一月ごとにまとめるはずが三月あたりからめんどくさくなったのでこの有様です。どの有様かな。
というわけで、六月末日までに出た新刊漫画(新連載作)で個人的におもしろかったな、早く続きが読みたいな、と思ったものを選びました。いつのまにか既に終わってたらすいません。
以前こういうリスト記事で72作とか挙げたら「多すぎる」と怒られたので、反省をふまえ、今回は十作+αにします。αには任意の数字が入ります。とりあえず覚えてる分だけなので、面白い作品で忘れたものがあったらごめんなさい。いや、あるんですよ。面白くても忘れるもの。
例のごとくKindle版出ているやつ限定です。言っている意味がわかりますか、T島社? メガストア?
短編集とか単発長編とかは別の記事でやります。
では、いってみよう。
2018年上半期の十選
まつだこうた『骸積みのボルテ』(バーズコミックス)
従属先であった帝国の奸計によって滅ぼされた部族の生き残り、ボルテ・コア。平凡な少女にすぎなかった彼女は戦後、なぜかほとんど不死に近い自己再生能力を具えるようになり、帝国兵士を襲うテロリスト「骸積み」として恐れられていた。ボルテは親兄弟の仇で現在は行方不明となっている帝国皇帝の娘イリアを探して帝国領内を彷徨う。
『おかか』、『超人間要塞 ヒロシ戦記』のまつだこうた先生の最新作。複数の時制が入り乱れる語りをとおして「骸積み」誕生を描く実験的な開幕からも新しいファンタジーを紡ぎ出そうする先生の意欲が伺えます。
戦場で同胞を皆殺しにされた女戦士が人間離れした戦闘能力を発現して夜狼のような復讐マシーンと化す漫画といえば、伊藤悠先生の『シュトヘル』を思い出さずにはいられないわけですが、伊藤先生のシュッとシャープで緊張感のある線に比べ、まつだ先生の産み出す柔らかくラブリーな輪郭のキャラクターたちは獣人の住む世界感と相まって、どこかほのぼのとした印象を受けます。そうした柔和なキャラデザインを活かして骸積み化する前のボルテの日常パートだったり、ボルテを追う帝国の「骸積み」討伐部隊の面々を描く一方で、戦闘シーンではバイオレンスが一挙に爆発する。このメリハリが導入部の複雑な語りと非常にマッチしていて、読者にワクワクを与えてくれるのです。
一巻のラストページのヒキも見事。こんどこそ、の期待がふくらみます。
佐和田米『アクロトリップ』(りぼんマスコットコミックス)
魔法少女ベリーブロッサムが守る街に住む中学生、伊達地図子。ベリーブロッサムの大ファンである彼女はある日、街を脅かす悪の組織の総帥クロマから「うちの参謀にならないか」と勧誘を受ける。ベリーブロッサムによって倒されることを快感にしていたクロマだったのだが、あまりにもダメダメなため、このままだと戦闘で負けるだけでは済まされず組織ごと滅ぼされるのではないか、と危惧を抱いたのだ。悪の組織が潰されてしまえばベリーブロッサムの活躍も見られなくなってしまう……ベリーブロッサムを輝かせ続けるため、地図子はベリーブロッサムの「影」になる決断をする。
『りぼん』から現れた刺客。広義の魔法少女もの、といいたいところですが、ほとんどアイドルものに近い。アイドルものというか、アイドルファンもの、『推しが武道館に行ったら死ぬ』のノリに近いかな。いや、あそこまで狂ってはいませんが。
かわいくてがんばりやの魔法少女(アイドル)、地味な営業活動で彼女を支えるマスコット(マネージャー)、魔法少女の活躍に感涙し一介のファンでありながら売り出し戦略まで妄想し、好きが昂じてなんだかよくわからない仕事を始めてしまった主人公(ファン)、という構図に「ヴィランあってのヒーロー/ヒーローあってのヴィラン」という『LEGOバットマン』的なスーパーヒーローもののテーマを組み込んだ悪魔合体漫画です。
とにかくギャグがキレています。魔法少女も悪の総帥も主人公もそれぞれにポンコツで愛嬌があり、読んだらみんなだいすきになることうけあい。
山田果苗『東京城址女子高生』(ハルタコミックス)
都内の高校に通うあゆりは彼氏との痴話喧嘩のもつれで、たまたま通りがかった同級生に怪我をおわせてしまった。おわびを申し出るあゆりに対し、その同級生、美音は「東京城址散策部」に入部するよう要求する。城址とは昔あった城の跡のこと。気乗りしないあゆりだったが、美音になかば脅迫される形で世田谷城跡へ連れて行かれることに。
地味な題材を女子高生のキャッキャうふふで味付けして売ろうとするマンガ飽きた……と思っていた時期がわたしにもありました。
ややそそっかしくて荒っぽい江戸っ子な主人公と、一見善良だが悪意なく悪意をぶつけてくるサイコパス城址マニア女子の掛け合いのテンポが絶妙に心地よいです。女子二人のコンビが剥き出しでやりあってる感は同じ『ハルタ』連載の『星明かりグラフィクス』に通じるものがあります(キャラ自体のタイプは全然違いますが)。
話づくりも巧い。一話ごとにあゆりが日常でぶつかる悩み未満のひっかかりをわざとらしすぎない程度に城址にまつわるエピソードとからめてクレバーに落としていて、これぞ短編の名手といった趣。
それにしてもここのところのハルタの新連載はどれも強いですね。
知るかバカうどん『君に愛されて痛かった』(バンチコミックス)
恋慕していた男子に刺されて死んでしまった女子高生の回想から始まる衝撃のオープニング。女子高生かなえはクラスでは人気者グループの下っ端として必死に居場所を作る一方で、夜になると援助交際に走って「必要とされる」欲求を満たしていた。が、ある日、合コンで知り合った野球部のイケメン寛に援交現場を見咎められたことをきっかけ、もともと歪んでいた日常が音をたてて軋んでいく。
映画にしろマンガにしろ、いじめという問題を多視点で描く作品が増えたように思いますけれど、これは本来「みんなかわいそう」に還元されるそうしたテクニックを「みんなクソで世界はゴミだ」にズラす禁断の呪法に変えていて、おっとろしいなとおもいます。なにかと怠惰におちがちなエグい系残酷話でありながらも、テンプレに対する繊細な反抗が迸っていて、今後が実に愉しみ。特に「わたしには友達(みんな)が居るんだ」という感動セリフの定型文をあそこまで悪意たっぷりに読み替られるに至っては感動すらおぼえました。
『繋がる個体』の山本中学先生新作。極端な引っ込み思案と一風変わった名字のせいで陰惨な中学時代を送っていた西名生蓮。彼は学生生活を「リセット」しようと昨年まで女子校だった高校に入学し、男子が二人しかいないクラスに振り分けられる……も入学初日から緊張で嘔吐してしまう。果たして彼は女子だらけのクラスで自分の居場所を築けるのか。
『君に愛されて痛かった』が「世界は残酷です」という学園ものなら、本作は「世界は思ったよりもやさしい」というお話。
常に後ろ向きな自意識モノローグを垂れ流しているコミュ障男子が変わりたいと願い、その一歩を踏み出そうする。その行為自体は美しくあっても現実問題、世間というのはそうした勇気ある一歩に対していつも理解があるわけではありません。
が、本作ではとにかくそういう小さな勇気をとにかく肯定してくれます。つながろうとさえ願うのなら、コミュニケーションをはかる気持ちさえあるのなら、他人はちゃんと応答してくれるのだよ、という至極まっとうな応援をしてくれるいい漫画です。そのやさしさが嘘くさかったり、上っ面をなぞるだけにならないキャラクターの深度も魅力です。
福島聡『バララッシュ』(ハルタコミックス)
2017年。アニメ監督・山口奏と作画監督・宇部了の幼馴染コンビは初めてのオリジナル長編劇場アニメを成功させた。物語はそこから三十年を遡り、1987年、十七歳だった二人の出会いに移る。アニメオタクであることを隠してリア充グループに属していた山口は、天才的なイラストレーションの才能を持った宇部を見出し、二人でアニメ業界に進むことを決意する。彼らは志望する東京のアニメスタジオに見学に行くのだが、動画志望の宇部が即戦力として遇される一方で、演出志望の宇部はスタジオの監督から「お前は凡才だ」と言われ……。
ビーム系の狂児、ロマン溢れるひねくれマンガばかり描いてきた(印象)福島聡先生の最新作はなんとストレートに爽やかな青春もの。
昭和アニメ史を描く実録的な側面から言えば、アニメ版『アオイホノオ』とでも呼ぶべきでしょうか。アオイホノオもアニメですが。そこに日本橋ヨヲコ成分を足した感じ。
演出志望のアニオタとアニメーター志望の天才のコンビで、視点を前者に置いてるところが重要です。アニメーターは高校生でも絵をかけばある程度実力を示せるけれども、演出のほうはそうもいかない。後に監督として大成すると初手で示されているとはいえ、17才時点の山口は単にアニメをたくさん観てるだけのオタクにすぎません。その格差を自覚しつつ嫉妬する気持ちと、夢を共にする唯一の仲間である宇部に対する友情との間で揺れ動くワナビ男子の繊細な心があたたかなまなざしでもって描かれていて、実にうつつい。
大窪晶与『ヴラド・ドラクラ』(ハルタコミックス)
十五世紀の中欧、ワラキア公国(現ルーマニア)。周囲を大国に挟まれたこの小国に、新たな君主として若きヴラド三世が戴冠する。大国の思惑と有力貴族たちの専横に板挟みにされ難しい舵取りを迫られるヴラド三世であったが、政治的な妥協を重ねる陰で密かにある陰謀をめぐらせていた……。
”串刺し公”ヴラド三世はフィクションの題材にされる事が多い人物ですが、やはりクロースアップされるのは「元祖ドラキュラ」としての面であり、そこにきてスーパーナチュラルな能力を持たない一人の人間としての「ヴラド三世」を描こうとする試みはかなりめずらしい。
話としては陰謀と談合を中心とした政治劇。ワラキア独特の統治システムや中世ヨーロッパの文化などのディティールがきっちり書き込んだうえでの展開なので、読んでいてかなり説得力があり、飽きません。一筋縄ではいかない大貴族との権謀術数のやりあいは、全体的に静かなタッチに反して、とてもエキサイティング。ハルタは伝統的に歴史ものに強いですね。
ショートショートの名手、道満晴明先生による短編集。彗星メランコリアの接近により人類滅亡が秒読みとなった世界で織りなされる主に恋模様。
生き残るべきもなにも、上下巻なので次で終わるんですが。
あいかわらず『メランコリア』だったり『マグノリア』だったり映画・サブカルネタをしのばせつつ、各話ごとにきっちり小咄としてオチをつけ、世界を作り上げていくつまりはいつもの(『ニッケル・オデオン』以降の)道満晴明先生です。いつもの、な割りにマンネリ感が薄いのはドライさとリリカルさを共存させつつ気の利いた少し不思議エピソードをコンスタントに作り上げられる人材が現代日本にあまり存在しないからで、石黒正数先生が現状長編に専念している以上、しばらくは道満先生の天下が続くことでしょう。いいのか、ヒコロウ?
原作・久住昌之、漫画・武田すん『これ喰ってシメ!』(ニチブンコミックス)
「週刊漫画サボウル」の編集部でデスクとして辣腕をふるうアラフォー編集者神保マチ子(独身)が、若手編集者岡野ひじきとともに今日も元気に原稿を取り立てつつ、うまいメシを食う。
グルメ漫画ってそんな好きじゃないんですよね。嫌いでもないんですけど。読むとお腹空くじゃないですか。それでも年に一本は心にヒットする作品が出てくるのでつい漁ってしまいます。今年はそう、『これ喰ってシメ!』。
久住先生原作ものらしく、題材となる食べ物そのものに珍奇なところはありません。
しかし、読ませる力が圧倒的に高い。まず絵がいい。構成がいい。会話のテンポがいい。「今の私達に必要なのはそう……炭と水の化物と書いて……タンスイカブツ!」や「鮨……!? あの魚へんに旨いと書く?」といった久住先生一流のしょーもないギャグが効きまくっている。
悩みが解消されたり欝が治ったりするようなマンガではないですが、読み終わるといい感じの気分になります。
時代劇異能バトルロワイヤルものとでもいえばいいのか。絶海の孤島に送られた死刑囚たちが首切り役人(山田浅右衛門一門)とペアを組んで、ヤバい死刑囚やヤバい原生生物などを撃退しつつ、将軍様のために不老不死的なやつをゲットしようとする話。
二巻までに数組の死刑囚×執行人ペアが出てくるわけですが、どのペアもバディものとしてのケミストリーが高い。基本的には「敵」同士なので緊張感がある一方で、ペアごとに独特の関係が築かれていてキャラ自体の個性よりは関係性の個性で見せる、こういうのもあるんだな、という感慨。
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