名馬であれば馬のうち

読書、映画、その他。


読書、映画、その他。


2015年に読んで面白かった新刊大賞

参考:2011年読書まとめ - フィララバキシア
今更2013年新作のベスト - フィララバキシア
2014年度新本格新刊本屋大将大賞 - フィララバキシア
犬の力――2015年度8月までのポケミス・ラウンドアップ - フィララバキシア

去年は絶望的に読んでなかったので、去年のまとめみたいなテンションで書けない……。
読書ログを呼び出す元気もないので思い出してなんとかやります。

わたしの一ダース

ミュリエル・スパーク『ブロディ先生の青春』

ブロディ先生の青春

ブロディ先生の青春

 新訳。ふとしたはずみでナラティブの時間軸が入れ替わりまくる無茶苦茶な構成なのにもかかわらず、するりと読めてべらぼうに面白い。なんでこんなことが可能なんだろう。意味がわからない。そういうストーリーテリングの妙に淫するだけでも楽しめるし、ホワイダニットじみた人物心理を追うだけでも楽しめる。


デイヴ・エガーズ『ザ・サークル』

ザ・サークル

ザ・サークル

 SFを評するにあたっては使い古されすぎてむしろ毛嫌いされている「本作は『今ここ』にある現実を描いたものなのだ」という紋切フレーズがむしろ新鮮さを帯びてピッタリとハマるSNSディストピア小説。
 後半にかけての展開は飛躍がすぎる感もあるけれど、その大味さを含めて愉快です。


ミハイル・エリザ―ロフ『図書館大戦争』

図書館大戦争

図書館大戦争

 読書人による読書人のための読書人小説、2015年度読書人小説大賞受賞作*1
 「フィクションも楽しいだけど、現実も大事だよね」だとか「現実社会に対して示すべき健全さ」などといった常識的な視点は完全に欠落していて、ただドラッグとしての読書が称揚されている。本は楽しい、本は面白い、本のない人生なんて生きるに値しない。幻想が現実なんだ。これがウクライナ人作家のソ連時代に対するノスタルジーから生まれたというのだから、おそろしい。
 そういえば、ソ連とは本と本への幻想から生まれた国だったなあ、と思い起こさせる。


ミランダ・ジュライ『あなたを選んでくれるもの』

 してみると、なんだかんだでジュライは「フィクションも楽しいけど、現実も大事だよね」と考える派の作家なのかもしれない。彼女はネット社会を嫌悪し、クレイグスリストなどといった今風のサイトを頼らず、雑誌の折込チラシで中古品をやりとりしようとする人々を探す。
 しかし、そういうアナログな人々はネットにはびこる人間たちよりよっぽど夢想家なのだ。なぜならいまやネットは現実と地続きだから。むしろ新聞や雑誌といった媒体のほうが非リアルな場だ。
 現実派ジュライは現在と現実に取り残された夢想家たちを、ほんわかと、しかしどこまでも冷ややかに観察する。ところがある一点で、彼女はファンタジーの領域に必要と好奇心に駆られ、進んで足を踏み出す。そこで奇跡が起こる。フィクションに「選ばれる」人間というのは確実に存在するのだな、と思います。


ルース・レンデル『街への鍵』

街への鍵 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

街への鍵 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 「灰かぶり」の伝説は、「白馬の王子さま」の幻想は、はたして九十年代のロンドンにあっても現実化しうるだろうか。別の作家だったら、とりわけマミーポルノと呼ばれるジャンルを書くロマンス作家なら、この問いに力強く「イエス」と答えたかもしれない。でもよりによってこの物語の主人公は作者にレンデルを選んでしまった。
 なぜレンデルというミステリ作家(本人はそう呼ばれることを嫌っていたが)が巨匠と呼ばれていたのか、『ロウフィールド館』を読んだときにはよくつかめなかったその事実が、本書ではよく実感できた。


アンドリューホッジス『エニグマ アラン・チューリング伝 』

エニグマ アラン・チューリング伝 上

エニグマ アラン・チューリング伝 上

 恐るべきはホッジスの収集能力と想像力、あるいは妄想力というべきか。家系図から日記、手紙までチューリングに関するものなら何でも手に入れて物語化しようとするその熱意は空恐ろしくすらある。特にチューリングが密かに恋慕していた友人の遺品(万年筆)にまつわるエピソードの組み立てはとてもエキサイティングで、伝記とはかくあるべきだと思う。
 
 
 
倉橋由美子『最後の祝宴』
最後の祝宴

最後の祝宴

 なるべくなら人を世を憎まずに生きたい。そう願う人は多くて、だからこそ切れ良くオリジナルに世を憎悪できる人材を見つけては自分の憎しみをアウトソースし満悦する。不健全で卑怯だとは思う一方で、実のところオリジナルに他人を強く憎悪しかつそれを言語化できる才に恵まれた人は少ないのだからしょうがないじゃない、とも思う。ともあれ、倉橋由美子はその手の委託先としてはまずもってトップクラスの作家だ。彼女はあなたのために憎しみを祈ってくれる。
 この人の視力を明晰にしているのは何も憎しみだけでない気がする。


ロベルト・ボラーニョ『アメリカ大陸のナチ文学』

アメリカ大陸のナチ文学 (ボラーニョ・コレクション)

アメリカ大陸のナチ文学 (ボラーニョ・コレクション)

 架空のファシズム作家たち(主に南米出身)の評伝がならべられた本。そう言いさえすれば、読む人は読むだろうし、読まない人は永遠に読まないでしょう。紹介が楽な本です。


トレヴェニアン『パールストリートのクレイジー女たち』

パールストリートのクレイジー女たち

パールストリートのクレイジー女たち

 文人墨客トレヴェニアンの遺作。こういう自伝(的小説)を最後にもってこれる作家はつええなあ。


ジュディ・バドニッツ『元気で大きいアメリカの赤ちゃん』

元気で大きいアメリカの赤ちゃん

元気で大きいアメリカの赤ちゃん

 収録短編のきなみ傑作という奇跡が御覧になれる。


ウラジミル・ソローキン『ブロの道 氷三部作:一』

ブロの道: 氷三部作1 (氷三部作 1)

ブロの道: 氷三部作1 (氷三部作 1)

 完全にジョジョ。美文のジョジョ。読んだことないけどジョジョ


ラヴィ・ティドハー『完璧な夏の日』

完璧な夏の日 (上下合本版) (創元SF文庫)

完璧な夏の日 (上下合本版) (創元SF文庫)

 こういう人の童心と夏への郷愁を湿っぽく利用した商売を撲滅する事業こそを男子一生の仕事とすべきだと思うのですが、それはさておきこういう人の童心と夏への郷愁に訴えるかけてくる作品は良い物です。


マンガ

単発

たかみち『百万畳ラビリンス』*2

 先輩から紹介されて読んだ。人間になれない人間が幸せに生きるための方法をつきつめたファンタジー。ヒーローたる主人公の発想がちゃんと意外と納得と論理に満ちているのがよい。


平方イコルスン『駄目な石』

駄目な石

駄目な石

 もはや作品の質とかではなく、アティチュードの問題として。


速水螺旋人『螺旋人同時上映』

 螺旋人先生の単発単行本て今までピンとこなかったのだけれど、これはちゃんと読めてちゃんと面白い。


窓ハルカ『俗の金字塔』

俗の金字塔 (torch comics)

俗の金字塔 (torch comics)

 今年のサブカル糞野郎マンガ枠。


縁山『だいたいめる子』

だいたいめる子 (WANIMAGAZINE COMICS SPECIAL)

だいたいめる子 (WANIMAGAZINE COMICS SPECIAL)

 櫻井大エネルギー先生と比べるとインパクトに欠く感はあるものの、きちんと連続ものであることが意識されていてささやかな喜びが随所に。


小島アジコ麻草郁『アリス・イン・デッドリースクール』

 時期的に『がっこうぐらし』のアニメ化とかぶってたのは不幸だったけれど、きちんと日常系もゾンビも青春もやってて非常に好ましい。


志村貴子『わがままちえちゃん』

 日本のジェニファー・イーガン。


近藤ようこ『説経 小栗判官

 近藤ようこのマンガにつきまとう、どこかひんやりとした眼差しが物語の結構とこのうえなく噛み合っている最良のケース。


久正人『フォービリオンナイツ 久正人傑作短篇集』

 久正人、何書いても上手い。何読んでも面白い。


模造クリスタル『ビーンクとロサ』

ビーンク&ロサ

ビーンク&ロサ

 わいは認めへんでこんな甘ったれた糞野郎は!!!!

完結マンガ臨終図鑑

涼川りん『りとる・けいおす』

りとる・けいおす(1) (アクションコミックス)

りとる・けいおす(1) (アクションコミックス)

 悪意のない計算高さ、悪意のない慾望、それらをふりまわしてもなんとなく壊れない友情。今いちばん小学生が描けているマンガだった……のに。以って瞑すべし。


室井大資『秋津』

秋津 1 (ビームコミックス)

秋津 1 (ビームコミックス)

 画風はハードボイルド、作風はギャグという二つの相反する資質を持って生まれてしまったがために不遇をかこってきた室井大資が覚醒させたしたマイルストーン。以って瞑すべし。


安倍吉俊リューシカ・リューシカ

リューシカ・リューシカ 1 (ガンガンコミックスONLINE)

リューシカ・リューシカ 1 (ガンガンコミックスONLINE)

 『リューシカ・リューシカ』の完結はただあるマンガが終わった、ということのみを意味するのではない。それは日本という国が、日本人という民族がイノセンスを喪失したことの象徴なのである。うそです。以って瞑すべし。


白浜鴎『エニデヴィ』

エニデヴィ1 (ビームコミックス)

エニデヴィ1 (ビームコミックス)

 三巻以上続けるのはキツいかなみたいなところが最初からあったけれど、いざ終わられると寂しい。『フェローズ』チルドレンのなかで先達の呪縛を正攻法で*3超克した数少ない作家だった。以って瞑すべし。


うさくん『にゃん天堂』

 つらい労働ファンタジーをつらくないように描きつつ、やっぱりつらいように読ませる手管においてうさくんはもはや熟達の域に達している。以って瞑すべし。


河添太一『謎解きドリル』

謎解きドリル(1) (ガンガンコミックスONLINE)

謎解きドリル(1) (ガンガンコミックスONLINE)

 世界で最も過小評価されたミステリマンガ。いまさら謎ドリについて私ごときが何を語れるというのでしょう。以って瞑すべし。


岡村星『ラブラブエイリアン』

ラブラブエイリアン 1

ラブラブエイリアン 1

 ギャグの水域はリベラルなアメリカ人が作ったシングルカムのシットコムみたいだけど、こういうのにファンタジー要素足さないとでもあんましウケないんだなあ、と思う。以って瞑すべし。


道満晴明『ヴォイニッチ・ホテル』

ヴォイニッチホテル 1 (ヤングチャンピオン烈コミックス)

ヴォイニッチホテル 1 (ヤングチャンピオン烈コミックス)

 道満晴明には敬意を払うべきだ。アンニュイとギャグをギリギリのバランスでここまで長期間に渡って均衡させた作家は少ないのだから。以って瞑すべし。


たばよう『宇宙怪人みずきちゃん

 本当に、純粋に、マジで、今一番ヤバい漫画家とは誰だろうか? 人は『辱』や『U-12』などのラジカルなウェブ漫画を読んだ時に、あるいは阿部共実などの意地悪でパラノイアックなチャンピオン漫画を読んだ時に、「マジでヤバい」と評する。だが、それらは、そんなものは表面的な露悪趣味でしかない。本当に倫理が崩壊したマンガは血を吹き出さない、誰もレイプされない、何も死なない。不幸も幸福もない。ただ慾望と終焉のみがある。そうしたマンガは傍目からみたら寓話にしか見えないかもしれない。
 だが、たばようは間違いなく二十一世紀において最も卓抜して「リアル」で「ヤバい」漫画家なのだ。
 以って瞑すべし。

連載第一巻

まつだこうた『おかか』

おかか(1) (ヤンマガKCスペシャル)

おかか(1) (ヤンマガKCスペシャル)

 物心つかないジュブナイル時代の思い出。『リューシカ』がおわり、『おかか』がはじまる。

横山旬『変身!』

 メタモルフォーゼという人類永遠のテーマを、思春期少年のリビドーに重ねた傑作。

松田洋子『私を連れて逃げて、お願い』

 ウテナを現実でやろうとするとそれはとても惨めでどうしようもない事態になるのだけど、もしかするとそれは大変に美しいのだ。


ペトス『亜人(デミ)ちゃんは語りたい』

亜人ちゃんは語りたい(1) (ヤンマガKCスペシャル)

亜人ちゃんは語りたい(1) (ヤンマガKCスペシャル)

 ケモや人外はカネになると気づいた某コミック雑誌がそれ系の漫画を濫造してからというもの、人類は商業ケモ人外漫画への希望を失った――だが、ペトス先生はあきらめなかった。人外とマンガの双方に真摯であろうと試みた。そうして、「フェティシズム抜きでフツーにしっかり面白い人外マンガ」が生まれた。人類は救われたのである。


沙村広明『波よ聞いてくれ』

波よ聞いてくれ(1) (アフタヌーンKC)

波よ聞いてくれ(1) (アフタヌーンKC)

 いい意味でも悪い意味でも底がぬけたはちゃめちゃなマンガが横行する現代日本で、あらゆる点において高レベルにソリッドな沙村広明のマンガは読んでてすごく安心する。


志村貴子淡島百景

淡島百景 1

淡島百景 1

 志村貴子芸は何も志村貴子の占有物でもないはずだが、現状の漫画界でつかいこなせるのが志村貴子しかいなさそうなので、しばらくは志村貴子の独壇場が続きそうだ。


小路啓之『メタラブ』

 露悪に品性が伴っている。小路先生はサブカルクソ野郎漫画界に最後に残された良心である。


山口貴由衛府の七忍』

 本格的に人類に理解できない言語で喋り始めた山口貴由


画・青木雅彦、原・柴田ヨクサル『プリマックス』、柴田ヨクサル『妖怪番長』

プリマックス 1 (ヤングジャンプコミックス)

プリマックス 1 (ヤングジャンプコミックス)

 本格的に人類に理解できない言語で喋り始めた柴田ヨクサル


久正人『ジャバウォッキー1914』

ジャバウォッキー1914(1) (シリウスKC)

ジャバウォッキー1914(1) (シリウスKC)

 久正人は漫画界のヴェロキラプトルだ: 偽史を語らせたら誰も追随できない。


画・雨依新空、原・夢枕獏『ヴィラネス 真伝・寛永御前試合』

ヴィラネス -真伝・寛永御前試合-(1) (ヤンマガKCスペシャル)

ヴィラネス -真伝・寛永御前試合-(1) (ヤンマガKCスペシャル)

 2015年最大の収穫。ファンタジーと呼ぶにはあまりに地味なルックスだが、ロジックと画力とキャラ造形に裏打ちされた鬼気迫るタマの取り合いは『シグルイ』以降、我々が忘れていた「人間が殺し殺されることの大切さ、美しさ」を思い出させてくれる。


奇想短編ベスト

ケヴィン・ウィルソン「今は亡き姉ハンドブック:繊細な少年のための手引き」(『地球の中心までトンネルを掘る』)
カレン・ラッセル「帰還兵」(『早稲田文学2015年夏号』)
リディア・デイヴィス甲状腺日記」(『サミュエル・ジョンソンは怒っている』)
ジュディ・バドニッツ「セールス」(『元気で大きいアメリカの赤ちゃん』)
ジュディ・バドニッツ「ナディア」(『元気で大きいアメリカの赤ちゃん』)
平方イコルスン「19話/『スペシャル)』(トーチweb)
マクレーンコミックス「第8話/『怒りのロードショー』(月刊コミックニート
カフカ多和田葉子訳「変身」(『ポケットマスターピース1 カフカ』)
澁澤龍彦久生十蘭のこと」(『文芸の本棚 久生十蘭』)



感想

 あんまり上手い海外ミステリ読んでも心に響かなくなってきた。
 今年はもっと必至にやります。なんか毎年言ってる気がするけど。

*1:私設

*2:上下巻

*3:正攻法でない例: 鈴木健