じく Kakehashi Games がてがけた翻訳も見事。2021年度の同社は Inscryption、Death’s Door, Eastward, There Is No Game: Wrong Dimension, My Friend Pedro: Ripe for Revenge, Genesis Noir といったタイトルをてがけており、もはやこの会社が翻訳したゲームを買っておけば翻訳の質もゲームのクオリティも間違いないという域です。Half-life: Alyx の翻訳も任せられた経験もありますから、もはや Valve 公認といっても過言ではない。

4.Milk outside a bag of milk outside a bag of milk

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 ロシア人の書く憂鬱な文学はもはや紙の上には存在しません。その亡霊たちの主戦場はネットとなり、そしてゲームとなりました。
 メタフィクション的な手法は、ときに基底現実の優位性を無意識の前提として機能します。その前提はもはやわたしたちの時代精神にはそぐわない。『マトリックス』の最新作がなぜあんなにも色褪せてみえたのか。それは、2020年代のわたしたちがもう「現実」の優位性など肌感覚で信じなくなってしまったからです。
 かなしいことにウォシャウスキーズを始めとしたほとんどのクリエイターたちは、その事実に気づいていません。この地上で真理に至った作り手は、そう、Nikita Kryukov、本作の開発者のみです。
『Milk〜』シリーズにおけるプレイヤーは、主人公によって想像された存在であると同時に主人公とは別個に実在もしている。あなたはゲームと基底現実のどちらの世界にも属していると同時に属していない。ではどこにいるのか、といえば、『Milk〜』の世界しかいる、としかいいようがない。
 筒井康隆がかつて主張した超虚構はここにおいて、といいますか、ここにおいてのみ完成しました。
 twitter、note、instagramYouTubetiktok、ありとあらゆる紙の書籍、映画館、テレビ、そういった場所で与えられる気分はすべて偽物です。わたしたちのほんとうの気分はここにある。ここでだけ、わたしたちは安らかに眠ることができる。

proxia.hateblo.jp


5.Hades

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 ローグライトはストーリー性に薄いもの、という固定観念を巧みなストーリーテリングによって打破したエポックな一作。
 その方法がローグライトの周回の要素を「道中集めたアイテム(ポイント)をキャラに貢いで親愛度を高める」という、どこぞの十二股(十六股だったっけ?)RPGみたいなシステムをもってしていて、思いつくんだろうけど、よくやったなあ、という印象。それが無理やり出ない印象なのは、ベースがギリシャ神話というそもそもが断片的な物語であり、ゲーム内でもキャラがひとりひとりちゃんと立っているからでしょうか。
 難易度はそこそこありますが、周回によるスキルアップや武器の取替によってハードルがかなり下がりますし、逆に高難易度を求める向きには公式の縛りプレイ機能(かなり詳細に各要素の難易度をいじれる)も用意されています。
 イヌを撫でられます(ケルベロス)。

6.OMORI

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 待った。とにかく待った。待っただけの甲斐があった。
 といっても、そこに至るまでにはいろいろありまして。九月の Playism のショーケース番組が Vtuber?のなんかのゴタゴタで潰れてしまい、まあそれ自体は別にどうでもよかったのですが、そこでアナウンスされるはずだった OMORI の日本語版の進捗報告がどこかへと消えてしまい、リリース予定が未定のまま更新されなくなったことにブチキレたわたしは十一月の終わりごろに原語版を勢いだけにプレイしました。で、クリアしてよかったなあ、と噛み締めていた十二月上旬になんの前触れもなく日本語版がリリースされました。よかったね。まあ、よかったんですけど、なんだろうなこのなんともいえない仄暗い気持ちは……。
 内容の話をしましょう。といっても、一歩踏みこんだらネタバレポリスと化したファンたちから袋叩きにされるのでなんもいえねえな。
 実はこれ、Milk outside a bag of milk outside a bag of milk と似てるんですよね。いや、鬱病メンタルヘルスを扱っているから、ってだけなくて。
 Milk outside a bag of milk outside a bag of milk の主人公は自分のいる世界をあるジャンルのゲーム(この場合はビジュアルノベル/ポイント・アンド・クリック・アドベンチャー)として捉えていて、プレイヤーの前に展開される画面もそういう彼女の世界観に沿ったインターフェイスで表現されています。
 OMORI はそれに似ているというか逆というか、(J)RPG的な様式を通して主人公のトラウマに立ち向かっていくんです。たとえば、トラウマの化身を前にした主人公は、特殊な状態異常にかかってろくに行動ができない。そこでただ「たたかう」とか無闇に選択しているとダメで、「おちつく」みたいな自分の心をなだめるコマンドを選ぶことでゲームが進行していくんです。そういうセルフヘルプの過程がRPGの戦闘画面で展開されていく。
 OMORI は空想の世界と現実の世界という二つの世界があって、主人公はそのあいだを行き来していきます。前者の世界ではいかにもRPG的な物語が繰り広げられて、戦闘でも主人公はナイフを振り回して敵を倒したりしていく。一方で、主人公は現実の世界にもいやいやながら参加していくことになります。そして、そこでもナイフを握って「RPG的な戦闘」を行うことになるのですが、いかにも強そうなヤンキー女に攻撃を加えると一発で勝ててしまう。そして、言われるのです。「ナイフで切りつけてくるなんて、おまえ、頭おかしいんじゃないのか!?」
 すなわち主人公はRPG的な世界とインターフェイスを持ち越したまま現実を生きている人間であるとも解釈できて、そうすることで彼は現実から距離をとっている。でも、そうした逃避的なフィルターのまま動くと現実と齟齬をきたしてしまう。そこをどう乗り越えていくか、という話であるようなないような。

 RPGツクール系最後の傑作だと思います。おすすめです。

7.ウイニングポスト9 2021*3

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 アンシャスオーバー(芦毛、2014年生 主な勝ち鞍:さきたま杯京都牝馬S函館スプリントS


 2035年のインタビュー。ネマホースパーク北海道(静内)にて。



――デッちゃんのことならよく憶えています。わたしの一歳下でね。とねっ子のころは華奢で儚げで、あんな仔が走るのかねえ、とかハウスのおばさま(ネマポーターハウスのこと。アンシャスオーバーの母の半妹)がたがよく噂してましたよ。
 この世界でひとつ違うとアレですし、私はオープン馬になったのも三歳の暮れといった調子でしたから、トレセンに移ってからはほとんど会う機会もなかったです。あの仔はほら、パッと出てきて三冠牝馬でしょう? エリザベス女王杯まで穫っちゃって。10年ぶりくらいじゃなかったかな? ブエナビスタ以来の四冠牝馬だって世間は大騒ぎ。さえないオープン古馬からすれば、もう別世界の住民です。
 嫉妬というか、憧れというか……うーん、同じ牧場の出で、しかも牝系も同じ(グリトグラ系)ですし、見上げて応援する気持ちしかなかったな。スーパースターですよ。
 もちろん有馬はキングカッターを打ち負かしてほしくてテレビで観ていました。ダイワスカーレットや(ネマ)クインさんの居たときみたいな牝馬全盛の時代がまた来てほしいなって。
 ほら、わたしら、(ジェンティル)ドンナさんやブエナビスタの走ってた時代も観てないじゃないですか。有馬や凱旋門牝馬が勝ってた時代があったんですよ。って、それは記者さんのほうが詳しいか。へえ、現地で観戦したの? いいなあ……。


 まあでも……なんの話でしたっけ?


 ……そう、18年の有馬記念
 キングとデッちゃん。牡牝の同年三冠馬同士の直接対決だって、派手に盛り上がりましたよね。パドックでもデッちゃんの深い黒鹿毛がつややかに輝いてて、きれいだった……。


 それがあんなことになって。


 あれから勝てなくなって、「やっぱり牝馬は牡馬には勝てない」「デッドサイレンスは三歳で終わった」なんてマスコミに陰口叩かれて、特にコースポなんて……すいません、記者さん、コースポの方でしたっけ。
 でも、大阪杯なんて2着だったんですよ。それもキングカッターの2着だったから、ある意味しかたなかったんでしょうけれど。
 やっぱり決定的だったのは、19年のヴィクトリアマイル。サニーマニアに負けたでしょう。
 直前までずっとGIの勝ち鞍がなかった穴馬ですよ。それで、「牝馬限定戦でも勝てないようならデッドサイレンスはもう引退すべきだ」なんて言われて。そう、コースポが。
 そこからはGIIでもボロ負けしだして、わたしもああもうダメなのかな、って勝手にさびしくなっていました。
 そしたら11月にエリザベス女王杯連覇でしょう。大復活。さすがです。あれは感動したな。
 そのころの私ですか? ダートと芝に交互に出てはGIIIでやっと勝ち負けって感じでした。やっぱりアレとは全然違う世界の馬(ひと)ですよね。デッちゃんはずっと牝馬代表として王道路線でやっていくんだって思っていました。


 そしたら翌年のフェブラリーSに来たでしょう。
 え? ダート? って、まあ、記者さんもびっくりしましたよね。私たちもびっくりです。
 私の陣営の人たちも直前まで「フェブラリーで勝ったら次はドバイだ」なんて冗談めかしてましたけど、すべりこみでデッドサイレンスが登録したと聞いて固まってました。モノが違うのはみんなわかってたんです。
 でも、世間の人はそんな雰囲気なかったんじゃないかな。ずっと芝でやってきた馬がいきなりダート挑戦ですからねえ。ダートの馬たちも怯えつつも負けないぞって意識だったんじゃないかな。私は芝もダートも半端でしたから、ダートにそんな思い入れないですけれど、それ一本の馬たちには矜持っていうものがあります。
 で、府中に行くと、案の定デッちゃんにやたらつっかかってる馬がいる。
 ゼニマックスでした。気持ちはわからないでもないかなあ。目の上のたんこぶだったゼニハメハちゃん(ネマゼニハメハ。2019年度ダート代表馬。ゼニマックスの半姉)が引退して、やっと自分の時代が来ると思ってたら四冠馬がテリトリーに乗り込んできたんですからね。四歳といっても二月の四歳でしたから、仔どもですよ。
 なんて言いがかりつけてたかな。芝で勝てないからってダートに来るな、とかそんなことです。
 デッちゃんは澄まし顔で馬耳東風といいますか、完全にゼニマックスを無視していましたから、それがますます気にさわる。
 デッちゃんは昔からぶっきらぼうなところがありました。そこがまた誤解というか、カチンと来るんでしょうね。話せば気配りのできる優しい仔だとわかるんですけど。
 レースの直前でしたし、お互いに気が立っていた。
 見るに見かねて年長の私が仲裁に入りました。といっても、猛るゼニマックスをなだめただけですけれど。
 で、ようやく落ち着いたかなーってころになって、デッちゃんがぽつりと「あたしも来たくなかったよ、こんな煙っぽい場所」と漏らしちゃって。
 これでゼニマックスだけじゃなくて他のダート馬全員敵に回しました。私もちょっとカチンときた。


 それで、ぶっちぎりに勝っちゃうんだからなあ。


 敵わない、とあらためて思いしらされました。


 でも、あのフェブラリーステークスでの2着が私のベストレースだった。私なんて、ゼニマックスにも先着できる馬じゃなかったんですよ。でも、デッちゃんの背中を必死で追いかけていくうちに……なんというか……自分以上の力が出せたっていうか……たぶん、あのレースでの私が自分史上最速の私でしたね(笑)。
 なにより楽しかった。私、走るのそんなに好きじゃなかったんです。ダートはね、特に。
 でも、あのフェブラリーステークスだけはめちゃくちゃ楽しかった。爽快だった。
 あんまりに楽しかったから、レース後に圭太くん(戸崎圭太騎手)と菊川さん(菊川順平調教師)にまっさきに言っちゃいましたもん、「ドバイ出ましょう!」って。2着だったのに。気持ちよさで頭おかしくなってた。
 たぶん、デッちゃんといっしょに走れたおかげだと思います。あの馬体がね、砂煙に映えるんですよ。とてもきれいなんです。そこは彼女がダートに来てよかったなって思いました。
 あれから、一緒に走る機会はなかったけれど……。


 去年ぐらいまでアメリカにいました。引退後にネマファームのアメリカ牧場で繁殖にあげられたんです。ふだんならGI勝ちの馬じゃないと牡も牝もネマの牧場には残れないんですけど、当時は米国牧場ができたばかりで、牝馬も不足してたらしいですね。自分ではダートそんなに得意な印象ありませんでしたけれど、いちばん大きい勝ち鞍がさきたま杯ですからね。ダメもとって感じ。
 まあ、やっぱり蛙の子は蛙ですよ。アメリカでも私の仔はGII止まりでした。それでもあの仔たちを誇りに思っていますけれど。
 デッちゃんは繁殖でも牝馬三冠でしょう。母娘で三冠ってどれだけすごいんだって話で。
 いや、帰ってきてからは会ってません。
 あっちはまだ繁殖やってて、こっちはホースパークで接客業ですからね(笑)。
 最後に話したのはアメリカ行った直後ぐらいだったかな。デッちゃんがアメリカ遠征に出ていた時期ですね。
 珍しくあっちから近寄って話しかけてきたので、なにかな、って思ったら「ありがとう」を言い忘れていたとか言い出して。
 なんのことかと思ったら、あのフェブラリーステークスのことでした。絡んでくるゼニマックスがとっても怖かったんですって。
 女帝然としてたあの仔から「怖かった」なんて言葉が出てくるなんて想像もしなかったから、あのときは面食らっちゃったけれど……私も「ありがとう」って言い忘れてたな。
 記者さん、この後デッちゃんにも会うんでしょう? だったら伝えといてもらえません? 
 アンシャスオーバーが「フェブラリーステークスのときはありがとう」って言ってたって。


 ああ、ドバイ? ボロ負けでしたよ。知ってるでしょ。コースポはやっぱり、いじわるだなあ(笑)

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8.Exo One

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 あなたは完全なる球体であり、転がることもできるし、重力に反発して浮くこともできる。
 完全なる球体であるあなたはハイレゾで表情豊かな各惑星をめぐり、青い光を放つ柱を目指す。
 それだけだ。
 一応、背景のストーリーめいたものはある。
 だが、重要なのはあなたが完全なる球体であること、そして、星々の風景が美しいこと、そのふたつだけだ。
 要高スペックPC。


9.Deathloop

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 わたしは死ぬほど3D酔いしやすい体質で、特にFPSの3Dだと一時間もしないうちにゲロゲロに酔います。おかげで Outer Wilds も Hal-Life:Alyx もろくにできやしない。
 それでもその一時間ずつを二十数日積み重ねて遊びつづけるくらいには Deathloop は楽しかった。まあ、さすがにIGN本家の10点満点は高すぎだとおもいますけれども。
 ループしていくうちにちまちま情報や武器やスキルを集めていくのは愉しいですが、ある程度の強さになると後は常に地形や敵の配置が固定された狭いマップをあくびしながら回っていくだけになるので、明確に中だるみはありますね。幸いなことにそこまで長く続きませんが。
 しかし、他にないファニーでユニークやノリやキャラに溢れていて、そういう世界にダイブするのは愉しい。同社の最高傑作である Dishonored シリーズが肌に合わなかったぶん、なおさらそう感じられるのかもしれません。
 そういえば、昨年は英語圏でゲーム・映像の両界隈でループ(SF)ものが目立った年でありました。映画の話は映画のランキング記事でやるとして、ゲームの新作では Twelve Minutes、Loop Hero。DLC では Outer Wilds の Echoes of the eyes も出ましたね。一口にループものといってもジャンルや語り口が多様化していて、ループという現象をどう活かすか、というのに各自の知恵と個性が出ていておもしろい。ちなみにわたしのイチオシは旧作(2020年発売)になりますが、House です。この話はあとでしましょう。


 

10.戦場のフーガ

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 あれは十年くらい前の日本SF大会だったとおもいます。ちょうど『ソラトロボ』が出るか出ないくらいのタイミングです。サイバーコネクトツーのブースが出店されていて、なにがあるのかな、と覗いたらなんとリトルテイルブロンクスシリーズの次回作のイメージイラストみたいなのが展示されていたんです。そこには『ソラトロボ』や『テイルコンチェルト』のほがらかな世界とは隔絶した陰鬱な情景が描かれていました。
 民族浄化を思わせる処刑の図、一様に暗い表情の戦時下のひとびと……。
「次のリトルテイルブロンクスはこれになります」とサイコネのひとは誇り高く宣言しました。

 それから幾年が経ち、サイコネはジャンプキャラゲーの開発に定評のある企業として地位を確立し、かつてケモノに燃やした情熱などすっかり忘れたように見えました。
 しかし、それはあくまでマーケット上でのこと。かれらはけっして初心を忘れてはいませんでした。裏(ネット)では高名なケモノ絵師たちを密かにかきあつめケモZINEを定期刊行するなど、一企業としてはとても正気の沙汰ではな……勇気ある活動を行い、”力”を蓄えていたのです。
 そして、満を持してかれらは長年のパートナーであるバンダイナムコに提案しました。「ケモノゲーを作りましょう!」 
 バンナムは言いました。「ケモは売れないのでやめてくれ」
 ふつうのディベロッパーならそこで諦めたでしょう。なにせ天下のバンナムのご意見です。「ケモは売れない」というのは何も感情論や印象ではなく、これまでの実績が物語っていた厳然たる事実だったのです。
 ですが、サイコネはふつうのディベロッパーではありませんでした。
「じゃあ、自分たちでパブリッシャーもやります」

 そうした心意気でできあがったのが、この『戦場のフーガ』です。

 ケモゲーのサイコネ、復活。

 この朗報に以前よりコネクションを築いていた各ケモ系クリエイターも馳せ参じました。ゲーム内のゲストイラスト寄稿陣のラインナップをごらんなさい。

『天穂のサクナヒメ』のキャラデザで一躍名をあげた ovopack こと村山竜大。
 後期2000年代からすでに伝説と讃えられていたたとたけこと外竹。
 あのコミカライズ版『ゼルダの伝説』の作者にして歴戦の古強者、姫川明輝。
「かわいい」と「エロい」は両取りできることを証明した現代のアインシュタイン、リコセ。
『東京放課後サモナーズ』の特攻隊長、樹下次郎……

 とまあ、十年二十年前から斯界ではトップティアーに属していた神たちが集結したわけです。まるで十月の出雲大社の有様です。
 いまいちピンとこないという方に喩えるなら、今週のジャンプに鳥山明荒木飛呂彦武井宏之が同時に掲載してされている、そのくらい衝撃的な豪華さでした。

 そんなサイコネとケモ絵師界のありったけを込めて制作されたゲームにおけるリーサルウェポンが、

「4歳〜12歳のいたいけな少年少女を弾(生贄)にして発射される大砲」

 だとは、誰が予想したでしょう。
 っていうか、どうしたらそんなこと……いや、似たような兵器は『ブレス・オブ・ファイア4』でも見たけどさ。主人公側が使う兵器じゃないってば。

 わたしたちはおもいました。

 サイコネは狂ってる。

 でも、ついていこう。
 
 一生、サイコネについていこう。

 そう、誓ったんです。

やったゲーム(新作編)

だいたいわかった

Happy Game

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 これはおもしろかった。かわいいウサギのくびをちょんぱしたり、でかいウサギにまるのみされそうになったりします。

TOEM

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 これもおもしろかった。写真撮影アドベンチャー。どっかのまんがで見たような主人公を始めとして、とにかく出てくるすべてのキャラクターがキュート。写真撮影ゲームだけあってゲーム内で取れる写真まわりの機能がいたれりつくせり(SNSに直にアップもできるよ)。

Kaze and the Wild Masks

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 未クリア。これもおもしろかった。正統派のプラットフォームアクション。ウサギ?みたいな獣人をあやつって、いろんな動物の精霊の力を借りてつきすすむ。

Skul: the hero slayer

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 未クリア。これもおもしろい。ローグライトアクション。勇者たちによって魔王をはじめとした魔王城の住民たちが囚われてしまったので、唯一難を逃れた最弱のスケルトンがたちあがる物語。
 頭をすげかえることでさまざまなスキルを使えるようになる。ややむずめの印象。

qomp

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 ちょっとおもしろい。家庭用ビデオゲームの始祖、PONGの世界から逃げ出したボールが主人公のアクションパズル。基本的にできる動作は「跳ね返る」ことだけで、これが意外に奥深い。ビジュアルや音楽面でもがんばっているけれど、パズルアクションとしてはややバリエーションに欠けるか。

Cucchi

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 微妙におもしろい。イタリアの大御所アーティスト、Enzo Cucchi*4の公式イメージ・アルバム的ゲーム。クッキの名作絵画にイマジネーションを得て造られた世界を探索して「眼」を集めていく。油断してると頭のでかいゴッホとか出てくるぞ。

1f y0u’re a gh0st ca11 me here!

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 微妙におもしろい。幽霊からかかってくる大量の電話を同時に受けて正しい部署へつないでいく聖徳太子的電話交換手アクション。
 アクション部分もだが、世界観がやや独特でありつつも、意外に飲み込みやすくてキャラにも愛嬌がある。いかにも個人制作のアクの強さと愛され感が同居したゲームですね。
 今のところボリューム的にも短くて電話交換アクションも忙しいだけで単調、といった印象だけれど、今後のアップデートでどんどん追加&強化されていく予定らしい。

Twelve Minutes

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 ループアドベンチャー。この手のものとしては初期配置からさほど動かないミニマルな作りが特徴。あと声優が豪華すぎ(デイジー・リドリージェームズ・マカヴォイウィレム・デフォー)。
 ヒッチコックキューブリックを意識しているそうで、まあたしかにそういう雰囲気といえなくもない*5のですが、おもしろいかっていわれると微妙なところがある。

Voice of Cards ドラゴンの島

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TRPGっぽさ」のおもしろみをなにか勘違いとしている。

World’s End Club

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 アンチ・デスゲームというコンセプト自体は意欲的で良い。だめな部分はそれ以外のすべて。 
 

A YEAR OF SPRINGS

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 日本在住の外国人(おそらく英語圏)が作った、日本を舞台にしてトランスジェンダーのリアルを描くアドベンチャー。サンリオっぽいかわいらしいイラストが特徴。現状ではめずらしい題材なので、プレイして損はないかも。
 ちなみに海外(WIRED)のレビューでは「あなたはこのゲームをやって『やっぱり日本って価値観が遅れてて野蛮よね〜』とおもうかもしれないが、我々欧米人もそんな変わんないぞ!」と力説しているのですが、裏を返せば欧米では日本は「そういう眼」で視られているということなんですな〜となります。
 ちなみに天皇に毒づくシーンがある貴重なゲーム。
 日本語はあまりこなれていませんが、最新作では結構自然になっていて、作者の語学力の向上がうかがえます。

Deltarune(Chapter 2)

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 おもしろい。おもしろいから、はやく残りのチャプター全部ちょうだい。

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 クッキークリッカーなんて昔のゲームじゃないかって? ハハハ、あなた、おもしろいこといいますね。ここ、steam じゃあ、クッキークリッカーはれっきとして新作ですよ。さ、いっしょに焼こうか。掘ろうか。召喚しようか。

アイドルマネージャー

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 それなりにはむちゃくちゃできるんだけれど、おもったよりむちゃくちゃができなくて、数世代前のGTAみたいな感触だな、とおもいました。

ビビッドナイト

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 一人でオートチェスを楽しめるのはデカい。それ以上でも以下でもない。わたしはそれで十分でした。

Loop Hero

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 ループ逆タワーディフェンス。よくデザインされたゲームだとは思います。あとは相性の問題です。

NUTS

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 自然公園でリスを撮影するゲーム。それだけだとややきつい。最近は撮影系のゲームが多いですね。

First Cut

drasnus.itch.io

 おれたちの『ブシドーブレード』が戻ってきた!!!!!!!!!今なら無料!!!!!!!!

ElecHead

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 電撃アクションパズル。よく練られたゲームだとはおもいます。

Dogs Organized Neatly

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 イヌがかわいいというだけで不毛なパズルゲームを延々やらされてしまう。

Road 96

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 独裁国家から脱出を目指すADV。Life is strange 2 といい、フランス人はなんでこういうゲーム作りたがるんだろうね。人との出会いが楽しく、それなり以上におもしろくはあるのだけれど、訳が一部プレイに支障をきたすレベルでダメ。

ZookeeperWorld(iOS

 Zookeeperです。

HoloVista(iOS

 写真撮影ゲーム。撮影対象が VaporWave……なかんじなのがおもしろい。

Mini Motorways

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 前作の方がおもしろい。

POKEMON UNITE

www.pokemonunite.jp

 MOBAはわるい文明。

クレヨンしんちゃん 『オラと博士の夏休み』 ~おわらない七日間の旅~

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 キャラゲーとしては上出来なんだけどね。

探偵撲滅

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 清涼院流水に土下座してほしい。

桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~

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 いっしょに遊んでくれる友人が二人以下のときに買うものではない。

まだ判断できない

Solar Ash

www.playstation.com

 Hyper Light Drifter の作者の新作。四ステージ目くらいだけど、これ楽しいのか????となっています。

Chichory: A colorful Tale

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 初めて二時間程度。昨年のインディー界ではトップクラスの評価を受けたアートアドベンチャー。いきなり鬱になって部屋に引きこもったウサギ(主人公の師匠)が出てきて、そのうつ描写のガチさにビビる。
 クリアの優先順位は高いけど、春くらいに日本語版が出ると聞いて少し迷っています。

Toodee and Topdee

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 チャプター3までクリアした。2Dプラットフォーマ―パズルの世界と、倉庫番パズルの世界を交互に切り替えてクリアしていくパズルアクションゲーム。いかにもゲームジャムでの企画から生まれた作品って感じ。今のところはスイスイ進めて愉しいけれど、これから難易度があがっていくんだろうか。

Valheim

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 サバイバルゲーム苦手な自分にしてはよく遊んだほうだが、まだ底が見えない。

FILMECHANISM

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 ワールド4か5までいってるはず。ステージの任意の状態を写真に取って保存することで、後で一回だけその状態に戻ることができるリコイル型パズルアクション。グラフィックやゲームデザインの丁寧さは ElecHead とに通じるものがある。一ステージごとが短くて、サクサク進む。でも、なんというのかな、こういうパズルゲームはたるくてあんまりやる気にならないんです。

NO LONGER HOME

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 30分で、ごめん、端境期の大学生のぼんやりとした不安や青春の蹉跌って興味ないんだ、って気分になった。

LIBLADE

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 2時間くらい遊んだ。おもしろい豪快剣戟アクション。おもしろいんですが、ちょっと今はほかにやるゲームがあるかな。

Let’s Build a zoo

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 遺伝子操作や違法建築や違法研究などで悪の動物園を目指す(善の動物園にもなれる)動物園経営シム。この手のゲームとしてはかなり難易度が低い印象。

DEAD ESTATE

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 MONOLITH とかみたいなひと部屋が狭い系のダンジョンで GUNGEON やる感じのゲーム。おもしろそう〜って買ってやってからあ、苦手だった、こういうの、と気づくのを繰り返している。
 ちなみに「圧倒的好評」の理由の大部分はキャラのセクシーさが占めてるっぽい。

Sable

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 20分くらいやって日本語版待ちと判断した。

The Artful Escape

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 今宇宙人にさらわれたあたり。

Cruelty Squad

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 あたしには Hylics なみに難解すぎたよ。

Genesis Noir

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 宇宙創生ジャズノワールハードボイルドパズルアドベンチャー。二時間くらいのところ。やりたいことはわかるんだけど、このレベルになってくるとゲームでやる意味ある……? と今のところはなっている。クリアすると評価変わるかも。

パラダイスキラー

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 だ〜か〜ら〜〜〜〜〜〜〜、3DFPSはゲロゲロに酔うから長く遊べないんだってば!!! これはとりわけ酔う。アートワークはめちゃくちゃすてき。

FANTASIAN(iOS

 今、坂口ゲーをやる体力がない。

Mon amour

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 Onion Games のゲームは毎回30分くらいでなんかもういいやってなる。

EVERHOOD

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 途中で致命的なバグにハマって数時間分のセーブデータがトんだのにキレてしばらく放り出してましたが、やっぱりやりなさおないといけないタイトルですよね。

DUNGEON ENCOUNTERS

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 一生判断保留したままなのではないか、という気がする。

Eastward

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 グラフィックがめちゃくちゃ美麗なRPG。こういう大作はどこかでがっつり時間をとらないと……がっつり……? いつ……?

ナビつき! つくってわかる はじめてゲームプログラミング

 つくれないのでわからなかった。

メトロイドドレッド

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 はいはい、ちゃんといつかやりますよ。

旧作(十分に遊んでおもしろかったやつだけ)

House

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 今年一番の掘り出し物。ループホラーアドベンチャー。呪われた家に住む少女を操って家族を悲劇から救う。家族それぞれの行動パターンは時刻によってちゃんと規定されていて、リアルタイムで特定の場所で特定の行動を取るようになっている。それをうまく管理して悲劇を避けましょう。限られた時間リソースで最大効率の行動を選ばないといけないので、妹を救おうとしたら母親が死ぬ、母親を救おうとしたら妹が死ぬ……といったジレンマが生じるのが悩ましい。
 グラフィックもボリュームもミニマムですが、その分、シャープな完成度を誇っています。
 ちなみにネコは殺さないほうがいいです。

3rd Eye

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 東方興味ない人なのですが、これはよかった。ビザールでキュートなキャラクターデザインと、エドワード・ゴーリーや『アダムスファミリー』に影響を受けたシナリオが魅力的。

I hate this game

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 全百面からなるアクション。クリア条件は画面左端に位置しているキャラを右端のドアのとこまでもっていくというシンプルなもの。しかし、これがまあ、メタネタの連続で、あの手この手でプレイヤーに謎をけしかけてくる。

Spec Ops: the line

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 だんだん助けてくれ、という鬱々たる気分にさせられていくTPSシューター。ロード画面のTIPSに「すべてはおまえのせいだ」と責められる経験は唯一無二。

Lonely: Mountains: Downhill

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 高難度ロードバイク山下りゲーム。わたしは自転車が嫌いなので、自転車乗りがひたすらミンチにされていく光景を眺めていると自然と笑顔になります。

stikir

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 ゲームが作れないゲーム制作者にゲームを作らせるアクションアドベンチャー。詳しくは前回の記事で。

a new life

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 二人の女性の出会いと別れを描く短編ADV。ちょっとしたメタ要素もあるよ。作者は前作 missed message. の劇中で『魔法少女まどかマギカ』の画像を引用していて*6、おそらく本作のメタ要素はモロにまどマギの影響を受けている。

the messenger

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 前半のある場所で詰まってしまって放置していたのを久しぶりにやり直したらあっさりクリアできました。
忍者龍剣伝』というレトロ激むずゲーにインスパイアされた忍者アクションゲーム(何系のアクションゲームかを明かすとネタバレになる)ですが、難易度はそこまで高くありません。
 ゲーム中盤で、文字通り世界が一変するあるしかけが施されているのがポイント。それと随所にほどこされたたちの悪いオタクノリジョークも笑わせてくれます。純粋にアクションとしても歯ごたえがあって楽しいです。発売年にクリアできてたら年度ベスト10に入れてたと思います。

クロノ・トリガー

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 去年はじめてプレイしました。時代相応だなと感じつつも、やはりオールタイム・ベストでありつづけるだけのパワーがあった。
 これをやっていたおかげで今年の RTA in Japan 2021 Winter のトップバッターを十全に味わえたのは僥倖でした。

Milky Way Prince: The Vampire Star

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ウテナ』などに影響を受けた恋愛ビジュアルノベル。正統派な恋愛劇ではなく、トキシックな関係を描くという点で目新しい。 
 けどまあなんつーか、お題目ほどにはおもしろくなかったといいますか、訳もひどかったし……あれから改善されたんだろうか?
 書いてから、あ、これあんま良くなかったじゃん、って気づきましたが、まあ書いちゃったもんはしょうがないのでそのままにしておきます。

Football Manager 2021*7

 100時間くらいやってウォルブスの監督を無事クビになりました。

chronicon

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 Grim Dawn でハクスラの楽しさにめざめたのでほかにも手を出してみたんですね。とっつきやすいけど、GDほどではなかった。でもそれなりには楽しんだ。逆にSwitchで出たディアボロIIは数時間やって「あ、これ”””沼”””だ」と気づいたので意識的に遠ざけました。人生は有限なので。

Spelunky 2

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 ムズい。

VRChat

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 この楽しさはやはりゲームなんだとおもう。

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割と王道なやつを中心に紹介されていますね。


こっちは「えっ? こんなのも!?」というのが多い。多様です。

*1:エンディング後の要素が少しむずいかなってくらい

*2:リサイクル可能な矢一本だけを武器に巨大ボスラッシュを闘っていく高難易度アクション

*3:WP9:2021とダビスタSwitchとウマ娘のプレイ時間を合算すると1000時間超えると思う

*4:日本では「エンツォ・クッキ」表記が多い

*5:ちなみに主人公の住むマンションの廊下の床が『シャイニング』のやつ

*6:主人公が大好きなアニメという設定。著作権大丈夫なんだろうか

*7:FMシリーズは新作が出たとたんに旧作は消える仕組みっぽい

黒い太陽の中心を制御する黒い太陽の中心――『stikir』、『OMORI』、『Milk inside a bag of milk inside a bag of milk』、『Milk outside a bag of milk outside a bag of milk』



 眠りに落ちる前の最後の九分間がいちばん好きだった。
 現実と幻想が交錯する瞬間を待ち望んでいた。その一瞬のために起床し、一日を生き抜く。私のいちばんの夢は一日じゅう眠ることだった。実現したらなんとすてきだっただろう! 
 でも、その夢はゆっくりと、しかし確実に、失せていった。まるで誰かが私の頭の中をあさるように、何も残らなくなるまで、すこしずつ……。
 今また私は眠らなければいけない。眠る必要なんてもう感じていないのに。鏡に自分の顔を映し終わり、私はいつもの錠剤に手を伸ばした。妙な話、いつも無心でまとめて飲み込んでしまうので、個別の薬がどのように作用しているのか、私はわからない。
 なんだか錠剤をもっとよく眺めたくなってきた。触りたい。指のあいだに挟んで、噛んでみたい。少しでも時間を稼げるならなんだってする。なめらかに隆起した赤いカプセルが私を見つめている。半透明の濁ったフィルムに覆われているものの、中身は視認できる。
 何が入っているんだろう……?


 ――『Milk outside a bag of milk outside a bag of milk』



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 他人の不安を追体験させられることが増えた。


それはおまえの Depression じゃんよ。

 いまやビデオゲーム市場はメンタルクリニックの待合室のようだ。*1*2
 そこでは制作者が直面した憂鬱や病や困難が吐露され、主として「『MOTHER』シリーズに影響を受けた奇妙なビジュアル」*3の形式で打破されたり抱擁されたりする。憂鬱はアートとなり、不安は商品になる。この世界ではあなた固有の絶望はあなたに固有のものではない。「個人的なことはすべて政治的なことである」という現代アクティヴィズムの魂は狡猾に収奪され、末尾に不可視の一文を書き添えられた。「そして、なにより、商業的なことでもある」と。
 振り返ってみればインディーゲームの歴史は、常にメンタルヘルスと象徴的な関連を有していた。初期インディーバブルの里程標となった braid は「囚われのプリンセスを助けに行くヒーロー」というクラシックなプラットフォーマー・アクションの枠組を援用しつつ、陰鬱なまでの喪失と後悔の物語が綴っていった。2010年代のインディーシーンを決定づけ、devolver digital を業界を代表するインディーパプリッシャーに押し上げた hotline miami の開発者は恋人との別れがきっかけで心を病んでしまい、施設のなかから開発を続けていたという。そして、ゲーム業界における近年最大の騒動であるゲーマーズ・ゲート事件の発端となったのは Depression Quest という作者の個人的なうつの経験をもとにした、メンタルヘルス啓蒙のためのインディー作品だった。この作品の開発者であるゾーイ・クインは Night in the Woods の開発チームに起きた、これまたメンタルヘルスがキーとなった、ある出来事にも絡むこととなる。

 
 なぜインディーゲーム開発者はメンタルヘルスや固有の憂鬱について語りたがるのか。それは単純にかれらがそうしたものを抱えているからだ。
 ゲーム業界人のメンタルヘルスの改善に取り組む団体 Take This を支援しているマイク・ウィルソンは、前述のインディーパブリッシャー devolver digital の共同創設者のひとりでもある。*4かれは前述の hotline miami の開発者だけではなく*5、支援していたインディー開発者たちが数年のあいだに四人も精神疾患で入院していく有様を目撃していた。
 インディー開発者は常に不安にさいなまされている。会社づとめをしているものは多くはない可処分時間を費やして命を削っていき、開発に専念するためにフリーになったものは経済的な不透明感な脅かされながらやはり命を削っている。*6「最初は一年や二年程度で完成する予定だった」作品の開発期間が四年や五年に延びることはよく聞く話で*7、それだけの労力を費やしたところで完成する保証はどこにもない。ようやくリリースにこぎつけたところでまったく売れず話題にもならず、残ったのは借金だけ、という残酷物語もそこかしこに溢れている。いや、割合でいえばそちらのほうが圧倒的だ。*8こんな状況で病まないでいられるほうがおかしい。ただでさえ、アメリカは六人に一人がなにかしらの精神的な疾患を抱えている社会なのだし。


 要するに、不安はクリエイターにおいて最も身近なトピックなのだということだ。しぜん、かれらの一部はゲーム制作における不安を吐露しようとする。ダニエル・ミューリンズの『The Hex』などもその範疇だろうし、ドキュメンタリーでいえば『Indie Game: The Movie』にも描写されているが、ここでまず取り上げたいのは『stikir』だ。

『stikir』――ゲームを作るためのコーヒーを入れるための水を探しに行く。


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『stikir』のストア紹介文にはこうある。
「このゲームはこのゲームを作ることについてのゲームです」

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「六ヶ月以内にゲームを制作すること」がこのゲームの目的だ。


 ゲームを開始すると透過レイヤーめいた模様の主人公を操作することになる。かれをあやつり、次々とアクション系のミニゲームをこなしていく。ミニゲームに脈絡はない。出てくるキャラも巨大なシカだったり、謎の半魚人だったり、歯並びと血色の悪い口だったり。
 未完成なのだ。この世界は。
 主人公は自分の家でゲームを作ろうとする。ところがパソコンの前に座れない。なぜか。コーヒーを飲まないと気分が出ないから。


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 かれはコーヒーに必要な水を手に入れるべく、家の外の世界へ冒険に出ることになる。


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道中で出会う愉快な仲間たち


 ドラゴンなどの強敵を倒して帰ってくると、三ヶ月が経過している。
 なにもしないままに、三ヶ月。
 ゲーム制作に着手するためのコーヒーを淹れるための水を持ってくるためだけに、三ヶ月。
 何かをやる、というのは、こういうことだ。わたしたちはやるべきことをやらないことについての言い訳すら上手にできない。


「だって、道路を渡っていたんです。そこには車がびゅんびゅん走っていて……」
「だって、ドラゴンと闘っていたんです。大きくて長くて、強くて……」


 理由にならない。
 これは「このゲームを作ることについてのゲーム」だ。
 なぜゲームを作らない?
 なぜやるべきことをやろうとしない?
 なぜ……?


『stikir』は30分か40分程度のゲームプレイで、実にゲーム的なほのめかしによって、わたしたちの不安の核心をついてくる。だが、逃げても「ゲーム」はあなたを追いかけてくる。どこまでも。

『OMORI』――逃避の作法。

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 わたしたちのアジールは、アサイラムは、どこだろう。
 チャトウィンとサンドラールにはパタゴニアがあった。*9あの時代よりもさびしさはずっと広大になって、わたしたちの”パタゴニア”は逃避先そのものではなく、逃避先で使用可能とされる寝袋やキャンプ用具を売る商人になった。しかしテントや簡易コンロを購入したところで使う機会などない。外に出るなと誰もが命じている。
「自己について絶望すること、絶望して自己自身から脱け出そうと欲すること、これがあらゆる絶望の公式である」というキルケゴールのことばを思い出す。あのデンマーク人は結局なにをいいたかったのだろう。
 

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ようこそ、ホワイト・スペースへ

 白と黒に支配された無窮の空間には、電球が吊るされている。電球のなかは黒いなにかで満ちている。憶えていてほしい。その電球こそ、主人公である OMORI にとっての"黒い太陽"だ。
『OMORI』は二つの世界を行き来するRPGだ。片方はファンシーとファンタジーで賑々しい、甘くかわいらしい世界で、そこでは悲劇など一切生じない。もう片方はゲーム内世界の基底現実だ。主人公は引っ越しを数日後に控えていて、そこに旧友が尋ねてくる。どうやら主人公(OMORIと姿形がよく似ているが、違う名前がつけられる)は昔起こったある出来事を境にひきこもりがちになり、よく遊んでいた仲良しグループも解散同然になってしまったようだ。


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 これら二つの「現実の世界」と「幻想の世界」ではそれぞれ出てくるキャラやオブジェクトが共通している。ほとんど陰謀論的なまでの記号と象徴に溢れている。だがふたつの世界の間をつなぐ関係の糸は微妙にズレている。あちらで親友として出てくるキャラはこちらでも親友であることもあるし、あちらで親友だったキャラが不倶戴天の敵になっていることもある。

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ファンシーな幻想パート
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イヌを撫でることができる現実パート


 なぜ、二つの世界はおなじなのに違うのか。*10
 幻想の世界のほうも安穏と過ごせるユートピアであるかといえば、微妙に違う。裂け目のようなものがそこかしこにあり、そこからは恐ろしい魔物めいた眼が潜んでいる。その魔物は現実世界にも出現する。なにかが不穏である。この不穏さはどこからやってくるのか。それがこのゲームにおけるミステリーの核心となっていく。

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どこまでも追ってくる「眼」。凝視してくるなにか。


 OMORI はホワイト・スペースから幻想の世界へも現実の世界へも行ける。ただアクセスの方法が決定的に異なる。
 幻想の世界に行くには、設置してある扉を開くだけでいい。だが、現実の世界へ行くには特殊な手段を取る必要がある。自傷だ。ナイフで自分の胸を刺し抉る。かれにとって現実と向き合うことは、それくらいの痛みを伴う。だが、その痛みは序の口にすぎない。目をそむけていた”真実”を直視すること、視ること、自分を視ていた眼を見つめ返すこと、そういうことにこそ真の勇気を必要とする。

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 やはり、ここにも逃げ場などない。なるほど、OMORIは最終的にかれ固有の不安と向き合い、解決していくかもしれない。だが、それはかれの不安だ。わたしたちのは?

『Milk inside a bag of milk inside a bag of milk』、『Milk outside a bag of milk outside a bag of milk』――ゲームのキャラとして振る舞うゲームのキャラとして

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『OMORI』の主人公は現実をRPG的に捉え、RPGの戦闘のメソッドを用いて世界に抗していく。
 それをさらに意識的に行うキャラクターがいる。
『Milk inside a bag of milk inside a bag of milk』、そして続編である『Milk outside a bag of milk outside a bag of milk』の主人公だ。

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通称 Milk-chan


『Milk〜』シリーズはアドベンチャーとして特異な語りの構造を取っている。
 基本的には、主人公である少女(ゲーム内で特定の名は与えられていないが、ファンたちからは Milk-chan と呼ばれている)の一人称で語られる。なので彼女の語り(思考)は地の文でもある。
 じゃあ、プレイヤーはこの主人公の視点に憑依して進行していくのか、といえばそうではない。
 プレイヤーは主人公によって創造され、呼び出される、一種のイマジナリーフレンドとして登場する。そして主人公からは Reader 、すなわち読者と呼ばれる。なぜかといえば、主人公は彼女の世界を「ビジュアルノベル・ゲーム」として捉え、そのように振る舞うからだ。

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 プレイヤーは彼女によって創造された存在ではあるけれど、彼女自身の意のままになるとはかぎらない。途中で出てくる選択肢はプレイヤー自身の意志によって選ばれる。その選択には主人公には不快に響くこともある。一作目となる『Milk inside〜』のほうでは、あまりに主人公の耳に痛いことばかり選択していると、「別のにする」といわれて Reader =プレイヤーの存在は抹消され、ゲームオーバーになってしまう。


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 ゲーム画面に映るのは彼女の眼を通した世界だ。赤い。赤と黒のみで染まっている。彼女はある出来事をきっかけに世界が赤く見えるようになったという。彼女の家にはおそろしい怪物が棲んでおり、彼女の腕に毒を打ち込んでくる。街に出るとクマが闊歩していて、スーパーマーケットを行き交うひとびとはすべて異形の怪物だ。この離人感。

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本作における他人はすべてモンスター


 プレイヤーは彼女に助言を与え、歪んだ認知をメタ視点から是正したりしなかったりしていく。彼女もまた OMORI のように過去の真実を直視するのが怖い。だが、『OMORI』のプレイヤーはあくまでプレイヤーとして一種膜を隔てた存在としての OMORI に接していく一方で、『Milk〜』シリーズでのプレイヤーは主人公の一部であると同時に別個の他者として彼女に直に接し、関係を育んでいく。彼女の不安はあなたの不安でもあるが、同時にあなたの不安ではない。あるいは、あなたの不安は彼女の不安かもしれない。
 それはまるでミルクが入った袋の中にミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルクが入った袋の中に入ったミルク*11




 主人公は母親のいいつけでミルクを買いに、ひさしぶりの外出をする。そして、スーパーマーケットでミルクを買い、家に帰る。これが『Milk inside a bag of milk inside a bag of milk』のプロットのすべてだ。『Milk outside a bag of milk outside a bag of milk』は前作の帰宅直後から始まる。ちなみに二作目のOPでは serial experiments lain 感あふれるアニメーションで前作のあらすじを描いてくれる。




 主人公は就寝前に薬を服む必要があったのだが、急な不信感に見舞われ、「この薬がもたらしてくれる眠りは私の欲しい眠りじゃない、偽物だ、ぜんぶ偽物!」と発作的に薬を捨ててしまう。そうして、Reader であるプレイヤーを再び呼び出す*12。その説得に促されて彼女は薬を服み*13、床に就こうとするのだが、寝る前に整理しようとしていた思考がホタルとなって*14部屋じゅうに散らばって隠れてしまう。

 彼女はホタルをすべて回収するまでは眠れない、といいつのる。

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"Take control"することは彼女にとって重要な強迫観念だ。


 プレイヤーは彼女の部屋のオブジェクトをひとつずつあらためてホタル探しに協力することになる。
「今度はポイント&クリック・アドベンチャーね」と彼女はいう。
 ポイント&クリック方式のアドベンチャーゲームは日本ではあまり馴染みがないが、海外では特にPCゲームの分野では現在でもそこそこ勢力をもっている。*15日本で馴染みのあるタイトルだと『ポートピア連続殺人事件』や『クロックタワー』シリーズなどだろうか。いわゆる脱出ゲーム系もこの範疇に入る。室内に存在するオブジェクトを主にマウスのカーソルなどで指示(クリック)して調べ、必要なものや情報を拾い集めていくジャンルだ。
 プレイヤーは使われていないパソコンや壁に貼られたメモやノートなどをクリックし、これはなんなのかと主人公に尋ねる。主人公はそのものの来歴について語り、それを通して自らの過去にも触れる。
 繰り返すが、このゲームにおけるプレイヤーは主人公によって想像され、主人公にしか認知されない存在だ。

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助けてあげてください。


 ケンダル・ウォルトンはフィクションへの没入感を「ごっこ遊び」と形容した。架空の物語であると認識しつつ、人はその架空の物語に感情移入し、泣いたり笑ったりできる。
 本を開く、映画館に入る、イヤフォンを耳に入れる、ゲーム画面を立ち上げる、それらはすべて「魔法円」に入るための儀式だ。特にゲームはジャンルや作品ごとに固有の画面様式を持っている。たとえば、『ドラゴン・クエスト』には誰でもひとめで「ドラクエっぽい」と感じる画面の感触があり、メトロイドヴァニアと呼ばれるジャンルには一定の共通したシステム*16がある。
 本シリーズもそうした様式に従っている。『Milk inside a bag of milk inside a bag of milk』も『Milk outside a bag of milk outside a bag of milk』もビジュアル・ノベルっぽい画面を取っている。
 それは本シリーズがそういうジャンルであると同時に、主人公が今見えている世界がそういうジャンルであると認識しているからだ。彼女は狂人なのだろうか? 広義にはそうかもしれないが、違う。彼女は自分が「ごっこ遊び」をしていることを認識している。彼女はしばしばプレイヤーに対して「あなたは私が作り上げた存在だ」というメタ発言をする。
 メタ認知療法がしばしばセラピーの分野で行われているように、彼女は世界をフレーミングし、自分を客観視できるイマジナリーフレンドを想像することで、自己セラピーめいた行為を働いているといえる。
 しかし、繰り返すが、この想像されたイマジナリーフレンドとはこのゲームにおけるプレイヤーのことだ。あなたにはあなたの人格がある。主体性がある。自由意志がある。

 ほんとうに?


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 ミステリとは過去を掘り起こし再現することを目的する物語の形式だ。ポイント&クリック・アドベンチャーもそれに似ている。ものを通して呼び覚まれる記憶が、過去がある。それはジャンルとしての一つの力学であり、その強制力から逃れることはできない。
 あるジャンルに身をゆだねるということは、ストーリーテリングの暴力性に晒されることでもある。そのジャンルの様式に従ってあなたは思考せねばならず、行動せねばならない。
『Milk outside a bag of milk outside a bag of milk』の主人公はその罠にハマり、忘れたがっていた過去に眼を向けるはめに陥る。
 過去を反芻するのは危険だ。苦い経験を噛みしめることはうつ病へと直結する。*17眼をそらしたがっているのはそらしたがっているだけの理由がある。本当にその過去は掘り出すべきなのか。本当にその真実は明かされるべきものなのか。
 その是非を決めるのはあなたではない。それが語られている場所のジャンルであり、様式だ。そうしたメカニクスに逆らう作品*18がしばしは「アンチ○○」と冠されるのは、逆説的にジャンルの重力の強力さを物語っている。

 ゲームであることの最大の枷とはなにか。ゲームであらねばならないことだ。かれらはもしかして、語りたいトピックをゲームを通して語っているのではなく、語りたくないトピックをゲームを通して語らねばならくなっているのかもしれない。他人の不安を追体験させられること。ゲームはあたかもその選択はあなたの自由意志による選択であり、その物語はあなたの欲望によってもたらされたと語る。
 ほんとうに?
 ほんとうに、あなたはその物語を見たかったのか?




 自分という人間の殻の外にいる自分を想像しながら、でも同時に自分であることには変わりない。ばかばかしい、牛乳の袋の外に牛乳があるようなものだ。


 ――『Milk outside a bag of milk outside a bag of milk』



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『Milk outside a bag of milk outside a bag of milk』の終盤、あなたは彼女に少し外に出て、空気を吸うように促す。出ると、*19彼女の頭上には真っ赤な空の中心で巨大な円形の空虚が口を開けている。すべてを飲み込む貪婪な黒い太陽が。あなたをどこまでも追いかける瞳が。

 あなたの空にもあるはずだ。






 

*1:https://screenrant.com/best-video-games-about-mental-health/

*2:https://www.nytimes.com/2019/03/24/technology/personaltech/depression-anxiety-video-games.html

*3:https://twitter.com/earthbound64/status/1413545531914268677

*4:https://www.engadget.com/2018-04-04-mental-illness-indie-take-this-kate-edwards-mike-wilson.html

*5:当該の開発者は入院したことをウィルソンに知らせていなかった。パプリッシャーに心配をかけたり、弱みを見せることを恐れていたのだ。

*6:『CUPHEAD』の開発陣があの狂気の満ちた作品の費用を捻出するために実家を抵当に入れていたのはあまりに有名な話だ。自分のせいで両親がホームレスになるかもしれない、というのは大変なプレッシャーだったに違いない。

*7:『OMORI』もそうだ

*8:インディーゲームにおける最大の販売プラットフォームである Steam では年に(AAA級のタイトルを含めて)8000本以上の作品がリリースされる。一本あたりの平均価格は5.99ドルで平均売上本数は2000本。一タイトルあたりの売上は12000ドル程度ということになるが、ここからさらに steam が3割のショバ代をさっぴいていく。https://www.4gamer.net/games/999/G999901/20200107024/

*9:「僕の広大なさみしさに見合うのは、もうパタゴニアパタゴニアにしかない……」ブレーズ・サンドラール『シベリア横断鉄道』

*10:おもしろいのは、現実パートと幻想パートのどちらでもRPG的な戦闘が発生することだ。だが、重みが違う。幻想パートで主人公はナイフを装備し、それで敵を切りつけていく。だが、それで誰かが死ぬことは(一部を除き)基本的にはない。ところが現実パートでナイフを誰かを斬りつけると一撃で相手が倒れ、「そんな危ないもん振り回すなよ!!!」とドン引きされる。

*11:ところで「牛乳が袋(bag)に入っているってどういうこと?」と思われる向きがあるかもしれない。これは本作の開発者がロシア出身であることと関係がある。東欧の一部やイスラエル、インドなどではミルクは紙パックやプラスチック容器ではなくて、ビニール袋に詰められて販売されている。アメリカ人が steam のレビュー欄かなにかで「バッグでミルク売ってんだなー」と驚いていた。

*12:呼び出せるのは一日一回までというルールがあるらしいのだが、そのルールを破る

*13:「(君は変わっていないんだね)」「どういう意味?」「(きみはひとりになることを恐れている。この不安が痛みを強くする)」

*14:最初はゴキブリだったのだが、彼女がゴキブリは嫌いということでホタルになる

*15:2021年のタイトルだと『Twelve Minutes』や『HAPPY GAME』あたり。

*16:エリアごとに区切られたマップなど

*17:「心理学者のスーザン・ノーレン=ホークセマは、反すうはうつ病の中心的な問題となる不適応な認知パターンであり、可能な限り止めるべきものだと考えた」『なぜこころはこんなに脆いのか 不安や抑うつ進化心理学

*18:たとえば、真実を見ぬきながら、犯人を哀れんでかばおうとして別の解決を捏造する名探偵。

*19:なんかポーランドだかロシアだかウクライナだかにある有名なマンションらしい

同じ人が書いたSFを読む。――『圏外通信 2021裏』『〈未来の文学〉完結記念号 カモガワGブックス vol.3』



「本の話をしよう。お前の書いた小説を読もう。」


 江波光則『密葬 -わたしを離さないで-』



「まず、おたがいに本音で話しあおう」とホロ映像がいった。「だれだって本を読むのは好きじゃない。そうだろう?」


 トマス・M・ディッシュ浅倉久志・訳「本を読んだ男」




”まえがきや序文というのは誰も読まないらしい。”

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高江洲弥『先生、今月どうですか』

 知らない他人の話を聞くのがあまり得意ではない。おそらく同じ理由で同人誌を読むのも苦手である。そもそもプロの作家がプロの編集者と組んで出した小説でさえ七割がた何いってるのかよくわからないのに、これが同人になるとわからなさが平均九割に跳ねあがり、それがSFだと二倍になる。十八割わからないのはたいへんだ。わたしも人間それ自体や物語は好きなのであるし、わかりが可能ならわかりたいのであるが、近年のわたしはモチのベーションがモチモチしている上に、死んでいるテキストはリアルタイムでの応答が不可能でここがよくわからないからといって問いただしても何も答えてくれない。自分でどうにかするしかなく、自分でどうにかした結果、作者の意図とかけ離れた解釈なりあらすじ理解をひねりだしてしまう。バカなのか?
 モデル読者には一定の知性と精神的安定が求められる。作者にも質の良い読者を求める権利はある。だが現実は瀬名秀明の某短編でいうと読解力最低ランクの小説しか与えられないような読者ばかりで、何を隠そうわたしもその一員だったりする。
 読まれない小説は不幸だが、読みきれない読者を得た小説もまた不幸だ。だが小説と読者は本来関係ないもの同士なのであって、互いに互いが不幸であるか幸福であるかなどノンオブマイビジネス(闇夜に影を探すようなもの)だ。小説に読者を幸福にする義務がないように、読者もまた小説を幸福にする義務はない。
 そう考えるとすこしは他人の小説を読むのが楽になる。
 だが、所詮は屁理屈であり、現実に雑に読まれたら作者は傷つく。でも人間は雑な生き物なので傷つくことは防げない。人の心はインヒアレント・ヴァイス、傷ついた人の心は傷ついた人のほうの問題として、傷つけてしまうことで傷つくわたしの心はどうケアするべきなのか。
 さいわいにも歴史は人類創世以来のあらゆる欺瞞と悪徳に通暁している。罪悪感を和らげる方法は、虐殺と屠殺に学べばよろしい。
 距離をとろう。場所を不可視化し、自分たちが殺しているという直接の感覚さえ避けられれば、わたしたちは自分が善き存在と信じたまま死ぬことができる。
 つまり?
 twitter をやめろ。
 twitter をやめろ。
 二度も言ってわからないなら、あなたは永遠にあなたのままだ。

『圏外通信 2021裏』(反重力連盟)

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 私はSFにおけるFuckの部分には興味があるが、Shitの部分には一切興味がない。ーエイブラハム・リンカーン



・反重力連盟の二冊目。執筆陣を見るに、京都大学SF・幻想文学研究会のメンバーが大半を占めている。これ以上の事情はよく知らない。これの前に裏じゃないほうが創刊号として出ていて、そちらも愉しい。

「巻頭言」庭幸千

君の銀の庭
ヴァージニア・ウルフは女性が小説を書くのに必要な場所として「自分一人の部屋」*1を挙げたが、この巻頭言も「私が守る、私だけの領域、"庭"」を名指している。種を蒔き、やがて重力に抗って樹が伸びる庭を作ろうとする密やかな試み、それこそが本書であると謳っている。そして、そうした試みが常に失敗含みであることも示唆されており、その上で失敗にすら意味があるのだというようなことが書かれている。基本的に小説は不毛の媒体であり、物語は不稔の運命を課せられている。だが、種を絶えず播き、守り育てていくのなら、いつか芽生える光もあるのだろう。
・p.2 五段落目と六段落目の一字下げ。

「窓の時代」巨大建造

・川に棲みながら水棲生物を貪食している主人公がひさしぶりに勤めている会社へ出社するとデスク三つ分を占拠する頭だけの同僚マヌ岡から「窓の時代がやってくる」と告げられる。
 マヌ岡は「巨頭者」と呼ばれる種族だか役割だからしく、その言葉には予言的な力があるらしい。しかし、「窓の時代」とはなんなのか。
 主人公は水中駄菓子屋を営む夢を見て、これが「窓の時代」ではないかと考える。そうして最後に川の時代がくればよいと。
 だが、マヌ岡は否定し、「今日この日から窓の時代なんだ」といって、開くそばから死滅していく窓の映った画面を見せる。
 そうして世界が崩壊していく。どうやら崩壊していくっぽい。

 巨大建造の作品は常に象徴に満ちており、抽象度が高い。昇天や滅びのイメージを好んで用いる傾向にあるように見受けられ、そこにある種のノスタルジーや詩情を見出すことができる。本作もその例にもれない。
 二段組二ページ半ほどの掌編であり、筋らしい筋もないため読者としては散りばめられたイメージを拾い集めるほかはない。
 主人公が住まう川(水)のイメージとそれに呼応するかのように終盤描かれる虚空のイメージ。なにかが朽ちて失われていく感触。なぜか散発的に登場するイヌ。ラストは「黒い大きなイヌが飼い主を呼んで鳴いた。それからの二千年間は夜が続く。わたしは悲しい。」とメランコリックに締めくくられている。黒いイヌといえば憂鬱症のメタファーとして用いられることが多いけれど、本作も憂鬱の心象風景といえばそんな感じもする。

「老い縋る未来」庭幸千

 ・幼熟児(ネオテニアン)。成熟とともに失われる人体の神経生物学的性質をうまいこといじって幼児期の知的成長をブーストした結果、子どもたちは大人よりも遥かに賢くなり、ついには法的社会的な面でも成人を凌駕するようになった。大人は子どもを「持つもの」ではなく、子どもに「持たれる」存在となり、成人を映したポルノ画像は子どもを映したものよりも卑猥で反倫理的なものとされるようになった。
 そんな世界で30を越えたセキは、健康診断の帰りに、かつてクリプキ型生物研究所という施設で同僚だったアスカという女性に再会する。かつて誇り高かったアスカがすっかり”被保護者”として落ち着いていることをセキはショックを受けつつも、その出来事を呼び水として研究所の創設者で稀代の天才だったマキのことを追憶する。
 他のネオテニアンすら圧倒する知性によって研究所を円滑に(かつマニピュレイティブに)運営していたマキのもと、子どものころのセキは人間の認知を高次元のレベルへと拡張する研究に従事していた。
 ”卒業”間近であることを認識しながら意識拡張研究に追われるセキだったが、知らず、天才マキのとある発明に触れることとなり……といった話。

 本書中随一に魅力ある設定。子どもが特殊な条件下で大人の模倣のような権力や組織を持つという物語はヴェルヌの『十五少年漂流記』をゆるい原型としていくつか存在し*2が、「老い縋る未来」は大人と子どもの権力関係が完全に逆転した社会を描く点でフレッシュだ。
 そうなるとよくあるミラーリング的な社会風刺の寓話が展開されるのか、と思いきや、舞台は研究所内にほぼ限定され、マキというミステリアスな中心についてのミステリーへと絞られていく。*3
 また、アドレッセンスの喪失ものとしての側面も見逃せない。この世界では18歳ごろを境に知能が急激に低下し*4、失職して二度とまともに働かなくなる*5のだが、このタイムリミットが本作での「今しかない」感を演出している。
「大人になって何かが失われてしまう」という感覚は学園ものや青春ものと共通しているわけで、ピーキーな設定で専門的な術語にあふれていながらも、そこのあたりで意外に口当たりがよく読みやすい。そうした下地に人に対する人への感情がうすく乗ったりする。
 ハイブラウな神経医学SFと、それによって引き起こされる社会的変化についての描写、そしてマキを軸にした人間模様と要素的にはかなり欲張りに詰めこんだ一本であり、14、5ページという枚数に対してカロリーが高い。その分やや終盤は感情面で急ぎすぎた印象もあるけれど、シンプルな奇想を科学的に理屈づけるゴテっとしたまさにSF!な力技を見られるというので満足が得られる。

「原始創造性喪失:車輪の発明の困難性について」xcloche

・論文……というか、科学エッセイ形式で綴られている。
 古代の世界ではいたるところで「ころ」(複数の丸太を下にしいて重いものを運搬するアレ)の技術が発生したが、車輪を発明したのはメソポタミア文明ただひとつであった。
 なぜ他の場所で「ころ」が車輪に発展しなかったかといえば、ふつうに思われるよりこれらはかなり構造の隔たった代物であり、連想的に生み出すには飛躍が必要とされ、かつ十分に発展した「ころ」は十分に運送の役目を果たしていてそれ以上の技術が求められなかったからである。
 ”このように、原始創造性喪失とは「既存技術が十分に発達してしまうと、代替技術はどんなに効率的で構造が単純であっても、発明が困難になる」という現象である。”(p.24)
 こうした現象は輸送技術のみならず文明の至るところ、そして生物の構造にさえ発見される。
 どこかでなにかがボトルネックになって文明の発展を阻害しているかもしれない。「ころ」より効率的な車輪をメソポタミアに至るまで誰も発明できなかったように、車輪より単純で効率的な何かをわれわれが発見できないでいる可能性は大いにある。
 そこで世界シミュレーションの分野において考案されたのが「文明焼きなまし法」だ。天災や気候などのパラメータをいじることで、「より車輪が発明されやすい」環境を作り出す。
 さらに複数の世界をシミュレートしたときにどの世界でも発生する「普遍発明」と、特定の世界にしか発生しない「特殊発明」を観測比較するアプローチなどもあり、まあそんな感じでお茶目な事が書かれています。

・ハヤカワの『異常論文』の一篇として紛れ込んでいても違和感がない。
 最初に「なぜ車輪はメソポタミアでしか生まれなかったのか」という大見得をカマすのが痛快だ。その後も説得的で愉しい論考が続いていく。論文や論考に見えて実はびっくりどっきりな仕掛けを持っていた、というのはこの手のものによくあって、本作もその例に漏れない。しかし、それがあまりにシレッと書かれているのが憎らしいとううか、オタクの好きなやつである*6
 ホラ話はデッドパンにて語るべきだとおもう。語り手がすくなくとも当然視している状態を装っていないと、話されるほうも信じない。要するに詐欺師に倣えということで、本作はまごうことなく詐欺を完遂している。
・ラストは(作品世界内の)現状を前向きに肯定するみたいなノリで、このとってつけた感もそれっぽいというか、もしかして(作品世界内での)予算を分捕ってくるために書かれた文章なのか???と勘ぐってしまう。
・あと図がいっぱいあってうれしい。

 
 

「黎明」脊戸融

・ある惑星に入植した地球人たち、しかしそこはカエルラという歩行する森に支配されていた。あらゆるものを貪欲に飲み込むカエルラの影響で地球由来の植物は大地に根付かず、植民は難航。技術局に勤める「私」は上司である九谷主任設計官と共に不毛の惑星に立ち向かう。一方で、その記憶と並行する形で「私」と翠という謎めいた少女との交流が描かれる。果たして「私」と移民たちを待ち受ける運命とは。
・テーマは百合です。
・カエルラというギミック生物を中心とした生態系が緻密に描かれる。カエルラは仮足で移動したり、触れた生き物を片っ端から捕食したりする巨大なアメーバみたいなやつなのだが、九谷によって遺伝資源として移民たちの糧として利用されるようになった。この敵であり共生相手でもあるカエルラと人類とのギリギリの関係が魅力的だ。
・人間の話としては最初にも言ったように、百合です。
・p.34 上段 "私はカエルラ採れた原料で作ったパスタを〜"→"私はカエルラで採れた〜"?
・同ページ 下段 "そのことなんだけど〜"→一字下げ

「ペコとかまどのオカルトごはん! スカイフィッシュ・タコスと釜揚げスカイフィッシュ」赤草露瀬

・メキシコはアマゾン。さすらいの料理人・御厨かまどと神出鬼没のハンター・ペコは、コロ介みたいな語尾で喋る現地ガイドのアントニオをお供に今日も幻の食材を狙う。今回のターゲットはあの超高速UMAーースカイフィッシュ
・"「観光か(sightseeing)?」「ううん。ご飯だよ!(NO. Combat.)」"(p.38)
 コンバットだよ、ではないが、コンバットだよ、では。
・タイトルとセットアップでだいたいわかるとおもうけれど、主として描かれるのはスカイフィッシュハンティングとその調理。特に調理と食事シーンに比重が割かれており、グルメSFとしての興味が強い。漫画界では昨今の異世界ファンタジー流行りで、*7空想生物料理マンガも多いが、まあだいたいそんな感じ。
 スカイフィッシュの調理法は、タイトル通りタコスにしたり釜揚げにしたり刺身にしたりとバリエーション豊か。食感はボイルイカに近いらしい。
 収録作中でも最も語り口がライトで、アクションやギャグもふんだんに散りばめられていてするりと読める。オチもなんか「もうこりごりだよ〜」と叫んでぴょーんと跳びアイリスアウトする感じで終わる。跳んだりはしていなかったかもしれない。

「」巨大建造

・タイトルは入力忘れではなく、実際に空白になっている。空白になっているだけでついていないということではない。ネコの男性器のような言い草と思われそうだが、どういうわけかは読めばわかる。
・独特の用語と節回しに溢れていて筋はよくわからない。末土クレーターと呼ばれる半径一キロほどのクレーターの地権者であるサヴォ島トヲは二十三歳になるが、このほど大学を中退して無職である。手から砂を出せる魔法を使える。*8実家に帰ってからは義理の妹であるアメなどとつるむなどしていたが、あるとき市役所所属の騎士サー・漁人マルコ従六位の訪問を受け、「末土の危機」を防ぐためにの協力を要請される。たぶんそんな感じ?
キリスト教や神話のモチーフが豊富に投入され、それらをファニーな言語センスとオフビートな会話が彩る。50ページ弱は収録作中最長。長ければ長いほどカオス感が増していくので、そうした酩酊感を楽しむのが正しい用法かもしれない。


『〈未来の文学〉完結記念号 カモガワGブックス vol.3』カモガワ編集室

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 トリビュートより、鳥貴族。――サミュエル・ジョンソン



国書刊行会から出ていた〈未来の文学〉叢書がこの度『海の鎖』を持ってめでたく完結したことを受け、その全レビューを行うことを主目的とした同人誌。「絶対読んどけ!」な本と「別にこれは読まんでも…」な本の差がうちのイヌ(故犬)のテンションの上下より激しい叢書であるけれど、本書の全レビューを読んでいるとなんだか全部大傑作におもえてくるから不思議だ。エッセイの寄稿陣も豪華。
 それはともかくこの記事で扱うのは付属しているトリビュート創作コーナーの作品群。
 トリビュート小説は書く方も大変だろうが、読む方も大変である。なぜなら、書く方はまずトリビュート元を読んだものとして書く。だが、読む方はトリビュート元を読んでいるとは限らない。読んでいない状態で読むとどうなるかというと、読みながら常に目の前の展開や人物や語彙ひとつひとつに「これには元ネタがあるのではないか」という強迫観念をおぼえる。不安である。そうなるともう読むどころではない。じゃあ、〈未来の文学〉全巻読んでからおとといいらっしゃい、という話になるのだけれど、いや、だって、『ダール・グレン』とか完読するのダール・グレン*9じゃないですか……。というか読んだものすらだいたい忘れるのが読者であって、そうなるとトリビュート短編を読む直前にトリビュート元の本を読み、記憶が新鮮な状態で挑むというのががいちばん正しいことになるのだが、それができれば苦労はせず、このブログ記事も土曜日の朝9時のキマった精神状態でアップされることもない。朝イチでラストナイトインソーホーを観に行く予定がおじゃんで、これじゃあ、ラストナイトインソーホーじゃなくてラストナイトイントホホ〜だよ。


「世界の穴は世界で」茂木英世



「でもその分私には角があるわ。それって胸に穴がなくて角がない人と何が違うのよ」(p.66)



「おまえはいったいどこからいろんなお話をこしらえてくるの、オーリャド?」


 ――浅倉久志・訳「ファニーフィンガーズ」



ラファティトリビュート
・頭にツノを生やし心臓あたりに穴の空いた十二歳の少女、マーガレット・タイニーデビル。町一番の噂の娘。彼女は街へ繰り出しておかしな住民たちの家々をめぐる。ヴァルハラに帰りたくて毎日めそめそ泣いている巨人、素数しか口にしない女ロボット、そのロボットを開発した街の発明おじさん、そのおじさんの次なる発明品である未完成の虎、魔法使いに科学を習ったと噂の医者もどき……なにかしらの欠落を抱えたかれらを少女は満たして世界の均衡を救えるのか?
ラファティほんとに好きなんだな、というかんじの詰め込みっぷり。
・で、わたしのほうはラファティは好きかといわれると微妙なところがあって。このまえ出たラファティの短編傑作選を読んでビックリしたのだけれど、昔読んだやつをほぼきれいさっぱり忘れていた。内容や印象や感触を忘れたならまだしも読んだという事実すら忘れてしまい、なんかこれおもしろかったな〜と感じた短篇の初出を見て初めてあれおれこれとっくに読んでたはずだが?? と愕然とする。まあそうした事象がラファティに特有かと言えば別にそんなことはなくジーン・ウルフやディッシュも平等に忘却しているわけなのだけれど、ふつうのSF作家に比べてラファティを忘れることについての罪悪感は小さい。ほら話だからだ。話は変わるが、ほら話と噂話が異なる生き物であることをご存知だろうか。ほら話には理屈があって脈絡がない。噂話には脈絡があって理屈がない。
「世界の穴は世界で」はいちおう噂話と規定されている。けれど、欠落とその解消という点では筋があり、ほら話的である。要するにはラファティ的。しかし、トリビュートもので漠然と「○○(元ネタ)っぽい」と述べるほど怠惰で責任回避的な物言いはないのであって、読者もどこかで虚空を踏んで落下するリスクを負わねばならない。
・マーガレットは軽やかである。胸の穴の心配を母親からされていても、代わりにツノが生えているんだから差し引きゼロだ、というようなことを強弁する。しかし穴は穴であり、ツノはツノだ。局地においてはそれらはどうみても欠落であり、余剰だったりする。けして平坦な地面とおなじ役割は果たさない。穴は呑み込み、ツノは穿つ。そうやって世界に波乱を起こして行くわけで、町に広がる噂もそうした波風にすぎないのかもしれない。
 信仰がある、というのは良いことだ。
・収録五篇中、この作者だけは初顔合わせ。また良い書き手が出たなあ、という印象。


「返却期限日」鷲羽巧



ディケンズは好きか?」(p.85)



「……ディケンズは好きか?」
 ――江波光則『密葬』



・ウルフトリビュート。「返却期限日」がどういう話か、というかどういう趣向であるかは『ジーン・ウルフの記念日の本』を読んでもらったほうが早いけれど、ひとついえるのは”ジーン・ウルフの「返却期限日」”とは「読まれないことを前提にして書かれた(フリをしている)」話であるということ。
・目の悪い伯父からこづかいをもらってSF小説を読み聞かせしていた少年ブーク氏。古本屋を営むその伯父から誕生日プレゼントとして好きな本を選べと言われた彼は余白に「さようなら、いままでありがとう」と書かれた短編集(『ジーン・ウルフの記念日の本』)を貰い受ける。彼は最後の収録作から逆順に一日一編短編を読み、最初の収録作である「返却期限日」まで進む。ところがページがくっついていて開けない。勝手に切り開くのは伯父の主義に反すると判断したブーク氏は伯父の意見を伺いに古本屋へ向かう。しかし到着するや質問をする前に「おまえがこの前もっていった本を読んでくれ」と頼まれ、仕方なく「返却期限日」の物語を捏造する。彼はその後、同じタイトルの別の話をいくつも創る。
 ブーク氏は成長していき、大学を中退したのち軍に入隊し、従軍、暗号解読の仕事に就く。そのあいだに伯父は亡くなっていた。やがて故郷に帰り、すっかり中年になった彼は亡き伯父の古本屋を継ぐ。あるとき、彼は自分の「返却期限日」を元に小説を書き始め……といった話。
後藤明生「なぜ小説を書くのか。小説を読んでしまったからだ」という有名な箴言がある。本作はまさにそういう話で、読書と創作と解読と翻訳がすべて同一の地平にある行為として捉えられており、さらに「読まなかった」という体験すら取り込んでいる。読んできたもの、読まなかったもの、読むはずだったもの、それらは本に生きる人間にとってニアリーイコールで人生であり、本作はそうしたビブリオフィリックな人々に捧げられた物語であるといえる。
 作者は本書における〈未来の文学〉全レビューコーナーで、『ケルベロス第五の首』と本作の直接のオマージュ先となった『ジーン・ウルフの記念日の本』のレビューを担当している。しかし、マインドとして本作にいちばん近いとおもわれる『デス博士の島その他の物語』のレビューからは外れている。実際のところは事情はわからないし、真実に興味はない。本当にない。ただ、本作が作者なりの『デス博士』論だとするとしっくりくる気がする。こんな妄想が芽生えるのも「読んでしまった」からかもしれない。

「イルカと老人」呉衣悠介



そこには「イルカがせめてきたぞっ」という文句とともに、火炎放射器のような装備を持ち、陸上にあがって尾びれで立ち上がったイルカが、後期高齢者を焼き殺す姿があった。「これに見覚えはあるか?」(p.104)



 ぼくをここに閉じこめている張本人は、人間に違いない。要するに、ふつうの人々だ。


 ――伊藤典夫・訳「リスの檻」



バドワイザーウイルス脳炎という感染症が蔓延する近未来の日本。この脳炎にかかるとモラル的な志向がゆるやかに変化していき、最終的に感染前とは正反対の政治的・思想的なグループへと属するようになる。たとえば、リベラルだったハリウッドもこの感染症の影響ですっかり右翼愛国的な映画に席巻されていた。
 転職のタイミングでおりあしく脳炎にかかってしまった主人公・平山は、就職のために"後遺症"が残っていないことを証明しようと病院で検査を受ける。脳炎の影響によってSNSなどでのトラブルが増えたため、雇う側も慎重になっていたのだ。
 ところが平山の結果はクロ。再就職に窮した末に平山は審査を要しないスーパーのアルバイトに就く。あるとき、そのバイト先の同僚に誘われて反ワクチン派のイベントに出る。そして、それをきっかけにさまざまな集まりに出席するようになる。レイシストの集会、反フェミニズムの集会、動物愛護、反出生主義、右から左でも何でも。
 特段、政治に積極的でなかった平山だったが次第に「見ているよりも参加する方が楽しい」と考えるようになり、自分がシンパシーを持てる相手にメンバーに固定して「政治的に自由な発言ができる」ような交流を持つ。ある夜、その集会で脳炎の影響で転職に失敗したことを告白し、同僚(最初に平山を集会に誘った人物)からスーパーの本部で法務部の枠が空いているのとを聞かされ、うまいこと本社勤務におさまる。
 コンプライアンスが重要視される本社では集会でのような政治的発言は抑制していた。その裏で、彼はとあるウェブアプリの開発にかかわるようになる。そのアプリの内容というのが……という話。
・コロナ禍と政治の分断というかなりアクチュアルなテーマを濃厚に反映した一篇。感染症の後遺症によって政治思想や人格が変化していくというギミックが仕込まれていて、主人公が最終的にどんな"思想"に帰着するかというところでもサスペンス・スリラー的な興味がある。
・映画や文学のリファレンスが多く登場する。特にラストにディッシュのある小説*10*11を小説を紹介していたのは誰か、というのは本作のトーン&マナーに通じていてエキサイティング。そこのあたりとは別にマクロな社会のたゆたいやすいイデオロギーに翻弄される個人を描くという点では小松左京っぽい*12し、まったく趣意の異なる集会を渡り歩いたり男たちでちょっとアンダーグラウンドな結社めいたものを作り上げたりするところはパラニュークっぽくもある。
SNSでは右左問わず、あるいは一般的な政治性そのものから離れていようがいまいが、ラジカルなものほど声が大きく響き、そのコミュニティもデカく見える。そういう場所に身を置いているといつのまにか自分も変質していく。そんな感覚(ボディホラーならずイデオロギーホラーとでもいうのか?)は現代的でリアルな恐怖といえばそうで、そこを意識的に掬い取ろうと挑むのはただしくホラー的な態度ではないだろうか。いや、これ自体はホラーじゃないんですけどね。
アメリカン・サイコは最初から狂った人間として現れているけれど、ジャパニーズ・サイコは朱に交わって赤くなった水の底から這い出してくるものなのかもしれないね。

「ピンチベック」巨大建造



「大丈夫、お前が心配することじゃない。
 おれは金輪際、ゴールデンなのだから」(p.136)



「宇宙の支配者になるのってさあ、そんなにカンタンじゃないんだよな〜〜」


 ――林田球『大ダーク』



ディレイニートリビュートと思われる。思われるというのはわたしが『ドラフトグラス』*13も「ベータ2のバラッド」も読んだことがないからだ。
・外銀河を旅する宇宙船の船員の三代目にしてルナ・リプロという星間企業の一員として働くカナエ・アガタ。以前、航宙中に宇宙生物に襲われた結果すさまじい負債を負う羽目になった彼は「先生」という老人に付き合いながらグズグズな生活を送っていた。さまざまな事情から太陽系出禁になっていた彼らだったが、あるときアガタは"郷帰り"をすることになり……という理解で正しいのかはわからない。
・はからずも短期間で同作者の作品を三作品も読む事態となったが、例に漏れず脳みそを掻き回したようなグルーヴ感である。基調はスラップスティックでしょーもないパロディを好き放題やっている。「天の光はすべて噴射炎だ」ではないんだよ。このしょーもなさが最終的には壮大なスケールにまで到達するのだから侮りがたい。

「衣装箪笥の果てへの短い旅」坂永雄一



 衣装箪笥を旅するもののあめの手引(ワードロープ・トラベラーズ・ガイド)より、一項。
 衣装箪笥のなかへ入るものは多いが、出るものはいない。(p.138)



「あのう、森からぬけ出る道を教えてくださらないかしら?」


 ――ルイス・キャロル、河合 祥一郎・訳『不思議の国のアリス



・いきなりC・S・ルイスの『ナルニア国』の引用から始まる。ルイスって〈未来の文学〉おったっけ? などと思ったら、「ジーン・ウルフやラファティら、カトリック系SFF作家へのささやかなトリビュート」であるらしい。なるほど……あたしゃ『ナルニア国』を読んだことも映画を観たこともないけれど、キリスト教的なイメージが配置されているとどこかで聞きかじったな……などとおもいながら wikipedia を確認するルイスはイングランド国教会系の信徒であったとある。いやならカトリックじゃないじゃん、とおもって更に調べたら、河合祥一郎「『ナルニア国』に出てくるアレゴリーってカトリックっぽいねんで」と話してる記事が出てきてへえ〜〜〜〜となった。
・老境にさしかかりつつあるスーザン・ペベンシーがある夏の終わりの日、衣装箪笥からコートを取り出そうとして誰かの指に触れた。侵入者を捕まえようとして衣装箪笥に入り込むと、そこには広大な冬の世界が広がっていた。その世界には衣装箪笥に十二年間棲まう少年やつぎはぎのコートを羽織った大熊がいて、スーザンはかれらを頼りに衣装箪笥からの脱出の旅へ出る。だが、一行を影でつけねらう得体の知れない怪物がいた。はたしてスーザンの運命はいかに。
・スーザン・ペベンシーとは『ナルニア国物語』に登場する主人公きょうだいたちのうちの一人だ。そう、『ナルニア国』トリビュートなのである。そんなのアリ?  そのことが明示されるのは終盤になってから*14だが、そのとき彼女と彼女のきょうだいが辿った「末路」に、エッ!? あれってそんな展開になるの!? とビビってしまった。途中からどこまでナルニアでどこまでそうではないのかが気になりまくって注意が散ってしまった感があり、そのへんはナルニア履修後に改めて立ち戻りたい。
・スーザンの旅路の合間に「衣装箪笥を旅するもののための手引き」と称してエンサイクロンペディア的な語りが挿入される。それは衣装箪笥の世界の構造や神話や文化につての語りで、かなりホラ話感が強い。一方でスーザンの筋は「ページを開けばまた会えるんだよ」的なノスタルジーを予感させつつもちょっと悪夢っぽい。
・終盤に立ち上がってくる世界観と問題設定はもろにキリスト教的ではある。ここに至ってそういえばキリスト教徒であることとSF・ファンタジーの創作者であることとはどう両立するのだろうという素朴な疑問が立ち上がってくるのだけれど、あるいはそういうこと自体が問題意識に含まれているのかもしれない。
・諸々の元ネタがわからなくとも、不思議の国のアリス的なファンタジックで不条理な世界に迷い込んだ女の話として読めるので、あまり構える必要もないのかもしれない。いさましいちびの鼠とかかわいいですよ。

追伸

*『無花果の断面』は12月11日までに入手できなかったため、感想をつけられませんでした。各自で買って読め。
booth.pm

*1:と十分なお金

*2:最近だと藤田祥平の『すべてが繋がれた世界で』で病原体的ナノマシンによって人類が22歳までしか生きられず、政府を含めたあらゆる政治・社会機能を子どもたちが担うといった世界が描かれていた

*3:「外部」を描くのが結構大変な設定だとは思うので、そこは戦略的な側面を含んでいるのかもしれない

*4:といっても現在の標準的な大人の知能レベル

*5:それまでに形成した資産で暮らしていく

*6:そういえば、前に作者が書いた掌編に似たような趣向のものがあったような気がするけれど、記憶が曖昧。

*7:ダンジョン飯』を筆頭に

*8:五十嵐大介の「すなかけ」みたいに

*9:ミステリにおける「『樽』はタルい」に匹敵するおもしろギャグ

*10:読んだことはないけれど非SFに分類される作品であると思う

*11:ちなみに終盤には『人類皆殺し』も出てくるけどこれはちょっとしたイースターエッグだろうか

*12:私の小松左京観は貧弱なのであってるかは知らない

*13:あるいは『時は準宝石の螺旋のように』

*14:まあ最初からスーザン・ペベンシーといってるし、序盤でもさりげなくそれっぽいことは混ぜてあるので、ナルニア既読者はもちろん少々勘のいい未読者でも気づくだろう