名馬であれば馬のうち

読書、映画、ゲーム、その他。


読書、映画、その他。


作業用BGMとして優秀な知らないインディーゲームのサントラ十選を聴く

前回までのあらすじ

 作業がおわらない。

選考基準

・あんまり盛り上がりまくられると困る*1
・聴いてて心地いい
・チルいやつ
・チルすぎても眠くなるよね
・だいたいサブスクリプションサービスにおいてある。
・いうて八割方プレイ済みで、知らないゲームがなくないですか。

10選

『Florence』ーKevin Penkin


FLORENCE | Launch Trailer

 ・ピアノとチェロを中心にオーソライズされたやさしい音色。
 ・作業用としては一番向いているかもしれない。
 ・ペンキンは日本ではアニメ版『メイド・イン・アビス』の仕事で有名。
 ・一枚のなかでメリハリが作業的にいい意味で効いているのもヨシ。
 ・使われている楽器の関係性がゲームに出てくるキャラの関係性に反映されてるんだけど、そんなことを考えていたら作業はできないので忘れろ。

FEZ』ーDisasterpeace


FEZ Official Trailer

 ・チルくてシンセなインディーゲーム音楽でも最高峰の名盤。
 ・Disasterpeace はもともと『FEZ』『Hyper Light Drifter』といったインディーゲームの話題作で名を馳せていたけれど、近年では『イット・フォローズ』『アンダー・ザ・シルバーレイク』『トリプル・フロンティア』といった映画音楽の分野にも進出。
 ・『FEZ』はインディーゲーム期のディザスターピースの仕事でも最良のもの。本人曰く、作曲当時はドビュッシーラヴェル、チリー・ゴンザレス*2の『Solo Piano』、ジャズピアニストのエロール・ガーナーに影響を受けたらしい。*3
 ・特に「Spirit」は単曲で無限ループできる。
 ・『Hyper Light Drifter』のサントラも悪くないけれど、作業用としては荒涼としすぎている感が。

『rain』――菅野祐悟

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 ・ドラマに映画にひっぱりだこな国民的コンポーザー菅野祐悟の珍しいゲーム仕事。PS3のダウンロード専売(のちにパッケージも出たはず)。
 ・アコーディオンを使ったノクターン(自称)なタンゴだかミュゼットだかが癒やされる〜〜〜。
 ・Apple Music にも Spotify にもないが、Amazon Prime にはある。

Minecraft Volume Alpha』――C418

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 ・言わずとしれた『マインクラフト』のサントラ。わたしは工作苦手なのでやったことありません。
 ・もともと作業するゲームのために作られたためか、作業を邪魔しないけど耳に心地いいアンビエントな曲ぞろい。第二弾?の『Volume Beta』はもうちょっとダークなテイストが強まってる気がする。

『Monument Valley』――Stafford Bawler

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 ・睡眠導入剤か?ってレベルでぶわんぶわんしている。
 ・追加DLC用のサントラ『Monument Valley: foggoten shores』もおすすめ。ややこしいけど『Monument Valley 2』のサントラは別にあってそっちもわりと使える(コンポーザーは Todd Baker)。

『Hotlime Miami』――いろいろ

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 ・見下ろし型虐殺ゲーム『ホットライン・マイアミ』のサントラだけれども、この盤はミニマルにだんだん脳に効いてきて、つまり作業に向いてる。
 ・サントラは soundcloud でしか売ってないけど、いい感じに使える部分は spotify とかに置いてある Scattle の『Hotline Miami: Take down EP』で聴ける。 
 ・っていうか、かなりの収録曲をオフィシャルにタダで聴ける。
soundcloud.com

 ・80年代のシンセ音楽を再解釈したシンセウェイヴとやらのジャンルのゲーム界隈におけるはしりのひとつとされる。ちなみにシンセウェイヴを採用したインディーゲームタイトルで最も有名なのが『VA-11 HALL-A』や『2046: Read Only Memories』。そういう理解でいる。他にもど直球に志向してるとこだと『Neon Drive』や『crossing soul』のサントラなんかがある。ああいう系は Steam を「1990年代」タグで探せばザクザク出てくる。2010年代erにとっては90sも80sも同じにおいのノスタルジーだ。


『Secret Little Haven』――Victoria Dominowski

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 ・で、シンセウェイヴに近接したジャンルとしてヴァイパーウェイヴが今をときめいているわけですけれど、インディーゲームにもヴァイパーウェイヴを取り込もうとする動きはあるようで、バカ正直にヴァイパーウェイヴのMVっぽいウォーキングシミュレーターを作りましたみたいな作品が散見されるもののいっこもおもしろそうでなく、『LSD』フォロワーと混線を起こしている始末。
 一方で『Hypnospace Outlaw』の登場でにわかに脚光を浴びつつあるのが「1990年代のパソコンのデスクトップ&インターネット再現シム」ゲーム*4で、そういう意匠でフェミニズム寄りに視点を当てたのが『Secret Little Haven』、らしい。
 ・らしい、というのはもちろんプレイしてないからで、それはともかくサントラはまさに90年代の再解釈としてのヴァイパーウェイヴが活かされていてチルい。ヴァイパーウェイヴというジャンルのことは現象としてはともかく楽曲としてはあんまり興味ないので本当にヴァイパーウェイヴかどうかは知らない。*5
 ・ちなみにサントラは Bandcamp でしか買えない。良いサントラに限ってそうなんだ。

『The Red Strings Club』――fingerspit

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  ・適度にソフィスティケートされたシンセミュージックならこれ。アダルトなサイバーパンクの世界観が忠実に反映されている。

『Kingdom: New Lands』――ToyTree, Amos Raddy

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  ・タワーディフェンスという本来は忙しないジャンルであるにもかかわらず、計画された冗長さをプレイヤーに強いてくるRTS『KINGDOM』シリーズ。そんな狂気のバランスが産んだサントラは、奇跡のリラクゼーションを放ちます。
  ・もちろんシリーズ作品である『Kingdom Ost』と『Kingdom: Two crowns』もヨシ。

『Mini Metro』――Disasterpeace


Mini Metro Launch Trailer

 ・スティーヴ・ライヒやフィリップ・グラス、そしてノーマン・マクラーレンのアニメを参考にして誕生した、無限に聴ける作業用ミニマル・ミュージック。Disasterpeace のマスターピース
 ・なんだけど、サントラが発売されていない。IGFアワードを始めとした各賞のベスト・オーディオ部門にノミネートされたにも関わらず。
 ・なぜなのかといえば、mini metro の「サウンド」はプレイ中のアクションを通じてプログレッシブに生成されるものであり、通常の意味における楽曲など存在しないからだ。
 ・そういうわけで作業用BGMにしたければ、こういう動画をサントラの代わりにするしかない。コメント欄曰く「ADHDに効く」らしい。
www.youtube.com

Donut County』――Daniel Koestner

www.youtube.com

  ・牧歌的でありながらもイマっぽい感じ、この……ジャンル名がわからない。

思いついたけど様々な理由から選から漏れた。

『Luna』――Austin Wintory

 ・幻想的な雰囲気をもつVRゲームのサントラらしいが、未プレイなので詳しいことはよくわからない。ゲーム自体の評判は微妙。
 ・オースティン・ウィントリーは『風ノ旅ビト』の人といえば一番通りがいいかもしれない。AAAからインディーまで手広く作曲しており、最近では『アサシンクリード:シンジケート』や『Tooth and Tail』、『The Banner Saga』シリーズなどがノータブル。
 ・幻想的な雰囲気を残しつつ、もうすこし盛り上がりも欲しいよ〜という欲張りさんは『Abzû』のサントラを聴け。

FTL: Faster Than Light』――Ben Prunty

 ・ピコピコ感がほしいならこれ。
 ・一曲ごとに曲調が乱高下するところがあるので、安定感がほしいなら順番をいじれ。
・もうちょっと爽やかにアゲアゲで行きたいなら『the messenger』。

『diaries of a space janitor』――Sundae Month

 ・エスニックでドローンでありつつもノレる感じ。
 ・「Incinerate」だけテンション浮いてるので外してもいい気がする。あと歌付きのやつも数曲入っているけれど、意味をなさない架空言語。気になる人は気になるか。
 ・難点は Bandcamp でしか手に入らないこと。

『Thomas was Alone』――David Housden

  ・ミニマルっぽいといえばTwAのサントラは外せないよね。

『OneShot』――Nightmargin

  ・暗め曲調のものが多い。
  ・42曲が一時間半におさまっているため切り替わりが激しいけれど、似たようなテイストばかりなのであまり気にはならないか。
  ・最後の「It’s Time to Fight Crime」だけはやたら勇ましいでの作業用にするときは外してもいいかも。

『Skullgirls』――いろいろ

  ・コナミの名コンポーザー山根ミチルが参加していることで名高いサントラ。
  ・基本的にはジャズっぽくて、同じジャズでもテンションがやたら高い『Cuphead』よりかは作業に向いている。
  ・まあでも格闘ゲームなんで基本テンションは高いよね。

上記のやつを雑にまとめたやつ+αプレイリスト

・そこ(Spotify)にないものはないですね 。


次回予告

 作業は進まない。


*1:まあ世の中には『Undertale』のサントラを作業用BGMにしている人もいらっしゃるようなので好き好きなんでしょうが

*2:日本でも去年ドキュメンタリー映画黙ってピアノを弾いてくれ』が公開されて話題になった

*3:http://disasterpeace.com/blog/in-depth-fez

*4:90年代のパソコンの画面上で繰り広げられるアドベンチャーはそれなりに前から存在して、最近だと『Her Sotry』や『Emily is Away』なんだろうけれど、それより更に前にもうひとつマイルストーン的なのがあったはず。思い出せなくて気持ち悪い。

*5:SLHのはちょっと洗練されすぎてる気がする。

永続暴力のためのゴリラ革命(ゴリレヴォリューション)ーー『APE OUT』



「俺たちはその昔、ゴリラだった。取るか取られるかがすべてだった。実際のところ、今日の君は昨日の君よりも『男』なんだよ」
「どうやってわかる?」
赤潮だよ、レスター、俺たちの人生は赤潮だ。他人がひねりだしたクソを毎日食わされる。上司。女房。そんなやつらにすり潰される。もし屈したままなら、君のもっとも深く大事な部分はいまだに"サル"なのだとやつらに思い知らせないままなら……君は洗い流されるだけだ」


 ドラマ版『ファーゴ』シーズン1、第一話



Ape Out - Launch Trailer


 またゴリラと暴力か、と思う。


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キングコング』、あるいは『ターザン』以来、わたしたちは常にゴリラと暴力を結びつけてきた。

 今日のインターネットでは荒ぶるゴリラのイメージを容易に発見できる。怒れる森の化身として人間を叩き潰し、血を撒き散らす。野蛮で、人類未満の存在。
 結局のところ、わたしたちは今でもポール・デュ・シャイユ*1以前の時代を生きている。ゴリラというのは伝説の動物であって、信じるに値する現実の種ではない。「どんな問題も相手の顎を殴りつけて解決するゴリラ」(ジョージ・オーウェル「少年週刊誌」)。


 だがいくら現実の生態に反していようと、わたしたちは暴力の化身としてのゴリラを愛した。そうだろう? 目を血走らせて卑劣な人間たちを激情のまま肉塊に変えていくゴリラのイメージは、わたしたちが取り戻したいと熱望してやまない野生そのものだ。比類なき虐殺者であるわたしたちは銃や核爆弾といった冷たい暴力をほしいままにしてきたけれど、ひきかえに拳という原初的で熱い暴力を奪い取られてしまった。

 わたしたちはもうムカつく上司やうんざりする社会の圧を拳で精算することはできない。アメリカで日々乱射されているのは握りしめられた感情エネルギーではなくて、秒速四百メートルの銃弾だ。あいつらは人生を棄ててクラッシュするそのときでさえ、NRAに甘えなければ何もできない。日本にはそのNRAさえない。

 ゲームは銃を与えられることで、あるいは銃をあらかじめ奪われることで去勢されたわたしたちに暴力を所有する幻想をもたらしてくれる。銃も剣も魔法も都合してくれる。けれど、本当に必要なのはゴリラの心と身体じゃないか?


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『APE OUT』の最初のティーザーが公開されたとき、もうあれは二年か三年も前だと思うけれど、わたしたちはこれこそ「それ」だと考えた。
 かぎりなくシンボリックに簡素化されたグラフィックのゴリラが、人間どもを拳ひとつでぶちのめす。アンニュイなジャズドラム(黒人音楽!)に乗せて、肉を引きちぎっていく。これこそわたしたちの欲しいゴリラだった。無人の野をゆくがごとき無敵の爽快感を期待した。圧倒的な”暴”への陶酔を予感した。


 発売予定は「来年の夏」。

 その翌年の夏になってもまだ「来年の夏」は「来年」のままだった。

 申し訳程度にプレイアブル・ティーザーがリリースされたりもしたけれど、わたしたちは騙されない。フリースタイルに狂いまくるスケジュールはインディーゲームにつきものだ。ゲームのあるべき未来として人々の希望を一身に背負いながら、ついに現在になれなかった話題作はいくらでもある。わたしたちはいつしか期待することをやめていた。ゴリラはやはりユニコーンやビッグフットと同じくらいに空想の生きものなのだ。


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 そうして二〇一九年の三月だ。ゴリラは突然オリから放たれる。弾丸のように。 

 わたしたちはその速度を殺さないままに暴力を愛でようとする。
 人間どもを虐殺しよう。理由はわからない。説明などない。なんとなく研究所っぽいところに閉じ込められていたことはわかる。わかるが……どうでもいい。
 見るべきはプリミティブなグラフィック、感じるべきはシンプルな操作、聞くべきは絶え間ないビート。用意されたあらゆるデザインが眠れる欲動を煽る。燃やす。
 驚嘆すべきはその速度。ボタン(R2トリガー)を押すと指先から衝動が秒で伝わり、破壊として画面に結実する。そのシームレスさがゴリラとの一体感を生み、系統樹をリスのように駆け下りさせる。今日の君は昨日の君よりも確実にゴリラだ。ライフルを構えた警備員など恐れる必要は一ミリもない。壁に叩きつければザクロめいて弾ける弱い生きものなど……。


 だが恐れるべきだったのだ。警備員のライフルは想定以上に強力だった。三発も当たれば、いともたやすくゴリラを屈服させてしまう。
 やつらはとにかく数で攻めてくる。ちぎっても叩き潰しても、おそらくは無限に湧いてくる。
 ゴリラとなった今日の君は確実に昨日の君よりも賢い。やがて悟るだろう。
 ”暴”をむやみにほとばしらせているだけでは勝てない、と。


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 戦術が要る。ゲームの表情が変わる。
 ゴリラは物陰から物陰へと隠れながら移動するようになる。待ち伏せで警備員を屠り、また陰へと融けていく。死体を、ときには生きている人間を盾に敵陣へと近づき、十分に間合いを詰めたところで投げつけて一挙に殲滅する。
 重要なのはリズムだ。速度の緩急。潜むべきときは潜み、攻めるべきときは攻める。ジャズドラムのビート、そのフロウに身を委ねろ。
 やがて気づくだろう。
 このゲームのゴールは「脱出」であると。暴力はあくまでは手段にすぎない。わたしたちの目的は生き延びることだ。
 ギャング映画を見ればわかる。刹那的で放埒なバイオレンスが行きつく先は即座の死だ。


 わたしたちが目指すべきは持続可能な暴力。逃避のための暴力。生存のための暴力。

 自然を守ろう。暴力の可能な環境を守ろう。

 ロックスター・ゲームズの暴力がペシミスティックな近代文学と成り果ててしまった今、質のいい純粋な暴力は絶滅が危ぶまれている。
 求められているのは調和だ。
 ミーム的なイメージとしてのゴリラと、わたしたちの破壊衝動と、ゲーム性を持ったゲームの均衡が織りなすハーモニーを永続していきたい。子どもたちに暴力の大切さを伝えていくのが、わたしたちの使命ではないだろうか?




 人と自然が調和して生きられる未来を
 実現するその日まで。


WWFジャパン

www.buzzfeednews.com



*1:アメリカの探検家。1856年にガボンにおいてゴリラの完全な標本を報告し、それまで西欧では現地人の想像上の生きものとされていたゴリラの実在を証明した

ネットフリックスで観る最悪世界確認ドキュメンタリー番組ーー『汚れた真実』

(Dirty Money, creator: Alex Gibney, 2018, 米)

 2月はネットフリックスのドキュメンタリー視聴強化月間でした。ふりかえってみれば。



DIRTY MONEY Official Trailer (HD) Netflix True Crime Documentary Series

前説:アレックス・ギブニー、起つ。

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 アレックス・ギブニーは今やアメリカにおける「ドキュメンタリー作家」の代名詞です。
 大規模な粉飾決算により破綻したエンロンに取材した『エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか?』で広く評価されたのを皮切りに、主として経済・音楽分野でタイムリーかつ骨太な社会派ドキュメンタリーを量産。
 近年ではトム・クルーズが広告塔を務めている新興宗教団体サイエントロジーの闇を追った『ゴーイング・クリア』(2015年)やサイバー戦争の恐怖を描いた『Zero Day』が話題を呼んだ他、プロデューサーとして『ラッカは静かに虐殺されている』(マシュー・ハイネマン監督)を始めとした膨大な数のドキュメンタリーに携わっています。
 そんなアメリカ・ドキュメンタリー界のゴッドファーザーが、2015年、怒りに震えていました。ドイツ自動車大手のフォルクスワーゲンが排ガス規制を逃れるために会社ぐるみで不正を行っていたとして、アメリカの環境保護局から告発されたのです。監督は怒り心頭で妻とともに愛車をフォルクスワーゲンの販売店まで返品しに行きます。
 そんな折、ラジオから流れるDJの声がこんなことを言いました。
「こんな不正は断じて許せないよね。ぜひギブニーのような監督に内幕や経緯を追及してもらいたいもんだ……」
 民衆(?)の声に応えてギブニー監督は立ち上がります。
 はたしてフォルクスワーゲンはどこまで腐っているのかーー。

『汚れた真実』は全六話。それぞれ、欧州の大手自動会社における排ガス規制不正、ペイデイローンと呼ばれる貧困層向け消費者金融、薬価を釣り上げて成長する製薬会社、麻薬カルテルやテロ組織の資金洗浄を請け負う国際銀行、ケベックメープルシロップ市場を握るメープルシロップ生産者協会、アメリカの「偉大なビジネスマン」ドナルド・トランプといった会社や人々の暗部に迫るシリーズです。
 一本あたりの尺は45分〜1時間程度で、いずれも濃厚なドキュメンタリー映画の仕上がり。巨大な資本が傍若無人に振る舞って世界をめちゃくちゃにする話ばかりなので、クソッタレな世界に絶望したい方々にオススメです。

第一話「排ガス不正 Hard NOx」(監督:アレックス・ギブニー)

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 フォルクスワーゲンエコカーが実は広告の五十倍もの排ガスを出していたーーそれまで巧みなCM広告で「エコ」のイメージを打ち出してきた企業の裏切りにアメリカ社会の怒りが爆発。ギブニー監督は事の経緯の解明へと乗り出します。
 発端は、とある非営利団体フォルクスワーゲン車の排出する窒素酸化物の値がカタログ値より異常に高いことを発見したことでした。彼らは排ガステストのときだけ有害物質を減らす装置、いわゆるディフィートデバイスの存在を疑います。
 団体から通報を受けてアメリ環境保護局はVWを問い詰めます。決定的な証拠をつきつけられて万事休すとなったVWでしたが、彼らが選んだのは罪の告白よりも安易な時間稼ぎでした。なんと、ディフィートデバイスを改造して新たな偽装を重ねようと試みたのです。しかし、彼らの恐ろしい「犯罪」はそれだけではありませんでした……。
 二十世紀から二十一世紀にかけてあまりに強大になりすぎた自動車産業の闇、それが第一話の主題です。
 なぜ排ガス規制が年々厳しくなっているのに各都市に漂う窒素酸化物は減るどころか増える一方なのか(「ドイツでは交通事故で死ぬ人よりも二酸化窒素で死ぬ人のほうが多いんですよ」)。なぜフォルクスワーゲンは徹底して隠蔽を図り、それが成功すると思い込んでいたのか。その体質はどこに由来するのか。
 ヒトラー政権時代にまで遡ってその歪んだ歴史をブリッジしてしまう構成は、アレックス・ギブニー直々の監督回だけあって非常に達者です。

第二話「ペイデイ・ローン Payday』(監督:ジェシー・モス)

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ある豪邸のガレージから運び出されていく大量のスポーツカー……いったい何が起こったのか

 ペイデイ(給料日)ローンとは、日本でいうところのいわゆるサラ金、街金と呼ばれる類の小口消費者金融のこと。銀行にお金を借りることのできない信用レベルの人々を対象にした短期融資ビジネスです。
 アメリカでは州によってはペイデイローンを規制するところもあったのですが、ネットの普及によって事実上その規制が有名無実化し、マフィアの闇金業者を駆逐する勢いで発展を遂げました。
 トラック運転手のウォルターは二児の父親。生活費を賄うためにペイデイローンから500ドルを借ります。返済額650ドル。その後、毎月75ドルが口座から引き落とされていきました。
 返済は順調。そう思っていたウォルターでしたが、彼にある銀行から残高不足の通知が届きます。ペイデイローンの会社が彼の許可なく950ドルを引き落とそうとしていたのです。
 どういうことかとペイデイローンに問い合わせると信じがたい返答がなされました。
「こちらとしては一ドルもまだ返済をうけておりません。一括払いでしか認めてないんです。毎月引き落とされていた75ドルというのは、それができないときの延滞の更新手数料ですね……」

 弱者を食い物に貧困ビジネスの極北、もとい最大の詐欺事件。その仕掛け人となったのがカーレースの全米チャンピオンとして名高いスコット・タッカーでした。
 アメリカン・ドリームを夢見て裸一貫で兄弟とともに小さなオフィスから金融業を始めたタッカーは、州からの訴訟を回避できるオクラホマの先住民の免責特権に目をつけます。先住民の酋長と交渉して名義を借りだしたタッカーはその名のもとにペイデイローン会社を設立します。
 そして、上記のような詐欺まがい、というか詐欺でしかない取り立てを行い、全米150万人から13億ドルをせしめたのです。
 消費者が「こんな契約はおかしい」とコールセンターに怒鳴り込んできたいり、弁護士が介入したりしても、「うちには免責特権があるので訴えられませんよ」の一点張り。実際には別の場所にある会社をオクラホマにあると徹底的に偽装していました。
 儲けた金でタッカーは高級住宅地に豪邸を建て、家族と贅沢な暮らしを送ります。あるときふと思いついてカーレースの訓練をはじめ、素人同然の状態から国内でもトップクラスのレーサーにまで上り詰めました。レーサーとしての彼を支えるチームは超一流。件の豪邸には何輌ものスポーツカーやレースカーがずらりと並びます。ちろん費用はペイデイローン会社の利益で賄われました。
 しかし正義を信じる弁護士たちと連邦取引委員会は彼の悪行三昧を黙過してはいませんでした。州ではなく連邦政府に目をつけられたタッカーの運命は如何に。
ウルフ・オブ・ウォールストリート』を彷彿とさせる「間違ったアメリカン・ドリームを叶えてしまった人」タッカーと、オクラホマ強制移住させれて以来、百五十年ものあいだ文化・経済・尊厳を奪われつづけてきた先住民の酋長が手を組む構図がおもしろい。
 実際にタッカーが先住民にまわしている利益は全体の一%(それでも額にすればかなりのもの)に過ぎないわけですが、酋長はそんなことにはお構いなく連邦政府の復讐に燃えます。「俺達はずっと奪われてきた。白人から奪って何が悪い?」と。
 しかし、彼の復讐心が向かう先はこれまた連邦政府にネグレクトされてきた弱者たち。アメリカの哀しい内戦です。

第三話「製薬会社の疑惑 Drug Short」(監督:エリン・リー・カー)

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薬価操作とメディアに対する挑発的な言動で話題を呼んだシュクレリさん。しかし記者にいわせれば「彼なんか小物。巨悪は別に存在する」

 08年、地方の一製薬会社だったバリアント社がカナダのバイオヴェイルという企業に買収され、新しいCEOを迎えいれます。これがすべてのはじまりでした。
 以降、バリアント社は認可薬の特許を保持する製薬会社をつぎつぎと買収しては業績を伸ばし急成長。08年には一株15ドルだった株価が15年には一株262ドルまで上昇し、一躍製薬業界の寵児としてもてはやされます。
 一方で特定の疾患を抱えるひとびとの生活に異変が起こります。たとえばある難病を抱える患者においては、それまで月三十ドルだった薬代が突然月二万ドルまで急騰。破産か死かの二択を迫られる羽目に陥ります。
 バリアント社躍進のからくりーーそれは薬価操作にありました。買収した製薬会社の抱える認可薬の価格をことごとく釣り上げたのです。生命を握られた患者たちは高値であっても買う以外の選択肢はありません。
 こうしてバリアント社は売上を爆発的に伸ばしたのです。バリアントは平均的な製薬会社であれば収益の18%は研究開発費に充てているところをわずか3パーセントしか回さず、完全に買収と価格釣り上げによる「効率的な」戦略に振っていました。
 そうした悪どいバリアント社を裏で支えていたのが、ウォールストリートの有名投資家たちです。なかでも端正なマスクと派手なパフォーマンスで知られるビル・アックマンは徹底的にバリアント社を協力に支持。この二者は次なるターゲットとしてボトックスを開発したことで有名な美容大手アラガンの敵対的買収に乗り出します。
 しかし、思うがままに製薬市場を蹂躙するバリアントとその一味を影から睨むある投資家の一団がいました。彼らは「空売り投資家」。企業の株価が上がるほうにではく下がるほうに賭けて利益を手にする一匹狼たちです。
「我々は他人を騙す人物をマークします。我々にとってはそういう人物が『利益』を生むからですよ。そういう企業はいつからほころびが出て、株価が下がります。だから『空売り投資家』は悪徳企業を追うのです」
 そう語る彼らはバリアント社のやり口を陰で探り出し、薬価操作以上にとんでもない「錬金術」を発見します……。
 薬はわれわれのインフラの一部といっていい代物ですが、それが倫理なき資本家に手に渡るとどういうとんでもない事態を招くか、という例。命の換金は無限に財を産むのです。
 ちなみに本作では「悪の投資家」として空売り投資家たちの標的にされるアックマン氏ですが、別のドキュメンタリー映画『目標株価ゼロ』(これもネトフリで観られます)では逆に悪徳健康食品ネットワークビジネスに対して大規模な空売りをしかける「正義の投資家」としてフィーチャーされていてます。一人の人物が異なるドキュメンタリーでそれぞれまったく正反対の立場として描かれるのは皮肉で興味深いといいますか、実録ものの醍醐味ですね。

第四話「カルテルと銀行の癒着 Cartel Bank」(監督:クリスティ・ジェイコブソン)

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世界中に支店を持つメガバンク。国際空港とかに行くとよく広告が掲げてあります。

 国際メガバンクHSBC香港上海銀行)による麻薬カルテルやテロ組織の資金洗浄を行ったとして告発された事件を扱います。
 2002年にメキシコのビタル・フィナンシャル・グループを買収しHSBCメキシコと改称したのちも、HSBCはもともとビタルと深いかかわりのあったメキシコの麻薬カルテル資金洗浄をも引き継いでいたのです。
 買収にあたってHSBCは公的には「資金洗浄など存在しない」という前提を持ちつつ、メキシコ国内での取引内容を精査しない、という奇妙な制度上の取り決めを行っていました。
 メキシコに限らず、HSBCは買収先の各地域で顧客の身元を把握するという銀行の基本中の基本を意図的に無視し、世界中のブラックな組織(なかにはヒズボラも)の金庫となっていたのです。
 もちろん、テロ組織の撲滅や「麻薬戦争」をうたうアメリカとは相容れません。口座凍結命令がたびたび出されます。
 ところが、HSBCは怒られるたびに「たしかに資金洗浄してました。すいません。もう二度とやりません」と平謝りに再発防止を誓うものの、涼しい顔で取引を続けたりダミー会社を作るなどしてマネーロンダリングをやめないのです。
 堪忍袋の緒が切れたアメリカはついに司法省直々に訴追させようとします。天下のメガバンクといっても相手はアメリカの司法省。年貢のおさめどきと思われましたがーー。
 香港上海銀行はもともとイギリス統治下の香港で設立された歴史ある国際銀行です。その歴史と怪しげな名前、そしてサッスーン財閥*1ロスチャイルドと関わりのためかよく陰謀論者にも目の敵にされています。
 世界支配をもくろんでいるかどうかはともかく、世界を股にかけてブラックなことをやりまくっているのは事実なようで、陰に隠れてこそこそ、というよりは実に堂々と明け透けにマネーロンダリングを行っている。陰に隠れる場合も実にカバーが稚拙で、むしろバレてもいいと考えているふしさえあり、実際にダミー会社での資金洗浄行為に従事していた人々から告発されまくっています。
 それでもHSBCには絶対に自分たちは潰されないという自負がある。その自負がどこまでも企業を傲慢にしていきます。あまりに大きくなりすぎた企業は腐敗するーー第一話と第三話で既に見てきた法則が、銀行業界でも繰り返されるのです。

第五話「メープルシロップ盗難事件 The Maple Syrup Heist」(監督:ブライアン・マッギン)

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メープルシロップ生産者協会の備蓄倉庫内部の様子。ここから日本を含めた世界中にカナダの名産メープルシロップが出荷されていく。

 ときは2012年。カナダはケベック州。名産であるメープルシロップの生産を統括するメープルシロップ生産者協会の備蓄倉庫から大量のメープルシロップが盗まれます。
 盗まれた缶の数は約9500本。被害総額は1800万カナダドル
 ケベック史上最大級の盗難事件を受け、地元警察は過去最大規模となる250人の特殊捜査チームを結成し捜査へ乗り出します。
 果たしてこの大泥棒の犯人は誰なのか。
 記者が調査していくうち、前代未聞の盗難事件の裏側にある生産者協会とその反対派との対立、そして州をまたぐ闇メープルシロップマーケットの存在などが次々と浮かび上がってきてーー。

 のっけから、「合成メープルシロップを客に出すのはカナダでは無礼にあたる。フランスでいうならワインの代わりに水を出すようなものだ」というカナダしぐさがぶちかまされ、その後も全編通じて、
「カナダではメープルシロップは不可欠な文化」「メープルシロップアメリカでいうなら野球にあたる」「ドラム缶一個あたり石油の三十倍の価値がある」「カナダにとってメープルシロップは石油のようなもので生産者協会はいわばOPEC」「彼は名の知れたシロップ缶の”転がし屋”ーーつまり闇マーケットの売人だ」「メープルシロップ弁護士」「カナダのメープルシロップ業界は娼館みたいなものさ。いくら生産者が頑張っても、儲かるのはポン引きである協会だけ」
 などといったノワールで素敵なパワーワードやキラーフレーズが頻出する異色回。単に面白事件簿というだけでなく、カナダ人とメープルシロップの文化的な深いかかわりも学べます。
 
 メープルシロップ生産者協会の誕生は1980年代のこと。
 当時メープルシロップ市場は完全に自由市場の”見えざる手”に委ねられていました。不安定に乱高下するメープルシロップ価格のせいで、生産者たちの暮らし向きはけして良好とはいえず、破産者も続出。なかには「木材にしたほうがまだ儲かる」と虎の子のメープルを伐採する農家も出てくる始末でした。
 この状況を憂えた一部生産者たちが立ちあがり、生産者協会を設立します。
 生産者協会が行ったのは徹底した流通管理でした。豊作の年は余剰分を協会の備蓄倉庫*2に保管し、市場価格の低下を防ぎます。そうして逆に不作の年は余剰分を市場へ出荷するです。こうしてメープルシロップの価格は安定し、生産者たちの生活も保証されました。
 その甲斐あってか破産する生産者も激的に減少(というかほぼゼロに)、80年代当時はカナダ全体で一億ドル程度だったメープルシロップ産業もケベック州単体で5億ドル規模にまで発展し、みんなハッピーに……
 なりませんでした。
 一部の生産者はある不満を抱くようになったのです。
「自分たちでシロップを売ったほうが儲かるのに、なんで協会にいちいち管理されなきゃならないんだ?」と。
 そうして反対派は余剰分のシロップ生産量を過小に申告し、浮いたぶんを”ヤミ”へ流しはじめました。番組内で紹介される「転がし屋」と呼ばれるブラックマーケットの売人の一人は、協会時代以前には森の奥で自由にメープルシロップを作って売っていた祖父のもとで育ったというかっこいい経歴の持ち主です。
 こうした「転がし屋」を介してヤミシロップはケベックから隣のオンタリオへと密輸されます。オンタリオでは協会の力が及ばないため、たとえヤミであっても自由に取引できるのです。禁酒法時代のアメリカのギャング顔負けなアウトローたちですね。
 しかし、反対派に言わせれば「マフィア」なのは生産者協会のほうです。生産者が自由に取引する権利を奪い、そこから外れようとすると徹底的に締めつける。反対派が自由な取引を求めて協会を訴えたこともありましたが、一度は勝訴したものの、協会はロビイングで州の法律を改正したのち再度裁判へ訴え、反対派をねじふせました。協会はケベックで強大な権力を有しているのです。
 一言につづめれば、市場経済をめぐるミクロな対立、といえます。アメリカならともかく、カナダでもこういった対立が起こるんだなあ、というところに面白みがありますね。管理する側が出てくればそれに反抗する個人も出てくる。この構図は古今東西変わらないのかもしれません。
 もちろん、ミステリとしても楽しめます。犯人たちが駆使した驚天動地(?)のトリックも見どころのひとつです。

第六話「ペテン師 Confidence Man」(監督:フィッシャー・スティーブンス)

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トランプ親子のポートレイト。左がトランプの父親。ジャーナリストに言わせれば「真に立志伝中の人なのはドナルドではなく彼のほう」らしい。

 最終回では、現職のアメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプのビジネスマン時代の実態を追います。支持者が彼に見た「身一つで成り上がってアメリカン・ドリームを達成した偉大なビジネスマン」というイメージは果たしてどの程度ただしかったのか? 
 まあ、一言でいうと、「トランプは『偉大なビジネスマン』などでは全然なかった」という内容です。
 ショーマンシップに長けた父親からの支援を受けつつ不動産業界に乗り込み、トランプタワーの成功で若き実業家として一躍時の人となったトランプですが、航空経営やカジノ経営といった不慣れな業界へ進出しようとして大失敗。破産し、不動産業者としてのキャリアも失った彼は、90年代から2000年代中盤まではほとんど「ビジネス」を行わず、「ビジネスマン」としてCMやトークショーや各種イベントにぽつりぽつりと出演するという不思議なソーシャライトに成り果てていました。
 ところが、2000年代後半、リアリティ・ショーの『アプレンティス』で大復活を遂げます。番組制作者は最初トランプを過剰に有能な人物として演出することを「ギャグ」として打ち出したつもりでしたが、この番組を見た視聴者たちは「トランプは本当にかっこよくて成功したビジネスマンなんだ!」と錯覚してしまいます。
 そう、不動産業者としては三流(by 元秘書)だったトランプもイメージを利用することに、そしてそのイメージを自分で信じ込むことに関しては超一流でした。
 彼が特に固執したのは「大富豪トランプ」のイメージです。
 若い頃はゴシップ誌の記者と懇意にして社交界のネタを流していたのですが、自らのことを書く場合は「どんな記事にしてもいいが、かならず名前に『大富豪』をつけろ」と要求。トーク番組などでも「大富豪」として振る舞うことで破産したのちもアメリカ国民に「大富豪トランプ」「ビジネスマン・トランプ」のイメージを植え付けたのです。
『アプレンティス』で復活した彼のもとにはさまざまなオファーが舞い込みます。なかでも「美味しい」のは彼の名前をホテルなどに貸すライセンス契約でした。不遇時代も「トランプ」のイメージは利用価値があった(特に海外で)ため、彼は自分に所有権のない建物にもバンバン「トランプ」の名前を貸していたのです。*3
 やがて彼はビルだけではなく、ネットワークビジネスや教材販売にも「トランプ」の名前を貸し出しますが……。
 
 トランプ当選の原動力となった「アメリカン・ドリームを叶えたタフなビジネスマン」のイメージがアメリカのマスコミに作られた虚像だった、という内容。しかもCMやトークショーの制作者たちはむしろ「ビジネスマン・トランプ」を小馬鹿にしたり半笑いで扱っている節さえあったのですが、それがいつのまにか世の中的には「マジ」になってしまった。いまや懐かしいポストモダンの音が聞こえてきますね。
 大統領選直後の分析でも「アメリカの左派的なテレビ番組がトランプをネタにしまくって『宣伝』に貢献したのも当選の一因」という記事をどこかで読んだ記憶もありますが、SNL的なリベラル・インテリ層の笑いがどこかで限界に達している、サタイアや”気の利いた”ジョークの文化が終わりかけている気がします。

まとめ

 全六話見終わっての感想はだいたい「世界って最悪」に収束するとおもいます。そうです、世界は最悪です。最悪なものほどコンテンツとしては最高なのです。
 両論が等価に併記されている第五話を除いて、『汚れた真実』の言わんとしてところは一貫しています。
 あらゆる企業体は市場の独占を目指し、独占あるいは強大化したのちは暴君として振る舞う。それが強大であれば強大であるほど、歯止めがきかない。
 アメリカという「世界最大の企業」を手に入れたトランプ大統領の行く末はいかに(番組制作時点では2018年1月)。
 ちなみに第二シーズンの制作も決定してるそうで、ますます磨きのかかった最悪が期待されますね。

*1:設立時の評議委員に一族の人間がいた

*2:Global Strategic Reserve という大層な名称

*3:たとえばNYに現存する「トランプ」系ビル17棟のうち、実際にトランプが所有しているのは5件のみ