名馬であれば馬のうち

読書、映画、ゲーム、その他。


読書、映画、その他。


誰が歴史と物語を描くのかーー『スターリンの葬送狂騒曲』

(The Death of Stalin、英・仏、ベルギー、アルマンド・イアヌッチ監督)



ロシアで上映禁止のブラックコメディー『スターリンの葬送狂騒曲』予告編公開 - シネマトゥデイ



 北野武の『アウトレイジ』シリーズにおける独特の緊張感、たとえばヤクザたちがあまりにもくだらない理屈であっけなく殺されていくさまを強調することで、一見穏やかな日常的な場面(ラーメンを食べている、歯医者で治療を受けている、自営の修理屋で車をメンテナンスしている)がおぞましいまでの死や暴力とシームレスに地続きであるのだと観客に意識させて常時集中を強いる、あの空気。
 何かのタイミングを間違えたら死ぬ。だがその「何か」がなんなのか、「タイミング」がいつなのかがわからない。気づいたら撃たれて死んでいる。ところが自分殺した理不尽にも腑に落ちるところを感じる。今までその理不尽に順応して、肌感覚でわかっているような気もあったから。


 独裁者スターリン死後の後継争いを描いた『スターリンの葬送狂騒曲』の基調は明確にコメディです。ときに戸惑いすら押しつけてくるある種のブラック・コメディなどとは違い、笑いどころを作って観客をわかりやすく笑わせてくれます。たとえそれが(おそらくロクでもない場所に行くのであろう)トラックの荷台にスターリンの別荘で働いていた使用人たちを強権的に乗せて送り出した兵士が、直後に横からNKVD*1の職員に頭を撃ち抜かれる、といった残酷なジョークであったとしてもです。
 さらにいえば、劇中で処刑されるような人物のほとんどは名もなき兵士や市民だけで、終盤のある場面を除き、メインキャラクターたる委員会の面々が直接的な暴力にさらされることはありません。彼らは一貫して、スターリンの死に右往左往するコメディアンとしてふるまいます。
 ところが弛緩した喜劇の裏には冒頭で述べたような”暴”のにおいが潜んでいる。委員会メンバーたちの吐く言葉、取る行動ひとつひとつが最終的に政敵を葬り、自らが権力の座を奪取するためのものであると私たちは知っています。
 ただキャラクターたちは自分たちの目的は知っているかもしれないけれど、自分たちの言動の効果までは把握しきれない。独裁者の死によって生じた一時的な権力的真空が、どの人物に権力を与えているのか不明瞭にしているのです。たとえばスターリンの遺児であるスヴェトラーナ。ライバル同士であるフルシチョフとベリヤはそれぞれの手管で彼女を味方につけ、後継者争いを優位に進めようとしますが、彼女にも思惑があってなかなかうまくいかない。ソ連北朝鮮のような王朝でないのですから、レーニンのこどもたちがそうであったように、スターリンの娘だからといって後継争いを左右する力を持つとはかぎりません。しかし、まったく影響しないともかぎらない。
 あるいはちょっとしたジョークで相手の機嫌を損ねたりするだけで、委員会内でのパワーバランスが傾くかもしれない。なにが自らの墓穴を掘ることにつながるかもわからない。油断のならない混沌とした曖昧さが、喜劇性とやがて爆発するであろう暴力の予感を高めてくれます。


 では、その混沌の正体とは何か。
 終盤、あるキャラクターが政敵を蹴落とし処刑した直後、スヴェトラーナにこのような「勝利宣言」を吐きます。


「これが"物語"を間違えた人間の末路です(This is how people get killed, when their stories don't fit.)」


 人にはそれぞれ描こうとしている物語があります。
 その Story 同士が闘争し、fit できなかった物語から滅ぼされていき、残ったものだけが公式な history となるーー人間同士の争いに関するシニカルで普遍的なテーマが本作には能く描かれています。


スターリンの葬送狂騒曲 (ShoPro Books)

スターリンの葬送狂騒曲 (ShoPro Books)

*1:旧ソの秘密警察機構。KGBの前進

2018年上半期の漫画ベスト10選〜単発長編、短編集編〜

proxia.hateblo.jp


 の続き。
 単発の長編や短編集、連作短編集などといった一巻完結のブツを扱います。
 例によって Kindle 化されている本限定です。

 感想が絶望的に書けなくなっていて、そういうときのわたしは決まってキング牧師の最後の演説を引用します。良い子のみんなはどこがそれなのか注意して考えてみよう。

 

十選

吐兎モノロブ『少女境界線』(ヤングキングコミックス)

少女境界線 (ヤングキングコミックス)

少女境界線 (ヤングキングコミックス)

 主に異能ガール・ミーツ・ガール短編集。特に言語的センスが強靭。セリフをドライブさせるために計算された構成もすばらしい。今年の新人ではかなりお気に入りです。
 収録作はわりとどれもいい。一番好きなのは「アイアンリーシュ」でしょうか。ストレスから夜な夜な怪物を「吐き出して」しまう女子高生の前に、跳ねっ返りの転校生が現れる。少女の秘密を目撃してしまった転校生は彼女を呼び出し、吐き出した怪物をバットで殴らせろと要求。二人の「ストレス解消」がはじまるーーという話で、書いていて気づきましたが、セックスですねこれはもはや。
 前後編ではあるものの、トータル40か50ページくらいでプロットもシンプルですが、はじまりからほぼ嘔吐少女側で進められてきた視点をクライマックスからラストまでの10ページぐらいで転校生側へ切り替えるのが絶妙。
 「アイアンリーシュ」以外の短編にも共通する美点ですが、とにかくオチのつけかたが気の利いていて、解放感に満ちています(ダークな話なときでさえも)。長編になるとこの才がどう作用してくるのか、愉しみなところです。


ルネッサンス吉田『あんたさぁ、』(ビッグコミックススペシャル)

あんたさぁ、 (ビッグコミックススペシャル)

あんたさぁ、 (ビッグコミックススペシャル)

 双極性障害の漫画家である葉子は漫画業に行き詰まり売春まがいの行為で小銭を稼ぎつつ、務め人の弟・幹生と一軒家に同居しています。今にも爆発しそうな希死念慮とせめぎあいながら、葉子は漫画家に復帰しようと奮闘します。そんな姉をどこか一線を引いた様子で見守る幹生。そこにはどうやら姉弟の過去がからんでいるようで……、みたいな。
 「自分ではない完全な他者を書こうとしましたが結局自分と自分になってしまいました」とはルネッサンス吉田先生のあとがきですが、先生はたしかに同じ人間の話ばかり書きます。なのにいつも新鮮でおもしろい。なんでおもしろいかっていえば主人公のセリフと思考が極限まで鋭利に研ぎ澄まされているからで、一コマごとにわたしたちはさまざまな精神的ポイントを削られます。その痛みが、重さがクセになる。読者と作者の共犯的な相互自傷が最高まで達し、作品としての強度も最強になったのが本作です。現実は殴ると痛いんですよ。
 そして何より……そう、姉ですね。
 至高の姉漫画は存在するのか。
 もしそんなものがあるとすれば、シナイ山の頂上で石版に雷によって刻まれたものでしかありえない、とあなたはいうかもしれない。しかし、現実にあるのです。ここに。日本の書店に実在するのです。Amazonで売っているのです。紙で、電子で。
 もちろん、私だってみなさんと同じように長生きしたい。長生きするのは良いことです。しかし、今はもうそんなことはどうでもいい。私は姉漫画の意志を遂行したい。私は姉漫画の神から山の頂上へ登ることを許されました。そして私は目の当たりにしたのです。約束の地をこの目で見たのです。私はあなたがたと共にそこへたどり着くことはできないかもしれません。ですが、私たちは必ずそこへ行けるのだとあなたがたへ伝えたい。今宵の私は幸福です。もはや不安など何もない。もう何者も恐れない。姉漫画の栄光をこの眼で見たのですから。



アッチあい『このかけがえのない地獄』(電撃コミックスNEXT)


このかけがえのない地獄 (電撃コミックスNEXT)

このかけがえのない地獄 (電撃コミックスNEXT)


 ガーリーにあふれた短編集。
 表題作である第一話は魔法少女版自称ヒーロー/ヴィジランテものをやって見事にオリジナリティを獲得した奇跡の一作。やさしい『キックアス』とでも形容すれば少しは合っているのでしょうか。
 第二話「死んでいる君」は投身自殺した女子高生の幽霊がなぜか全く関係ない男のアパートに現れて……というハートフルロマンス。
 第三話「4番目のヒロイン」は少年漫画雑誌で連載されているラブコメマンガの世界に別ジャンルのマンガのキャラが紛れ込んでしまい、そいつがモノ扱いされているラブコメのヒロインたちをめざめさせていくフェミニズム短編……と思ったらラストにすごいオチを持ってくる。
 第四話「黙れニート」は全反労働主義者必読の、おそらく地上唯一であろうニート万歳マンガ。
 第五話「僕は彼女の彼女」、ピュアな男子高校生が憧れの女子に告白したら、彼女の密かに焦がれている別の女子に似せた異性装をすることに条件にオーケーしてくれる男の娘もの……が百合になっていく。

 外から押し付けられる窮屈なイメージや価値観を拒み、オリジナルな幸せを発見する。一口にまとめれば、そんな短編集です。イチオシは第三話でしょうか。
 「4番目のヒロイン」の世界ではキャラたちが「自分たちは漫画雑誌で連載されているハーレムラブコメの登場人物」と認識しています。ハーレムラブコメ世界では定期的にラッキースケベなシーンをこなしていかないと存在が薄れていき、モブに降格する、という設定。
 そこへ本来は戦争漫画に出演するはずだった女の子が四番目のヒロインとして紛れ込んできてしまいます。この新ヒロインは初っ端からメインヒロインの座争奪戦から降り、ヒロイン候補の一人に「恋人でもない男におっぱい揉ませて悔しくないの?」と挑発します。
 みんなハーレムラブコメの世界で頑張っているのだから馬鹿にするな、と一度は戦争漫画女に対して反発するヒロイン候補。しかし、翌日「主人公」に会ってみるとなんだか気持ち悪く感じられ、ラッキースケベを拒絶するというラブコメ漫画にあるまじき行為に走ってまうのですが……。
 ともすれば教条的になりすぎてしまいそうなアンチラブコメ話を、既存の枠組みを一度転覆した上でもう一度「ラブコメ」に作り直すという超荒業。荒業なわりと最終的なバランスはきっちりとれている。全体的に膂力がストロングと言うか、いい意味での力業が印象的な作家さんです。

 

崇山祟『恐怖の口が目女』(リードカフェコミックス)


恐怖の口が目女 (LEED Café comics)

恐怖の口が目女 (LEED Café comics)


 ホラー(コメディ?)長編。
 あきらかにギャグ寄りの作風で、あー、こういうノリね……と読んでいたら、あれよあれよという間にとんでもない方向へ……ほんとうにとんでもない方向へ……。
 みてくれに反してかなりウェルメイドで読みやすい。ページ単位で同じ構図を効果的に繰り返す手法を用いるところなんか見ると、アート志向でもあるのでしょうか。ホラーとギャグとサイケとロマンとインディーマインドが高レベルでまとまった良作です。意外に他人にも勧めやすい。


panpanya『二匹目の金魚』(楽園コミックス)


二匹目の金魚

二匹目の金魚


 マジックかリアリズムかのスペクトラムでいうなら、panpanya先生の初期作はマジックの風景にリアリズムが散在しているかんじだったと思うんですが、近作はリアリズムに穴をうがってマジックをのぞき見ている感覚があります。
 本短編集ではそこからさらに発展して、いや、改めて怪しい非日常的な世界を創り上げなくたって、今われわれのいるこの日常にいくらでもファンタジーの種はあるんだ、と訴えてきます。
 日常に潜んで黄金色に輝く死角を狩る作家を、わたしたちはエッセイストと呼び習わします。本作で言うなら「今年を振り返って」や「知恵」、「小物入れの世界」といったところがどこに出してもするりと通る、いい意味でエッセイっぽい作品です。
 それでいて、わたしたちが夢見たころの panpanya 先生がそのままの姿でそこにいる安心もうしなわれてはいません。なぜでしょうね。おそらく、先生が日常の死角を収穫するだけではなくて、日常と日常のすきまにある暗黒空間を非日常的な想像力で埋めて現実として均していく、そんな営みをおこなっているからではないでしょうか。
 以上は二月に書いた文章をまんまコピペしたものです。


前田千明『OLD WEST] (アクションコミックス)


Old West (アクションコミックス)

Old West (アクションコミックス)


 やはり漫画家はガンアクションに歓びを見出す人種であるのでしょうか。『PEACE MAKER』(皆川亮二のほう)を始め「西部劇」をモチーフにしたマンガは現在にいたるまで途切れることなくほそぼそと作られつづけていて、それこそピスメのような「西部劇っぽいファンタジー」を含めればちょっとした市場です。*1
 ところが本短編集はリアルな昔のアメリカを舞台に置きながらも、あまり派手なガンアクションはやりません。それでいてたまらなく「西部劇」なんですね。
 たとえば、表題作「OLD WEST」では西部開拓時代の終わった1900年という年代設定。年老いて引退した元カウボーイの老人が隣人である農家の少年と交流を深めます。老人は若い頃から「夢や希望」を求めて西部や南部を渡り歩いた過去を少年に語る。成績優秀で進学を希望しているけれども家庭の事情でそれが困難な少年は、ロマン溢れる老人の昔話、そして「生きているうちに飼馬に乗って西海岸の海を見たい」という夢に自分の(叶わないであろう)夢を重ね、目を輝かせます。この老人は本物の「西部人」で、終わってしまった夢の時代をまだ体現しているんだ、と。
 ところがそれから間もなく老人の飼馬が死んでしまう。馬を失った老人はそれを潮に東部に住む娘の家に引っ越す準備を始めます。その姿を見た少年は「西海岸まで行きたいというのはウソだったのか?」と老人を問い詰め、農家の息子である自分はいくら勉強しても将来的にはすべて無駄で、自分はかつての老人のようにどこかへ行くことはできない、と吐露します。
 物語はそこからもう一段階飛躍していくわけですが、そこまではバラさないとして、かくのごとく前田千明先生は「夢」や「幻想」の終焉を、ときにはポジティブに、ときにはダークに描きます。そして、そこには常に「終わってしまった輝かしい可能性の時代」に対する(基本的には若い)登場人物たちのノスタルジーや憧れがついてまわるのです。
 その間に合わなかった過去への強烈なノスタルジーこそ、西部劇映画そのものでもあります。そもそも西部劇映画は始まった時点*2で「古き良き西部開拓時代」はとっくに記憶の彼方であって、だからこそファンタジーを投映できる場たりえたのでした。
 まさしく遅れてきてしまった人々による物語を描くことで、前田千明先生は「ガンアクションのほとんどない西部劇」を濃密に達成したのです。
 
 

板垣巴留BEAST COMPLEX』(少年チャンピオン・コミックス)



『BEASTERS』の板垣先生の初短編集。獣人ものです。主に草食獣と肉食獣の友情だったり恋愛だったりの関係を描きます。板垣先生が巧いのは「食う者と食われる者」というともすれば陳腐に響きかねない抽象的な構図から思わぬリアリティを突きつけてくるところで、たとえば第三話の「ラクダとオオカミ」における指の使い方なんかはこの上なくシャレています。
 動物モチーフの取扱についてはそれこそ『ズートピア』から顕在化してきているように思われますが、収録作のほとんどが『ズートピア』以前に描かれた本短編集ではわりとギリギリのバランスで、それでも渡りきってるのがセンスだなあ、と思うのです。


須藤佑実『みやこ美人夜話』(フィールコミックス)



 京美人がテーマのすこしふしぎな連作短編集。森見登美彦で育ったわたしたちの京都幻想をまた別の角度から満たしてくれる。出色は大学教授の娘が父親の教え子の「京女」と出会う第四夜。溝口健二の『お遊さま』をモチーフにとりつつ、ファンタジーの投影先としての京都を批評的に描ききっています。
 幻想はしょせん幻想なので最強ではないけれど、しかし幻想として了解したうえで現実を生きる糧ともなる、そういう話が多い気がします。つまりは恋の話でしょうか。須藤先生の品のあるタッチが作品全体の説得力に貢献しています。


谷口菜津子『彼女は宇宙一』(ビームコミックス)


彼女は宇宙一 (ビームコミックス)

彼女は宇宙一 (ビームコミックス)


 今年のサブカル漫画枠な短編集。ポップな絵柄で主として恋でドライヴして暴走まで行ってしまう人びとをSFチックに描きます。しかし個人的なお気に入りは恋バナでもSFでもない最終話の「ランチの憂鬱」でしょうか。クラスの人気者の取り巻きだった女の子が人気者の機嫌を損ねてイジメ地獄へ突入、という点では『君に愛されて痛かった』みたいな導入ですね。フツーのイジメ和解の話では「いじめてる側にもかわいそうな事情はあって〜」的なところから入るんでしょうけれど、「ランチの憂鬱」ではむしろ「いじめられている側のかわいそうな事情があって〜」からのシンパシーモードに入るのがちょっと変わっています。陰鬱な環境を持ち前のポップさの魔法でぜんぶチャラにしてしまうところがええですよね。
 ところで最近女の子のエモが高まって巨大ヒーローになったり怪獣になったりする漫画多くないですか。


三島芳治『ヴァレンタイン会議 三島芳治選集』(つゆくさ)



 『レストー夫人』でその名をとどろかせた鬼才、三島芳治がコミティアで出していた同人誌を電子化した短編集。
 三島先生の最大の魅力は言語やコミュニケーションに対するセンシティブさといいますか、フラジャイルさにあるのかもしれません。
「いとこリローデッド」では成長して疎遠になった従姉妹に対して男の子が学校で集めたことばをワードサラダのようにして投げるも従姉妹は振り向いてくれない、ではどうしたら振り向いてもらえるか、という話。人間は大人になると自分のだけのことばの世界に引きこもってしまい、他人のことばが聞こえない、あるいは他人に自分のことばを届けられない状況に陥りがちです。そうした齟齬を乗り越えてコミュニケーションが通じる瞬間をわたしたちは奇跡と呼び、魔法と呼びます。三島先生は文字通りに劇中で魔法をよく用いますね。なぜならコミュニケーションは魔法でしか実現しないと知っているから。

 ちなみに Kindle の Unlimited に入ってます。小原愼司先生の同人誌といっしょに iPad にでもつっこんで読みまくりましょう。


エッセイまんが部門

窓ハルカ『かすみ草とツマ』(ヤングジャンプコミックス)

かすみ草とツマ (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

かすみ草とツマ (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

・ひどい。


ペス山ポピー『実録 泣くまでボコられてはじめて恋に落ちました』(バンチコミックス)


実録 泣くまでボコられてはじめて恋に落ちました。(1) (BUNCH COMICS)

実録 泣くまでボコられてはじめて恋に落ちました。(1) (BUNCH COMICS)


・個別の変態性をどう普遍に寄せられるかという挑戦でもあり、成功しています。


みやざき明日香『強迫性障害です!』


強迫性障害です!

強迫性障害です!

・わかりみ。

*1:特に90年代は多かった気がする

*2:1903年の『大列車強盗

2018年上半期の生き残るべき新連載マンガ十選

 一月ごとにまとめるはずが三月あたりからめんどくさくなったのでこの有様です。どの有様かな。

 というわけで、六月末日までに出た新刊漫画(新連載作)で個人的におもしろかったな、早く続きが読みたいな、と思ったものを選びました。いつのまにか既に終わってたらすいません。

 以前こういうリスト記事で72作とか挙げたら「多すぎる」と怒られたので、反省をふまえ、今回は十作+αにします。αには任意の数字が入ります。とりあえず覚えてる分だけなので、面白い作品で忘れたものがあったらごめんなさい。いや、あるんですよ。面白くても忘れるもの。

 例のごとくKindle版出ているやつ限定です。言っている意味がわかりますか、T島社? メガストア
 短編集とか単発長編とかは別の記事でやります。
 では、いってみよう。

2018年上半期の十選

まつだこうた『骸積みのボルテ』(バーズコミックス)

骸積みのボルテ  (1) (バーズコミックス)

骸積みのボルテ (1) (バーズコミックス)

 従属先であった帝国の奸計によって滅ぼされた部族の生き残り、ボルテ・コア。平凡な少女にすぎなかった彼女は戦後、なぜかほとんど不死に近い自己再生能力を具えるようになり、帝国兵士を襲うテロリスト「骸積み」として恐れられていた。ボルテは親兄弟の仇で現在は行方不明となっている帝国皇帝の娘イリアを探して帝国領内を彷徨う。

おかか』、『超人間要塞 ヒロシ戦記』のまつだこうた先生の最新作。複数の時制が入り乱れる語りをとおして「骸積み」誕生を描く実験的な開幕からも新しいファンタジーを紡ぎ出そうする先生の意欲が伺えます。
 戦場で同胞を皆殺しにされた女戦士が人間離れした戦闘能力を発現して夜狼のような復讐マシーンと化す漫画といえば、伊藤悠先生の『シュトヘル』を思い出さずにはいられないわけですが、伊藤先生のシュッとシャープで緊張感のある線に比べ、まつだ先生の産み出す柔らかくラブリーな輪郭のキャラクターたちは獣人の住む世界感と相まって、どこかほのぼのとした印象を受けます。そうした柔和なキャラデザインを活かして骸積み化する前のボルテの日常パートだったり、ボルテを追う帝国の「骸積み」討伐部隊の面々を描く一方で、戦闘シーンではバイオレンスが一挙に爆発する。このメリハリが導入部の複雑な語りと非常にマッチしていて、読者にワクワクを与えてくれるのです。
 一巻のラストページのヒキも見事。こんどこそ、の期待がふくらみます。


佐和田米『アクロトリップ』(りぼんマスコットコミックス)

アクロトリップ 1 (りぼんマスコットコミックス)

アクロトリップ 1 (りぼんマスコットコミックス)

 魔法少女ベリーブロッサムが守る街に住む中学生、伊達地図子。ベリーブロッサムの大ファンである彼女はある日、街を脅かす悪の組織の総帥クロマから「うちの参謀にならないか」と勧誘を受ける。ベリーブロッサムによって倒されることを快感にしていたクロマだったのだが、あまりにもダメダメなため、このままだと戦闘で負けるだけでは済まされず組織ごと滅ぼされるのではないか、と危惧を抱いたのだ。悪の組織が潰されてしまえばベリーブロッサムの活躍も見られなくなってしまう……ベリーブロッサムを輝かせ続けるため、地図子はベリーブロッサムの「影」になる決断をする。

 『りぼん』から現れた刺客。広義の魔法少女もの、といいたいところですが、ほとんどアイドルものに近い。アイドルものというか、アイドルファンもの、『推しが武道館に行ったら死ぬ』のノリに近いかな。いや、あそこまで狂ってはいませんが。
 かわいくてがんばりやの魔法少女(アイドル)、地味な営業活動で彼女を支えるマスコット(マネージャー)、魔法少女の活躍に感涙し一介のファンでありながら売り出し戦略まで妄想し、好きが昂じてなんだかよくわからない仕事を始めてしまった主人公(ファン)、という構図に「ヴィランあってのヒーロー/ヒーローあってのヴィラン」という『LEGOバットマン』的なスーパーヒーローもののテーマを組み込んだ悪魔合体漫画です。
 とにかくギャグがキレています。魔法少女も悪の総帥も主人公もそれぞれにポンコツで愛嬌があり、読んだらみんなだいすきになることうけあい。


山田果苗『東京城址女子高生』(ハルタコミックス)

東京城址女子高生 1 (ハルタコミックス)

東京城址女子高生 1 (ハルタコミックス)

 都内の高校に通うあゆりは彼氏との痴話喧嘩のもつれで、たまたま通りがかった同級生に怪我をおわせてしまった。おわびを申し出るあゆりに対し、その同級生、美音は「東京城址散策部」に入部するよう要求する。城址とは昔あった城の跡のこと。気乗りしないあゆりだったが、美音になかば脅迫される形で世田谷城跡へ連れて行かれることに。

 地味な題材を女子高生のキャッキャうふふで味付けして売ろうとするマンガ飽きた……と思っていた時期がわたしにもありました。
 ややそそっかしくて荒っぽい江戸っ子な主人公と、一見善良だが悪意なく悪意をぶつけてくるサイコパス城址マニア女子の掛け合いのテンポが絶妙に心地よいです。女子二人のコンビが剥き出しでやりあってる感は同じ『ハルタ』連載の『星明かりグラフィクス』に通じるものがあります(キャラ自体のタイプは全然違いますが)。
 話づくりも巧い。一話ごとにあゆりが日常でぶつかる悩み未満のひっかかりをわざとらしすぎない程度に城址にまつわるエピソードとからめてクレバーに落としていて、これぞ短編の名手といった趣。
 それにしてもここのところのハルタの新連載はどれも強いですね。


知るかバカうどん『君に愛されて痛かった』(バンチコミックス)

君に愛されて痛かった (BUNCH COMICS)

君に愛されて痛かった (BUNCH COMICS)

 恋慕していた男子に刺されて死んでしまった女子高生の回想から始まる衝撃のオープニング。女子高生かなえはクラスでは人気者グループの下っ端として必死に居場所を作る一方で、夜になると援助交際に走って「必要とされる」欲求を満たしていた。が、ある日、合コンで知り合った野球部のイケメン寛に援交現場を見咎められたことをきっかけ、もともと歪んでいた日常が音をたてて軋んでいく。

 映画にしろマンガにしろ、いじめという問題を多視点で描く作品が増えたように思いますけれど、これは本来「みんなかわいそう」に還元されるそうしたテクニックを「みんなクソで世界はゴミだ」にズラす禁断の呪法に変えていて、おっとろしいなとおもいます。なにかと怠惰におちがちなエグい系残酷話でありながらも、テンプレに対する繊細な反抗が迸っていて、今後が実に愉しみ。特に「わたしには友達(みんな)が居るんだ」という感動セリフの定型文をあそこまで悪意たっぷりに読み替られるに至っては感動すらおぼえました。


山本中学『戯けてルネサンス』(ヤングキングコミックス)

戯けてルネサンス 1 (ヤングキングコミックス)

戯けてルネサンス 1 (ヤングキングコミックス)


 『繋がる個体』の山本中学先生新作。極端な引っ込み思案と一風変わった名字のせいで陰惨な中学時代を送っていた西名生蓮。彼は学生生活を「リセット」しようと昨年まで女子校だった高校に入学し、男子が二人しかいないクラスに振り分けられる……も入学初日から緊張で嘔吐してしまう。果たして彼は女子だらけのクラスで自分の居場所を築けるのか。

『君に愛されて痛かった』が「世界は残酷です」という学園ものなら、本作は「世界は思ったよりもやさしい」というお話。
 常に後ろ向きな自意識モノローグを垂れ流しているコミュ障男子が変わりたいと願い、その一歩を踏み出そうする。その行為自体は美しくあっても現実問題、世間というのはそうした勇気ある一歩に対していつも理解があるわけではありません。
 が、本作ではとにかくそういう小さな勇気をとにかく肯定してくれます。つながろうとさえ願うのなら、コミュニケーションをはかる気持ちさえあるのなら、他人はちゃんと応答してくれるのだよ、という至極まっとうな応援をしてくれるいい漫画です。そのやさしさが嘘くさかったり、上っ面をなぞるだけにならないキャラクターの深度も魅力です。


福島聡『バララッシュ』(ハルタコミックス)

バララッシュ 1巻 (ハルタコミックス)

バララッシュ 1巻 (ハルタコミックス)

 2017年。アニメ監督・山口奏と作画監督宇部了の幼馴染コンビは初めてのオリジナル長編劇場アニメを成功させた。物語はそこから三十年を遡り、1987年、十七歳だった二人の出会いに移る。アニメオタクであることを隠してリア充グループに属していた山口は、天才的なイラストレーションの才能を持った宇部を見出し、二人でアニメ業界に進むことを決意する。彼らは志望する東京のアニメスタジオに見学に行くのだが、動画志望の宇部が即戦力として遇される一方で、演出志望の宇部はスタジオの監督から「お前は凡才だ」と言われ……。


 ビーム系の狂児、ロマン溢れるひねくれマンガばかり描いてきた(印象)福島聡先生の最新作はなんとストレートに爽やかな青春もの。
 昭和アニメ史を描く実録的な側面から言えば、アニメ版『アオイホノオ』とでも呼ぶべきでしょうか。アオイホノオもアニメですが。そこに日本橋ヨヲコ成分を足した感じ。
 演出志望のアニオタとアニメーター志望の天才のコンビで、視点を前者に置いてるところが重要です。アニメーターは高校生でも絵をかけばある程度実力を示せるけれども、演出のほうはそうもいかない。後に監督として大成すると初手で示されているとはいえ、17才時点の山口は単にアニメをたくさん観てるだけのオタクにすぎません。その格差を自覚しつつ嫉妬する気持ちと、夢を共にする唯一の仲間である宇部に対する友情との間で揺れ動くワナビ男子の繊細な心があたたかなまなざしでもって描かれていて、実にうつつい。
 

大窪晶与『ヴラド・ドラクラ』(ハルタコミックス)

ヴラド・ドラクラ 1 (ハルタコミックス)

ヴラド・ドラクラ 1 (ハルタコミックス)

 十五世紀の中欧、ワラキア公国(現ルーマニア)。周囲を大国に挟まれたこの小国に、新たな君主として若きヴラド三世が戴冠する。大国の思惑と有力貴族たちの専横に板挟みにされ難しい舵取りを迫られるヴラド三世であったが、政治的な妥協を重ねる陰で密かにある陰謀をめぐらせていた……。

 ”串刺し公”ヴラド三世はフィクションの題材にされる事が多い人物ですが、やはりクロースアップされるのは「元祖ドラキュラ」としての面であり、そこにきてスーパーナチュラルな能力を持たない一人の人間としての「ヴラド三世」を描こうとする試みはかなりめずらしい。
 話としては陰謀と談合を中心とした政治劇。ワラキア独特の統治システムや中世ヨーロッパの文化などのディティールがきっちり書き込んだうえでの展開なので、読んでいてかなり説得力があり、飽きません。一筋縄ではいかない大貴族との権謀術数のやりあいは、全体的に静かなタッチに反して、とてもエキサイティング。ハルタは伝統的に歴史ものに強いですね。


道満晴明メランコリア』(ヤングジャンプコミックス)

 ショートショートの名手、道満晴明先生による短編集。彗星メランコリアの接近により人類滅亡が秒読みとなった世界で織りなされる主に恋模様。

 生き残るべきもなにも、上下巻なので次で終わるんですが。
 あいかわらず『メランコリア』だったり『マグノリア』だったり映画・サブカルネタをしのばせつつ、各話ごとにきっちり小咄としてオチをつけ、世界を作り上げていくつまりはいつもの(『ニッケル・オデオン』以降の)道満晴明先生です。いつもの、な割りにマンネリ感が薄いのはドライさとリリカルさを共存させつつ気の利いた少し不思議エピソードをコンスタントに作り上げられる人材が現代日本にあまり存在しないからで、石黒正数先生が現状長編に専念している以上、しばらくは道満先生の天下が続くことでしょう。いいのか、ヒコロウ?


原作・久住昌之、漫画・武田すん『これ喰ってシメ!』(ニチブンコミックス)



「週刊漫画サボウル」の編集部でデスクとして辣腕をふるうアラフォー編集者神保マチ子(独身)が、若手編集者岡野ひじきとともに今日も元気に原稿を取り立てつつ、うまいメシを食う。

 グルメ漫画ってそんな好きじゃないんですよね。嫌いでもないんですけど。読むとお腹空くじゃないですか。それでも年に一本は心にヒットする作品が出てくるのでつい漁ってしまいます。今年はそう、『これ喰ってシメ!』。
 久住先生原作ものらしく、題材となる食べ物そのものに珍奇なところはありません。
 しかし、読ませる力が圧倒的に高い。まず絵がいい。構成がいい。会話のテンポがいい。「今の私達に必要なのはそう……炭と水の化物と書いて……タンスイカブツ!」や「鮨……!? あの魚へんに旨いと書く?」といった久住先生一流のしょーもないギャグが効きまくっている。
 悩みが解消されたり欝が治ったりするようなマンガではないですが、読み終わるといい感じの気分になります。


賀来ゆうじ『地獄楽』(ジャンプコミックス

地獄楽 1 (ジャンプコミックス)

地獄楽 1 (ジャンプコミックス)

 時代劇異能バトルロワイヤルものとでもいえばいいのか。絶海の孤島に送られた死刑囚たちが首切り役人(山田浅右衛門一門)とペアを組んで、ヤバい死刑囚やヤバい原生生物などを撃退しつつ、将軍様のために不老不死的なやつをゲットしようとする話。
 二巻までに数組の死刑囚×執行人ペアが出てくるわけですが、どのペアもバディものとしてのケミストリーが高い。基本的には「敵」同士なので緊張感がある一方で、ペアごとに独特の関係が築かれていてキャラ自体の個性よりは関係性の個性で見せる、こういうのもあるんだな、という感慨。


ーー


全然十選と入れ替えてもいい、既に十二分に面白い枠


田村由美ミステリと言う勿れ 1 (フラワーコミックスアルファ)、ふしぎな事件に巻き込まれたふしぎな大学生が事件関係者の生活の悩みを解決しつつ事件の謎も解いていくセラピーミステリ。主人公がスカしててムカつくという一点を除けば読みどころ満点。


デッドマウント・デスプレイ(1) (ヤングガンガンコミックス)、あの成田良悟異世界転生ものを!? ただし、転生元は異世界で、転生先は個性豊かな殺し屋とギャングの蠢くSHINJUKU!みたいな。


高野雀世界は寒い 1 (フィールコミックスFCswing)、ファーストフード店の店内で本物の拳銃を拾った女子高生六人組。扱いに困った挙げ句、「一人一発、撃ちたいやつを撃とう」ということでまとまる。ターゲット選びに苦慮する六人の前に、銃の元の所有者らしき人物が現れて……。一話ごとに六人それぞれに視点が切り替わる群像劇。題材といい空気感といいモノローグの入れ方といい生きていたのか岡崎京子チルドレン、という感じ。それまで抑え込んできた鬱屈が、銃という非日常によって開かれて物語がドライブしていきます。2018年にもなってこんなにまっすぐに平成初期の臭いをまとった鬱屈青春グラフィティを出せるとは、侮りがたし、FEEL。
 

仲川麻子飼育少女 (1) (モーニングコミックス)、高校の実験室で科学教師と女子高生がヒドラやナマコやイソギンチャクといった地味ないきものたちを飼育するギャグ漫画。題材の生態自体がギャグっぽいよね。


吉本浩二ルーザーズ~日本初の週刊青年漫画誌の誕生~(1) (アクションコミックス)、日本初の青年漫画誌(自称)『アクション』誕生を描く。『吉川先生のルポマンガにはある種のくさみがつきまとっていて、それは情に厚い好男子である吉川先生がインタビュアーとして前に出てくるせいであったのですけれど、本作は完全に実録ものに徹しており「作者」の姿は見えません。おかげでテンポのいいこと極まりない。


どるから (1) (バンブーコミックス)、脱税で逮捕されたK1の石井館長が出所直後にトラックに引かれて死亡(現実には生きています)、なぜか自殺した女子高生の身体にのりうつり、女子高生の経営する斜陽の空手道場を再建するという話。出落ち感があるわりに物語的な骨格がしっかりしていて、石井館長直伝の格闘技トーク・経営術トークがそれなりの説得力を持って展開されます。館長トークの出方がちょっと『プロレススーパースター列伝』っぽいですが。強敵と出会った館長が「解説者時代は色んなしがらみのおかげで自由に空手できなかったけど、死んで(現実には生きてます)初めてハジケられた。死んでよかった(現実には生きてます)!」とイキイキと闘う姿には涙が出ます。実際には生きてますが。


渡会けいじピヨ子と魔界町の姫さま(1) (角川コミックス・エース)魔界(町)の高校に通う人間の女の子と庶民的な魔王のお姫様(町なのだが)の学園ギャグ。なんでも額面通りに受け止めるアホの子とポンコツお嬢様の組み合わせはストレートに面白い。


志村貴子ビューティフル・エブリデイ 1 (フィールコミックス)、多作な割に平均点がここまで高い作家がいただろうか。あいかわらず主要人物は性格が悪い。しかし私たちは志村貴子先生の描く性格が悪い女を見たくてここまで生きてきたのではないでしょうか。


瀧波ユカリモトカレマニア(1) (KC KISS)、元カレを好きすぎるあまりイマジナリーフレンド化してしまったOLが実際の元カレと再会してしまってさあどうなる、という話。『勝手にふるえてろ』を瀧波ユカリ先生が書いたら感があります。


石川香織ロッキンユー!!! 1 (ジャンプコミックス)、高校でロックバンドやる漫画。「初期衝動」という言葉がそのまま結晶化したような第一巻であり、間違いなく青春マンガで今一番アツい作品。


とよ田みのる金剛寺さんは面倒臭い(1) (ゲッサン少年サンデーコミックス)、恋とは奇跡に支えられたものだという精神に貫かれた恋愛コメディ。


大石浩二トマトイプーのリコピン 1 (ジャンプコミックス)、こういうノリで時事ネタをいじる少年漫画がいつのまにかなくなってしまっていましたね。


宮崎夏次系アダムとイブの楽園追放されたけど…(1) (モーニング KC)、夏次系先生わりと普通にギャグ漫画かけるじゃん、と思う一方でやはり短編のほうがシマッてるんですよね。


フォビドゥン澁川スナックバス江 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)、これまでのフォビドゥン先生に比べて気持ち悪さが二割ほど減っており、お子様にも安心しておすすめできます。自分に子どもがいたら読ませたくはないですが。



将来性がありそうなタイトル枠


三浦みうチルドレン 1巻 (デジタル版ガンガンコミックスUP!)、十四歳の園長を戴く山奥の幼稚園。そこは園児たちが人間を「処理」する殺人幼稚園だった……。キャッチーで悪趣味な残酷グロ設定が目に付きますが、出落ちにとどまらず、ちゃんとドラマを描こうとする気概も発揮されています。設定の慣性以上に伸びる予感がするというか、伸びる義務がある。


チノク白石君の動級生(1) (Gファンタジーコミックス)、動物に変身できる子どもたちのクラスに入った男子高校生の話。こういう学校だったら生きたないなあ、という人間のストレートな欲望が詰まっています


大沖たのしいたのししま(1) (週刊少年マガジンコミックス)、おもしろい方の大沖先生。


柳生卓哉メメシス 1 (1) (少年サンデーコミックス)、ウルトラ強い勇者のパーティーから役立たずとしてはじき出された戦士と魔法使いが勇者を見返すためにめっちゃ強くなるファンタジーギャグ。主人公二人の気持ち悪い友情がよい。


天地創造デザイン部(1) (モーニング KC)天地創造時に神様は動物のデザインをデザイナーに発注していた。動物をデザインするという思考実験。一見むちゃぶりに思える注文が実在の生物へ繋がるという意外性。動物の面白うんちくを退屈させないようにどう紹介するかという動物ものの懸念を上手に処理しています。


椙下聖海マグメル深海水族館 1 (BUNCH COMICS)、水族館で働くことになった男の子との成長譚。絵がいい、トピックがいい、テンポがいい。専門ウンチクもので全体のリズムが崩れずにすっきり読めるのは驚異的なことです。だからこそ主人公の悩みと成長に嘘がない。


山本亜季賢者の学び舎 防衛医科大学校物語 1 (ビッグコミックス)防衛医大に入学した医者(医官)志望の男の子の成長物語。題材のものめずらしさも手伝って、群像青春もののうまさが際立ちます。体育会系と文科系が入り交ざったなんともいえない独特の文化や上下関係がすてき。今んとこ先輩の理不尽なシゴキがただのシゴキにしか見えないんですが、これをどう良かった話につなげていくんですかね。実際今もやってるんだろうから否定もできないだろうし……。


武富智ロマンスの騎士(1) (裏少年サンデーコミックス)、近世のヨーロッパ騎士が現代の少年の身体に転生してフェンシングをやる……というあらすじを聞いて「逆『ビロードの悪魔』かよ」と興味を惹かれましたが、読んでみると真っ当にアツい青春スポーツもの。フェンシングのスタイリッシュな絵面と武富智先生の躍動感あふれる画作りが幸福にマッチしています。


美代マチ子ぶっきんぐ!!(1) (裏少年サンデーコミックス)、書店員ものってわるい意味でブッキッシュな作品が多い印象があるんですけれど、これはちゃんと「書店員の話」をしてくれるので好印象です。とはいっても変に業務についての細部を羅列するわけでもなくて、ちゃんと作劇のパースを取りつつ書店員の世界観で話を進行させていくかんじ。


瀬下猛ハーン ‐草と鉄と羊‐(1) (モーニングコミックス)義経チンギス・ハン説。ややスロースターター気味ですが、政治描写も骨太で、これから本格的な合戦に突入すると一挙に爆発しそうな予感。


原作・マツキタツヤ、漫画・宇佐崎しろアクタージュ act-age 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)、俳優バトル漫画。自分のなかでは『累』とか『響』とかと同じ枠なんですけれど、どういう枠なのかと聞かれると困ります。掲載順で打ち切りが危ぶまれたりもしましたが、重版かかったそうだし生き延びそう?


宮永麻也ニコラのおゆるり魔界紀行 1 (ハルタコミックス)、獣人や魔法の存在する魔界に迷い込んだ少女とその道連れというか保護者的な立場の悪魔のロードストーリー。一話一話マァー丁寧です。


ひらけいシンマイ新田イズム 1 (ジャンプコミックス)、このところ増えている教師もの。能力は高いが空気読めない系の教師が生徒や同僚の悩みを解決していく学園ギャグマンガ。この手のものとしてはわりに正攻法で攻めてくるが、主人公にドライさがいい話に傾きすぎないバランスで品がある。


カクイシシュンスケ柔のミケランジェロ 1 (ヤングアニマルコミックス)、全体の雰囲気としてはオーソドックスなスポ根ですが、過剰に「見る」ことで理屈っぼく強くなっていく主人公がいい感じ。


本田優貴ただ離婚してないだけ 1 (ヤングアニマルコミックス)、関係の冷えた夫婦ものなのかな……などと思っていたら、夫の元不倫相手を夫婦で殺してしまったところで一巻が終わり、次が気になります。


ふみふみこ愛と呪い 1 (BUNCH COMICS)、今度こそどうにかなってほしい。


原作・七月鏡一、作画・杉山鉄兵探偵ゼノと7つの殺人密室 1 (1) (少年サンデーコミックス)、名探偵ゼノが有名建築家に挑戦状を叩きつけられ七つの殺人密室を解いていくという往年のメフィスト臭溢れる館ミステリ。トリック自体は館の仕掛け(物理)に全振りしているので一般的な意味でのミステリ的な驚きを求める向きにはアレかもしれませんが、ここまで館のロマンを信じた作品はマンガじゃ最近でも珍しい。


原作・縞田理理、漫画・みよしふるまち台所のドラゴン 1 (ジーンピクシブシリーズ)、東欧に留学した女の子がドラゴンを拾って飼う話。ドラゴンが適度に知能のない「動物」って感じでリアリティがあります。けだものであることの愛嬌ってあるよね、といいますか。


八木教広蒼穹のアリアドネ(1) (少年サンデーコミックス)、戦闘ロボ少年と天空のお姫様のボーイミーツガール冒険もの。やはり年上なところが八木先生の業。


人生負組ぼくらのペットフレンズ (電撃コミックスEX)、よく怒られなかったな、このタイトル。


Cuvieエルジェーベト(1) (シリウスKC)、筋トレマニアのお姫様による陰謀劇。史実。筋トレも史実。


三都慎司ダレカノセカイ(1) (アフタヌーンKC)、想像した物体を実体化できる「クリエイター」と呼ばれる能力者として覚醒した少年がクリエイター同士のバトルロワイヤルに巻き込まれていく。少年漫画誌的なおおぶりなコマ割りに緻密な作画とセリフの絞られた作劇が展開していく。青年漫画誌バトル漫画の王道の感。もうすこしディティールがはっきりしてくれば。


原作・村田真哉、作画・柳井伸彦ヒメノスピア 1(ヒーローズコミックス)【期間限定 無料お試し版】、女王蜂のパワーで周囲の女性を働き蜂化(ハーレム化)していく女子高生のサスペンス。今やすっかりひとつのジャンルとなった「動物能力もの」の元祖村田先生ですが、バトルもの以外もいけるやんけ。


漫☆画太郎星の王子さま 1 (ジャンプコミックス)、最悪なことにちゃんと『星の王子さま』をやっている。


秦三子ハコヅメ~交番女子の逆襲~(1) (モーニング KC)、クサくなりすぎない人情話の作り方が上手。


福田秀ドロ刑 1 (ヤングジャンプコミックス)、主に窃盗事件を扱う警視庁捜査三課、通称ドロ刑を舞台に若手刑事と謎多きナイスミドルの泥棒が凸凹タッグを組むバディ系ミステリ。刑事は泥棒を通じて「犯人の心理」をシミュレートすることを学び、現場に残された痕跡から犯人のキャラクタを探る。敵か味方が定かでないまま刑事を振り回す泥棒の造形が魅力的。


陽東太郎遺書、公開。(1) (ガンガンコミックスJOKER)、急死したクラスナンバーワンの人気者、その彼女はクラスメイト一人ひとりにあてて遺書をのこしていた。彼女の死の真相めぐり、遺書を公開し合う学級会が始まる……。日本版『13の理由』。一巻からそれなりに面白かったんですけれど二巻から急にドライブかかってきて、オッ、と思っていたら三巻で終わるようで。一見何の変哲もない「お別れ文」からクラスみんなで違和感を探り出していくシステムはなかなかアイディアだったと思います。