名馬であれば馬のうち

読書、映画、その他。


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映画

奔るゾンビ映画――『新感染 ファイナル・エクスプレス』の感想

(原題:부산행、ヨン・サンホ監督、2016、韓国) 「新感染 ファイナル・エクスプレス」予告編 走る列車、トレインするゾンビ 感染が拡がる、まるで新幹線の速さで。 などという地口が、場当たり的なノリでなく、しんじつ映画としての速度にマッチしているも…

Baby, Please Drive me. ――『ベイビー・ドライバー』の感想

(Baby Driver, エドガー・ライト監督, 2017, 米) 音楽が鳴っているあいだはきみも音楽。 ――T・S・エリオット*1 パンフレットにも載ってある「カーチェイス版『ラ・ラ・ランド』」という惹句に尽きる。ミュージカル的な快楽の点ではララを越えてさえいるの…

『ジョン・ウィック:チャプター2』について:ギリシャ神話・背中・亡霊・犬

『ジョン・ウィック:チャプター2』("John Wick: Chapter 2"、チャド・スタエルスキ監督)『ジョン・ウィック:チャプター2』予告編 #John Wick: Chapter 2 (以下は『ジョン・ウィック2』を既に観た人向けの完全にネタバレなやつです。 まだ観てない人は…

Brigsby Bear、ならびに監禁映画と毒親マンガの流行

今観たい映画ナンバーワン wikipedia に載っているあらすじをそのまま訳すと以下のようになる。 ジェイムズ・ポープは赤ん坊のころに病院から誘拐され、以来子供時代から大人になるまでずっと地下シェルターで『ブリグズビー・ベアー』以外のことを一切知ら…

2017年上半期の映画ベスト20とベストな犬

トップテン 1.『20センチュリー・ウーマン』(マイク・ミルズ監督、アメリカ) 2.『お嬢さん』(パク・チャヌク監督、韓国) 3.『夜は短し歩けよ乙女』(湯浅政明監督、日本) 4.『哭声/コクソン』(ナ・ホンジン監督、韓国) 5.『アイ・イン・ザ・スカイ』…

1930年代から2000年代までの各10年ごとの映画ベスト10

はじめに 他人がなんか楽しくワイワイしながら盛り上がってるさまを眺めるのはとてもくやしいものです。わたしだってワイワイしたい。 最近の twitter でのワイワイ案件としては「◯◯年代映画ベスト10」があります。年代ごとにベストな映画を10本挙げるとかい…

『20センチュリー・ウーマン』に関する覚書

今年ベストクラスの映画です。 気になったところでまとまりそうなところを箇条書きで。 「20センチュリー・ウーマン」予告編 海(辺)と土と空 上が『20センチュリー・ウーマン』の、下が『ザ・マスター』のファーストカット。 『20センチュリー・ウーマン』…

あなたのフレンズの物語

映画『メッセージ』本予告編 あなたのおともだちがわたしにある質問をしようとしている。これはわたしたちの人生におけるもっとも大事なひととき。運命のような十二話と、奇跡のような十二・一話が終わった後の真夜中。春アニメをめでようと、わたしたちはネ…

今一番期待されている映画作家、ジェレミー・ソルニエとメイコン・ブレアについて

どこで期待されているかって言ったら、私の心のなかで……。 ジェレミー・ソルニエが欲しい Blue Ruin Trailer 今一番新作が観たい作家を三人挙げろ、と言われたら、まずウェス・アンダーソン。次にポール・トーマス・アンダーソン。そして、ジェレミー・ソル…

ビル・コンドン版『美女と野獣』の感想

聞くところによればディズニーは長編アニメから十数作ほどを対象に実写リメイクする予定であるらしい。九十年代のいわゆるディズニー・ルネッサンス期の名作群からも『リトル・マーメイド』や『ライオン・キング』、『アラジン』といった顔ぶれが待機作とし…

映画『夜は短し歩けよ乙女』の感想というか体験談

『夜は短し歩けよ乙女』(湯浅政明監督、日本、2017年) 『夜は短し歩けよ乙女』 90秒予告 わたしたちは森見登美彦被害者友の会である。 だれもが森見小説を愛していた。『四畳半神話大系』や『夜は短し歩けよ乙女』にあこがれて京都へやってきた。京都には…

『モアナ』はいかにしてプリンセスという名の呪縛に打ち克ったか

*公開初日かつコンセプトの話が主なのでストーリーの話はほぼしてませんが、「こういうオチにはならない」と明かしている点においてはネタバレです。 モアナ「あのね、わたしはプリンセスじゃない。族長の娘だよ」 マウイ「いいや、プリンセスだね。ドレス…

『ラビング 愛という名前のふたり』の感想

『ラビング 愛という名前のふたり』( Loving 、ジェフ・ニコルズ監督、2016年、米) 映画『ラビング 愛という名前のふたり』予告 光と影のヴァージニア 個別の愛自体になんら「特別さ」などなく、愛は常に普遍的で、だから『ラビング』は二人の出会いや生立…

映画『ラ・ラ・ランド』の感想――夢を夢見て。

『ラ・ラ・ランド』(La La Land, 2016年、米、ダミアン・チャゼル監督) 引用が引用であることそれ自体に意味を持つような状況が成立するのは、どのような場合なんだろうか。それはおそらく、物語のあらゆる要素が「過去」で構成されている場合にちがいない…

11月に観た新作映画

『疾風ロンド』(吉田照幸監督) 『エブリバディ・ウォンツ・サム!』(リチャード・リンクレイター監督) 『シークレット・オブ・モンスター』(ブラディ・コーベット監督) 『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』(デビッド・イエーツ監督) 『…

第八十九回(2016年度)アカデミー賞長編アニメーション賞候補のショートリスト

が、11日に発表になりました。www.oscars.org『アングリーバード The Angry Birds Movie』 『April and the Extraordinary World』 『Bilal』 『ファインディング・ドリー Finding Dory』 『Ice Age: Collision Course』 『Kingsglaive Final Fantasy XV』 …

『君の名は。』はアカデミー賞を穫れるか? :今年の有力海外アニメ映画の状況

結論からいうと、たぶん無理。 『君の名は。』オスカー候補に名乗り!第89回アカデミー賞長編アニメ部門の審査対象作品に - シネマトゥデイ この一報を目にしたとき、「正気か?」と関係者の判断を疑った。 「『君の名は。』がオスカー穫れる実力なんてある…

10月に観た新作映画の短い感想。

一ヶ月分をまとめて書こうとすると結構内容忘れますね。 『ジェーン(Jane got a gun)』(ギャビン・オコナー監督)「ジェーン」予告編 なにかとマッチョな男ばかり画面にあふれがちな西部劇で、ひとつ女性を主題に据えて撮ってみようじゃないかとナタリー…

九月に観た新作映画短観

年ベスト級が三つ。豊作です。 『ライト/オフ』(デヴィッド・F・サンドバーグ) 「ライト/オフ」予告編 姉映画。 『アメリカン・レポーター』(グレン・フィカーラ)アメリカン・レポーター 全然前に進めない人生を革命するためにイラク戦争中のアフガニス…

じゃあ、『聲の形』の原作者と監督はなんと言っているのか。:監督・山田尚子編

proxia.hateblo.jp の続き。今回は映画版・山田尚子編です。ちなみに今回は『聲の形』に関してのインタビューのみを扱います。 ちなみに監督を含めた俳優・スタッフのインタビューやメディア露出は映画公式サイトにまとめられています。ありがてえありがてえ…

じゃあ、『聲の形』の原作者と監督はなんと言っているのか。:原作者・大今良時編

togetter.com 『聲の形』が晒されている倫理的な批判はだいたい以下の二点に切り分けられます。:「いじめ被害者がいじめ加害者を好きになる、というプロットが加害者側にとって都合良すぎる」「聴覚障害を題材にした映画であるのに、十分な量の字幕上映がな…

「上」か「下」かで生き直す、映画『聲の形』

『聲の形』の話をするのは二回目ですね。 本編のあらすじは各種サイトで確認していただけると幸いです。 以下、かなりヘビーな映画『聲の形』のネタバレを含みます。 映画『聲の形』についてはつい先日、 proxia.hateblo.jp で書いたけど、しかしそもそも「…

映画『聲の形』と漫画『聲の形』、それぞれのカタチの違いについて。

追記 proxia.hateblo.jp ⇡は Ver. 2.0。といっても扱ってる部分がだいぶ違うけれども。 はじめり 『たまこラブストーリー』のころから、山尚について何を語っても狂人の妄言めきやしないかという不安があります。 ともあれ、以下は軽度から強度のネタバレを…

8月に観た新作映画短観

新しい順。 『君の名は。』(新海誠監督) 「君の名は。」予告 いったい我々の前に何度立ちはだかってくるのだ川村元気(と市川南)。 こういう系は、主観的な心象世界にどれだけ観客を巻き込めるかにかかっていて、すくなくともそれには成功してるんじゃな…

My life as a pipe:『ファインディング・ドリー』のパイプについて

枕 『ズートピア』のDVDが届きました。 『ドリー』のパイプの話を思い出しました。 当記事は『ファインディング・ドリー』の重要なネタバレに触れています。っていうか、もう公開から一ヵ月以上経ってるだろが 「ファインディング・ドリー」日本語吹替版予告…

『シン・ゴジラ』の尾頭さんの苗字問題について。

『シン・ゴジラ』を公開日に観て、そのときはまあ、おおむね心地のよい映画だな、だと思い、それ以上の感想については考えませんでした。それでマアその後、インターネットやリアル友人間でシンゴジについて語る言説を多量に摂取してくうち、自分のハラにも…

『ファインディング・ニモ』のドリーは本当に記憶障害なのか。

本記事の概要 『ファインディング・ニモ』に出てくるやたら忘れっぽいナンヨウハギのドリーが記憶障害(健忘症)なのかについて検証した英語記事の翻訳。 前説 『ファインディング・ドリー』を観て、「『ニモ』のときのドリーの忘れっぽさは単なるキャラづけ…

緑の服、緑の店、緑の国――『ブルックリン』について

『ブルックリン』(ジョン・クロウリー監督、カナダ・アイルランド・イギリス・アメリカ合作、2015年) 以下、ネタバレを含みます。記事中程の警告部分以降は結末部を含む重大なネタバレがなされていますのでご注意ください。 あらすじ 1950年代のアイルラン…

『デッドプール』と人間の條件

Deadpool、ティム・ミラー監督、レット・リース&ポール・ワーニック脚本、2016 君たちに問う!! 君たちは人間か!! 『人造昆虫カブトボーグV×V』 あんまりまとまった感想がおもいつかないし、映画の『人間の條件』とは関係ない。 映画『デッドプール』予…

ディズニーのキツネ史:『ピノキオ』から『ズートピア』まで/後編

proxia.hateblo.jp からのつづき。『ズートピア』他のネタバレを含みます。 ズートピア (ディズニーアニメ小説版)作者: スーザン・フランシス,橘高弓枝出版社/メーカー: 偕成社発売日: 2016/04/19メディア: 単行本(ソフトカバー)この商品を含むブログを見…