名馬であれば馬のうち

読書、映画、ゲーム、その他。


読書、映画、その他。


「カートゥーン・アニメキャラの指はなぜ四本か」を取り巻く言説

 別にカートゥーンアニメブログでもないのに、カートゥーンネタが三つ続きますね。なんでかな。

ミッキーマウス・クラブの子どもたち

 昔から巷間でよく話題にのぼるものの結局なんだかわからない問題の一つに「なぜカートゥーンの指は四本なのか?」がありますね。
 人間にしろ、動物にしろ、ミッキーマウスにしろ、『シンプソンズ』にしろ、『グラビティ・フォールズ』にしろだいたい全部四本指。さすがに作画がリアルよりな『キング・オブ・ザ・ヒル』だと五本指ですが。
 最近の子供向けカートゥーンだと『ぼくはクラレンス』や『スティーブン・ユニバース』なんかで五本指が試みられてますが、まだまだ四本指優勢な状況です。

 では、なぜ、カートゥーン・アニメのキャラはみな四本なのか。

 この答えは簡単で、「ミッキーマウスがそうだったから」です。「蒸気船ウィリー」でデビューしたときから一貫してミッキーは四本指です。

 そうなると、次の疑問が派生します。
 なぜミッキーマウスは四本指で生まれてきたのか?

ソースは手塚治虫

 この疑問について、日本でよく聞くのは「昔の作画技術が未熟だったせいで五本指にデザインするとブレて六本指に見えることがあったから」という説。このセンテンスはだいたい尻尾に「と、手塚治虫がディズニー関係者から聞いた話として言っていた」と、ヒレがつきます。

 ミッキーマウスは指が4本なので、鉄腕アトムもミッキーと同じように指を4本にしました。その後、手塚治虫先生がミッキー関係者と会った時に、ミッキーの指が4本の理由を聞いたら以下のような回答が。

「5本の指を描いてアニメーションにすると、動いているときに6本に見えるからだ。」
 その後、アトムの指は5本になりました。


世にも奇妙な指6本物語



f:id:Monomane:20161013040713p:plain
アニメ初期のアトムも四本指だった。

 この話はインターネットでは人口に膾炙していて、知恵袋系ではもはや定説と化していますが、たいてい大元のソースが明示されていません。
 何かとデマの多いのがインターネットです。疑ってかかる必要があります。
 あろうことか上記を「手塚治虫ウォルト・ディズニーから直接聞いた」とまで断言している知恵袋回答者もいます。これはありえない。ウォルト・ディズニー手塚治虫が対面したのはたった一回だけ、1964年のニューヨーク世界博でのことで、このとき交わされた会話はせいぜい社交辞令程度でした。*1

 では、ディズニー関係者から聞いたというのもデマか、といえばどうやらこちらは本当のよう。

 みなさんみてもらうとわかるけど、ミッキーマウスドナルド・ダック、それから、ミニーとかいろいろ、ホーレスとか、いろんなディズニーのキャラクターってのは、人間以外みんな指が四本なんです。人間も四本だったんです。
 なぜ四本かっていうことは、ぼくが大人になって、アニメーション作り出してからはじめてわかったんだけど。ディズニースタジオに行って聞いてみたら、四本で描かないと、あれ、動いてるでしょう、アニメっていうのは、動いてるけど、スムースに動かない。ぎくしゃく動くってわけなんだけど、指が五本に見えるんだそうです。四本でちょうど五本に見えるんだって。
 それで、五本描きまして動かすと、六本に見えるときがあるそうです。アニメーションっていうのは、連続してる絵じゃなくて、一枚一枚描きますからこうぎくしゃく動くんだけど、残像現象で、前の指が残ってて、ちょっと動いた指がまた目に映って、というような形で、ずーっとつづけて映像を見ると、五本が六本に見える時があるんだ。それで四本描くと、動いてると、ちょうど五本に見えるってこと聞いたことがある。そういう意味で、「レオ」なんか、四本指なんです。


「わが人生・わがマンガ」(1988年、『手塚治虫 ぼくのマンガ道』新日本出版社



 この「ディズニー・スタジオに行った」のが具体的にいつだったのかは調査不足により特定できません。ウォルト死後の1979年にフロリダ旅行でディズニーランドへ寄ったときと思しいのですが、「スタジオ」のあるカリフォルニアは西海岸で、「ワールド」のフロリダは東海岸、正反対のロケーションです。日程的にやや無理があるし、ちょくちょくアメリカ旅行に出ていた手塚治虫のことですから、また別の機会があったのかもしれません。

 いずれにせよ、インターネットはデマばかりでないことが判明してよかったですね。インターネット最高! 頼りにしてます! 最高の友人です!

ウォルト本人は何と言ったか。

 とはいえ天下の手塚治虫の証言といえど又聞きであることには変わりない。ミッキーマウスを作ったウォルト・ディズニーやアブ・アイワークスは四本指について実際なんと言っていたのか。
 ここはインターネットをいくら掘っても出ない領域で、こういうところがインターネットマジで頼りになんねえなと思うのですが、先日、科学ノンフィクション作家サイモン・シンが『シンプソンズ』の数学ネタを解説した『数学者たちの楽園 「ザ・シンプソンズ」を作った天才たち』をのんべんだらりと読んでいたら事故的に出遇ってしまいました。

 『ザ・シンプソンズ』の世界で指が八本になったのは、アニメ映画の草分けの頃に起こった突然変異のせいである一九一九年にデビューした『フィリックス・ザ・キャット』では、片手に四本ずつしか指がなかったし、一九二八年に登場したミッキーマウスもそうだった。この擬人化された齧歯類の指が一本足りない理由を尋ねられて、ウォルト・ディズニーはこう答えた。
「デザインとして見たとき、ネズミに指が五本というのは少し多すぎる。バナナの房のように見えてしまうからね」
 ディズニーはそれに付け加えて、手を簡略化することにより、アニメーターの負担を減らそうとしたとも述べた。
「金銭的なことを言えば、六分半の短いアニメを構成する四万五千枚の作画について、すべて手から指を一本減らせば、スタジオとして数百万ドルの削減になる」
 こういう理由により、アニメのキャラクターは、動物であれ人間であれ、八本指が標準になったのである。


 p.268-269, サイモン・シン青木薫・訳『数学者たちの楽園 「ザ・シンプソンズ」を作った天才たち』新潮社



 この「バナナの房」発言はアメリカのネットでは古くから流通していたらしく、ソースはどこだと思ったら、おそるべきことに『数学者たちの楽園』はこのあたりの参考文献を示していない。
 引用されているウォルト・ディズニーの発言は、 ほぼ wikipedia に掲載された文章と一致しますから、シンはおそらくこれを読んで書いたのかな?
 しかし、 wikipedia でもそもそもの発言ソースがあげられていません。
 まあ、権威あるサイエンス・ライターの書いてることですし、「ミッキーマウスの指が四本になった理由」についてはこのあたりで妥協しましょう。

四本指キャラの始原

 もちろん、サイモン・シンはアニメ専門のライターでなく、『数学者たちの楽園』はアメリカ・アニメ史の本ではないため、アニメーション黎明期の解説についておろそかになるのもしかたない。
 そもそもオットー・メスマーの筆によるフィリックス・ザ・キャットも最初から四本指だったのか、といえば、なかなか一筋縄ではいきません
 フィリックスのデビュー作「Feline Follies」(1919)*2では人間は五本指*3。それまでのアニメーションでも人間=五本指が通例でした。いっぽうネコたるフィリックスはというと、箆みたいな腕でそもそも指が見当たりません。


f:id:Monomane:20161013040141p:plain
Feline Follies」より。人間は五本指。



 「Felix in Hollywood」(1923)になると箆から一歩進化して、親指が生えます。ところがその後数年は、新聞を読んでる指の数が左右で異なったり、思いっきり五本生えてたり、判然としない時代が続きます。


f:id:Monomane:20161013040239p:plainf:id:Monomane:20161013040301p:plainf:id:Monomane:20161013040307p:plain
左から「Felix in fairy land」(1923)、「Romeo」(1927)、「Felix the Cat in Sure-Locked Homes」(1927)

 フィリックスの指がはっきり四本と定まるのは、原作のプロデューサーであるパット・サリヴァンの手を離れてヴァン・ビューレン・スタジオで1936年にカラー化されたときです。

f:id:Monomane:20161013081815p:plain
Felix the Cat: The Goose That Laid the Golden Egg」(1936)

 

 一方のディズニーも最初から四本指主義を戴いてはおりませんでした。ミッキーマウスの前身として知られる「しあわせうさぎのオズワルド(Oswald the lucky rabbit)」は実質上のデビュー作「trolley troubles」(1927)の時点では五本指。四本指に変わったのは後のことです。


f:id:Monomane:20161013040422p:plain
「trolley troubles」のオズワルドさん


 そうして、1928年、ミッキーマウスが「蒸気船ウィリー」でお披露目されます。このときのミッキーはコマによって四本指になったり五本指になったり忙しいのですが、基調は四本指です。
 なぜミッキーマウスがことさら四本指を強調されるようになったかといえば、それは彼の服飾センスのせいでしょう。すなわち、手袋です。
 ミッキーはオズワルドやフィリックスのような黒いボディの持ち主です。が、ふたりと違って真っ白い手袋をはめています。*4当時の画面は白黒で背景のほとんどは灰がかった白で占められていました。こうした白い世界に白い手袋を持ち込むと、背景に溶けてしまうおそれがある。そのため、キャラと世界との境界を描くという意味で、指の数をはっきり示しておく必要があったのでないでしょうか。*5

 以上を踏まえると、だいたいトーキー元年の1927年を境にディズニーが覇権を握るにつれ、徐々に「カートゥーン・アニメキャラ=四本指」の図式が確立されていったものと推測されます。

現代アニメーションにおける指の数の活用

 現代のアメリカ・カートゥーン・アニメの作家たちは無批判に百年来の伝統に従っているわけではありません。
 『シンプソンズ』にも自分たちの指の数をネタにしたギャグがやまほど出てきますし、『アドベンチャー・タイム』に至っては指の数を、謎めいた世界観を読み解く上でのキーとして使用してします。
 その一方で、冒頭で言及したように、あえて五本指を当然のものとして描く作品も目立ってきています。
 そう簡単にカートゥーンの指は増えないでしょう。しかし、こうした多様化が何をもたらすのか、どうアニメ界の勢力図を変動させていくのか、今後も頭の片隅において見ていきたいですね。


数学者たちの楽園: 「ザ・シンプソンズ」を作った天才たち

数学者たちの楽園: 「ザ・シンプソンズ」を作った天才たち

*1:文藝春秋』1967年5月号「ニューヨークのディズニー」

*2:wikipedia での邦題は『フィリックスの初恋』。大塚英志の『ミッキーの書式』では「仔猫のフォリーズ」だとかそんなタイトルが与えられていた気がする。

*3:メスマーのデビュー作「How a Mosquito Operates」(1913)ではちゃんと五本指の人間(指のシワがちゃんと描きこまれていてリアルっぽい)が出てきます。彼に影響を与えた『リトル・ニモ』のウィンザー・マッケイからして五本指派です。

*4:むろん初期は手袋をしていないことも多かった。しかし、手袋自体は「ウィリー」のタイトルカードの時点から出てきています。

*5:このあたりアニメーション黎明期の特徴であったメタモルフォーゼの多用がすたれていったのと関係があるのではないかとも思う

海外TVアニメの若手クリエイターたちにおける傾向と対策

proxia.hateblo.jp
 でカートゥーン・ネットワークで2010年代に始まって継続中の番組をリスト化したわけですが、つらつら眺めて見るに、80年代生の若手クリエイターが多い。
 彼らはいったいどういう人種なのか。
 何を食ったらああいうものが出来上がるのか。
 傾向を探っていきたい。
 対策は特にありません。
 あと「海外TVアニメ」っつっても主にアメリカだけです。
 アメリカっていうかカートゥーン・ネットワーク関係についてです。

 

80年代生まれのアニメ・クリエイターたちの特徴:

1. 『ザ・シンプソンズ

「こどものころ好きだったアニメ番組は?」という問いに対してほとんどのアニメーターが「『ザ・シンプソンズ』」と答えています。『ザ・シンプソンズ』の放送開始は1989年。彼/女らはまさに直撃世代です。(同時に、ディズニーにおける80年代の低迷と90年代の復活を体験した世代でもある)
 単純に視聴者数が多かったのもあるでしょうが、テンポの早いスラップスティックなギャグやクリクリと飛び出気味の丸い目玉に黒丸瞳というキャラクターデザインなどに確かに『ザ・シンプソンズ』の作風が多くの作品に反映されています。

f:id:Monomane:20161005030457p:plain
(『シンプソンズ』)

f:id:Monomane:20161005030807p:plain
(『レギュラーSHOW』)

f:id:Monomane:20161005031024p:plain
(『アンクル・グランパ』)

f:id:Monomane:20161005031216p:plain
(『ぼくはクラレンス』)

f:id:Monomane:20161005030647p:plain
(ディズニーだけど『グラビティ・フォールズ』)


参考までに2014年からやってる『トムとジェリー・ショー』のトムとジェリーはこんな感じ。
f:id:Monomane:20161005031717p:plainf:id:Monomane:20161005031720p:plain


 虹彩に色がついてたり、まつげが描かれていたりと一手間かかっているのがわかります。
 『シンプソンズ』は「目」の表現を完全に記号化してしまったんですね。

 そう考えると、眼球という概念すらとっぱらってしまった『アドベンチャー・タイム』がいかに革新的だったか。

2.日本アニメ・ゲームの影響:

 ジブリは当然の教養であるのでさておいて、この世代のフェイバリットとしては、『AKIRA』(全米公開は89年末)もよく名前があがります。アキラたちがバイクで夜の東京を集団暴走するピーキーなシーンは、国内外問わずよくパロディのネタにされています。(リンク先のgif集には入ってませんが『スティーブン・ユニバース』でも)

 しかし、この世代の、特に女性のクリエイターたちに多大な影響を与えた日本産アニメといえば、幾原邦彦がてがけた『セーラームーン』(北米では96年にビデオリリース)と『少女革命ウテナ』(北米では98年にビデオリリース)ではないでしょうか。

f:id:Monomane:20161005032535g:plain
(『スティーヴン・ユニバース』の有名なウテナオマージュ回。他のシーンや元ネタとの比較はこちら

http://rebeccasugar.tumblr.com/post/28606878442/utena-fan-art
rebeccasugar.tumblr.com
http://rebeccasugar.tumblr.com/post/108618153348/troffie-when-i-was-working-on-alone-together
rebeccasugar.tumblr.com
http://rebeccasugar.tumblr.com/post/29598934300/all-new-adventure-time-lady-and-peebles-monday
rebeccasugar.tumblr.com
(『スティーヴン・ユニバース』クリエイター、レベッカ・シュガーによるウテナのファンアートとウテナパロ。シュガーは『アドベンチャー・タイム』の監督回で主人公に『セーラームーン』のドレスを着せたりもしてる)


f:id:Monomane:20161005033802p:plain
(『Bee and the PuppyCat』のアンソロジーに寄稿された Anissa Espinosa のアート。本作は『ウテナ』を想起させる要素や描写が多く、影絵演出なんかも挿入されたり)


 若手世代を代表するアニメーターであるレベッカ・シュガー(『スティーブン・ユニバース』)を始めとしてナターシャ・アレグリ(『Bee and the puppy cat』)などが「凛とした騎士のような戦う女性像」や「日常で地続きの謎異世界でのバトル」などが反映されています。男性でコミック・アーティストですが、『スコット・ピルグリム』のブライアン・リー・オマリーもその影響下にある一人ですね。*1
 ちなみに『スティーブン・ユニバース』は女性の同性愛を扱っており、子ども向けアニメとしてはエポックメイキングな一作です。*2クリエイターのレベッカ・シュガーも自身をバイセクシュアルとカミングアウトしています。

 男性作家にはアニメよりむしろ、ゲームの影響が強いでしょうか。ここらへんはTRPG文化や『ウィザードリィ』なんかも混じっているのでむしろ多国籍感と言ったほうが正しいのでしょうが、『アドベンチャー・タイム』や『レギュラーSHOW』にはファミコン世代(アメリカでの発売は85年)の古き良きゲームへのノスタルジーが強くにじみ出ています。

3. カルアーツ出身クリエイターの隆盛と『The Marvelous Misadventures of Flapjack』

 別に北米アニメ界では今に始まった現象ではないのですが、カリフォルニア芸術大学(通称カルアーツ)出身クリエイターの活躍が近年のTVアニメ界、特にカートゥーン・ネットワークで目立ちます。

 『ぼくはクラレンス!』本放送の決定を報じる2012年の記事を見てみますと、「『クラレンス』のスカイラー・ペイジは、『The Marvelous Misadventures of Flapjack』のサーロップ・ヴァン・オルマン*3、『アドベンチャー・タイム』のペンドルトン・ウォード、『レギュラーSHOW』のJGクインテルにつづき、近年では四人目となるカルアーツ出身クリエイター」とあります。
 スカイラー・ペイジはこの後すぐさまセクハラ事件でクリエイターの座を追われるわけですが、この四作品のうち『Flapjack』以外は現在も継続中です。
 これらに加えて、2016年時点では、『アンクル・グランパ』のピーター・ブラウンガート、『ぼくらベアベアーズ』のダニエル・チョンが番組をもっていますので、計五番組がカルアーツ出身者によって占められていることになります。
 面白いのはワーナー・アニメーション(DCヒーローもの、旧ハンナ・バーベラ組、ルーニー・テューンズ)が噛んでる番組とCNオリジナル企画とで、はっきりと非カルアーツ組とカルアーツ組が色分けされるところ。
 「新しくて冒険的な企画は優秀な若い才能に任せるべきだ」というCNの方針が暗黙裡に示されているように思われます。

 カルアーツは、ウォルト・ディズニーがディズニーで働くアニメーターを養成するために創設した*4芸術大学です。アニメーション学校としては世界でも最高峰とされています。そのためか現在でもディズニーとの結びつきが強く、ここから毎年ディズニーやピクサー、あるいは他のアニメ会社へたくさんの若い才能が旅立っていきます。
 もちろん、ディズニーやピクサーの選考から漏れたり、そもそもテレビ業界で働きたがる人たちもいるわけで。

 なかでもペンドルトン・ウォード、J.G.クインテル、そしてアレックス・ハーシュ(ディズニーXDだけど『グラビティ・フォールズ』)の80年代生まれ三人衆は年齢も近く、共にサーロップ・ヴァン・オルマンの『The Marvelous Misadventures of Flapjack』で経験を積んで独り立ちしたグループ*5で、彼ら三人の番組から新しい才能が次々と生まれています。

 他に2010年代に番組を立ち上げたカルアーツ出身者としては、『Long LIve The Royals』の Sean Szeles*6、『Over the Garden Wall』の Patrick Machale *7、『Sym-Bionic Titan』の Genndy Tartakovsky、Bryan Andrews、Paul Rudish(この人たちの場合はまあ別格なんですが)、『Secret Mountain Fort Awesome』*8の Peter Browngart、そしてやはりこれも例外的ですが『ヒックとドラゴン』の Chris Sanders*9 らがおります。

4. 80年代〜90年代カルチャー

 『レギュラーSHOW』なんかには80年代の音楽カルチャーが深く反映されているわけですが、あんまりそのへん詳しくないので割愛。いつか調べる。
 それにしても、『レギュラーSHOW』にしろ、『アドベンチャー・タイム』にしろ、『スティーブン・ユニバース』にしろ、微妙なレトロ・ローテク感、90年代の「当時はすごい便利になったと思ってたけど、今からするとまどろっこしいテクノロジー使ってた感じ」に対するノスタルジーがある気がします。
 『クラレンス』も90年代を意識して作られたそうだし。 

 反対に、『ぼくらベアベアーズ』は最新テクノロジーや都市型のカルチャーがばんばん出てきますね。感覚としては、NYあたりで撮ってる実写コメディドラマに近い。


その他カートゥーン・ネットワーク組を見てて思ったこと

5. なぜかみんなウェス・アンダーソンが好き。

 ジェシカ・ボルツキ(『Bunnicula』)、カイル・カロッツァ(『Magisword』)、そして『レギュラーSHOW』の劇中で『天才マックスの世界』をパロるJGクインテルと、ウェス・アンダーソン作品を好きな実写映画にあげているクリエイターが多い。この人達は共通して80年前後の生まれです。
 そういう目で観てみると、彼らの作砂浜にはレトロ感のあるシックな画調にスタイリッシュな構図が多いし、ウェス・アンダーソンの影響といわれればそうなのかもしれない。

6. ワーナー系のコンテンツはベテランに、新企画は若手に。

 3で言ったこととわりあいかぶるんですが、旧ハンナ・バーベラ系(『トムとジェリー・ショー』、『パワーパフガールズ』)やワーナー・アニメ(『バッグス』)やDCヒーローもの(『ティーン・タイタンズ』)といった、ワーナー傘下のコンテンツのリメイク/アニメ化はそれぞれの筋で経験を積んだベテランに任せる傾向があります。
 一方で、カートゥーン・ネットワークのオリジナル企画(『アドベンチャー・タイム』、『レギュラーSHOW』、『ぼくはクラレンス』、『スティーブン・ユニバース』、『おかしなガムボール』)には業界に入って日も浅い20代の若手をばんばん抜擢しています。

 手堅い企画は手堅い筋に任せ、冒険的な企画は冒険的な筋に賭ける。この硬軟織り交ぜた起用が2010年代のカートゥーン・ネットワークの好調をささえていたわけですね。


まとめ

 特にありません。
 ある時期に大人気だったコンテンツは、それを観て育った子どもたちが業界に入る約二十年後にモロリスペクトされる形で表出するんだなあ、とか、そういうありきたりなアレです。

*1:スコット・ピルグリム』のヒロインは大学時代に自分の部屋に『ウテナ』のポスターを貼っていた

*2:『アドベンチャー・タイム』も公式かどうか微妙なラインですが、声優が「マーセリンとバブルガムはデートしたことがある」と発言して話題を呼びました

*3:現在は、ディズニーへ移籍してなにかのプロジェクトに携わっている

*4:ただしくは古くからあった芸大を買い取った

*5:同作には背景ペインターとしてニック・ジェニングスも関わっており、『アドベンチャー・タイム』や『レギュラーSHOW』での彼の起用もその縁か

*6:『レギュラーSHOW』の主要スタッフ

*7:『アドベンチャー・タイム』の主要スタッフ

*8:『アンクル・グランパ』はもともとこの番組のスピンオフ

*9:元々はディズニーで『リロ・アンド・スティッチ』などを作っていた監督

2010年代のカートゥーン・ネットワーク・アニメの様相というか作品リスト

関連記事

proxia.hateblo.jp

というわけで目次

『アドベンチャー・タイム』が終わる。『レギュラーSHOW』も終わる。『おかしなガムボール』も終わる。2010年代のカートゥーン・ネットワーク、ひいてはアメリカのTVアニメ界を牽引してきた名作たちが立て続けに終了していく。
 果たして、今、何が起こっているのか。
 カートゥーンの、アメリカTVアニメの現在地点はどこにあるのか。

 というわけで、参考資料としてアメリカ本国のカートゥーン・ネットワークで2010年代に放映開始されて現在も放送継続中の番組と、そのクリエイターの経歴を簡単にまとめたリストを作りました。可能な限り、公式で配信してる無料エピソードも添えたよ。置いてなかった場合はクリップ映像。

『アドベンチャー・タイム (Adventure Time)』, 2010-

www.youtube.com

 ・Pendleton Ward (1982年生、カルアーツ*1
  主な参加作品:「アドベンチャー・タイム(パイロット版)」(監督)*2→『The Marvelous Misadventures of Flapjack』(脚本、ストーリーボード:シーズン1のみ)→『アドベンチャー・タイム』(クリエイター)→『Braves Warriors』(クリエイター)→『映画 アドベンチャー・タイム』(監督)


 ペンドルトン・ウォードはカリフォルニア芸術大学で『レギュラーSHOW』のJGクインテルや『怪奇ゾーン グラビティフォールズ』のアレックス・ハーシュなどと机を並べて学んだのち*3、在学中に制作した短編『Barrista』がフレデレイター・スタジオの副社長の目に留まり、2005年から同社で仕事をするようになる。

www.youtube.com 

 2007年にニコロデオンの姉妹局であるニックトゥーンズで短編「アドベンチャー・タイム」が放映される。これがネットで話題を呼び、08年にフレデレイターのオムニバスシリーズ『Random! Cartoons』(ニックトゥーンズ)で再放送される。同番組では09年に「Bravest Warriors」の短編も放映された。
 フレデレイター・スタジオとウォードはそのままニコロデオンでの『アドベンチャー・タイム』シリーズ化を狙うが、失敗。その企画をカートゥーン・ネットワークが拾い、2010年にシリーズ化された。
 放送がはじまるや『アドベンチャー・タイム』は批評家(おとな)と視聴者(こども)双方から高い支持を受ける。数々の賞を受賞し、一話あたりの最高視聴者数が300万人に達するなどアニメ界の一大ムーブメントに成長した。だが、シーズン5の途中からウォードは精神的な疲労を訴えるようになり、シーズン6ではショーランナーを降板。現在は映画版『アドベンチャー・タイム』の企画に専念しているという。

『レギュラーSHOW(Regular Show)』, 2010-

www.youtube.com

 ・J. G. Quintel(1982年生、カルアーツ)
 主な参加作品:『キャンプ・ラズロ』(脚本、ストーリーボード)→『The Marvelous Misadventures of Flapjack』(クリエイティブ・ディレクター*4、各話監督、脚本、ストーリーボード)→『レギュラーSHOW』(クリエイター)


 JGクインテルはかなり早い段階からその才能を認められていた。カリフォルニア芸術大学在学中に制作した「 The Naive Man from Lolliland」という短編で数々の賞を総ナメにし、フレデレイター・スタジオの創設者フレッド・セイバートからは「将来が期待されるオリジナルな才能」と絶賛される。

www.youtube.com

www.youtube.com
(学生時代に制作した短編「The Naive Man from Lolliland」と「2 in the AM」。どちらの作品にも後に『レギュラーSHOW』のメインを務めるキャラが出演している)

 カートゥーン・ネットワークインターンとして入社し『スターウォーズ:クローン戦争』に携わると、大学卒業後はそのまま同社のプロジェクトに参加するようになる。
 『キャンプ・ラズロ』で経験を積み、若干26歳にして『The Marvelous Misadventures of Flapjack』の立ち上げに関わる。そして、大学同期であり『Flapjack』の同僚でもあったペンドルトン・ウォードの『アドベンチャー・タイム』*5と同じ2010年に自身の企画である『レギュラーSHOW』が放映開始。大ヒット。本作では自身を投影した主人公であるモーデカイの声優も担当している。
 『レギュラーSHOW』は現在放送中の第8シーズンをもって、シリーズ完結となる予定。

『おかしなガムボール(The Amazing World of Gumball )』2011-

www.youtube.com

 ・Ben Bocquelet(1983年生)


  ベン・ボクレーはフランス生まれのフランス系イギリス人。
  イギリスの映像制作会社である Studio AKA でキャリアをはじめ、ロンドンのカートゥーン・ネットワーク・スタジオに入社。そこで『おかしなガムボール』の企画をCNに提案する。
  当初、『おかしなガムボール』は「没になったアニメのキャラたちが通う特殊学級が舞台」という設定であった。それではあまりに暗すぎると案じたプロデューサーによって、いったんはポシャりかけたものの、ボクレーは陽性のシットコム的なテイストを取り入れたヴァージョンを再提案して起死回生。
  かくして2008年にパイロット版を放映したのち、2011年から本シリーズ開始。以降、シーズン3第10話の「The Vacation」を除いたすべてのエピソードでボクレーは脚本を執筆する。2017年の第6シーズンをもって完結予定。

ティーン・タイタンズ GO!(Teen Titans GO!)』2013-

www.youtube.com

 ・Michael Jelenic(1977年生、ロヨラ・メリーモント大学)
 主な参加作品:『ジャッキー・チェン・アドベンチャー』(脚本)→『ザ・バットマン』(脚本)→『ワンダーウーマン(ビデオ映画)』(ストーリー、脚本)→『バットマン:ブレイブ&ボールド』(ディベロッパ*6)→『ThunderCats(リメイク版)』(ディベロッパー)→『ティーン・タイタンズ GO!』(ディベロッパー)→『Be Cool, Scooby-Doo!』(スーパーバイジング・プロデューサー)


 ・Aaron Horvath(1980年生)
 主な参加作品:『Mad』(各話監督)→『ティーン・タイタンズ GO!』(ディベロッパー)→『Critters』(ディベロッパー)


 イェレニックもホーヴァスもDCコミック原作アニメを担当するワーナーの社員プロデューサー。ホーヴァスはニコロデオン・スタジオや『ルーニー・テューンズ・ショー』などを制作している 6 point harness などを経たのち現職。アニメーター出身でないイェレニックのほうは経歴がよくわからないが、割と早い時期からワーナーに所属していたっぽい。

 『ティーン・タイタンズ GO!』は元はDCのクロスオーバーコミックである『ティーン・タイタンズ』を三等身のちびキャラ・カートゥーンにアレンジしたもの。
 ティーン・タイタンズはその名の通り、十代のスーパーヒーローたちが結成したチームで、60年代の最初期にはロビンやキッド・フラッシュなどが所属していた。
 その後、何度かリブートを繰り返し、2003年にカートゥーン・ネットワークとワーナーが共同で『ティーン・タイタンズ』としてアニメシリーズを展開。このときにロビン、スターファイアー、サイボーグ、レイヴン、ビーストボーイといった『GO!』まで続くレギュラーのメンツが固定化される。
 2016年10月から第4シーズンを放送予定。ちなみに主題歌はPUFFY

『おっはよー! アンクル・グランパ(Uncle Granpa)』, 2013-

www.youtube.com

 ・Peter Browngardt(1979年生、カルアーツ)
 主な参加作品:『フューチュラマ』(キャラクターレイアウト)→『チャウダー』(脚本、ストーリーボード)→『The Marvelous Misadventures of Flapjack』(脚本、ストーリーボード)→『Secret Mountain Fort Awesome』(クリエイター)→『アンクル・グランパ』(クリエイター)


 カリフォルニア芸術大学出身。『チャウダー』で初めて脚本とストーリーボードを担当し、後輩のペンドルトン・ウォードやJGクインテルと同じく『The Marvelous Misadventures of Flapjack』を経たのち、『Secret Mountain Fort Awesome』でクリエイターとしてデビュー。アナーキーを通り越してグロテスクの域にまで達したギャグが批評家筋から高い評価を得て複数のアニメ賞にノミネートされるも、2シーズンで打ち切り。
 この作品のスピンオフとして2013年から始まったのが『アンクル・グランパ』である。もともとパイロット版は『SMFA』以前の08年から存在していたが、なかなかシリーズ制作にまでこぎつけられず、『レンとスティンピー』のジョンKこと John Kricfalusi がキャラクターをリデザインしてようやく企画にゴーサインが出た。
 現在第4シーズンが放送中だが、次の第5シーズンで完結予定。

 彼は後進の育成にも熱心なようで、2013年には『Paranormal Roommates』(『レギュラーSHOW』の主要ライターであるベントン・コナー監督)を始めとした若手によるパイロット版のスーパーバイジング・プロデューサーを務めた。その中から出てきたのが、『クラレンス』と『スティーブン・ユニバース』。そんな縁もあってか、両作とも後に『アンクル・グランパ』とのクロスオーバー・コラボを果たしている。

『スティーブン・ユニバース(Steven Universe)』2013-

www.youtube.com

 ・Rebecca Sugar(1987年生、スクール・オブ・ビジュアル・アーツ)
 主な参加作品:『アドベンチャー・タイム』(ストーリーボード、ソングライター)→『モンスター・ホテル(映画)』(ストーリーボード)→『スティーブン・ユニバース』(クリエイター)


  単独としてはカートゥーン・ネットワークで初の女性クリエイターにして、現代アメリカTVアニメ界で最重要プレイヤーの一人。
 
www.youtube.com
 (09年に作った短編「singles」。すでに大器の片鱗が迸っている)

  カートゥーン・ネットワークで初めての仕事が開始されたばかりの『アドベンチャー・タイム』のストーリーボード・リビジョニスト*7。その才気が見込まれてすぐにストーリーボード担当に昇格し、第2シーズン第一話で脚本・ストーリーボードと挿入歌を担当。以降、2013年まで物語と歌曲の両面でシリーズの主要メンバーとして活躍。*82012年には『フォーブス』誌で「エンタメ業界における三十歳以下の三十人」に選出される。
  彼女の Tumblrにわかりやすいのだけど、『ウテナ』や『セーラームーン』や90年代の日本産学園アニメに濃厚な影響を受けた人で、『アドベンチャー・タイム』時代から主人公にセーラームーンのドレスを着せたり予告アートが完全にウテナだったりとまあやりたい放題だった。

  そして、2013年に満を持して『スティーブン・ユニバース』を開始。パイロット版を2013年7月に放送してから12月の本放送までわずか四ヶ月で、CN上層部からの期待も高かったことが伺える。内容はどうみてもウテナ。完全にウテナ。サンキュー。
  本作には女性の同性愛要素も混じっており、2016年にはシュガー自身もバイセクシュアルであることをカミングアウトした。

『ぼくはクラレンス!(Clarence)』2014-

www.youtube.com

 ・Skyler Page(1989年生、カルアーツ)
 主な参加作品:『Secret Mountain Fort Awesome』(ストーリーボード・リビジョニスト)→『アドベンチャー・タイム』(ストーリーボード)→『ぼくはクラレンス!』(クリエイター)


 史上最年少でカートゥーン・ネットワークのクリエイターに昇りつめた天才にして、業界最大の闇。

www.youtube.com
www.youtube.com
(カルアーツ在学中に制作した短編 Girl’s Wallet と The Crater face)

 カリフォルニア芸術大学卒業後、『Secret Mountain Fort Awesome』でストーリーボード・リビジョニストとしてキャリアをスタートさせる。『アドベンチャー・タイム』では早くもストーリーボードに昇格し、主要なエピソードを担当。
 2013年に発表した『クラレンス』のパイロット版がその年のエミー賞にノミネートされて話題となり、2014年に本放送開始。この時、ペイジは若干24歳*9レベッカ・シュガーを超えてカートゥーン・ネットワーク史上最年少のクリエイターとなった。

 しかし順風満帆かに見えたペイジをスキャンダルが襲う。
 2014年、『クラレンス』でストーリーボード・リビジョニストとして従事していた女性スタッフからセクハラで告発されたのだ。このとき彼は精神的に病んでいたらしいのだが、セクハラの言い訳になるはずもない。子ども向け番組としてはあまりに致命的なスキャンダルであり、カートゥーン・ネットワークは即刻ペイジの解雇を決める。将来を嘱望されたアニメ界のワンダーボーイの声望は、一夜にして地に落ちたのである。
 番組はペイジの盟友でクリエイティブ・ディレクターを務める Nelson Boles へと引き継がれた。
 以後、彼の行方は杳として知れない……かと思われていたが、コメディ・セントラルの『TripTank』なるお笑い番組のアニメーション担当監督してひっそり復活していた。

トムとジェリー・ショー(The Tom and Jerry Show)』, 2014-

www.youtube.com

  ・Bob Jaque(??年生)
 主な参加作品:『The Care Bears Movie』(アニメーター)→『イウォーク物語』(キャラクターレイアウト)→『The Adventures of Teddy Ruxpin』(キー・アニメーター)→『レンとスティンピー』(各話監督)→『The Baby Huey Show』(クリエイター)→『アンクル・グランパ』(各話監督)


  ボブ・ジャックは80年代からTVアニメーションの第一線で活動してきたベテラン・アニメーター。彼のことはよくわかんないんですが、『ポパイ』とフライシャー兄弟の作品のマニアで個人的に研究ブログもやってる、おそらくおもしろいおっさん。
  本作では同じくベテランである Darrell Van Citters(1956年生、『ルーニー・トゥーンズ』や『HiHI パフィー! アミユミ』などを監督)が全話監督を務めている。

  こういう作品がやっていると、もともとはハンナ・バーベラの子会社だったカートゥーン・ネットワークの出自が思い出されたりなんかします。そのハンナ・バーベラはワーナーに吸収合併されたわけで、DCとワーナーのコラボヒーローアニメをCNでやっているのはそんな事情も絡んでたりする。

『Mighty Magiswords』, 2015-

www.youtube.com

 ・Kyle A. Carrozza(1979年生、アート・インスティテュート・オブ・フィラデルフィア
 主な参加作品:『Fanboy & Chum Chum』(ストーリーボード・リビジョニスト)→『Danger Rangers』(ストーリーボード)→『スイチュー! フレンズ』(ストーリーボード)→『劇場版スポンジ・ボブ:海のみんなが世界を救Woo!』(キャラクター・レイアウト)→『Mighty Magiswords』(クリエイター)


 アニメーションはもちろん、声優・作曲・3Dモデリングまでこなす多才の人。高校生のころからスタジオに出入りして『アニマニアックス』を手伝ったりしていたそう。あまり、アニメーターとして王道を歩んでおらず、最初に入社したスタジオがアニメ制作をやめたせいでクビになったり、ディズニーやニコロデオンなど数社を渡り歩いてストーリーボードを担当したり、コミックを作ったりととにかく掴みどころがない。
 本作は中世ファンタジーの枠組みでナンセンスギャグをやるノリっぽい。

『ぼくらベアベアーズ!』,2015-

www.youtube.com

 ・Daniel Chong(1978年生、カルアーツ)
 主な参加作品:『ボルト』(ストーリー・アーティスト)→『カーズ2』(ストーリーボード)→『ロラックスおじさんと不思議な種』(ストーリーボード)→『怪盗グルーのミニオン危機一発』(ストーリーボード、クレジット無し)→『トイ・ストーリー・オブ・テラー!』(ストーリーボード)→『ぼくらベアベアーズ』(クリエイター)


  ほぼ同年代の苦労人カロッツァとは対象的にダニエル・チョンはディズニー、ピクサー、イルミネーション・スタジオというアニメ映画トップクラスのスタジオで仕事をしてきた超エリート。『インサイド・ヘッド』にも関わったという。
  そんな彼がピクサーに在籍していた2010年にブログで発表した web コミックが『The Three Bare Bears』。
 
The Three Bare Bears

  このコミックを原型として2014年にパイロット版が作られ、2015年から『We are Bare Bears』として本放送開始。ゆるい作風がウケたのか、クリエイターの毛並みに対する信頼性からかはわからないが、翌年にはNHKのBSでも放送がスタートした。

『バッグス! ルーニー・テューンズ・プロダクション(Wabbit)』, 2015-

www.youtube.com

Erik Kuska(1972年生、ノーザン・イリノイ大学
 主な参加作品:『ヘラクレス』(アニメーター)→『プリンス・オブ・エジプト』(アニメーター)→『スピリット』(アニメーター)→『ルーニー・テューンズ:バック・イン・アクション』(アニメーター)→『ザ・シンプソンズ・ムービー』(キャラクター・レイアウト)→『アメリカン・ダッド』(ストーリーボード)→『バッグス!』(クリエイター)


 タイトルの通り、『バッグス・バニー』のリブートというかリメイクというかリ・イマジネーションというか。ともかく「ルーニー・テューンズ」シリーズの最新作。

 クリエイターのクスカは90年代から活躍してきたベテラン。キャリア最初期にはディズニーの『ヘラクレス』に携わったものの、斜陽のディズニーに見切りをつけたのか設立されたばかりのドリームワークス・アニメーションへ移籍して『プリンス・オブ・エジプト』などに参加。
 その後、FOXの仕事でTVアニメ業界入り。『アメリカン・ダッド』の主力ストーリーボード・アーティストとして名を挙げ、2013年にワーナーでプロデューサー職を得る。

www.youtube.com
 (デモリール。一線級で仕事してきたことが窺い知れる)

 カートゥーン・ネットワークでは完全新作を若い世代に賭ける一方で、こういう昔からある鉄板IPについては熟練した職人に任せる傾向にあるようだ。

『Bunnicula』, 2016-


Bunnicula | Bitten By Bunnicula | Boomerang UK


 ・Jessica Borutski(1983年生*10*11
 主な参加作品:『レンとスティンピー』(アニメーター)→『ルーニー・テューンズ・ショー』(キャラクターデザイン)→『Shazam!』(各話監督)→『バッグス!』(キャラクターデザイン、各話監督)→『Bunnicula』(クリエイター)


www.youtube.com
(2006年の自主制作短編「I Like Pandas」)

本人のブログ。

 現在展開している「ルーニー・テューンズ」プロジェクトにおける主要人物で、ルーニー・テューンズ系のキャラクターデザインを担当している。石油会社のイラストレーターを経て、『レンとスティンピー』などを作ったアニメ会社 Spümcø でアニメーターのキャリアをスタートさせ、現在はワーナー所属。
 『Bunnicula』は人気子ども向け小説が原作であるが、やはり「今のルーニー・テューンズ」っぽい絵柄。

パワーパフガールズ(The Powderpuff Girls)』2016-

www.youtube.com

 ・Nick Jenningsサンノゼ州立大学)
 主な参加作品:『ロッコーのモダンライフ』(アートディレクター、脚本、背景ペインター)→『ブレイブ・リトル・トースター(映画)』(背景ペインター)→『スポンジ・ボブ』(ディベロッパー、アート・ディレクター)→『The Marvelous Misadventures of Flapjack』(背景ペインター)→『アドベンチャー・タイム』(アートディレクター、スーパーバイジング・プロデューサー、タイトルカード・ペインター)→『レギュラーSHOW』(背景ペインター)→『パワーパフガールズ』(エグゼクティブ・プロデューサー、監督)


 TVアニメ界の巨魁、ニック・ジェニングス。「『スポンジ・ボブ』の立ち上げに参加し、『アドベンチャー・タイム』と『レギュラーSHOW』で背景やってるのだいたいこの人」といえばその偉大さの一端が伝わるだろうか。
 92年にニコロデオンに入社して地位を築いた後、08年ごろにカートゥーン・ネットワークへアート・ディレクターとして移籍。CNでは『Flapjack』、『アドベンチャー・タイム』、『レギュラーSHOW』と人気番組の雰囲気づくりに大きく貢献した。
 それこそ2000年代後半のカートゥーン・ネットワークの画調と雰囲気を決定づけたマクラッケン亡き後(死んでないけど)の『パワーパフガールズ』は総監督のジェニングスを始めとした多頭体制で仕切るようだが、どう転ぶのか。
 Wired の記事によると、ジェンダー的な要素が増しましされたポリティカルな内容になるっぽいけれども。『スティーヴン・ユニバース』を睨んでのことか。
 
パワーパフガールズが帰ってきた──最高のタイミングで!|WIRED.jp



DVD出してくれるぶんだけ『アドベンチャー・タイム』はありがたい……神のようだ……。

*1:カリフォルニア芸術大学

*2:Random Cartoon! というオムニバス作品のうちのひとつ

*3:彼らとはカートゥーン・ネットワークの『The Marvelous Misadventures of Flapjack』で一緒に脚本・ストーリボードとしてまた机をならべることととなる

*4:クリエイターの代わりにシリーズ全体を監督する役割

*5:インテルは『アドベンチャー・タイム』の脚本も書いている

*6:原作付きの場合のクリエイターに相当

*7:作監のコンテを直す補助みたいな役割

*8:『スティーブン・ユニバース』後も歌曲を提供しつづけている

*9:IMDBでは1987年1月生まれとされているが、彼のブログなどを確認するかぎり1989年10月生まれが正しい

*10:http://murdogb.blogspot.jp/2006/11/jessicas-birthday.html

*11:詳しい学歴は不明だが、『レンとスティンピー』に関わった時点で20歳だから、おそらくは高卒叩き上げ。