名馬であれば馬のうち

読書、映画、ゲーム、その他。


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映画

犬映画探訪――『禁じられた遊び』、『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』、『遊星からの物体X』

マイ・ドッグ・デイズ・イン・キョート なんの因果かわかりませんが、今現在京都では示しわせたように各映画館がイヌ映画の古典作を上映しています。 京都シネマでは『禁じられた遊び』、河原町のMOVIXでは『遊星からの物体X』、二条のTOHOでは『マイライフ…

I KILL GIANTS ――『バーバラと心の巨人』

ピュアな魂があまりにもハードすぎる現実に耐えきれず、膜を隔てて世界と接することがある。『ベイビー・ドライバー』の場合、その膜とは音楽だった。そして、『バーバラと心の巨人』では巨人(ジャイアンツ)*1だった。 映画『バーバラと心の巨人』予告編 …

インディーゲームと映画の(雑な)関係――Disasterpeace、デイヴィッド・オライリー、アナプルナ

例によって動画リンクが多いので重いですが。 デイヴィッド・ロバート・ミッチェルと Disasterpeace 『イット・フォローズ』監督の新作『アンダー・ザ・シルバーレイク』日本版予告編 めずらしく音楽ネタから入ります(『ザ・プレデター』で『don't starve』…

ホラー映画における奪われやすい対象としての子どもたち――『クワイエット・プレイス』

微妙にネタバレ注意 「大きく存在する寓意は、いつかは子どもたちを外の暗く深い森へと出さなければいけないときがくる、ということだ。この映画で家族を襲う“何か”のようなものが外の世界にはいるものだ」 「クワイエット・プレイス」に隠された裏テーマと…

2018年に公開された Netflix オリジナルのSF映画全レビュー

遊星からの物体 NetfliX 2018年から「ネットフリックス・オリジナル」を冠した映画・ドラマが爆発的に増えましたね。すげえ増えましたね。ばかみたいに増えましたよ。年ごとに倍々になってなるんじゃないか? って勢い。https://en.wikipedia.org/wiki/List_…

誰が歴史と物語を描くのかーー『スターリンの葬送狂騒曲』

(The Death of Stalin、英・仏、ベルギー、アルマンド・イアヌッチ監督) ロシアで上映禁止のブラックコメディー『スターリンの葬送狂騒曲』予告編公開 - シネマトゥデイ 北野武の『アウトレイジ』シリーズにおける独特の緊張感、たとえばヤクザたちがあま…

2018年上半期の新作映画の思い出とベスト20作

対象作品数はだいたい90ちょっと。 頭がぼんやりするのでコメントは短く。 上半期ベスト20 1『ファントム・スレッド』(ポール・トーマス・アンダーソン監督、米) 2『リズと青い鳥』(山田尚子監督、日) 3『パディントン2』(ポール・キング監督、英…

まぼろしの糸による意図のまぼろし:『ファントム・スレッド』について

(Phantom Thread、ポール・トーマス・アンダーソン監督、2017年、米) (本記事はあらすじをほぼすべて割っています) 神へと捧げられた七つの編み込みのある、金髪と赤毛の重い髪の房が彼女の左手に握られているが、その髪にはそれまで一度もかみそりが当…

ウェス・アンダーソンにおける野生動物たち:『ファンタスティック Mr.FOX』(『犬ヶ島』について・その2)

proxia.hateblo.jp 前回書いた記事がその翌々日発売の『ユリイカ』のウェス・アンダーソン特集号に載っていた一部原稿とかぶり、しかも予告した野生の話も論者のみなさんが結構触れてられていたので、そりゃそうだよなあ、などと思いつつ、やる気は減衰し、…

なぜ『犬ヶ島』はつまらないのか。:『犬ヶ島』について・その1

野田洋次郎も参加!ウェス・アンダーソン最新作『犬ヶ島』日本オリジナル版予告 困ってしまってワンワンワワン、ワンワンワワン ――プロジェクトは犬ものをやろうという着想だったのですか? それとも最初からサムライ犬でやろうと? ウェス・アンダーソン:…

アメリカのピカレスクで多弁な娘たちの映画についてのメモ:『アイ、トーニャ』、『モリーズ・ゲーム』、『レイチェル:黒人と名乗った女性』

とりあえず、「この三作って似てるよね」という思いつきからはじまったものの、おもいついてから二週間経っても、あんまりうまく膨らみませんでした。後々のためのメモとしての残しておきます。 このところ、アメリカを騒がせたバッドアスな実在女性たちにつ…

尻のウサギが僕を呼んで:『ピーターラビット』の感想

(Peter Rabbit, ウィル・グラック監督、米、2018) (わりとネタバレを含みます) 映画『ピーターラビット』予告 野うさぎのふたつの身体 さあ、ご紹介しましょう。彼こそがピーターラビット。わたしたちの物語のヒーローです。 青いコートに身を包んだ若い…

二つの身体をもった心:『君の名前で僕を呼んで』について

もしだれかに、なぜ彼が好きだったのかと、しつこく聞かれても、「それは彼だったからだし、わたしだったから」と答える以外に、表現のしようがない気がしている。わたしの思惟を越えて、わたしが個別にいえることを越えて、そこには、なにかしら説明しがた…

アニメ作品の私選オールタイム・ベスト10

経緯と選定基準 『アニメ秘宝』発売をきっかけに、村長やななめちゃんさんに「おまえらのアニメベストを教えろ」と煽った結果、なんか自分も書かなきゃいけない空気になった。 私はアニメで育ったこどもではないのでアニメにはアニメを観るひとほど親しんで…

背中、背中を追うこと、そして孤独。:『リズと青い鳥』についての覚書その2

proxia.hateblo.jp 蹴りたくはない背中 真正面から抱き合う。なんと残酷な態勢なんだろうとおもいます。なぜなら、抱き合っている瞬間、ふたりの視線はすれ違わざるをえない。ハグは最高の愛情表現であると同時に、互いを最も遠くから見る(あるいは最も近い…

言葉の一致と感情の不一致について:『リズと青い鳥』についての覚書

(『リズと青い鳥』、山田尚子監督、2018年、日本。ネタバレを含みますが、そこまで詳細にはやらない) 山田:そうですね。物語は、ハッピーエンドがいいよ……。 ――劇場版パンフレットより 『リズと青い鳥』本予告 60秒ver. 『リズと青い鳥』を語ることの…

『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』の短いレビュー

(Killing of a Sacred Deer、ヨルゴス・ランティモス監督、英&アイルランド、2017) 開胸手術が施されている最中の心臓のアップではじまる。脈打つ心臓は脂肪に包まれていて、存外に白い。手術を終えたふたりの医師が、病院内の廊下を画面奥から向かっ…

「『スリー・ビルボード』は本当にフラナリー・オコナーなの?」を考える。

『善人はなかなかいない』を読む人 フラナリー・オコナー全短篇〈上〉 (ちくま文庫)作者: フラナリーオコナー,Flannery O'Connor,横山貞子出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2009/03/10メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 12回この商品を含むブログ (16件) …

一月の新作映画でおもしろかったやつ

『パディントン2』(ポール・キング監督、英)☆ 映画『パディントン2』予告篇 喋るクマ映画パート2.孤児が新しい家族に受け入れられるまでが1で、次いでご近所さんや友人といった共同体に受け入れられるまでが2。そういうストーリーを画で見せてくれる…

続編でやる反復芸:『パディントン』から『パディントン2』へ

(Paddington 2, 英、ポール・キング監督, 2018年) 前回までのあらすじ 『パディントン2』サイコ〜〜〜〜ッ! proxia.hateblo.jp (『ズートピア』の反復についてはこちら) (*以下、映画『パディントン』および『パディントン2』の盛大なネタバレ…

2017年の映画ベスト20選と+αと犬とドラマとアニメと

目次 proxia.hateblo.jp 年末のベスト作品選定はゆーすけさんのおっしゃるとおり「本当に自分がつまらない人間だと確認する作業」で、それなりに観たはずなのに好きなものを選んでみると自分でも他の誰でも良いような、節操と個性と信念と一貫性のないセレク…

ユーゴ紛争について触れずにクストリッツァを語ることは可能だろうか。:『オン・ザ・ミルキーロード』感想

(On the Milkyroad, エミール・クストリッツァ監督、セルビア、2017) *注意:オチまでネタを割っています。 男は厩舎で女と邂逅する。ぎこちなく、けれど自然に数語がやりとりされる。 男は言う。「僕の名はコスタ。きみは誰だ?」 女は返す。「昔は女の…

ケネス・ブラナー版『オリエント急行殺人事件』について

『オリエント急行殺人事件』*1の映像化と呼ばれる作品は世界にだいたい五つくらいありまして、ここではシドニー・ルメット監督&アルバート・フィニー主演版(映画、1974年、以下「ルメット版」)、フィリップ・マーティン監督*2&デイヴィッド・スーシ…

奔るゾンビ映画――『新感染 ファイナル・エクスプレス』の感想

(原題:부산행、ヨン・サンホ監督、2016、韓国) 「新感染 ファイナル・エクスプレス」予告編 走る列車、トレインするゾンビ 感染が拡がる、まるで新幹線の速さで。 などという地口が、場当たり的なノリでなく、しんじつ映画としての速度にマッチしているも…

Baby, Please Drive me. ――『ベイビー・ドライバー』の感想

(Baby Driver, エドガー・ライト監督, 2017, 米) 音楽が鳴っているあいだはきみも音楽。 ――T・S・エリオット*1 パンフレットにも載ってある「カーチェイス版『ラ・ラ・ランド』」という惹句に尽きる。ミュージカル的な快楽の点ではララを越えてさえいるの…

『ジョン・ウィック:チャプター2』について:ギリシャ神話・背中・亡霊・犬

『ジョン・ウィック:チャプター2』("John Wick: Chapter 2"、チャド・スタエルスキ監督)『ジョン・ウィック:チャプター2』予告編 #John Wick: Chapter 2 (以下は『ジョン・ウィック2』を既に観た人向けの完全にネタバレなやつです。 まだ観てない人は…

Brigsby Bear、ならびに監禁映画と毒親マンガの流行

今観たい映画ナンバーワン wikipedia に載っているあらすじをそのまま訳すと以下のようになる。 ジェイムズ・ポープは赤ん坊のころに病院から誘拐され、以来子供時代から大人になるまでずっと地下シェルターで『ブリグズビー・ベアー』以外のことを一切知ら…

2017年上半期の映画ベスト20とベストな犬

トップテン 1.『20センチュリー・ウーマン』(マイク・ミルズ監督、アメリカ) 2.『お嬢さん』(パク・チャヌク監督、韓国) 3.『夜は短し歩けよ乙女』(湯浅政明監督、日本) 4.『哭声/コクソン』(ナ・ホンジン監督、韓国) 5.『アイ・イン・ザ・スカイ』…

1930年代から2000年代までの各10年ごとの映画ベスト10

はじめに 他人がなんか楽しくワイワイしながら盛り上がってるさまを眺めるのはとてもくやしいものです。わたしだってワイワイしたい。 最近の twitter でのワイワイ案件としては「◯◯年代映画ベスト10」があります。年代ごとにベストな映画を10本挙げるとかい…

『20センチュリー・ウーマン』に関する覚書

今年ベストクラスの映画です。 気になったところでまとまりそうなところを箇条書きで。 「20センチュリー・ウーマン」予告編 海(辺)と土と空 上が『20センチュリー・ウーマン』の、下が『ザ・マスター』のファーストカット。 『20センチュリー・ウーマン』…