名馬であれば馬のうち

読書、映画、ゲーム、その他。


読書、映画、その他。


夢と魔法の王国への旅2023 告知エディション

上方の ぜいろく共が やって来て 東京などと 江戸をなしけり (落首) 上野観光連盟|上野の歴史−4 暑い日がつづきます。黄昏の世界です。しかし、あまりにも激しく燃え上がり、あまりにも詩的なので、あたかも新しい夜明けのようです。*1 あまりにダルいの…

小惑星の魔女は鬼道占師――The Cosmic Wheel Sisterhood について

おのれの能力を越えて上昇しようとするような輩に用心しよう。死を免れない人間に否定されたるものごとを探し求める者たちに。 ――ジェフリー・ホイットニー『エムブレム選集』 store.steampowered.com The Cosmic Wheel Sisterhood はタイトルを裏切らないゲ…

コマったさんの台湾怪奇ミステリまんが――シャオナオナオ『守娘』

台湾のまんがってえいいますと、去年ビームコミックスから発売されて村上春樹、岩井俊二、はっぴいえんど、ゆらゆら帝国などをピュアッピュアの小細工抜きで投げてきて日本の腐りきったサブカルクソ野郎どもを浄め死滅させた豪速球文化系青春ラブストーリー…

2023年上半期に観た新作映画でよかった作品たち

順番は特に順位に対応してはいません。母数となる新作は60本くらいか。今年はシネコンばかりで観ておる。 『ベネデッタ』(ポール・ヴァーホーヴェン監督) 『レッド・ロケット』(ショーン・ベイカー監督) 『フェイブルマンズ』(スティーブン・スピルバー…

murashit 先生へのおたより:「メタフィクション表現の四分類についてのメモ」についてのメモ

【注意:今回の記事は私信みたいなものなので、知らない人が読んでもおもしろくない可能性があります】 murashit.hateblo.jp オギャーッ オギャーッ フフフ……騙されたな その泣き声は……わたしだ!!! という茶番はともかく、murashit さん*1からのお便り…

Steam で遊べるメタフィクションなインディーゲーム入門

五大メタフィクションインディーゲームとはなにか。えっ、てか、なに(笑い) The Stanley Parable:「ナレーター」に抗う/従う The Hex; トランスジャンルなゲームたち undertale:アンチジャンル Doki Doki Literature Club!(『ドキドキ文芸部!』) :…

声を奪われた魚たちーー実写版『リトル・マーメイド』について

*オリジナル版・実写版両方の『リトル・マーメイド』のネタバレを含みます。 From Ashes to the Ocean 1989年の『リトル・マーメイド』は声の物語であり、歌と音楽の映画だった。 オフ・ブロードウェイでの成功により注目されていた作詞家ハワード・アシュ…

最近日本語化されたらしいのでやっておきたい積みインディーADVゲーム10選

これまでのあらすじ: ティアキンって略すと、HIKAKIN、SEIKINに次ぐ第三の男(ナン)みたいですね。 下記はメモ代わりです。基本的にやったことはないのでゲーム内容の説明薄め。興味ある人は自分でググって。そういうわけなので翻訳の質もいちいち保証はし…

足場から足場へ。:『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』について

「スーパーマリオやろうぜ」エリックがなだめるように言う。 ぼくはかぶりを振る。 「あれはフェイクすぎる」 「裏にバスケのコートがあるじゃんか。ちょっとシュートでもしようぜ」 ぼくはかぶりを振る。 あれはリアルすぎる、とぼくは思う。 ――マイケル・W…

2022年の新作まんがベスト10

今日まだ誰も言ってないかもだから言っておくね、「きみはスペシャル」 きみはまだ信じてないかもだから言っておくね、「きみはスペシャル」 ーーLizzo「Special」 【新作連載まんがベスト10】*1 1.天野実樹『ことり文書』(ハルタコミックス) 2.山口貴由『…

2022年の新作映画ベスト10とその他:第三期ピークTVの時代、あるいは犬の年

前説 新作映画ベスト10 1.『戦争と女の顔』(カンテミール・バラーゴフ監督、ロシア) 2.『アンビュランス』(マイケル・ベイ監督、アメリカ) 3.『ブラック・フォン』(スコット・デリクソン監督、アメリカ) 4.『NOPE』(ジョーダン・ピール監督、アメリカ…

ゲームの夢、映画の魔――『IMMORTALITY』について

(本記事は本ブログに珍しく、あまりネタバレが含まれていない。ちょっとはあります) 君という光が私を見つける 真夜中に 宇多田ヒカル「光」 (本編より) 視覚芸術分野において「見ることと見られることについての作品」というフレーズで評することは若干…

引用のためらい、パロディのあわい――岡田索雲『ようきなやつら』について

(本記事は岡田索雲『ようきなやつら』のネタバレが含まれています。といいますか、すでに読んでいる読者向けに書かれていてネタバレすらすっとばしているところがあります。ご注意ください。) (ネタバレなしの紹介としては↓でV林田氏がこれ以上ないものを…

文字と声と亡霊たちの天国――『ディスコ・エリジウム ザ・ファイナル・カット』について

「けど、”ディスコ”・エリジウムでしょ……。おかしくないかしら? ディスコは過去のもの、忘れられたものでしょう?」 「過去は未来だが、未来は死んでいる!」 ――『ディスコ・エリジウム』 『ベイビー、あんたが探してんのは結局あんた自身なのよ』 ――舞城王…

あこがれを吸い寄せる虚空――『虚空の人 清原和博をめぐる旅』について

長島は英雄だった。難しい理由は必要なかった。子供にも即座に理解できる英雄だった。長島になりたかった。野球選手になって長島になりたかった。たとえ野球選手にならなくても長島になりたかった。 少しずつ自分は長島でなく、長島になれないのだということ…

ORGANISM という未来の廃墟に行った。ーーVRChat紀行

廃墟というのは裏返しの未来にすぎない。 -ウラジミル・ナボコフ ORGANISM いままで行った vrc のワールドでトップクラスによかった。 pic.twitter.com/iJZ1KhpE2Q— 集 (@uraq_) 2022年5月21日 エメラルドの鹿に導かれて電話ボックスから出ると、そこは誰の…

『文体の舵をとれ』合評会の運営についてのメモと、人類の進歩と調和

序 昨夏から『文体の舵をとれ』の課題を Discord 上で集まってわいわいやっとりました。 本書は『ゲド戦記』などで知られるファンタジー・SF作家のル=グウィンがあなたの文体を鍛えてくれる創作指南本であり、全十章からなる課題をクリアすると最強の文体が…

フィギュアスケートまんがにおけるジャンプ時のコマ送り表現について。

フィギュアスケートまんがを読んでいると、どの作品にもある演出が共通して描かれることに気づきます。 それが「ジャンプ時のコマ送り」。 (『メダリスト』つるまいかだ 『アフタヌーン』連載) このようにジャンプの回転を連続写真のように、ひとつの画面…

第94回アカデミー作品賞候補作の(ほぼ)全所感。

今年に入ってから映画の感想をブログに残していないことに気づいたのでよくないなーとおもったので、時期も時期もだし、アカデミー賞の作品賞候補になっている十作品のうち、日本で公開済みの九作品についての感想を書いておきます。正直、そこまで興味持て…

2022年1月の新作まんがベスト10+5

あけましておめでとうございます。 以下は、2022年の一月に第一巻が発売された新作まんが10選と、同じく2022年に発売された単発長編・短編集5選です。 基本的にはおもしろいと感じた順にならんでいるものと思し召しあそばせ。 よくある質問: Q.来月もやるの…

かわいいゾウさんを撃つーー『It Takes Two』について

*本記事には『IT Takes Two』についてのネタバレが含まれています。*1 しかし私はその象を撃ちたくなかった。草の束を膝に叩きつける象を私は見つめた。象は何かに没頭している老婦人を思わせる雰囲気を持っていた。象を撃つことは謀殺のように思われた。 …

2021年の新作映画ベスト10+α

序 新作映画ベスト10 1.『キャッシュトラック』(ガイ・リッチー監督、米英) 2.『偶然と想像』(濱口竜介監督、日) 3.『ライトハウス』(デイヴ・エガーズ監督、米ブラジル) 4.『プロミシング・ヤング・ウーマン』(エメラルド・フェネル監督、米) 5.『…

2021年のマンガ新作ベスト10+5+7+5

序 【2021年に第一巻が発売された継続連載作】 ベスト10 『ちいかわ なんか小さくてかわいいやつ』ナガノ 『FX戦士くるみちゃん』原作・でむにゃん、作画・炭酸だいすき 『ムシ・コミュニケーター』ムネヘロ 『すぐに溶けちゃうヒョータくん』戸倉そう 『デ…

2021年の新作ベストゲーム10+やった新作+良かった旧作

あけおめ。 とりあえず、2021年のまんがと映画とゲームのベスト記事を出したいとおもったのですが、このうち早めに出すことの公益性が高いのはゲームだなと判断したのでゲームからやります。ほら、まだ steam のセールやってるしね。 以下、「2021年に steam…

黒い太陽の中心を制御する黒い太陽の中心――『stikir』、『OMORI』、『Milk inside a bag of milk inside a bag of milk』、『Milk outside a bag of milk outside a bag of milk』

眠りに落ちる前の最後の九分間がいちばん好きだった。 現実と幻想が交錯する瞬間を待ち望んでいた。その一瞬のために起床し、一日を生き抜く。私のいちばんの夢は一日じゅう眠ることだった。実現したらなんとすてきだっただろう! でも、その夢はゆっくりと…

同じ人が書いたSFを読む。――『圏外通信 2021裏』『〈未来の文学〉完結記念号 カモガワGブックス vol.3』

「本の話をしよう。お前の書いた小説を読もう。」 江波光則『密葬 -わたしを離さないで-』 「まず、おたがいに本音で話しあおう」とホロ映像がいった。「だれだって本を読むのは好きじゃない。そうだろう?」 トマス・M・ディッシュ、浅倉久志・訳「本を読…

ひさしぶりだな、俺だ、今 VRChat にいる。おまえはどこに?

あっちこっちへ 余計な話が多い まるで聞いた話が全部右から左に流れていくように 興味が持てん ――『邦キチ!映子さん』Season 7 第八話 はじめに忠告しておくけれど、このテキストは長く、一貫性を欠いており、有益な知見も含まれていない。帰ってくれ。 Gu…

予告された死は喜劇か悲劇か問題――『100日間生きたワニ』について

映画を観たのだから映画の話をしろ。映画の話をします。 誰が自分自身にこんな誓いに立てるでしょう。「わたしは死を見るにも、喜劇を見ると同じ目で見るだろう……」 ――セネカ「幸福な人生について」 死。所詮然し死といふ奴は、語るべきものではないらしい。…

2021年上半期でよかった新刊マンガ10選+α

アジで勢いつけて真夜中に一気に書き上げないとブログやれなくなった。 レギュレーション 十選 切畑水葉『阪急タイムマシン』(BRIDGE COMICS)(単巻完結) 伊奈子『泥濘の食卓』(バンチコミックス)(連載) 幾花にいろ『あんじゅう』(楽園コミックス)…

コミックDAYSで読める2021年上半期追加分の新人賞作品20選

ひいきは小学館 スピリッツ読ませてBABY MONSTERの最終巻 謎解きまかせてBABY*1 ――相対性理論「小学館」 【もくじ】 【もくじ】 【校歌斉唱】 【背景】 【これが村長だ】 【私的二十選】 「リスおねえちゃん」ナカハラエイジ(アフタヌーン四季賞2020年夏・…