名馬であれば馬のうち

読書、映画、ゲーム、その他。


読書、映画、その他。


2015年上半期の新作映画ベスト10

・特に公的に何かしらのランキング投票に関わっているわけでもなく、したがって新作映画の序列についてなど何の義務も背負っていないのだが、区切りや境界というのはおそらく大切な仁義で、そういうのがないと人間の内臓は四散してしまうこと必至。「2015年1月から6月までのあいだ」「劇場で観た」「新作」に限って順位をつけます。


表スジ

1. イミテーション・ゲーム(モルティン・ティルダム)
 こういう脚本からメタファーから演出までカッチカチに論理的明示的にできてる映画好きですね。
 ほんとうにカッチカチです。いつも顔半分に影がさしているマーク・ストロングなんてほんとギャグスレスレで、こういう危うさが監督の資質と英国っぽさのブレンドで出来ている。


2. マップ・トゥ・ザ・スターズデイヴィッド・クローネンバーグ
 世界姉映画史に今後百年燦然と輝き続けるであろう最高の姉映画。
 ただワシコウスカを鑑賞するためだけの映画としても『イノセント・ガーデン』とタメをはる。
 ライトなツーピースの長袖に黒手袋が衣装芸術でなくてなんであろう。


3. 『フォックス・キャッチャー』ベネット・ミラー
 こういう手に入らないものに焦がれて、歪んだ手段で手に入れようとして破滅する話はまあ鉄板ですよね。パラニュークにアメリカのレスリング狂いたちを描いたノンフィクション短編があって、そこに出てくる「カリフラワーイヤー(日本だと餃子耳)」ってなんだろうと思ったらこれか、と。


4. 『セッション』(ダミアン・チャゼル)
 太鼓映画。直に薦めた皆さんからは「さほどでもない」「報連相が出来ていない」というアツい支持をいただいた本作。やっぱりJKシモンズの二の腕ですよね。全体練習に現れてシャレオツな帽子とジャケットを脱いでコートハンガーにひっかけると露わになる血管の浮いたハゲとムキムキの二の腕。ラストシークエンスで””本気””を出したときにバッとジャケットを脱ぎ去って現れるムキムキの二の腕。完全にイキ顔でカクテルピアノを弾くときに弾けるムキムキの二の腕とハゲ。Good Job.


5. 『ブルー・リベンジ』(ジェレミー・ソルニエ)
 田舎のどチンピラ一家 vs. 小太りコミュ障  な復讐が復讐を呼ぶどうしようもないノワール
 「画面内に常に青い何かが映ってる」って演出はモロに『アデル、ブルーは熱い色』とかぶってるんですがまあそれはそれとして。
 いかにも使えねえツラをした主人公が絶妙にダメそうな感じでぼんやりと凄烈な復讐をこなしていく様が情けな怖くてフレッシュ。


6.『マッドマックス 怒りのデスロード』(ジョージ・ミラー
 太鼓映画。抽象方面にステ全振りしたものとしてはこの上なくクレバーな脚本、細部まで丹念に狂っているキャラ造詣、小憎らしいほどのアイテム使いの巧さ(特にマックスが口輪を外して動物から人間に変わる瞬間)、謎世界観、謎宗教、爆発炎上する車両の美しさ、太鼓、どれをとってもまあ良いものですね。良いものですよ。冒頭の砦内での小競り合いは「そうか、その速度で撮るのか」と。


7. 『はじまりのうた』(ジョン・カーニー)
 歌によってストーリーがテリングされ、歌によって感情表現がなされ、歌によって感動が呼び起こされる、正しい意味での音楽・ミュージカル映画
 特に浮気がバレるシーンのアレは感涙に値する正しさ。
 ぬるいカントリーポップを歌ってたアダム・レヴィーンがいつものマルーン5っぽい発声に戻ったとたんヒロインから「クソだ!!!」とdisられるのには笑う。


8. 『馬々と人間たち』(ベネディクト・エルリングソン)
  馬が出てくる。
  人間が死ぬ、馬も死ぬ。
  それでいい。


9. 花とアリス殺人事件』岩井俊二
  前作は大して好きでもなかったんだけれど、アニメになってみると動作にある種のぎこちなさが加わって、それを艶かしくおもいます。あとまあ駐車場でトラックの下に潜り込んで友人と夜を明かすって青春じゃないですか。


10.プリデスティネーション(スピエリッグ兄弟)
  ここまで几帳面なSF映画、ミステリ映画も貴重でしょう。
  原作はやく kindle 化してくれ。



裏スジ

アメリカン・スナイパークリント・イーストウッド): パラノイアで頭がおかしくなったアメリカ人の話は普遍的に面白い。
『神々のたそがれ』アレクセイ・ゲルマン): 初めて観たのは去年の特集上映のときでそんときは4/5くらい寝てたけど、二回目は1/4で済んだ。わりに『フルシタリョフ、車を!』のほうが好き。
インヒアレント・ヴァイス(PTアンダーソン): なんだかんだでかなり好き。ずっと晩夏の夕焼けぐらいの涼やかさが雰囲気的にも話的にも画面的にもあって、「失われていく夏」ものとしてとてもうつつい。
マジック・イン・ムーンライトウディ・アレン): 去年の『ジャスミン』が傑作すぎたぶん影薄くなってるところはあるけれど、サプライズのスマートな見せ方とコリン・ファースのインテリチョロ男っぷりと、他ではどうしようもなくイモかったエマ・ストーンを奇跡的なまでのサブカルキュートブロンドに撮っている点で評価されるべき。
『コングレス 未来学会議』アリ・フォルマン): ヴィジュアルと設定がドラッギー。
『22ジャンプストリート』フィル・ロード&クリス・ミラー): DVDスルー。前作よりは落ちるけど、シリーズものとしての厚みをちゃんと強さとして活かしている。
『劇場版ムーミン 南の海で楽しいバカンス』(グザヴィエ・ピカール): 5秒ごとにキチガイじみた展開が出てくる最高のネタ映画。躊躇なく火事場泥棒におよぶムーミンママが白眉。
海街diary是枝裕和): 日本姉映画史上に今後百年残るであろう姉映画。序盤のダルさで失敗したかなと思ったんだけど、「姉妹」形成のプロセスが非常に端整。
『真夜中のゆりかご』(スザンネ・ビア): ミステリーぽい作品群のなかでは抜群のひどさだった。
『ブラック・ハット』マイケル・マン): 弾丸がコンテナにあたってすげえ重たい金属音出すんですよね。その体験の固有性がたまらなく好き。