名馬であれば馬のうち

読書、映画、ゲーム、その他。


読書、映画、その他。


犬の力――2015年度8月までのポケミス・ラウンドアップ

これまでのあらすじ

 溜まったはてなポイントamazon ギフト券に換金しようとしたらそういうサービス先月でやめたんすよーと言われて非常にダルい。じゃあこのポイントどうすればいいのかな、そうだ、私たちにははてなプラスとかがあった。

 さして意味もなく今年度のポケミス全制覇企画を建てて九月に「『カルニヴィア』今から三冊も読む気になんてなれねーよ!」ってことで見事挫折したわけですが、まあそれはそれはとして、八月ぶんまでの十冊は読んでしまったわけで、同じレーベルから出ているっつー以外に目立つ共通点もない顔ぶれなんだけれども、いちおうミステリ界隈で「ポケミス」がある程度実効的なくくりとして機能しているように見えなくもないのだし、ここでひとまとまりに感想を書いてみてみるのもよいのではないかと思います。


 好きな順としては、『街への鍵』-『ブエノスアイレスに消えた』-『ザ・ドロップ』-『サンドリーヌ裁判』-『ありふれた祈り』-『出口のない農場』-『カウントダウン・シティ』-『他人の墓の中に立ち』-『猟犬』-『エンジェル・メイカー』です。
 以下、その順で思い出したように個別記事を立てていくつもり*1ですが、たぶん『出口のない農場』あたりで飽きてやめると思います。

今年のポケミスの傾向

地域・国別

 英国:イングランド3(『街への鍵』、『出口のない農場』、『エンジェルメイカー』)、スコットランド1(『他人の墓の中に立ち』)
 北欧:ノルウェー1(『猟犬』)
 その他ヨーロッパ:イタリア1(『カルニヴィア3』)
 北米:USA4(『ザ・ドロップ』、『カウントダウン・シティ』、『サンドリーヌ裁判』、『ありふれた祈り』)
 南米:アルゼンチン1(『ブエノスアイレスに消えた』)

 ご覧のとおり、イギリスとアメリカで合わせて11作中8作を占め、その他の椅子をを北欧、ヨーロッパ、南米で分け合う構図。昨年と比べてもたいして変動してませんね。

本国での出版年度

1996年:『街への鍵』
2012年:『エンジェルメイカー』、『ブエノスアイレスに消えた』、『他人の墓の中に立ち』、『猟犬』
2013年:『サンドリーヌ裁判』、『カウントダウン・シティ』、『ありふれた祈り』
2014年:『出口のない農場』、『ザ・ドロップ』(元の短編は2009年)
2015年:『カルニヴィア3』

 おおむね直近三年以内に収まっています。『街への鍵』だけ飛んで90年代ですが、ジャック・リッチーとかカミとか出してた去年に比べたらね。

犬が出るかどうか。*2

すごく出るという実質メインキャラ:『ザ・ドロップ』、『カウントダウン・シティ』、『街への鍵』
けっこう出る:『猟犬』、『出口のない農場』、『エンジェルメイカー』
それなりに出る:『他人の墓の中に立ち』、『ブエノスアイレスに消えた』
出ない:『ありふれた祈り』、『サンドリーヌ裁判』

 今年は犬の年でしたね。ベスト・ポケミス・ドッグは、もちろん『ザ・ドロップ』のアメリカン・スタッドフォードシャー・テリアロッコです。各所で炸裂する仔犬らしい愛くるしい仕草は、毎晩酔っ払ってバーで人を殴ってそうなアメリカ人ノワール作家ナンバーワン*3デニス・ルヘインさんが書いたとは。これも犬の守護聖人である聖ロッコのご加護でしょうか。
 「少年と犬」よろしく(ほぼ)終末世界で孤独な主人公の魂を癒す『カウントダウン・シティ』のフーディニ(ビション・フリーゼ)も味わい深い。小柄な犬種ながら、劇中では意外な活躍も見せます。
 『街への鍵』では犬の預かり散歩屋というキャラの特性上、多種多様な犬がめじろおしで、さながら『わんわん物語』状態。
 『エンジェルメイカー』ではバスチョン(要塞)なる物々しい名前のパグが登場。盲目というハンデを背負いながらも「恥も慈悲も知らない動物」である彼は、元スパイのおばあちゃんの相棒役として活躍します。特にクライマックスのあるシーンでは重要な?役回りを演じるので必見。
 鬱屈とした『出口のない農場』で一服の清涼剤となってくれるのは農場のアイドル、スプリンガー・スパニエルの仔犬ルルです。冒頭でトラバサミの罠にかかって死にかけている主人公を発見するなど、物語において終始重要な役割を託されています。


 全体の傾向として、小型〜中型犬が多いですね。近年のトレンドでしょうか。『猟犬』ではシェパード、『街への鍵』ではボルゾイが顔を出していましたが、あくまで大勢の犬のワン*4・オブ・ゼムとして。
 『ザ・ドロップ』では主人公の被保護者(兼写身)、『エンジェルメイカー』ではババアの頼れる相棒、『他人の墓の中に立ち』では純粋な警察犬、『出口のない農場』では物語の駆動装置とそれぞれ果たす機能は違いますが、海外ミステリの世界ではいまや犬は欠かすことのできないキャラクターのようです。
 それにしても、英国ミステリは全体的に犬に対して好意的なのに対して、アメリカ勢四作品は「メインでめっちゃ出る」か「まったく出ない」かの両極端にわかれたのは面白いですね。南部ミステリは犬がお嫌い?

その他お客様がお気づきになった点

 全体的に翻訳が良質だったように思います。




犬たちの肖像

犬たちの肖像

これも今年の新刊で、犬エッセイ本。
古今の物語において犬たちがどう扱われてたか、縦横に綴られています。



犬ミス。「犬が探偵やります」系のミステリってあんま読む気しないのよね。ネコで懲りてるから。

*1:一記事にまとめてやろうとしたらあまりに長くなりすぎたので分けることにした

*2:『カルニヴィア3』は未読のためわからない

*3:そのような事実はない

*4:犬だけに