名馬であれば馬のうち

読書、映画、その他。


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小説感想

時代小説のホワイダニット

「剣術者 佐々道休」について 五味康祐という時代小説家がいて、その人に「剣術者佐々道休」という短編があります。 その昔、加賀前田藩に冨田蔵人高定*1という音に聞こえた剣術名人がおりまして、内膳こと佐々道休はその養子です。 父の衣鉢を継いで大阪夏…

ショートショートに対する印象――リディア・デイヴィス『サミュエル・ジョンソンが怒っている』(原2001→訳2015、岸本佐知子・訳)

サミュエル・ジョンソンが怒っている作者: リディア・デイヴィス,岸本佐知子出版社/メーカー: 作品社発売日: 2015/08/31メディア: 単行本この商品を含むブログ (8件) を見る 蘇格蘭*1には樹というものがまるでない。 p. 58, 「サミュエル・ジョンソンが怒っ…

転校生は狼少女、サーモンピンクな恋心――菊池英也『めぐりあう者ども』(2015)

めぐりあう者ども作者: 菊池英也出版社/メーカー: 幻戯書房発売日: 2015/09/19メディア: 単行本この商品を含むブログ (1件) を見る 女性が動物に変身する譚について アメリカ文学研究者で『人狼伝説』*1や『狼女物語』*2などの訳者としても知られる、いや実…

真実の鍵――ルース・レンデル『街への鍵』(山本やよい訳、原1996、訳2015)

2015年度ポケミス全レビュー計画(但し『カルニヴィア』を除く)第一弾にしておそらく最後の弾。 あらすじ 1990年代のロンドン。主な視点人物は三人。*1 メアリ アイリーン・アドラー博物館で働く女性メアリは、婚約者であるアリステアの暴力に耐えかね、あ…

ロベルト・ボラーニョ、野谷文昭・訳『アメリカ大陸のナチ文学』(1996, 訳2015)

書き出し エデルミラ・トンプソン・デ・メンディルセ 一八九四年ブエノスアイレス生まれ――一九九三年ブエノスアイレス没 十五歳のときに処女詩集『パパへ』を出版、これによりブエノスアイレスの上流社会の並み居る女流詩人のなかでささやかな地位を得た。以…

トレヴェニアン、江國香織・訳『パール・ストリートのクレイジー女たち』(集英社)

いわゆる自伝的小説を読まされる際に作者作品における虚実の距離をいかに測るかという難問がありまして、基本的にはそういうことを考えだすとめんどくさい。いっそ、各々が感じる「それっぽさ」で測ればいいと思います。 妹と母と僕は、ノースパールストリー…

クリスチアナ・ブランド『薔薇の輪』

トラの子供は基本 cub である。 ブランドについて語るときわたしたちが語ること クリスチアナ・ブランドは英国黄金期本格の最右翼とかいいますか、本格オブ本格みたいなものを求められてはそういうもの以外を訳されると「こんなの私たちのブランドじゃない!…

J・P・マンシェット、野崎歓・訳『殺戮の天使』

淫蕩にして冷徹な女たちよ、この書物をあなたたちに捧げる。 p166 その女は自転車に乗ってやってくる。自転車でもバイクでもなく自転車なのが重要だ。 彼女は美貌と巧言を手管に街の上流階級へと潜りこみ、じっと息を潜める。揉め事を探す。誰かが誰かを殺し…

佐藤哲也『シンドローム』福音館書店

つまりB級映画が本質的に無用で、時間つぶしにもならないような存在だとすれば、これは本質的に無用で、時間つぶしにもならないような状況であり、言うなれば頭の悪い映画製作者や頭の悪い脚本家が思いついたような状況なので、そこでは誰もが頭の悪い映画製…

J・P・マンシェット、岡村孝一・訳『地下組織ナーダ』ハヤカワ・ポケット・ミステリ

「希望なんて持ってられやしねえ。そんな奴らのために俺は飲むんだよ。政治的に正しいとか下らねえとか、そんなことはかまっちゃいられねえ。ともかくな、歴史ってやつが俺たちみてえな人間をこさえたんだ。てえことは文明なんてもなあ、いずれにしろ滅びつ…

麻耶雄嵩『あぶない叔父さん』新潮社

「やっぱり。叔父さんは優しいね。じゃあね。今日は本当にありがとう」 p.310 ・読書会の課題本。読書会では田舎って最悪だねトーク*1に花が咲いた。 ・これは最初に言っておいたほうがいいと思うのですが、麻耶信者です。考察とかしないタイプの。否定神学…