名馬であれば馬のうち

読書、映画、ゲーム、その他。


読書、映画、その他。


どうしてドナルド・トランプはわたしをファックしないのか:大統領選下シアトル滞在記

長いよ。今回は。 アメリカを訪れるたびにわたしは、本当の「アメリカ」はマンハッタンやシカゴの街路にも中西部の農場町にもなく、ハリウッドランドスケープやメディアの景観によって創り出された幻想のアメリカのなかにこそあると、よく感じる。 ーーJ・G…

元気で大きいペンギンの赤ちゃん:メルボルン探訪記

「メルボルンにも、生命はあるでしょうよ」 一同は大きく眼をみはった。 「どんな生命が?」と、ピーターは訊いた。 ーーネヴィル・シュート、木下秀夫・訳『渚にて』 指令はいつも十五桁の英数字で届く。そのコードをsteamのコード有効化ページに打ち込み、…

幽霊たちの隠れ場所:『Cloud』、『エイリアン:ロムルス』

あいまいなの境界の無い あわいにも揺らいでみる しろねこ堂「反省文~善きもの美しきもの真実なるもの~」 『君の色』を語ることの不可能について 視ることを語るのであれば。 本来ならわれわれは『君の色』について語り、語り合いつづける義務を負っている…

37歳のネコは親でもおじさんでもなくて、まるで天使のようだ――映画『化け猫あんずちゃん』について

さりながら諸君よ、感じやすく、子供のごとく純粋で、おれのように誠実な心の持ち主である諸君よ、いうまでもなく諸君のためなのだ。 ーーE・T・A・ホフマン、石丸静雄・訳『牡猫ムルの人生観』 www.youtube.com 死んだ母親たち、使えない父親たち、外され…

『インサイド・ヘッド2』の感想、あるいはディズニー/ピクサーにとっての続編とはなにか。

歴史とは復活である。 ――ジュール・ミシュレの墓碑銘 【これまでのあらすじ】 ピクサーは「復活」したのか。 創造性の破綻としての続編、必要悪としての続編 ディズニーと続編 『インサイド・ヘッド2』について:語りを不要とする続編 おわりに 関連記事 【…

2024年上半期の新作映画ベスト10

最近は映画に刺激を受けることもなくなったな……とおもっていたのですが、今日トッド・ヘインズの『メイ・ディセンバー』を観て、こんなギリギリのプロットを画の力だけでこれほどまでに押し通せるものなのかと感動し、少し前まで出す気もなかった上半期のベ…

越えていく物語たちのポリフォニー――ゲーム『未解決事件は終わらせないといけないから』に影響した作品について

(미제사건은 끝내야 하니까、2024)(注1:本記事はゲーム『未解決事件は終わらせないといけないから』、小説『白光』『新参者』『終わりの感覚』、映画『ファーザー』の軽度〜中度のネタバレを含みます) (注2:基本的には、『未解決事件』をクリアした…

プレイヤーの破滅を目的とするゲームについて―『Balatro』の感想

「塗辺くん」ふいに、真兎が言った。「もしかしてだけど、カードは――」 「「こことは別の場所にある?」」 絵空も声をそろえ、まったく同じ質問をした。 青崎有吾「フォールーム・ポーカー」 store.steampowered.com インターネットは今日も平和 インターネ…

お犬さまが見てる--映画『落下の解剖学』について

(本記事は映画『落下の解剖学』のネタバレを含みます)*1 www.youtube.com ときどき奇妙なカットが挟まりますね。 「母親の裁判をもっと見たい」と裁判官に翌日の傍聴を訴える少年を左下から見上げてみたり、自宅近くの小高い丘から現場検証を見下ろす主人…

死にたくもないし生きたくもないし歩きたくもない――『信長の野望・出陣』について

数えた足跡など 気づけば数字でしかない BUMP OF CHICKEN「カルマ」 走る街を見下ろして のんびり雲が泳いでく 毎日、歩いている。 そりゃ、歩くだろう、とおもわれるかもしれない。動物なんだから。そこそこ健やかな人間は一生のうちにおよそ一億五千万歩を…

2023年読んだ新刊まんがベスト(短編集・単発長編/五巻以内完結篇)

proxia.hateblo.jp ↑出した時点で「もう今年は短編集とかのほうのランキングはいいかな〜」みたいなムードだったんですが、村長から「マンガを怠けるな」とお叱りを受けたのでなんとかない気力を奮って作りました。 【レギュレーション】 ・1.2023年内に発売…

2023年に第一巻が発売された新作まんがのベスト20選+α

ランキング雑誌を信じてはいけない。 集合していると称しつつ少人数の博識に頼っているwikiの知性を信じてはいけない。不完全なアグリゲーションを信じてはいけない。metacritic を、Amazonレビューを、あなたの神を信じてはいけない。 自分自身に祈りなさい…

2023年に遊んでおもしろかったゲーム20選+α

前説 2023年のゲームトップ20 1.The Cosmic Wheel Sisterhood 2.Kentucky Route Zero 3.Cyberpunk 2077: Phantom Liberty 4.Chicory: A Colorful Tale(チコリー:いろとりどりの物語) 5.ゼルダの伝説:ティアーズ・オブ・キングダム 6.The Case of the Gol…

2023年の新作映画ベスト20選+α、その夢の年

proxia.hateblo.jp 「自分の夢がなんなのか知りたかったら、それをつきとめる方法は、映画をたくさん見ることだよ」 コニー・ウィリス、大森望・訳『リメイク』(ハヤカワSF文庫) 2023年ベスト10 1.『オオカミの家』(クリストバル・レオン&ホアキン・コシ…

きっと、星のせいじゃない。――映画『ウィッシュ』について

星に願いをかけるときは あなたが誰でも関係ない 心に浮かんだ望みはなんだって きっといつか叶うでしょう ――When You wish upon a Star とすれば、ブルータス、罪は星にあるのではない、われわれ自身にあるのだ。 シェイクスピア、福田恆存・訳『ジュリアス…

夢と魔法の王国への旅2023 告知エディション

上方の ぜいろく共が やって来て 東京などと 江戸をなしけり (落首) 上野観光連盟|上野の歴史−4 暑い日がつづきます。黄昏の世界です。しかし、あまりにも激しく燃え上がり、あまりにも詩的なので、あたかも新しい夜明けのようです。*1 あまりにダルいの…

小惑星の魔女は鬼道占師――The Cosmic Wheel Sisterhood について

おのれの能力を越えて上昇しようとするような輩に用心しよう。死を免れない人間に否定されたるものごとを探し求める者たちに。 ――ジェフリー・ホイットニー『エムブレム選集』 store.steampowered.com The Cosmic Wheel Sisterhood はタイトルを裏切らないゲ…

コマったさんの台湾怪奇ミステリまんが――シャオナオナオ『守娘』

台湾のまんがってえいいますと、去年ビームコミックスから発売されて村上春樹、岩井俊二、はっぴいえんど、ゆらゆら帝国などをピュアッピュアの小細工抜きで投げてきて日本の腐りきったサブカルクソ野郎どもを浄め死滅させた豪速球文化系青春ラブストーリー…

2023年上半期に観た新作映画でよかった作品たち

順番は特に順位に対応してはいません。母数となる新作は60本くらいか。今年はシネコンばかりで観ておる。 『ベネデッタ』(ポール・ヴァーホーヴェン監督) 『レッド・ロケット』(ショーン・ベイカー監督) 『フェイブルマンズ』(スティーブン・スピルバー…

murashit 先生へのおたより:「メタフィクション表現の四分類についてのメモ」についてのメモ

【注意:今回の記事は私信みたいなものなので、知らない人が読んでもおもしろくない可能性があります】 murashit.hateblo.jp オギャーッ オギャーッ フフフ……騙されたな その泣き声は……わたしだ!!! という茶番はともかく、murashit さん*1からのお便り…

Steam で遊べるメタフィクションなインディーゲーム入門

五大メタフィクションインディーゲームとはなにか。えっ、てか、なに(笑い) The Stanley Parable:「ナレーター」に抗う/従う The Hex; トランスジャンルなゲームたち undertale:アンチジャンル Doki Doki Literature Club!(『ドキドキ文芸部!』) :…

声を奪われた魚たちーー実写版『リトル・マーメイド』について

*オリジナル版・実写版両方の『リトル・マーメイド』のネタバレを含みます。 From Ashes to the Ocean 1989年の『リトル・マーメイド』は声の物語であり、歌と音楽の映画だった。 オフ・ブロードウェイでの成功により注目されていた作詞家ハワード・アシュ…

最近日本語化されたらしいのでやっておきたい積みインディーADVゲーム10選

これまでのあらすじ: ティアキンって略すと、HIKAKIN、SEIKINに次ぐ第三の男(ナン)みたいですね。 下記はメモ代わりです。基本的にやったことはないのでゲーム内容の説明薄め。興味ある人は自分でググって。そういうわけなので翻訳の質もいちいち保証はし…

足場から足場へ。:『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』について

「スーパーマリオやろうぜ」エリックがなだめるように言う。 ぼくはかぶりを振る。 「あれはフェイクすぎる」 「裏にバスケのコートがあるじゃんか。ちょっとシュートでもしようぜ」 ぼくはかぶりを振る。 あれはリアルすぎる、とぼくは思う。 ――マイケル・W…

2022年の新作まんがベスト10

今日まだ誰も言ってないかもだから言っておくね、「きみはスペシャル」 きみはまだ信じてないかもだから言っておくね、「きみはスペシャル」 ーーLizzo「Special」 【新作連載まんがベスト10】*1 1.天野実樹『ことり文書』(ハルタコミックス) 2.山口貴由『…

2022年の新作映画ベスト10とその他:第三期ピークTVの時代、あるいは犬の年

前説 新作映画ベスト10 1.『戦争と女の顔』(カンテミール・バラーゴフ監督、ロシア) 2.『アンビュランス』(マイケル・ベイ監督、アメリカ) 3.『ブラック・フォン』(スコット・デリクソン監督、アメリカ) 4.『NOPE』(ジョーダン・ピール監督、アメリカ…

ゲームの夢、映画の魔――『IMMORTALITY』について

(本記事は本ブログに珍しく、あまりネタバレが含まれていない。ちょっとはあります) 君という光が私を見つける 真夜中に 宇多田ヒカル「光」 (本編より) 視覚芸術分野において「見ることと見られることについての作品」というフレーズで評することは若干…

引用のためらい、パロディのあわい――岡田索雲『ようきなやつら』について

(本記事は岡田索雲『ようきなやつら』のネタバレが含まれています。といいますか、すでに読んでいる読者向けに書かれていてネタバレすらすっとばしているところがあります。ご注意ください。) (ネタバレなしの紹介としては↓でV林田氏がこれ以上ないものを…

文字と声と亡霊たちの天国――『ディスコ・エリジウム ザ・ファイナル・カット』について

「けど、”ディスコ”・エリジウムでしょ……。おかしくないかしら? ディスコは過去のもの、忘れられたものでしょう?」 「過去は未来だが、未来は死んでいる!」 ――『ディスコ・エリジウム』 『ベイビー、あんたが探してんのは結局あんた自身なのよ』 ――舞城王…

あこがれを吸い寄せる虚空――『虚空の人 清原和博をめぐる旅』について

長島は英雄だった。難しい理由は必要なかった。子供にも即座に理解できる英雄だった。長島になりたかった。野球選手になって長島になりたかった。たとえ野球選手にならなくても長島になりたかった。 少しずつ自分は長島でなく、長島になれないのだということ…