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バカがみるみるそれなりに探偵になるボードゲーム:『インサイダー・ゲーム』

 先日、友人らで集まってウルトラ久々にボードゲームをやったのですが、そこで紹介された『インサイダー・ゲーム』がウルトラ楽しくてエピックだったのでご紹介。


オインクゲームズは、2016年6月19日に名古屋国際会議場で開催される「ファミリーゲームフェスティバル... - News | Oink Games開発元の紹介

インサイダー・ゲーム

インサイダー・ゲーム


概要

『インサイダー・ゲーム』は Oink Games *1から今年六月に発売されたボードゲームだ。
 「うみがめのスープ」に代表されるシチュエーション・パズル(出題者がある物語の頭とオチだけを与え、回答者がそのオチに至るまでのストーリーを考えるゲーム)と『汝人狼なりや?』に代表される「プレイヤー間に隠れている裏切り者を告発する推理ゲーム」を合わせたようなシステムを採用している。
 と、いえば身も蓋もオリジナリティもないゲームのように思われるかもしれないけれど、これがなかなか独特のプレイ感があって、おもしろい。『クルード』、『スコットランド・ヤード』、『藪の中』、人狼、『レジスタンス』と「推理」に焦点を当てたゲームはボドゲ界に綺羅星のごとく瞬いており、言ってみれば推理ゲームでないボードゲームのほうが少数派なんでしょうけれども、ことミステリ的な意味での「推理」ものとして本作は最高傑作に近いのではないでしょうか。

 以下、ルールと流れの説明。他人のキットで遊んだので、公式とくらべて細かい間違いがあるかもしれません。*2フェイズ名とかはこちらで勝手に名付けたものです。


ルールと流れ

パッケージの内容

 ・ルールブック
 ・砂時計
 ・役職(マスター、インサイダー、庶民)の書かれた札
 ・裏面に1~6までの数字、表面に1~6までの数字に対応した「答え」が書かれているカードの山。

役職ごとの役割と勝利条件

 【庶民陣営】
 ・庶民:占める人数が一番多い役職。無能力。ゲームごとに「答え」を探り当て、かつプレイヤー間に紛れたインサイダーを多数決によって告発することで勝利(インサイダーの敗北)。マスターと同陣営。
 ・マスター:いわゆるゲームマスターだが、庶民陣営の一員としてゲームに参加するプレイヤーでもある。「答え」を事前に知ることができる。基本的に質問フェイズ中は発言することを許されておらず、庶民たちが質問してきたときのみ、その質問に対して「はい」か「いいえ」で答えることができる。
 一方で推理フェイズでは自由に発言でき、庶民陣営としてインサイダーを追求することになる。投票権もある。勝利条件は庶民と同一。


 【インサイダー陣営】
・インサイダー:庶民陣営にとって獅子身中の敵。マスター以外(つまり、【質問フェイズ】に参加するプレイヤー)では唯一「答え」を知っている。プレイヤーたちのなかに潜伏し、制限時間内に庶民たちがうまく「答え」にたどり着くように誘導しつつ、インサイダーであることをさとられないように行動しなければならない。
 制限時間内に「答え」を庶民陣営に当てさせ、かつ告発パートでインサイダーとして指名されなかった場合に勝利。


ゲームの流れ

 一【役職決め】
 役職の書かれた札(人数分)を裏面にしたまま、各プレイヤーに配る。
 プレイヤーは他プレイヤーにわからないように自分の役職を確認する。マスターに当たった場合は札を開示してマスターであることを宣言し、以後進行を取り仕切る。それ以外の庶民とインサイダーは、ゲーム終了まで役職を公言してはならない。
 役職のうちわけは基本的にマスター1人、インサイダー1人、それ以外が庶民。バリエーションがあるのかもしれませんが、手元にキットがないのでわかりません。


 二【「答え」の決定】
 マスター以外のプレイヤーたちは目を閉じる。マスターは場の中央に置かれたカードの山から一枚めくり、山の横にオモテ面にして置く。マスターはカードの表面に書かれた6つの「答え」候補と残った山の一番上のカードの裏面に表示されている数字を対応させ、答えを決定する(例:「1. 猫 2.犬 3.狸 4.狐 5.兎 6.猿」と書かれたカードをひき、山の表示ナンバーが「3」だった場合、そのゲームの「答え」は「狸」となる)。もちろん、「答え」を他言してはならない。
 次に、マスターは表示されたカードをそのままにして目を閉じ、インサイダーにだけ目を開けるよう指示する。インサイダーは制限時間(マスターがカウントダウンする)内に「答え」を確認し、ふたたび目を閉じる。
 インサイダーによる確認が終わったら、マスターは再び目を開け、「答え」の表示されたカードを裏にして山の一番上に戻す。*3それが終わったらプレイヤー全員に目を開けるように指示する。


 三【質問フェイズ】
 マスターが砂時計を回し、カウントダウンが始まった瞬間からプレイヤーたちはマスターへの質問を許可される。
 プレイヤーたちは「それは生き物ですか?」「それは食べられますか?」「それは硬いですか?」など質問をしていき、マスターはそれに「はい」「いいえ」「わからない」のみで応答する。発言の順番は自由。*4
 プレイヤーが「それは◯◯ですか?」(例:「それは狸ですか?」)と「答え」(あるいはそれの別称)を名指しして正解したら、砂時計を逆転させて【推理フェイズ】へ移行。
 砂時計の砂が尽きる、すなわち制限時間内に「答え」に辿りつけなかった場合、庶民陣営もインサイダー陣営も共倒れ的に敗北扱いとなる。


 四【推理フェイズ】
 プレイヤーたちは互いに相談しあい、制限時間内にその場にいるインサイダーが誰であるかを推理する。このとき、ゲームマスターも話し合いに参加することができる。
 インサイダーは自分に嫌疑がかからないようにうまいこと振る舞わないといけない。
 逆転させていた砂時計の砂が尽きると【告発フェイズ】へ移行。つまり、【質問フェイズ】に要した時間=【推理フェイズ】に使える時間ということになる。


 五【告発フェイズ】 まず、(最もインサイダー容疑のかかりやすい)正解者がインサイダーであるかの多数決を(マスターを含めた)挙手で取る。決を取ったのち、その結果に関わりなく、正解者は札を開示する。
 このとき、挙手が過半数を超えたら正解者がインサイダーとして指名される。正解者が本当にインサイダーだった場合は庶民陣営の勝利。はずれ(庶民)だった場合はインサイダーの勝利となる。
 挙手者が過半数を超えなかった(正解者をインサイダーとして告発しなかった)場合。正解者の正体がインサイダーであったらインサイダーの勝利。正解者が庶民であったら更にインサイダーを追求するべく、ゲームは続行される。

 正解者がインサイダーとして告発されず、かつ正解者が庶民であった場合にのみ、【告発フェイズ】の第二段階へと進む。投票である。
 プレイヤーたちは自分の考えるインサイダーをめいめいで一斉に指さして指名する。もちろん、このとき、すでに札が開示されているマスターと正解者庶民は投票先から除外される(どちらのプレイヤーも投票権は有する)。
 投票で一番多くの票を獲得したプレイヤーがインサイダーとして告発される。告発されたプレイヤーは札を開示する。それがインサイダーであれば庶民陣営の勝利。庶民であればインサイダーの勝利。

 これで一ゲームが終了。


評価

人狼ゲームの初日吊りの凡庸な退屈さ

 先にも述べたが、プレイの感触としては前半シチュエーションパズル→後半人狼ゲームのバイアスロンに近い。ルールもわかりやすく、一ゲームあたりの所用時間も短いため間口は広い。

 本作で注目すべきは、推理ゲームとしての「推理」の純度がかなり高くデザインされていることだ。
 たとえば人狼ゲームには「初日吊り問題」というのがある。人狼ゲームでは「発言」と「処刑投票の投票先」の二つを大きな推理材料として用いる。だが、前日の処刑を行っておらず、狼の襲撃も無く、よって発言することもなにもないような状況では、事実上、プレイヤーに与えられた推理材料がゼロといっていい。また、こうした推理材料の不足を補うべき能力者の能力も初日では発動しない、あるいは有効でないものが多い。
 初日で唯一有効である推理材料としては、カミングアウトした能力者(多くの場合は直で狼と村人を指摘できる占い師)とその偽者、および彼らが指名した村人が一応の白候補として投票先から除外されるくらい*5だろうか。しかしその場合も、「白っぽい人」が増えてしまうだけで、狼を引き当てるべき投票の材料としては機能しない。
 これらが何を引き起こすかといえば、ゲーム序盤のシステマチックな進行とそれによるプレイヤーの無気力だ。人狼ゲームは「ゼロからはじめて真相へ到達する」というデザインをそのまま打ち出しすぎたがために、かえって序盤の自由を失ってダルい感じになってしまったのである。
 人狼は確定・不確定の材料が増えてくるにしたがって尻上がり的に面白くなる推理ゲームだ。反面、場が暖まらないうちに理不尽に退場するプレイヤーを必然的に生み出してしまう設計であり、しかもワンプレイのゲーム時間が長いため、序盤で退場するプレイヤーの幸福度は低い。*6そうしたスロースターターなデザインが人狼ゲームを厭う人々を生み出す一因となってきた。
 まあ逆にいえば、人狼ゲームはそうした欠点を含んでいてもなお今日の人気を博しているのであり、これはゲーム全体のデザインが秀抜な証拠であろう、とここでは言っておく。

 さて、『インサイダー・ゲーム』は人狼の「初日吊り問題」の欠点を全面的に補ったゲームであるといえる。
 「両陣営にいったんゴールを共有させて、別のゲームをまるまる一回やる」という荒業によって、ゲームの進行度に関わらず盛り上がりを維持しながら、不確定以上・確定未満のちょうどいい具合の推理材料を提供し、発言の内容・タイミング・流れという人狼ではプライオリティの低い情報の価値を高めることに成功した。
 人狼にしろ『レジスタンス』にしろ、プレイヤーに紛れた裏切り者を探す系のゲームは対立陣営の目標を相反するようにデザインされ*7、裏切り者は一見多数はに協調しているようで同時に裏で妨害してる、というアンビバレンツな行動が要求される。とうぜん、その両方を同時に達成するのは無理なので、どこかでネジレやほころびが出てしまう。そのほころびを、多数派は摘発するわけだ。
 ところが『インサイダー・ゲーム』ではどちらの陣営に属していても与えられる勝利条件は【質問フェイズ】終了まで変わらない。「全面的に庶民陣営に協力しても、いや協力するからこそインサイダー側にジレンマが発生して怪しくなる」というのは(まあ僕がボドゲに疎いからというのもあるけれど)フレッシュな視点だ。


庶民、マスター、インサイダー、スパイ

 犯人たるインサイダーが考慮しなければならない要素は多岐にわたる。
 【質問フェイズ】ではノーヒントから「答え」を探し当てないといけない。インサイダーの助けなしに「答え」に到達するのは容易なことではない。かといって、インサイダーがあまりに「カンのいい発言」を連発すると後々あやしまれる。さればとて、ぼんくらな庶民どもにまかせて発言しないようだと制限時間内に「答え」に辿りつけない。
 制限時間も重要だ。先述したように、【推理フェイズ】に費やせる時間は【質問フェイズ】に要した時間に等しい。つまり、「答え」が早く出れば出るほど犯人当てに使える時間は短くなるので、インサイダー有利に働く。だからといって、早い段階で自分で「答え」を言ってしまうのは本末転倒だ。庶民にとっては逆の意味で推理時間を必要としない状況を作り出してしまうかもしれない。
 要するにはインサイダー役の人物は、「答え」から適度な距離をとりつつ庶民がなるべく早期に正解できるようにお膳立てしなければならない。このバランスの舵取りが難しい。

 ゲームマスターが直接参加するボードゲームは珍しいが、それゆえにマスターは【推理フェイズ】において重要な役割を果たす。
 【質問フェイズ】のマスターは単に質問に答える機械ではない。庶民陣営で唯一「答え」を知った状態で、一段高所から場や流れを見渡せる、いわばミステリおける名探偵的なアドバンテージを持った人物なのだ。
 果たして自分がインサイダーだとしたらどうやって「答え」へ誘導していくだろうか、ということを常に念頭に置きつつ、流れを観察していけば、自ずと怪しい人物があぶりだされていく。これはインサイダー探しより「答え」当てに忙しい庶民にはなかなか持てない視点だ。
 【推理フェイズ】におけるゲームマスターの発言には一目置くべきだろう。

 庶民たちは【質問フェイズ】と【推理フェイズ】で異なる役割を要求される。本来なら【推理フェイズ】の材料にするために【質問フェイズ】での各プレイヤーの挙動に目を光らせておきたいところだが、【質問フェイズ】では「答え」探しに汲々としがちでなかなか難しい。
 とはいえ、【質問フェイズ】でインサイダーが無理やりでしゃばるをえない状況を演出するのは庶民プレイヤーたちの器量のうちだ。仮にインサイダーが傍目から見たら違和感なく正解かそれに近いものにたどり着いたような場合でも、それに不自然な飛躍を見いだせるのは凡人探偵として足並みを揃える庶民たちだからこそだ。

 そう、気づきこそがこのゲームのキモだ。
 冒頭で「「推理」に焦点を当てたものとしては最高傑作に近い」と放言したのは、本作がロジックに基づく、ヒューマンな気づきに特化したデザインを採用していることを指している。
 機械的な進行を防ぐために確定情報を最小限にしかしゲームが立ち行く程度に抑える。役職数をぎりぎりまで絞ることでマスターインサイダー含めた全員が探偵として思考しなければならない状況を作る。推理に使える材料を数分間の決定的な会話(と場合によっては投票)に限定することで誰もが平等に探偵として推理に参加できる。*8
 これらの要素がすべて人間の顔をした推理ゲームの完成に寄与している。Swag.


汝、その人を知れ。

 余談になるけれども、『インサイダー・ゲーム』は初対面の人たちとやるとなお「気付き」が増えて面白いかもしれない。
 一般にボードゲームのプレイスタイルにはその人の人格や性格が出やすいものだけれども、『インサイダー・ゲーム』はコミュニケーションに関わるゲームであるため、普段のその人が日常的に(意識的にであれ無意識的にであれ)とっているコミュニケーション戦略が浮き立ちやすい。特にインサイダーになったときはもろにその人となりが出る。
 要するに、「答え」へ誘導するためにどう段取りをつくり上げるか、だ。
 最初っから全力で露骨に「答え」へ誘導する人、乾坤一擲の誘導にかける人、段取りが未完成なのにあからさまなタイミングで「答え」を言っちゃう人、絶対自分では「答え」を口にしない人、そもそも徹底的に誘導を避ける人、誘導するにしても七百八十度くらいひねったような遠回りすぎる質問しちゃう人、どうしても空気がずれてる人……インサイダーで上手い人は後から振り返ってみると致命的で露骨な誘導をしていても、その場では自然に発言したような印象をあたえるのが上手い。そういう人はふだんからそういう場に強いようで、僕が一緒にプレイして上手だった後輩は就活のときもグループ討論で一回しか落ちなかった*9そうです。就活生にもオススメだ。

 基本的にボドゲはゲームを重ねていくほどその人のプレイスタイルが把握しやすくなる。本作は一ゲームが10分〜20分程度なため、どんどんプレイログが溜まっていく。プレイヤーごとの傾向がつかみやすくなる。その人がわかっていく。それどころか世界の真実がわかっていってしまう。どいつもこいつも善人面してても、一皮剥げば皆同じ腐ったオオカミ野郎なんだ。この世に正義なんてないんだ。しょせん食うか食われるか、弱肉強食――と『ディプロマシー』みたいな感じはならない程度のほんわか人間不信ゲームです。

 単純に、楽しくプレイすると仲良くなれるしね。


拡張可能性

 ちなみにゲームの性質上、「答え」の候補を知っている人はどうしても強くなる。といっても、お題のカードは42枚で一枚につき6個候補が書かれているので、252個暗記せねばならない。まあ、気合を入れれば覚えられないものでもないし、ある程度「答え」の傾向を知るだけでもアドバンテージは出る。
 ゲームの習熟具合に応じて、オリジナルのお題カードを作るとよいかもしれない。

 何度も繰り返しているように本作は既存のゲームの合体技なので、前半のシチュエーション・パズル部の「答え」をそのまま別の形にアレンジできるはずだ。
 シチュエーション・パズルといえば『ブラック・ストーリーズ』シリーズ。これは「うみがめのスープ」問題をひたらすら集めたゲーム、というか設問集だ。この『ブラック・ストーリーズ』のカードをそっくり『インサイダー・ゲーム』のものと入れ替えれば、より歯応えのあるプレイ体験をできるのではないか。その場合、もちろん『ブラック・ストーリーズ』はモノではなくストーリーを当てなければならなくてより複雑なので、制限時間を延ばす必要が出てくるかと思う。



*1:他に『藪の中』や『小早川』など小ぶりでシンプルながら知的な戦略が要求されるゲームを作っているメーカー

*2:明日キットが手に入る予定なんで記事の公開を伸ばしてもよかったんだけどまあ

*3:プレイしたゲームではそうしていた。一ゲーム終了したあとにまた新しいゲームを始めるときにうっかり山をシャッフルし忘れて前ゲームと答えが被る事故が発生していたりなんかしてたので、個人的には答えを表示された札を山に戻さず裏に返すか、山の一番下に戻す方がいいと思う。まあ、札の数字とカードごとの「答え」候補を丸暗記してるプレーヤーが存在した場合には「答え」がわかってしまうかもしれないけど、そんなことのできるカード数じゃないし

*4:特に指定はないので順番に質問していくターン制を採用しても面白いかもしれない

*5:パターンとしては占い師が初日に狼を引き当てるものもあるが、確率は低いし、その日の投票先がインスタントに決まってしまうため推理要素という面ではマイナスに作用する

*6:まあ、退場した人間は観戦側に回るため、それが面白いといえば面白いのかもしれないが、やはりゲームである以上は参加して愉しみたいものだ

*7:たとえば『レジスタンス』であれば、スパイ陣営に割り振られたプレイヤーは正体を隠しながらレジスタンス陣営の遂行するミッションを妨害する

*8:とはいえ、人数が増えればその分会話情報も増えて把握しづらくなる。参加人数が八人までとなっているのも、このためだろう

*9:母数は聞いてないので一戦一敗の可能性もある