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海外TVアニメの若手クリエイターたちにおける傾向と対策

proxia.hateblo.jp
 でカートゥーン・ネットワークで2010年代に始まって継続中の番組をリスト化したわけですが、つらつら眺めて見るに、80年代生の若手クリエイターが多い。
 彼らはいったいどういう人種なのか。
 何を食ったらああいうものが出来上がるのか。
 傾向を探っていきたい。
 対策は特にありません。
 あと「海外TVアニメ」っつっても主にアメリカだけです。
 アメリカっていうかカートゥーン・ネットワーク関係についてです。

 

80年代生まれのアニメ・クリエイターたちの特徴:

1. 『ザ・シンプソンズ

「こどものころ好きだったアニメ番組は?」という問いに対してほとんどのアニメーターが「『ザ・シンプソンズ』」と答えています。『ザ・シンプソンズ』の放送開始は1989年。彼/女らはまさに直撃世代です。(同時に、ディズニーにおける80年代の低迷と90年代の復活を体験した世代でもある)
 単純に視聴者数が多かったのもあるでしょうが、テンポの早いスラップスティックなギャグやクリクリと飛び出気味の丸い目玉に黒丸瞳というキャラクターデザインなどに確かに『ザ・シンプソンズ』の作風が多くの作品に反映されています。

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(『シンプソンズ』)

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(『レギュラーSHOW』)

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(『アンクル・グランパ』)

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(『ぼくはクラレンス』)

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(ディズニーだけど『グラビティ・フォールズ』)


参考までに2014年からやってる『トムとジェリー・ショー』のトムとジェリーはこんな感じ。
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 虹彩に色がついてたり、まつげが描かれていたりと一手間かかっているのがわかります。
 『シンプソンズ』は「目」の表現を完全に記号化してしまったんですね。

 そう考えると、眼球という概念すらとっぱらってしまった『アドベンチャー・タイム』がいかに革新的だったか。

2.日本アニメ・ゲームの影響:

 ジブリは当然の教養であるのでさておいて、この世代のフェイバリットとしては、『AKIRA』(全米公開は89年末)もよく名前があがります。アキラたちがバイクで夜の東京を集団暴走するピーキーなシーンは、国内外問わずよくパロディのネタにされています。(リンク先のgif集には入ってませんが『スティーブン・ユニバース』でも)

 しかし、この世代の、特に女性のクリエイターたちに多大な影響を与えた日本産アニメといえば、幾原邦彦がてがけた『セーラームーン』(北米では96年にビデオリリース)と『少女革命ウテナ』(北米では98年にビデオリリース)ではないでしょうか。

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(『スティーヴン・ユニバース』の有名なウテナオマージュ回。他のシーンや元ネタとの比較はこちら

http://rebeccasugar.tumblr.com/post/28606878442/utena-fan-art
rebeccasugar.tumblr.com
http://rebeccasugar.tumblr.com/post/108618153348/troffie-when-i-was-working-on-alone-together
rebeccasugar.tumblr.com
http://rebeccasugar.tumblr.com/post/29598934300/all-new-adventure-time-lady-and-peebles-monday
rebeccasugar.tumblr.com
(『スティーヴン・ユニバース』クリエイター、レベッカ・シュガーによるウテナのファンアートとウテナパロ。シュガーは『アドベンチャー・タイム』の監督回で主人公に『セーラームーン』のドレスを着せたりもしてる)


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(『Bee and the PuppyCat』のアンソロジーに寄稿された Anissa Espinosa のアート。本作は『ウテナ』を想起させる要素や描写が多く、影絵演出なんかも挿入されたり)


 若手世代を代表するアニメーターであるレベッカ・シュガー(『スティーブン・ユニバース』)を始めとしてナターシャ・アレグリ(『Bee and the puppy cat』)などが「凛とした騎士のような戦う女性像」や「日常で地続きの謎異世界でのバトル」などが反映されています。男性でコミック・アーティストですが、『スコット・ピルグリム』のブライアン・リー・オマリーもその影響下にある一人ですね。*1
 ちなみに『スティーブン・ユニバース』は女性の同性愛を扱っており、子ども向けアニメとしてはエポックメイキングな一作です。*2クリエイターのレベッカ・シュガーも自身をバイセクシュアルとカミングアウトしています。

 男性作家にはアニメよりむしろ、ゲームの影響が強いでしょうか。ここらへんはTRPG文化や『ウィザードリィ』なんかも混じっているのでむしろ多国籍感と言ったほうが正しいのでしょうが、『アドベンチャー・タイム』や『レギュラーSHOW』にはファミコン世代(アメリカでの発売は85年)の古き良きゲームへのノスタルジーが強くにじみ出ています。

3. カルアーツ出身クリエイターの隆盛と『The Marvelous Misadventures of Flapjack』

 別に北米アニメ界では今に始まった現象ではないのですが、カリフォルニア芸術大学(通称カルアーツ)出身クリエイターの活躍が近年のTVアニメ界、特にカートゥーン・ネットワークで目立ちます。

 『ぼくはクラレンス!』本放送の決定を報じる2012年の記事を見てみますと、「『クラレンス』のスカイラー・ペイジは、『The Marvelous Misadventures of Flapjack』のサーロップ・ヴァン・オルマン*3、『アドベンチャー・タイム』のペンドルトン・ウォード、『レギュラーSHOW』のJGクインテルにつづき、近年では四人目となるカルアーツ出身クリエイター」とあります。
 スカイラー・ペイジはこの後すぐさまセクハラ事件でクリエイターの座を追われるわけですが、この四作品のうち『Flapjack』以外は現在も継続中です。
 これらに加えて、2016年時点では、『アンクル・グランパ』のピーター・ブラウンガート、『ぼくらベアベアーズ』のダニエル・チョンが番組をもっていますので、計五番組がカルアーツ出身者によって占められていることになります。
 面白いのはワーナー・アニメーション(DCヒーローもの、旧ハンナ・バーベラ組、ルーニー・テューンズ)が噛んでる番組とCNオリジナル企画とで、はっきりと非カルアーツ組とカルアーツ組が色分けされるところ。
 「新しくて冒険的な企画は優秀な若い才能に任せるべきだ」というCNの方針が暗黙裡に示されているように思われます。

 カルアーツは、ウォルト・ディズニーがディズニーで働くアニメーターを養成するために創設した*4芸術大学です。アニメーション学校としては世界でも最高峰とされています。そのためか現在でもディズニーとの結びつきが強く、ここから毎年ディズニーやピクサー、あるいは他のアニメ会社へたくさんの若い才能が旅立っていきます。
 もちろん、ディズニーやピクサーの選考から漏れたり、そもそもテレビ業界で働きたがる人たちもいるわけで。

 なかでもペンドルトン・ウォード、J.G.クインテル、そしてアレックス・ハーシュ(ディズニーXDだけど『グラビティ・フォールズ』)の80年代生まれ三人衆は年齢も近く、共にサーロップ・ヴァン・オルマンの『The Marvelous Misadventures of Flapjack』で経験を積んで独り立ちしたグループ*5で、彼ら三人の番組から新しい才能が次々と生まれています。

 他に2010年代に番組を立ち上げたカルアーツ出身者としては、『Long LIve The Royals』の Sean Szeles*6、『Over the Garden Wall』の Patrick Machale *7、『Sym-Bionic Titan』の Genndy Tartakovsky、Bryan Andrews、Paul Rudish(この人たちの場合はまあ別格なんですが)、『Secret Mountain Fort Awesome』*8の Peter Browngart、そしてやはりこれも例外的ですが『ヒックとドラゴン』の Chris Sanders*9 らがおります。

4. 80年代〜90年代カルチャー

 『レギュラーSHOW』なんかには80年代の音楽カルチャーが深く反映されているわけですが、あんまりそのへん詳しくないので割愛。いつか調べる。
 それにしても、『レギュラーSHOW』にしろ、『アドベンチャー・タイム』にしろ、『スティーブン・ユニバース』にしろ、微妙なレトロ・ローテク感、90年代の「当時はすごい便利になったと思ってたけど、今からするとまどろっこしいテクノロジー使ってた感じ」に対するノスタルジーがある気がします。
 『クラレンス』も90年代を意識して作られたそうだし。 

 反対に、『ぼくらベアベアーズ』は最新テクノロジーや都市型のカルチャーがばんばん出てきますね。感覚としては、NYあたりで撮ってる実写コメディドラマに近い。


その他カートゥーン・ネットワーク組を見てて思ったこと

5. なぜかみんなウェス・アンダーソンが好き。

 ジェシカ・ボルツキ(『Bunnicula』)、カイル・カロッツァ(『Magisword』)、そして『レギュラーSHOW』の劇中で『天才マックスの世界』をパロるJGクインテルと、ウェス・アンダーソン作品を好きな実写映画にあげているクリエイターが多い。この人達は共通して80年前後の生まれです。
 そういう目で観てみると、彼らの作砂浜にはレトロ感のあるシックな画調にスタイリッシュな構図が多いし、ウェス・アンダーソンの影響といわれればそうなのかもしれない。

6. ワーナー系のコンテンツはベテランに、新企画は若手に。

 3で言ったこととわりあいかぶるんですが、旧ハンナ・バーベラ系(『トムとジェリー・ショー』、『パワーパフガールズ』)やワーナー・アニメ(『バッグス』)やDCヒーローもの(『ティーン・タイタンズ』)といった、ワーナー傘下のコンテンツのリメイク/アニメ化はそれぞれの筋で経験を積んだベテランに任せる傾向があります。
 一方で、カートゥーン・ネットワークのオリジナル企画(『アドベンチャー・タイム』、『レギュラーSHOW』、『ぼくはクラレンス』、『スティーブン・ユニバース』、『おかしなガムボール』)には業界に入って日も浅い20代の若手をばんばん抜擢しています。

 手堅い企画は手堅い筋に任せ、冒険的な企画は冒険的な筋に賭ける。この硬軟織り交ぜた起用が2010年代のカートゥーン・ネットワークの好調をささえていたわけですね。


まとめ

 特にありません。
 ある時期に大人気だったコンテンツは、それを観て育った子どもたちが業界に入る約二十年後にモロリスペクトされる形で表出するんだなあ、とか、そういうありきたりなアレです。

*1:スコット・ピルグリム』のヒロインは大学時代に自分の部屋に『ウテナ』のポスターを貼っていた

*2:『アドベンチャー・タイム』も公式かどうか微妙なラインですが、声優が「マーセリンとバブルガムはデートしたことがある」と発言して話題を呼びました

*3:現在は、ディズニーへ移籍してなにかのプロジェクトに携わっている

*4:ただしくは古くからあった芸大を買い取った

*5:同作には背景ペインターとしてニック・ジェニングスも関わっており、『アドベンチャー・タイム』や『レギュラーSHOW』での彼の起用もその縁か

*6:『レギュラーSHOW』の主要スタッフ

*7:『アドベンチャー・タイム』の主要スタッフ

*8:『アンクル・グランパ』はもともとこの番組のスピンオフ

*9:元々はディズニーで『リロ・アンド・スティッチ』などを作っていた監督