名馬であれば馬のうち

読書、映画、その他。


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2019年上半期に観た新作映画ベスト20



 子供の頃に観たあの映画
 あの夢と希望
 現実なんて信じないで
 私は映画が好き 


 weyes blood, "Movies"



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 こうして上半期の映画ベストをきめるのも死んだ魚を錐でついたときに起こるけいれんじみてきておりますですが、でもまあ、いってみればブログの記事なんてそもそもがミオクローヌスみたいなものではないですか。発作ですよ。生きているというのは奇跡ではありませんが、奇跡みたいですね。すべてが輝いて見えますよ。

2019年の上半期ベスト10

1.『スパイダーマン:スパイダーバース』(ボブ・ベルシケッティ&ピーター・ラムジー&ロドニー・ロスマン監督、米)
2.『僕たちのラストステージ』(ジョン・S・ベアード監督、米英加)
3.『ゴッズ・オウン・カントリー』(フランシス・リー監督、英)
4.『サスペリア』(ルカ・グァダニーノ監督、米伊)
5.『ちいさな独裁者』(ロベルト・シュヴェンケ監督、独仏ポルトガルポーランド中国)
6.『きみと、波にのれたら』(湯浅政明監督、日)
7.『海獣の子供』(渡辺歩監督、日本)
8.『ドント・ウォーリー』(ガス・ヴァン・サント監督、米)
9.『ダンボ』(ティム・バートン監督、米)
10.『愛がなんだ』(今泉力哉監督、日)


 今年の上半期はなにひとつとして面白い映画にめぐりあえなかったな、という気分だったのですが、鑑賞録をめくると存外興奮している過去の自分が見出されます。
もうわたしはストーリーがわかりません。ショットはもともと知りません。いちばん重要だとおもっていたルックすらどうでもよくなって、残るのは画の断片から受信した作品のアティテュードだけです。それすらも錯覚かもしれませんが、とりあえずはそのように観ます。

『ダンボ』とかまあ、たぶん誰もいい作品だなんておもってないんでしょうけれど、原典に対する態度がとにかくうつくしい。ディズニーの実写リメイクはバートンにこれを撮らせただけでも大いに意義があったのだとおもいます。おもいたいところです。
 原作ものに関しては『海獣の子供』もなかなか極まっていましたね。あるインタビューで渡辺監督が「眼の描写は意図的に原作より頻度を増やした」と言っていて、そうですね、模倣を本物っぽく信じ込ませるには本物より過剰ではなければならないんです。アニメや映画は多分みんなそうです。てきとうにレンズを向けて動画や写真として切り取っても、その像はわたしたちにとっての現実にはなりえない。だからそう、「五十嵐大介のまんがは『眼』だ」とわたしたちがとらえているならば、五十嵐大介のまんがの映画化はもちろん過剰に眼であふれていなければならない。あたりまえの話ですよね。
 誠実さや熱情も良いものですが、ときには不遜さも愉快に味わえるときがあって、グァダニーノ版の『サスペリア』はその例。こんな傲岸不遜なリメイクをつくるひともいまどきいないでしょう。自分は歴史や社会や人類をすべて見通していて、それを曇りなく映すことができる、という今や失われてしまった古典的な西洋知識人特有の傲慢さを受け継いでいるヨーロッパの映画監督でもどこかそのアナクロニズムにさめてしまっているラース・フォン・トリアー*1などと違ってグァダニーノは真剣です。真剣に、ここ七十年(百年?)のヨーロッパ文明における諸問題すべてを二時間半の映画で語りつくそうとしている。まじめすぎてばかというか、メガロマニアというか、でもダンサーたちの肉体性でギリギリ地上から浮かないだけの質感を担保しているのだから、やはり良くもわるくも頭はいい。
 一方で『ちいさな独裁者』はこちらもただしく生真面目な皮肉であって、特に収容所に爆弾が降ってくるタイミングの古典的な完璧さはおそろしく感動的です。全編がタイミングと間のコメディでできているので、別にカラーで観ようが白黒で観ようがこの愉快さに影響はない。
 やはりタイミングを生真面目にきざむ映画がいいよ。『ゴッズ・オウン・カントリー』と『僕たちのラストステージ』も、それぞれメイン二人のすれ違いと同期のドラマがものすごくよかった。特に『僕たちのラストステージ』の徹底っぷりはすごかった。タイミング以外に愛や友情を語る手段なんて存在するんだろうか。『愛がなんだ』のよさもなんだかんだ視線のタイミングの生真面目さに起因するのでは、という気もしてくる。「オフビート」すら結局はビートに回収されてしまうのです。ふだんはあまり心地よく感じられない湯浅政明のハズし芸も、ある程度型にはまった『きみと、波にのれたら』では極上の体験に仕上がった。
 タイミングという点では、『スパイダーバース』は少々調子っぱずれところが目に付きました。ところが圧倒的に今年上半期の第一位です。これはもう仕方がなくて、わたしは『ロジャー・ラビット』の昔からずっと、異なるレイヤーに属するキャラクターたちがひとつの平面に共存している世界に弱い。脆弱性です。これまでもアップデートされてこなかったのだから、これからも修正されることはないでしょう。画だけではなく、キャラクター間の感情がレイヤー化されているのも地味にうまかったですね。ソニーにはロード&ミラーの映画を一年に最低一本はつくることを義務付けてほしい。
『ドント・ウォーリー』、ホアキン・フェニックスが主演している映画はだいたい良い。

+10

11.『シシリアン・ゴースト・ストーリー』(アントニオ・ピアッツァ&ファビオ・グラッサドニア監督、伊)
12.『バーニング 劇場版』(イ・チャンドン監督、韓)
13.『COLD WAR あの歌、2つの心』(パヴェウ・パヴリコフスキ監督、英仏ポーランド
14.『コレット』(ウォッシュ・ウエストモアランド監督、米英ハンガリー
15.『魂のゆくえ』(ポール・シュレイダー監督、米)
16.『フロントランナー』(ジェイソン・ライトマン監督、米)
17.『シャザム!』(デイヴィッド・F・サンドバーグ監督、米)
18.『ある女流作家の罪と罰』(マリエル・ヘラー監督、米)
19.『ハイ・フライング・バード―目指せバスケの頂点―』(スティーブン・ソダーバーグ監督、米)
20.『FYRE:夢に終わった最高のパーティ』(クリス・スミス監督、米)


『魂のゆくえ』と『フロントランナー』と『ある女流作家の罪と罰』と『FYRE』は負のアメリカの話でしたね。アメリカ人にはこの先もアメリカンドリームの歪みや挫折を描いてほしい。『ハイ・フライング・バード』もアメリカのおはなしなんですが、やたらにポジティブというか、90年代に置き忘れてきた爽快さを残しています。今となっては貴重です。
 上半期のスーパーヒーロー映画では『シャザム!』がよかったですね。下半期カウントの『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』もですが、ギャグで笑えるところがよい。
シシリアン・ゴースト・ストーリー』は作者の私的な感情というか願いが史実を捻じ曲げてイリュージョンを起こす、という点でビネの『HHhH』に似ています。*2

 だいたいそんな感じです。下半期もよろしくお願います。


*1:『ハウス・ジャック・ビルド』は彼のそうした真摯さの発露した結果の失敗なのだと思います。けして全面的につまらないわけではないですが

*2:『HHhH』も今年『ナチス第三の男』という邦題で映画化されていましたが、しまりのない作品になっていましたね。ワシコウスカまで使っておきながら……。