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名馬であれば馬のうち

読書、映画、その他。


読書、映画、その他。


NETFLIX 限定ドキュメンタリー、アニメ、特番: 『FはFamilyのF』、『The Propaganda Game』、『ビル・マーレイ:クリスマス』

『FはFamilyのF (F is for Family)』


F is for Family - Main Trailer - Netflix [HD]

 一話と二話だけ。七十年代*1のアメリカ郊外の五人家族マーフィー一家を描いたコメディアニメ。
 パパのフランク(声ビル・バー)は頑固な父権主義的男性で、家では子どもたちに威張り散らし事あるごとに人種差別的な悪態をついているが、隣人の気のいいリア充を嫉み、職場である潰れかけた空港では上司にも客にも部下にもへつらう小市民。
 ママのスー(声ローラ・ダーン)は典型的な主婦。しかし、いったん家事から離れると何の趣味やいきがいもなく、そのことを自覚すると泣きながら「私はこれで幸せなはず」と自分に言い聞かせる。
 長男で十四歳のケヴィン(声ジャスティン・ロング)はデニムジャケットにメタル音楽を愛好する落第寸前のバッドボーイ。父親フランクに反発して口汚く罵りさえするが、ときには十四歳相応の豆腐メンタルをのぞかせる。基本的にそっけないが、弟思いな一面も。
 次男のビル(声ハーレイ・ラインハルト*2)は生真面目で気弱な男の子。
 長女で末っ子のモーリーン(声デビー・デリーベリー)はパパから溺愛されてるやんちゃ娘。
 この五人の視点から複層的に彼らの「七十年代」な日常を描く。クリエイターはスタンダップコメディアンのビル・バー*3と『シンプソンズ』の名脚本家マイケル・プライス。

 『マッドメン』を嚆矢として*4、最近アメリカで「六十年代七十年代の無神経でマッチョ崇拝で差別主義的で男性中心社会だったアメリカのヒドさを笑おうぜ」的な映画やドラマが流行っているっぽい。でも、単なるリベラルのシニカルな笑いってだけじゃなくて、古き良きアメリカへのノスタルジーも掬い取ってる気もする。
 それはともかくとして、内容は意外に手堅く渋い家族ドラマ。基本的には、パパが(時代的にも)失われつつある父親のマッチョな威厳を家族やご近所に示そうとして空回りしてしまう、というのを毎回繰り返すっぽい。しかしシンプルに「時代に乗り遅れつつある古い父親」を笑いの対象にするだけでなくて、そこに働く父親としての悲哀や子どもたちとの関係を織りこむことで最終的には心温まる*5ホームドラマへ落としこむ。そういう複雑なストーリーを二十六分できっちりおさめる手腕はさすが『シンプソンズ』のベテラン脚本家、といった感じ。『ボージャック・ホースマン』もだけど、Netflix のオリジナルアニメシリーズにはどこか不器用なダメ人間へのやさしさがある。


アルバロ・ロンゴリア監督『The Propaganda Game』(2015、スペイン)


THE PROPAGANDA GAME - Foreigners need to come here and see the reality

 非 NETFLIX 製作だけど、公開は世界最速。スティーヴン・ソダーバーグ監督『チェ』二部作などをプロデュースしたアルバロ・ロンゴリアによる「北朝鮮行ってみた」ドキュメンタリー。現地取材の映像を織り交ぜつつ、北朝鮮にまつわる虚実を検証しようとこころみる。
 一時期に比べるとだいぶニュースバリューは下がったんだろうけれど,日本は比較的北朝鮮にまつわるニュースに接する機会が多い国だ。なので、この映画で新事実を発見して驚く、なんてことはそうそうないと思う。
 唯一目新しい存在が、ロンゴリアを案内するスペイン人アレハンドロ・ペレス。このペレスという人はスペイン生まれで生粋のスペイン人であるにもかかわらず、十代のころから北朝鮮に魅了されてそのシンパとなった異色の人物。2000年に設立された 国際文化友好団体、 Korean Friendship Association (朝鮮友好協会?)の会長をつとめ*6、 二十年以上にわたって北朝鮮を訪問する外国人観光客や取材記者たちの案内を行っている。
 ペレスはロンゴリアから「北朝鮮っておかしいんじゃない?」と疑問をぶつけられるたびに「いや、おかしいのはアメリカだ。"我々"じゃない」と反論する。当人の気持ちとしては北朝鮮の国民なのだ。彼は何かの大会で「偉大なる指導者様」に熱烈な感謝を捧げ、彼を称える歌を熱唱し、訪問先の学校で「北朝鮮は世界中の国から尊敬と羨望を集めている」と力説する。
 識者は「ペレスは北朝鮮にいいように利用されているだけ」と言う。西側の人間、特に白人が北朝鮮の体制を全面的に称揚してくれるなんて、めったにあることじゃないから、宣伝塔としていいように国内外で使われているだけだ、と。
 実際そのとおりなんだろう。ただ、自分の故郷ではなんでもないような「その他大勢」の一人が別の国に行くと、下にも置かない厚遇を受ける、というのはある種夢のようで、その夢に酔いたくなる気持ちはわからないでもない。


ソフィア・コッポラ監督『ビル・マーレイ・クリスマス(A Very Murray Christmas)』(2015、米)


A Very Murray Christmas - Trailer - Netflix [HD]


「ネットフリックス・オリジナル・フィルム」ではなくて「ネットフリックス・オリジナル・ホリデー・スペシャル」と銘打たれているので映画じゃなくて特別番組的なあつかいなんだろう。尺も一時間弱しかない。

 開幕するや吹雪の舞うクリスマスイブのNYをカーライル・ホテルのガラス越しに眺めるビル・マーレイ(本人役)の後ろ姿が出てきて、洒落たピアノにやたら物悲しいクリスマスソングをのせて歌う。「世間はクリスマスで楽しそうだけど、俺は1月まで消えていたいよ」……。
 マーレイはクリスマス生放送特番に出演することになっているのだが、本人は「クリスマスとかみんな街に出てて誰も愚にもつかん特番なんてみねえだろ……」と超ネガティブモード。共演するはずのスターたちも現場にはおらず、スタッフは「アーカイブの映像から合成する」と言う。グダグダに次ぐグダグダのなか、生放送がはじまるが、開始早々マーレイはMCを放棄。会場のホテルから逃走をはかる。そして偶然、コメディアンのクリス・ロックと遭遇。「彼を出せば番組が持つ!」と確信したマーレイはいやがるクリスを無理やり生出演へひきずりこむ。が、突然の停電によって結局番組は取りやめに。踏んだり蹴ったりのマーレイだったが、ホテルのバーで一杯引っ掛けようとしたことがきっかけで彼にもクリスマスの小さな奇跡が起こる。

 クリスマス特番らしく、歌あり笑いありのゆるゆるなハートフル・コメディ。オールスターキャストでもあって、エイミー・ポーラーやらマイケル・セラやらジェイソン・シュワルツマンやらマーヤ・ランドルフやらいかにもソフィア・コッポラ好きしそうなサブカルキャストで固められている。その上、ジェリー・ルウィスやフェニックス*7といった歌手まで出演していてみんなでクリスマスソングを歌う。はてはマイリー・サイラスやジョージ・クルーニーまで出てきたり。

Miley Cyrus - Silent Night (A Very Murray Christmas)

 さびしげにうなだれているだけで哀れさを、なんとなくテンション高くなってるだけで多幸感を産出するビル・マーレイ力に頼ったビル・マーレイ番組。こういう特番特有のホンワカしたノリやドミノ・コッポラが好きな人じゃないと辛いんじゃないか。辛かった。

*1:二話でベトナム戦争真っ最中であることが示唆されるので、七十年代前半なんだろう

*2:アメリカン・アイドル』出身の歌手だが、ミュージカルパートでも用意されてるんだろうか

*3:『ゾンビーバー』とかの低予算コメディ映画にもよく出演している

*4:ちょっと違うけど『ザ・オフィス』もその範疇なのかな

*5:けれどやっぱり毒のある

*6:KFAを追ったオランダのドキュメンタリー『Friends of Kim』も2006年に製作されている

*7:『SOMEWHERE』で音楽担当してた縁かな