名馬であれば馬のうち

読書、映画、その他。


読書、映画、その他。


「これは京都SFフェスティバルの参加レポではない」(I'm not the Kyofes Report.)



*去る人物から京都SFフェスティバルのレポを書けといわれたので書きますが、ほとんどはフィクションです。
 まじめに内容を知りたい方は、

https://virtualgorillaplus.com/topic/kyoto-sf-festival-2018-opening/
http://whiteskunk.hatenablog.com/entry/20181009/1539011800
https://togetter.com/li/1274530

 などをごらんください。


* * *


 神宮丸太町には「京のつくね屋」というすこぶる評判な親子丼の店があります。
 そこで名物の親子丼と鳥餃子(揚げた手羽先の中に餃子めいた野菜の具がつまっている)をのんびり食べておりますと、片付けたころにはとっくに京都SFフェスティバル本会の開始時刻を越している。こうして割と行きたかった一コマ目が飛びます。イコライザーさんが見ていたなら「どうしてチャンスを逃すんだ」と怒ったでしょうが、わたしは『世界と僕のあいだに』を半分ほどしか読まないままうっちゃった人間なので、どうしようもない。

 二コマ目には間に合います。
 酉島伝法先生と飛浩隆先生の対談です。
 酉島先生についてはいつかのやはり京フェスのときに吉村萬壱先生との対談を通じておもろい大阪のおっさんなんだなと知っていたのですが、飛先生はどうだか未知数です。イメージとしては声が中田譲治な白髪知的紳士。酉島先生と話が合うんだろうか、と心配してしまいます。
 会場に着くとたしかに声こそ中田譲治ではなかったものの絵的にはだいたい白髪知的紳士と合致するおじさまが演壇に座っています。不安がさらに募ります。しかし始まってみると、飛先生もおもろいおっさんの類なのだと判明しました。
 対談は飛先生の聴き上手と切れ味鋭いボケがいかんなく発揮され、酉島先生の新作にまつわるあれこれから普段の執筆スタイルまで根堀葉掘りされていきました。あまりに飛先生のインタビュアー力が高すぎたためか、飛先生のほうの話がそれほどなかったように思われましたが、おもしろかったので良しです。酉島先生の新作長編の元ネタが『次郎長三国志』と聞いて、ほう、となりもしました。
 本対談の白眉はなんといっても、「川」でしょう。川をあのように使いに、川に溶け込む酉島先生はやはり彼岸の向こう側が見えているヒトなのではないかと思わされました。詳しくは上記のリンク(下のほう)をお読みください。


 三コマ目は小川一水先生による『天冥の標』完結記念トークでしたが、天冥は三巻くらいまでしか読んでいなかったのでそんな状態で出席するのも失礼だと思い、近くのからふね屋でミックスジュースフローズン(おいしい)をすすっていました。
 あとでトークの内容を報告してくれた、やはり天冥を通読していない後輩によると、別に素の状態でも先生のキャラを十分堪能できたそうで、やっぱりいきゃあよかったなとちょっぴり後悔しました。筋を通すのは人間として大事ですが、ときに筋を曲げていい場合もあるのです。学びですね。京フェスはいつだってわれわれを成長をさせてくれます。一抹のほろにがさと共に……。




 さて本会が終わると工場へと案内されます。


 工場の入口で靴とコートをフロントに預けると、スタッフから俳句をしたためるように要請されます。どんな俳句ですか、と訊ねると、今生にお別れするノリで、と注文が付きます。
 俳句を提出すると若こうじょうちょう(両親を亡くしたばかりの小学生)にいざなわれ、暗い地下の奥の奥へと連れて行かれました。
 壁の途中途中には歓迎のメッセージらしきものが刻みつけられており、「いますぐ逃げろ」「死にたくない」「サラミだけはいやだ」などといった個性豊かなセンテンスでわれわれの目を楽しませてくれます。

 
 三十分ほど歩いたでしょうか。
 急に視界がパッと明るくなり、目の前にハリウッド製SF映画でよく見るような清潔感溢れる作業場に出ました。縦横に巡らされたベルトコンベアの上を青い肉と赤い肉が流れていき、働いているひとたちが忙しく処理をほどこしたりしています。
 若こうじょうちょうはわたしにこう言います。
「ここはSFフェスミート工場。二種類のsfフェスミートを生産しています」
 向かって右側がS味で、左側がF味ですね、と手で示しながら、若こうじょうちょうは丁寧に解説してくれます。
「二種類! すごい、スプラツーンみたいだ」
「そう、スプラツーンみたいでしょう」
 若こうじょうちょうは、あなたも肉になってみませんか、とわたしに対して提案してきました。
「ええー、肉ですか。自信ないなあ」
「自信なくても大丈夫です。SFフェスミート工場はどんな肉も拒みません。あなた以外の参加者のみなさまも、全員肉になっておりますよ」
 たしかに周囲の参加者たちもみな肉と化していました。
 自分以外の人間が足並みをそろえて肉になっているのを見ると、ふだんは押し殺している日本人としての本性がむくむくともたげてきて、自分も肉にならないと! という気分が盛り上がります。
「わたしも肉にしてください」
 こうしてわたしも肉になりました。


 肉になったので、若こうじょうちょうはさまざまな肉たちが催しているおもしろコンテンツの部屋をツアーしてくれました。

「これは VRChat の部屋です」
 現実世界では肉だったものがVR世界で寿司になったりしていました。わたしも寿司になりたくなったので、家に帰ってから早速 blender をインストールしようと決意しました。


「これはsf映画を語る部屋です」
 SF映画が観たくなりました。参加者にダンカン・ジョーンズの『mute』をやたら詳しく読解する方がいて、あれ実はおもしろかったのか、という感情を持ちました。


「これは海外SFの最新情報を語る部屋です」
 SFが読みたい! になりました。赴任地のアフリカ諸国に現地語に翻訳した自国のSFをばらまいている旧共産圏の外交官(ジョン・ポールか?)や日本語から直接SFを訳しているハンガリー人などの話を聴き、旧共産圏の人間はヤバイな、と思いました。


「これはsf映画を観る部屋です」
 うおー観たい、と思っていると突如としてベルトコンベアが動き出し、わたしは大広間へ運ばれました。


 大広間には二種よりはるかにヴァリエーションに富んださまざまな肉がひしめていていました。肉フェスじゃん、とおもいました。
 馬肉、牛肉、羊肉、魚肉、バイオミートなどに仕分けされた肉たちが肉々しているのに目移りして自分はどのグループに属する肉なだろうと惑っていると、百合の花を匂いを放っているグループになんとなくつられました。
 そこで百合だと思われる作品リストを手渡され、ここに載ってるやつ以外で百合だと思うものがあったらどしどしあげてほしい、と言われたので、いっしょうけんめい考えようとしましたが、私は花についてあまり詳しくないものですから、たちまちに腐りかけました。
 今にして思えば『少女境界線』あげりゃあよかったのですが、あれもリストに記入済みだっかな? なにもおぼえていません。前回の創元SF短編賞で審査員賞をおとりになられた百合とミステリの泰斗、織戸久貴先生がいたらな、とおしまれました。


d.hatena.ne.jp

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 時計も十二時を回り、わたしも他の肉もぶよぶよにやわらかくなりはじめます。

 気がつけば映画の部屋で mute を熱心に語っていた人をはじめとした数名と百合の議論を白熱させており、そのうちのひとりがガンガンに載っているマンガで何か外伝的なエピソードが出ると百合っぽくなる*1カドカワの陰謀ではないか、とおっしゃったので、わたしは「では、ひとつのプログラムのなかでたまに百合回があるだけの作品は百合なのでしょうか?」と問いました。
 すると mute のひとが、
「そういうものは百合とはみとめがたい。外伝とか別枠ならアリかもだが」
 じゃあ、このリストに『スティーヴン・ユニヴァース』が入ってますけど、『アドベンチャー・タイム』のほうはダメだってことですか、と不安がちに尋ねると、「『アドベンチャー・タイム』は百合だよ!」と一喝があり、百合ということになりました。
 ATが百合かどうかでないかは大した問題ではない、とみなすレモンピープルもいるかもしれません。わたしもふだんはそう思います。しかし百合であるかどうかで生きるか死ぬかみたいな鉄火場はたしかに実在し、いかなる場であれATを殺すのは忍びない、そうではありませんか? 愛とはそういう力です。

 あとなんかホモ・ソーシャルなブロマンス好きだから百合好きなところあるよね、などと親和性を論じていると、いきなり百合原理主義テロリストが乱入してきて肉切り包丁をつきつけつつ私たちを壁を前に整列させ、SF百合聖書(『裏世界ピクニック』か?)の一文を原語で暗唱するように要求し、わたしはできなかったので向こうの景色が透けるほど薄く芸術的にスライスされました。


 スライスの妙による酸化作用でもっとおいしくなっていると、ゲームにくわいひとがやってきて、伸びるイヌのゲームを紹介してくれました。


www.youtube.com



「うはははは、伸びてる伸びてる。すげえ。ウケる」
 わたしはウケました。
 ひとしきりウケたあと、ふと大広間を見渡してみるとほかのみんなも伸びている。わたしも伸びている。なんか肉の状態で伸びるとソーセージ(スライスされているのでむしろハムですが)みたいな心地でみっともないな、と恥じていると、伸びるイヌのゲームを紹介してくれたひとが別の伸びてるひとをつれてきました。あんまり他人のテイストをこういう場で話すのもどうかな、と思いますが、味は星野源に似ていてすてきでした。
 お源さんは、人生ってなんだろうな、みたいな問答を発されたので、私は生まれて初めて人生について思いを馳せ、人生、人生か、なんなんでしょうね人生、でも今肉だしな〜人生とかもう……みたいなことしか返せなかった。もっとちゃんと考えていこうとおもいました。肉の生に意味などなく、暮らしがあるだけなのかもしれませんが、それでも生活はつづくのです。

 
 映画にくわしい肉のひとも複数いました。
 やたらマイナー映画をおさえているひとがいました。インドのサスペンスやホーガンの名作のタイトルをパクった吉岡里帆の映画がアツい、アツいが、どれもソフト化される気配がない、という話を聞いて淀川長治の戦前トークを聞かされたみたいな空気になりもしました。
 映画をすごくよく記憶しているひともいました。
 映画を動きで見られる人すごいですよね、なんかわたしは静止画の連続としてでしか動画を認識できないのでアレです、と話すと、流派はいろいろですよね、編集が映画の動きを決めてるみたいな部分があって、たとえば鈴木清順、『ピストルオペラ』なんかは編集のタイミングだけで動きを創出しようとしていたんです、と言われて、なるほど、あれはそういう映画だったのか、と感心し、やっぱり映画を読むのは大事だな、mute みたいに、と内省しました。あと観賞録をつけるなら、KINENOTE より、Filmarks がいいのかなあ、とも思いました。ネトフリとかの作品は登録されてないんですよね、KINENOTE
 そのあとは、マックGのネトフリ映画『ザ・ベビーシッター』は最高だという流れになり、最高になりました。気分は熟成肉です。気がつけばもう四時ですよ。熟すのも当然ですね。
 メタンがわたしの全身を包み、睡りの国へと連れていきます。夢の中のわたしは神戸牛で、ロシアの大富豪に買われましたが、大富豪はあまりに大富豪すぎたのでわたしはロットワイラー犬の餌に供されました。肉のいのちはなんと儚いものでしょう。


 朝目覚め、校長先生の朝礼を聞いたのち、三々五々出荷の次第とあいなりました。
 わたしは加工プロセスでなんらかの不具合が発生したらしく、家畜用の餌として世に出される情勢となり、残念だけどしょうがないな、という諦念をのみこみつつ工場の外へ運びだされたその瞬間、川側の草地の影から飛びだしてきた野良犬に襲われガブガブかじられました。
 わたしは、たすけてくれー、とわめきますが、犬の勢いがあまりにものすごいので、運送員のひとも近寄れません。わたしの含有している塩分は犬の身体にはあまりよくないはずですが、そんなことは餓狼と化した犬には関係ないようです。
 運送員のひとは「ハイクだ、ハイクを思い出せ!」とわたしに対して必死に呼びかけます。それを聞いて、ああ、あのときに出したハイクは辞世の句だったのだな、とわかり、あんなうろんな夜にも伏線がはらまれていた事実にちょっとおどろきながら、犬の食道へと嚥み下されました。


 数時間後、三条のあたりが野良犬が草地にうんこをプリッとひねると、それが養分となって、あとからきれいな百合の花が咲いたそうです。


 

金沢・酒宴 (講談社文芸文庫)

金沢・酒宴 (講談社文芸文庫)



 企業機密や個人情報というのもあって、工場のなかのことはよく明かせませんが、まあだいたいそんな感じでした。そういう感じなのでは、なかったでしょうか。色んな方にお世話になりました*2。こんな規模の大会を四十年以上続けている京都大学のSF研のかたがたはすごいなあ、文化に貢献しているなあ、とおもいました。ありがとうございました。

*1:実際の発言の主旨とは微妙に異なっているかも

*2:特にSF映画企画に誘っていただいたKさんには。多分それがなかったら本会止まりだったので