名馬であれば馬のうち

読書、映画、ゲーム、その他。


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panpanya「いんちき絵日記」と「グヤバノ・ホリデー」について

*宿題の絵日記のネタに困った「わたし」は、飼い犬のレオナルドが近所のポストまで郵便物を出しに行ったさいに同行したことにして、なんとか体験を捏造しようとする。
 居間の机に座しながら通い馴れた近所の風景を思い出しつつ細部を想像力によって補完していく「わたし」の作業は、得体の知れない都市の闇をフィクショナルな空想で作り上げていった panpanya の過去作の裏返しでもある。


*現実を想起しようとすることと、現実の隙間を虚構によって埋めようとすること。このふたつのあいだにさして距離はないとレオナルドは言う。「日記ってのはいつだってあとから思い出して書くものです。主観と記憶によるものですから必ずしも正確とは限らないものです」。
 それを聞いて開き直った「わたし」はわざと知らない道に出て、好き勝手に景色を捏造しだす。知らないはずの場所の記憶を現実として日記に書き留める。そのあたりの描写もまた panpanya の自己批評なのだろう。


*おもえば panpanya は空想を現実にし、現実を空想にするためにまんがを描いてきたのではなかったか。panpanya のまんがに「歩く」行為が頻出するのもそのせいで、歩けば歩くほどわたしたちは街の細部を発見し、しかしそれがどのような機構のどの部分を担っているのかがわからない。遠くに行けば行くほどそうしたわからない細部、全体と噛み合わない細部が増えていく。


*インコプレヘンシブな都市に対する、あるいはテクノロジーに対する畏怖は panpanya の初期作にただよう薄暗さを裏打ちしていたけれども、最近のそうしたダークさも退潮してきた。理屈っぽい空想で現実の闇に間断のなく抗してきた結果、影が祓われてしまったのだろうか。表題作となっている「グヤバノ・ホリデー」はフィリピン旅行記であり、いつもの奇想的な部分には乏しい。だけれども、フィリピンの街路の細部に向ける観察眼そして薄暗い場所への誘惑はまぎれもなくいつもの panapanya のそれで、センス・オブ・ワンダーとは空想を司るエンジンからではなく、現実の風景を観るレンズから生じるものなのだとおもわされる。


グヤバノ・ホリデー

グヤバノ・ホリデー

 

『フロントランナー』:目をそらし続ける私たちと、ジェイソン・ライトマンが救おうとした女性について



ジェイソン・ライトマン
私は複雑な人物が好きです。その欠陥がどう表れてくるかにも興味があります。


https://www.reviewstl.com/interview-director-jason-reitman-front-runner-1121/



ヒュー・ジャックマン主演!映画『フロントランナー』予告


 人は誰しも多かれ少なかれ、現実から目をそむけて生きています。
 なぜ目をそらすかといえば理想の自分と実際の自分のあいだに齟齬が発生しているからで、そのゆがみが行くとこまで行ってしまうとジェイソン・ライトマン監督の『ヤング≒アダルト』や『タリーと私の秘密の時間』といった過去作*1みたいなエクストリームな悲劇へと発展します。
 最終的にツケが自分に返ってくるだけならまだマシなほうでしょう。ですが、現実が人間の形をしている場合、そこから目を逸らすことは他者の尊厳を踏みにじる行為につながりかねません。
『フロントランナー』は人間の顔を持った現実を直視せず、踏みにじっていた男の話です。
 

 

あらすじ:

 時は1988年、アメリカ合衆国大統領選前夜。元上院議員のゲイリー・ハート(ヒュー・ジャックマン)はみなぎる若さと甘いマスクで老若男女の支持を掴み、民主党の大統領候補予備選を目下独走中。このまま行けば共和党の有力候補ジョージ・ブッシュを打ち破り、レーガンから続く共和党の天下にストップをかけられるはずだった。
 ところが匿名のタレコミを聞きつけた新聞社がハートの不倫疑惑を報じると事態は暗転する。マスコミは疑惑の真偽を問いただそうと、ハート一家の邸宅や選挙事務所に押し寄せ、連日連夜取り囲んで取材攻勢をかける。一方、遊説中のハートはマスコミ対応を進言するスタッフをはねつけ、「くだらないスキャンダルよりも政策発信に集中すべきだ」と頑固に言い募る……。



 本作はもちろんゲイリー・ハートについての映画です。ジャーナリズムと政治家の倫理について提議する作品でもあるでしょう。
 しかし一方で、「わたしたち」によって葬り去られた一人の人間を救い出すための物語でもあります。その人の名はドナ・ライス。ハートの不倫疑惑の相手役とされた女性です。
 監督のジェイソン・ライトマンは制作当初、「ゲイリー・ハートについての映画を作っている」と他人に話すと、こんな反応が返ってきたそうです。「ああ、あのボート、〈モンキー・ビジネス号〉だっけ? あのブロンド女のほうはなんて名前だったっけ?」
 1988年から(映画が公開された)2018年までの30年間、ゲイリー・ハートの一件はずっと「大統領選という『本番』の前に起こった炎上ネタ」としてアメリカ人に記憶されていたのです。
「彼らの認識は非常に冷ややかでした」とライトマン監督は分析します。「ドナ・ライスをまるでモノのように扱い、事件のすべてがジョークであるかのようにふるまっていたのです」
 ネタとみなされた人間はモノとしてあつかわれます。他愛のない気の利いたジョークに引用され、コミュニケーションの道具として消費されていく。それはテレビ時代の昔もネット時代の今も変わらないわれわれの残酷な本性です。
 彼女はスキャンダルを乗り越えて一度は勤め先だった製薬会社に復帰しようとしますが、騒動の後遺症によるストレスとプレッシャーで退職を余儀なくされ、その後七年のあいだ公の場から姿を消します。*2
「不公平にも彼女の人生はある一瞬で定義されてしまいました。彼女を生身の人間ではなく、ボートに乗っていた「あの女」としか見なさなかった私たち全員によってそう定義されたのです」*3

 そういうわけでライトマン監督にとっては「野心と賢さを備えながらも自らの手から人生をもぎとられてしまった一個の女性として、彼女を礼節と共感をもって描くことはとても大事だったのです」*4


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 騒動が勃発すると、ハートと彼を支えるスタッフたちは徹底してドナ(サラ・パクストン)を隔離します。ハートはドナに電話をかけようとすらしません。ただ、マスコミの目から逃れてスタッフとともに政策に関する原稿をこまごまと手直しするという現実逃避にきゅうきゅうとします。
 男性陣ではJ・K・シモンズ演じる選挙参謀だけが事態のヤバさへ真っ向から取り組み、ドナを「直視」します。ただし、人間としてではなく、あくまで対処すべき問題として。その視線の圧倒的な冷たさときたら、『セッション』で怒鳴り散らかしているときより数万倍もおそろしい。*5唯一、ハート陣営の紅一点である女性スタッフ(モリー・イフラム)とドナは打ち解けて親密な視線をやりとりを交わしますが、しかし、彼女の視線が途切れた瞬間にドナは無数の視線と声に捉えられてしまいます。


 参謀は現実逃避を続けるハートにマスコミと向き合うように説得にかかります。しかしハートは聞きません。
「私は20年ものあいだ政治に身をおいてきた。君もそうだろ。世間(The public)はこんなくだらないことなんて気にしないよ。興味なんてないさ」
 参謀は反論します。「1972年ならそうだったでしょうね。82年でさえ問題にならなかったかもしれない。でも、今は違うんです。理由はわかりません。でも、そうなんです。はやく我々の側の『ストーリー』を組み立てないとーー」
「”ストーリー”なんかないんだよ!」


 仮にハートの政治的資質に欠陥があるのだとしたら、貞操感覚などではなく、時代の気分と向き合えなかったその鈍感さだったのかもしれません。
 そして人間としてはーーすくなくとも映画のなかではーー自分自身の妻と向き合えなかったことが致命的でした。
 不倫騒動が噴出する前からハートには妻との不仲疑惑がつきまとい、劇中の序盤では記者から家庭や結婚観に対する質問をされて頑なに回答を拒否するシーンが描かれます。ハートの遊説に同道しないのはティーンエイジャーの娘が家にいるから、という言い訳はあるにしても、二人の関係はどこかぎこちない。
 騒動によりハート家の敷地はマスコミに包囲され、母娘は外出もままなりません。ハートは電話越しに妻に謝罪をしはしますが、家には選挙スタッフを一人送り込むだけで特になにもせず、妻と対面することもありません。
 マスコミの待ち受ける嵐のなかに送り出したドナのことなど、もちろん二の次どころか三の次です。妻の視線、ドナの視線、世間の視線からハートは逃げ続けます。


 が、ようやく腹をくくって出席した会議でスクープの元凶である新聞社をうまくやりこめたことでハート陣営は一時持ち直します。時代的に新聞社がスキャンダルネタの扱いに不慣れだったこともあり、裏取りに穴があったのです。
 瀕死状態から息を吹き返したハート陣営は乾坤一擲の釈明会見に打って出ます。これさえ乗り切ればまた予備選のフロントランナーに返り咲けるはずです。ハートは会見前の控室でスタッフとともに想定問答を叩き込みます。
 どの角度からボールが来ても完璧に返せるーースタッフたちがそう確信したとき、思わぬ方向から思わぬボールが飛んできます。
「ドナはどうするんですか? 彼女のプライバシーを守るために誰か派遣すべきでは?」
 陣営で唯一ドナとまともにコミュニケーションをとっていた女性スタッフでした。
 彼女の提案は他のスタッフによって「アホか?」と即座に却下されます。
 続いて、記者質問対策のスタッフが最もハートにとって嫌な質問をぶつけてきます。
「『あなたは以前にも他の女性と不倫したことがありますか?」
 ハートは顔を紅潮させ「あんまりバカにするなよ! そんな質問には答えない! 誰にも関係ないことだ!」とスタッフに対してマジ切れします。
 この勢いで拒絶すれば記者からの圧力もはねのけられるだろうとスタッフは勝利を確信しますが、しかし、ドナと妻という二人の女性を徹底的に「ないもの」として振る舞うハートに天罰のような、あるいは奇跡のような一瞬が(文字通り)訪れます。
 それが何であるかは本篇をごらんになってのお楽しみですが、一言でいうなら、「人の形をした現実」です。
 その「現実」と向き合い*6、そしてそのあとで記者会見である経験(選択)をすることで彼は確実に変化していきます。

 記者会見後の彼の変化を示すシーンを二つ挙げておきましょう。
 ひとつはさきほどの女性スタッフに「マイアミはどうなってる?」と訊ねるところ。
 もうひとつはハートが予備選立候補の取りやめについて会見を行う自身の姿をテレビ越しに眺めるところ。政治家として自分のイメージを他人に見せる側だった人間が、惨めな自分の敗北と向き合い、現実を受けいれる。こうした成長が描かれるからこそ、ラストに簡潔に提示される「その後」についても納得されるのです。
 自分が現実から目をそらすことで歪んでしまった世界、そのひずみを引き受ける人々の存在に気づき、向き合うこと。それはけしてゴールではありませんが、すくなくとも、第一歩ではあります。


余談

 映画はキレイに落ちたとはいえ、やはり現実のツケはなかなか精算できないものです。映画で語られなかったドナ・ライスの「その後」はどうだったのでしょうか?
 ドナは先述のとおり勤めていた会社を退職したのち、七年ほど隠遁生活を送ります。そして1994年に移住先のワシントンDCでビジネスマンのジャック・ヒューズ(Jack Hughes……さかさまにすると Hugh Jack な man ですね)と結婚し、ドナ・ライス・ヒューズとなります。
 それと前後して彼女は社会運動家としての活動を開始。保守系NPO団体 Enough Is Enough のスポークパーソン兼コミュニケーターとして活躍し、児童オンライン保護法(COPA)を始めとした未成年者を対象としたインターネットにおける有害情報へのアクセス規制関連法案に成立に貢献します。現在ではドナは EiE のCEOの座についています。
 この団体の直近の活動として話題となったのは、「ナショナル・ポルノ・フリー・Wi-Fi・キャンペーン」でしょう。日本と同じくアメリカのマクドナルドやスターバックスでは無料のWi-Fiスポットが設置されているのですが、当初はろくにフィルタリングもしておらず、子どもだろうが有害サイトにアクセスしほうだいでした。また、その匿名性を利用して児童ポルノの温床になっているという指摘もありました。
 EiE はキャンペーンを通じて世論や企業に訴えかけ、マクドナルドに全国規模の、スターバックスに世界規模のフィルタリングポリシーを導入させることに成功しました*7


 このように立派な社会的成果をあげている一方、共和党系議員の妻が立ち上げた団体という出自からか、民主党にとってはちょくちょく頭痛の種を生みだしてもいます。
 たとえば、EiE の設立当初から関わって活動していたクリスティーン・オドネルという人は2010年前後にかけ、いわゆる「ティーパーティー系」の新人として三度上院選に挑戦し、いずれも落選したものの、その個性的なキャラクターから話題を呼びました。08年の上院選本戦では88年にゲイリー・ハートと民主党大統領候補の座を争ったジョー・バイデンとマッチアップしたというのですから、歴史のめぐり合わせとは奇妙なものです。*8
 そして、めぐりあわせといえばティーパーティーの撒いた種が芽吹いた2016年の大統領選挙。
 ドナ・ライス・ヒューズは熱心なトランプ支持派として FOX NEWS をはじめとしたニュースサイトに彼を支持するオピニオン記事を掲載します。*9
 子どものころから成年期にいたるまで複数回性的虐待を受け、その経験から子どもたちを有害な表現から守るために戦ってきたドナにとってレイプ疑惑の渦中にいるトランプを支持するのは内面的には苦渋の選択だったようですが、彼女は「彼の謝罪を受け入れ」、「クリスチャンとして」中絶規制や軍備の縮小といったトランプの政策を支持しました。
 トランプが当選した夜を『タリーと私の秘密の時間』のセットで迎え、「『スター・ウォーズ』が帝国の勝利という間違った展開になってしまったように感じた。悲しかった」と述懐した*10イトマンは、その次に撮影予定だった『フロントランナー』で彼が救おうとしていた女性の現在の立ち位置についてどう感じていたのか。

 民主党候補によって人生を破壊され、そこから立ち直った人間が民主党にとって最大の悪夢であったトランプ大統領の誕生に寄与するーー三十年にも渡る彼女の半生の細部を無視して「ネタ」性だけを見れば、これもまあ、ひとつの”ストーリー”といえるのではないでしょうか。


2018年の新作映画ベスト30+α

風邪引いててつらいので簡単にいきます。

proxia.hateblo.jp

2015年に観た新作映画ベスト20とその他 - 名馬であれば馬のうち
2016年に観た新作映画ベスト25とその他 - 名馬であれば馬のうち
2017年の映画ベスト20選と+αと犬とドラマとアニメと - 名馬であれば馬のうち


ベストな10作

1.『ファントム・スレッド』(ポール・トーマス・アンダーソン監督、米)

・世間には絶対理解されないであろうキチガイ同士がバトルする映画(『セッション』とか)が好きです。わたしたちが観たかった『貞子 vs. 伽椰子』がここにあった。


2.『リズと青い鳥』(山田尚子監督、日)

・わたしたちはわたしたちを殺してくれる時間、拷問してくれる空気を求めて映画を観に行ってるところがあり、その点でリズ鳥はまちがいなくグアンタナモでテロリストを尋問するときに最適なツールといえるでしょう。


3.『パディントン2』(ポール・キング監督、英)

・完璧。


4.『ビューティフル・デイ』(リンゼイ・ラムジー監督、米)

・なんか不安定にフラフラしてるホアキンが出てくる映画は大体いいんだよ。


5.『スリービルボード』(マーティン・マクドナー監督、米)

・あのラストでなかったら「そこそこ面白かったな」程度だったかもしれない。


6.『寝ても覚めても』(濱口竜介監督、日)

・攻守がそっくり入れ代わる(入れ替わってない)タイプのホラー映画

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7.『若おかみは小学生!』(高坂希太郎監督、日)

・すさまじく気合の入ったトラック横転シーンを観た瞬間に神を確信した。

若おかみは小学生! 花の湯温泉ストーリー(1) (講談社青い鳥文庫)

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8.『聖なる鹿殺し』(ヨルゴス・ランティモス監督、英)

・悪役がわけがわかるようでわけのわからないたとえ話をするサイコホラーは名作


9.『心と体と』(イルディコー・エニェディ監督、ハンガリー

・コミュ障ポルノ

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10.『ボルグ/マッケンロー』(ヤヌス・メッツ監督、スウェーデンデンマークフィンランド

・こういうね……正反対の性格だと思われていたライバル同士が実は根っこで一緒だったいう展開にね……脆弱性がね……


ネクストな10作

11.『ペンタゴン・ペーパーズ』(スティーブン・スピルバーグ監督、米)

・よく考えたらそこまでおもしろくないプロットやおもしろくなりそうにない場面をサービス精神満点でめちゃくちゃスリリングに撮れるってヤバくないですか? ヤバいです。

12.『タリーと私の秘密の時間』(ジェイソン・ライトマン監督、米)

・『止められるか、俺たちを』と並んで半径一クリック以内に見せたい映画ナンバーワン

13.『僕の名前はズッキーニ』(クロード・バラス監督、仏)

・孤児院ものはいいよね。去年では『きっと、いい日が待っている』もよかった。2018年はストップモーションが『ズッキーニ』、『犬ヶ島』、『ライカ』(ソフトスルー)、『ボックストロール』(ソフトスルー)と多かったですね。

14.『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』(パブロ・ラライン監督、チリ)

・詩人然としていない詩人の話を詩のように撮る。去年度最高峰の探偵映画。

15.『30年後の同窓会』(リチャード・リンクレイター監督、米)

・このところリンクレイターはなに撮っても最高。芸達者のおっさん三人を転がしているだけでこんなにもおもしろくなってしまう。

16.『ピーターラビット』(ウィル・グラック監督、米&英&オーストラリア)

・トランプ時代の最重要ポリティカル映画

17. 『君の名前で僕を呼んで』(ルカ・グァダニーノ監督、米)

・圧倒的夏感。

18..『パティ・ケイク$』(ジェレミー・ジャスパー監督、米)

・出てくるキャラがみんなチャーミング。コンサートのシーンは泣きますよね。

19.『スターリンの葬送狂騒曲』(アーマンド・イヌアッチ監督、英&仏)

・ヤクザ映画みたいなノリのタイミングと口先三寸でタマ取り話がつまらないわけがない。

20.『ホールド・ザ・ダーク そこにある闇』(ジェレミー・ソルニエ監督、米)

・わたしたちがジェレミー・ソルニエのサイコパス殺人鬼映画を讃えなくて誰が讃えるっていうんですか。


メンションしたい10作

21.『犬猿』(吉田大八監督、日)

・悪意のある笑いがペーソスに転化する瞬間はいつも美しい。

22.『ボストン・ストロング』(デイヴィッド・ゴードン・グリーン監督、米)

・英雄なんてガラじゃないのにむりやり英雄にさせられてしまった平凡な男の等身大の物語。意外となかった気がするところにジェイク・ギレンホール

23.『判決、ふたつの希望』(ジアド・ドゥエイリ監督、レバノン

・絶対に和解不能なラインまで追い詰められた二人がギリギリのところでギリギリのコミュニケーションを取る。『偽りなき者』のクリスマスのシーンに通じる美がある。

24.『へレディタリー 継承』(アリ・アスター監督、米)

・あざとすぎるきらいはありますけど、やっぱりすごい。

25.『ウィンド・リバー』(テイラー・シェリダン監督、米)

・暴力。

26.『犬ヶ島』(ウェス・アンダーソン監督、米)

・イヌ。

27.『恋は雨上がりのように』(永井聡監督、日)

・『帝一の國』がフロックでなかったことを証明した奇跡の映画監督永井聡の活躍に御期待ください。

28.『ブリグズビー・ベア』(デイヴ・マッケイ監督、米)

・オタク全肯定ポルノみたいな話だけど、オタクなので。

29.『トラジディ・ガールズ』(タイラー・マッキンタイア監督、米)

・なにもかも燃やして終わる話は100点。

30.『カメラを止めるな!』(上田慎一郎監督、日)

・わたしはこうした素朴な達成を否定する人々を絶滅するためにここにいます。



 あとは『ビッグ・シック』とか『ミスミソウ』とか『ゲティ家の身代金』とか『ワンダー 君は太陽』とか『嘘八百』とか『キングスマン:ゴールデンサークル』などが心に残った。『アンダー・ザ・シルバーレイク』は一本の作品としてはあんまり良いとはおもわなかったけど、時代的には最重要の一本です。


ドキュメンタリー10選

1.『消えた16mmフィルム』(ネトフリ)
 90年代のシンガポールで自主映画を撮ろうとした少女たちについての不思議なドキュメンタリー。一言で言い表すのは難しいけれど、哀しい変人の記録ならびに映画制作青春ものとして最高にいい。最高です。


2.『マーキュリー13 宇宙開発を支えた女性たち』(ネトフリ)
 宇宙開発の陰で女性飛行士として訓練を受けていたものの、男性社会の理不尽な圧力に潰されてしまったパイロットたちの話。出てくるおばあちゃんたちがみんな痛快で蓮っ葉な飛行機乗りばかりでとにかくかっこよく、気持ちがいい。かっこいいババアを見たい人におすすめ。最高です。


3.『私はあなたのニグロではない
 アメリカで最も尊敬される黒人作家のひとり、アレック・ボールドウィンが遺したメモや手紙をサミュエル・L・ジャクソン読み上げていくドキュメンタリー。イカしたパンチラインがいっぱい出てきてよい。最高です。


4.『ゲッベルスと私』
 ゲッベルスの秘書だった人が「たしかにおかげでいい目を見させてもらったけど? わたしだけが悪いわけじゃないし? 時代の流れにはおまえらだってどうせ逆らえないでしょうが」と一人語りしていく。悲惨なババアを見たい人にオススメ。ゲッベルスに忖度して職員たちがローマまで愛犬を緊急輸送したら戦争中なのに何やっとんねんと逆に叱られたエピソードが好き。


5.『オーソン・ウェルズの遺したもの』(ネトフリ)
 ネトフリで同時公開されたウェルズの遺作『風の向こうに』についてのドキュメンタリー。いいブロマンス。


6.『レイチェル: 黒人と名乗った女性』(ネトフリ)
 白人家庭に生まれたのに、なぜか黒人として黒人地位向上協会の幹部にまでのし上がって黒人権利運動のジャンヌ・ダルクとなって女性の転落とその後、そして彼女がなぜそんな行為に走ったのかを過去の人生からたどっていく。こういう救いがたいホラに走った救われない人の救いようのない人生を見せて観客を「どないせーちゅーねん」みたいな気持ちにさせるドキュメンタリー好き。どうしようもなくなりたいときに見ましょう。


7.『オデッサ作戦』(ネトフリ)
 むちゃくちゃなアホがむちゃくちゃなことやってむちゃくちゃ荒稼ぎした記録。ソ連崩壊直後のロシアがいかに混沌としていたのかがよくわかる。


8.『サファリ』
 アフリカでのスポートハンティングについてのドキュメンタリー。人間のおぞましさを描き出した点でこの映画に勝るものはなかった。さすがはウルリッヒザイドル


9.『テイク・ユア・ピル: スマートドラッグの真実』(ネトフリ)
 アメリカで社会問題となっている強壮剤としてのアデロール(アンフェタミン)濫用問題を描いたドキュメンタリー。「勝てない人間に価値はない=常に価値を証明しつづけなきゃいけない」というアメリカン・ドリームと表裏一体のアメリカの病が顕れるところはなんだっておもしろい。


10.『黙ってピアノを弾いてくれ
 こんなに個性的な狂人が世界のショービズ界にはいたんだな、とおもうとまだまだ自分はなにも知らないのだとおもいしらされます。


観たアニメ映画全部

リズと青い鳥
 神。

若おかみは小学生!
 おかみ。

ぼくの名前はズッキーニ
 かわいそうなガキはいい出汁がでるんですよ。

『ライカ
 犬で泣かす。

犬ヶ島
 犬で泣く。

山村浩二 右目と左目で見る夢』
 「頭山」の山村浩二の短編集。いい感じの映像ドラッグ。

『シュガーラッシュ:オンライン』
 なんだかんだ言ってもちゃんと「2」やってる。

リメンバー・ミー
 完成度は高いし面白い。ただ最近のピクサーの中ではいい意味でも悪い意味でもそこまで残らない。

『マイリトルポニー プリンセスの大冒険』
 現生人類が到達した一つの達成。疑いなく何かを成し遂げている。何かを。

ペンギン・ハイウェイ
 この作品はこれでいいんだけど、このまま続けられるとこの監督をあんま好きになれそうにない。

名探偵コナン ゼロの執行人』
 全体的にバカっぽいんだけど、突き抜けたバカなので好き。

さよならの朝に約束の花をかざろう
 全体的に気持ち悪いんだけど、突き抜けた気持ち悪さなので好きなほうではある。

ゴッホ 最後の手紙』
 ゴッホのタッチを再現した労苦は評価したい。ただ話はダルい。

『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』
 体調の問題で上映時間の九割は寝てたけど起きてた一割はきれいだった。

『ボックス・トロール
 やっと来たライカの未公開作。期待ほどじゃなかったけれど、よく考えたらライカっていつもこんくらいだよなとはおもう。

『生きのびるために』
 やっときたスタジオサルーンの話題作。社会性があってよろしおすなあ、としか言えない。

ボス・ベイビー
 全然悪くはない。アイディアが六番煎じくらいなだけど。ハンナ・バーベラ風の3D背景には可能性を感じる。

『ニンジャ・バットマン
 いい加減勘違いジャポネスクではしゃぐのダサいからやめたほうがいい。

『小さな英雄 カニと卵と透明人間』
 ジブリの短篇アンソロ。特に感想はない。

ネクスト・ロボ』
 なにもかもがどうでもいい。

未来のミライ
 アニメーションのレベルが高いからといってショタをどうにでもしていいわけではない。

イヌ映画オブジイヤー十選

『ライカ
犬ヶ島
イット・カムズ・アット・ナイト
リメンバー・ミー
キングスマン:ゴールデン・サークル
希望のかなた
未来のミライ
『黒い箱のアリス』
『ホールド・ザ・ダーク』
ザ・プレデター

 

姉映画10選

『ワンダー 君は太陽
ファントム・スレッド
バーバラと心の巨人
『メアリーの総て』
『来る』
犬猿
クワイエット・プレイス
若おかみは小学生!
『RAW 少女のめざめ』(今年の正月に観た)
サーミの血』