名馬であれば馬のうち

読書、映画、ゲーム、その他。


読書、映画、その他。


プレイヤーの破滅を目的とするゲームについて―『Balatro』の感想

「塗辺くん」ふいに、真兎が言った。「もしかしてだけど、カードは――」 「「こことは別の場所にある?」」 絵空も声をそろえ、まったく同じ質問をした。 青崎有吾「フォールーム・ポーカー」 store.steampowered.com インターネットは今日も平和 インターネ…

お犬さまが見てる--映画『落下の解剖学』について

(本記事は映画『落下の解剖学』のネタバレを含みます)*1 www.youtube.com ときどき奇妙なカットが挟まりますね。 「母親の裁判をもっと見たい」と裁判官に翌日の傍聴を訴える少年を左下から見上げてみたり、自宅近くの小高い丘から現場検証を見下ろす主人…

死にたくもないし生きたくもないし歩きたくもない――『信長の野望・出陣』について

数えた足跡など 気づけば数字でしかない BUMP OF CHICKEN「カルマ」 走る街を見下ろして のんびり雲が泳いでく 毎日、歩いている。 そりゃ、歩くだろう、とおもわれるかもしれない。動物なんだから。そこそこ健やかな人間は一生のうちにおよそ一億五千万歩を…

2023年読んだ新刊まんがベスト(短編集・単発長編/五巻以内完結篇)

proxia.hateblo.jp ↑出した時点で「もう今年は短編集とかのほうのランキングはいいかな〜」みたいなムードだったんですが、村長から「マンガを怠けるな」とお叱りを受けたのでなんとかない気力を奮って作りました。 【レギュレーション】 ・1.2023年内に発売…

2023年に第一巻が発売された新作まんがのベスト20選+α

ランキング雑誌を信じてはいけない。 集合していると称しつつ少人数の博識に頼っているwikiの知性を信じてはいけない。不完全なアグリゲーションを信じてはいけない。metacritic を、Amazonレビューを、あなたの神を信じてはいけない。 自分自身に祈りなさい…

2023年に遊んでおもしろかったゲーム20選+α

前説 2023年のゲームトップ20 1.The Cosmic Wheel Sisterhood 2.Kentucky Route Zero 3.Cyberpunk 2077: Phantom Liberty 4.Chicory: A Colorful Tale(チコリー:いろとりどりの物語) 5.ゼルダの伝説:ティアーズ・オブ・キングダム 6.The Case of the Gol…

2023年の新作映画ベスト20選+α、その夢の年

proxia.hateblo.jp 「自分の夢がなんなのか知りたかったら、それをつきとめる方法は、映画をたくさん見ることだよ」 コニー・ウィリス、大森望・訳『リメイク』(ハヤカワSF文庫) 2023年ベスト10 1.『オオカミの家』(クリストバル・レオン&ホアキン・コシ…

きっと、星のせいじゃない。――映画『ウィッシュ』について

星に願いをかけるときは あなたが誰でも関係ない 心に浮かんだ望みはなんだって きっといつか叶うでしょう ――When You wish upon a Star とすれば、ブルータス、罪は星にあるのではない、われわれ自身にあるのだ。 シェイクスピア、福田恆存・訳『ジュリアス…

夢と魔法の王国への旅2023 告知エディション

上方の ぜいろく共が やって来て 東京などと 江戸をなしけり (落首) 上野観光連盟|上野の歴史−4 暑い日がつづきます。黄昏の世界です。しかし、あまりにも激しく燃え上がり、あまりにも詩的なので、あたかも新しい夜明けのようです。*1 あまりにダルいの…

小惑星の魔女は鬼道占師――The Cosmic Wheel Sisterhood について

おのれの能力を越えて上昇しようとするような輩に用心しよう。死を免れない人間に否定されたるものごとを探し求める者たちに。 ――ジェフリー・ホイットニー『エムブレム選集』 store.steampowered.com The Cosmic Wheel Sisterhood はタイトルを裏切らないゲ…

コマったさんの台湾怪奇ミステリまんが――シャオナオナオ『守娘』

台湾のまんがってえいいますと、去年ビームコミックスから発売されて村上春樹、岩井俊二、はっぴいえんど、ゆらゆら帝国などをピュアッピュアの小細工抜きで投げてきて日本の腐りきったサブカルクソ野郎どもを浄め死滅させた豪速球文化系青春ラブストーリー…

2023年上半期に観た新作映画でよかった作品たち

順番は特に順位に対応してはいません。母数となる新作は60本くらいか。今年はシネコンばかりで観ておる。 『ベネデッタ』(ポール・ヴァーホーヴェン監督) 『レッド・ロケット』(ショーン・ベイカー監督) 『フェイブルマンズ』(スティーブン・スピルバー…

murashit 先生へのおたより:「メタフィクション表現の四分類についてのメモ」についてのメモ

【注意:今回の記事は私信みたいなものなので、知らない人が読んでもおもしろくない可能性があります】 murashit.hateblo.jp オギャーッ オギャーッ フフフ……騙されたな その泣き声は……わたしだ!!! という茶番はともかく、murashit さん*1からのお便り…

Steam で遊べるメタフィクションなインディーゲーム入門

五大メタフィクションインディーゲームとはなにか。えっ、てか、なに(笑い) The Stanley Parable:「ナレーター」に抗う/従う The Hex; トランスジャンルなゲームたち undertale:アンチジャンル Doki Doki Literature Club!(『ドキドキ文芸部!』) :…

声を奪われた魚たちーー実写版『リトル・マーメイド』について

*オリジナル版・実写版両方の『リトル・マーメイド』のネタバレを含みます。 From Ashes to the Ocean 1989年の『リトル・マーメイド』は声の物語であり、歌と音楽の映画だった。 オフ・ブロードウェイでの成功により注目されていた作詞家ハワード・アシュ…

最近日本語化されたらしいのでやっておきたい積みインディーADVゲーム10選

これまでのあらすじ: ティアキンって略すと、HIKAKIN、SEIKINに次ぐ第三の男(ナン)みたいですね。 下記はメモ代わりです。基本的にやったことはないのでゲーム内容の説明薄め。興味ある人は自分でググって。そういうわけなので翻訳の質もいちいち保証はし…

足場から足場へ。:『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』について

「スーパーマリオやろうぜ」エリックがなだめるように言う。 ぼくはかぶりを振る。 「あれはフェイクすぎる」 「裏にバスケのコートがあるじゃんか。ちょっとシュートでもしようぜ」 ぼくはかぶりを振る。 あれはリアルすぎる、とぼくは思う。 ――マイケル・W…

2022年の新作まんがベスト10

今日まだ誰も言ってないかもだから言っておくね、「きみはスペシャル」 きみはまだ信じてないかもだから言っておくね、「きみはスペシャル」 ーーLizzo「Special」 【新作連載まんがベスト10】*1 1.天野実樹『ことり文書』(ハルタコミックス) 2.山口貴由『…

2022年の新作映画ベスト10とその他:第三期ピークTVの時代、あるいは犬の年

前説 新作映画ベスト10 1.『戦争と女の顔』(カンテミール・バラーゴフ監督、ロシア) 2.『アンビュランス』(マイケル・ベイ監督、アメリカ) 3.『ブラック・フォン』(スコット・デリクソン監督、アメリカ) 4.『NOPE』(ジョーダン・ピール監督、アメリカ…

ゲームの夢、映画の魔――『IMMORTALITY』について

(本記事は本ブログに珍しく、あまりネタバレが含まれていない。ちょっとはあります) 君という光が私を見つける 真夜中に 宇多田ヒカル「光」 (本編より) 視覚芸術分野において「見ることと見られることについての作品」というフレーズで評することは若干…

引用のためらい、パロディのあわい――岡田索雲『ようきなやつら』について

(本記事は岡田索雲『ようきなやつら』のネタバレが含まれています。といいますか、すでに読んでいる読者向けに書かれていてネタバレすらすっとばしているところがあります。ご注意ください。) (ネタバレなしの紹介としては↓でV林田氏がこれ以上ないものを…

文字と声と亡霊たちの天国――『ディスコ・エリジウム ザ・ファイナル・カット』について

「けど、”ディスコ”・エリジウムでしょ……。おかしくないかしら? ディスコは過去のもの、忘れられたものでしょう?」 「過去は未来だが、未来は死んでいる!」 ――『ディスコ・エリジウム』 『ベイビー、あんたが探してんのは結局あんた自身なのよ』 ――舞城王…

あこがれを吸い寄せる虚空――『虚空の人 清原和博をめぐる旅』について

長島は英雄だった。難しい理由は必要なかった。子供にも即座に理解できる英雄だった。長島になりたかった。野球選手になって長島になりたかった。たとえ野球選手にならなくても長島になりたかった。 少しずつ自分は長島でなく、長島になれないのだということ…

ORGANISM という未来の廃墟に行った。ーーVRChat紀行

廃墟というのは裏返しの未来にすぎない。 -ウラジミル・ナボコフ ORGANISM いままで行った vrc のワールドでトップクラスによかった。 pic.twitter.com/iJZ1KhpE2Q— 集 (@uraq_) 2022年5月21日 エメラルドの鹿に導かれて電話ボックスから出ると、そこは誰の…

『文体の舵をとれ』合評会の運営についてのメモと、人類の進歩と調和

序 昨夏から『文体の舵をとれ』の課題を Discord 上で集まってわいわいやっとりました。 本書は『ゲド戦記』などで知られるファンタジー・SF作家のル=グウィンがあなたの文体を鍛えてくれる創作指南本であり、全十章からなる課題をクリアすると最強の文体が…

フィギュアスケートまんがにおけるジャンプ時のコマ送り表現について。

フィギュアスケートまんがを読んでいると、どの作品にもある演出が共通して描かれることに気づきます。 それが「ジャンプ時のコマ送り」。 (『メダリスト』つるまいかだ 『アフタヌーン』連載) このようにジャンプの回転を連続写真のように、ひとつの画面…

第94回アカデミー作品賞候補作の(ほぼ)全所感。

今年に入ってから映画の感想をブログに残していないことに気づいたのでよくないなーとおもったので、時期も時期もだし、アカデミー賞の作品賞候補になっている十作品のうち、日本で公開済みの九作品についての感想を書いておきます。正直、そこまで興味持て…

2022年1月の新作まんがベスト10+5

あけましておめでとうございます。 以下は、2022年の一月に第一巻が発売された新作まんが10選と、同じく2022年に発売された単発長編・短編集5選です。 基本的にはおもしろいと感じた順にならんでいるものと思し召しあそばせ。 よくある質問: Q.来月もやるの…

かわいいゾウさんを撃つーー『It Takes Two』について

*本記事には『IT Takes Two』についてのネタバレが含まれています。*1 しかし私はその象を撃ちたくなかった。草の束を膝に叩きつける象を私は見つめた。象は何かに没頭している老婦人を思わせる雰囲気を持っていた。象を撃つことは謀殺のように思われた。 …

2021年の新作映画ベスト10+α

序 新作映画ベスト10 1.『キャッシュトラック』(ガイ・リッチー監督、米英) 2.『偶然と想像』(濱口竜介監督、日) 3.『ライトハウス』(デイヴ・エガーズ監督、米ブラジル) 4.『プロミシング・ヤング・ウーマン』(エメラルド・フェネル監督、米) 5.『…