ベストといいますか、この一年書いた感想のまとめといいますか。
今年は去年ほど映画を観ない気がします。
映画トップ10
1.『クリーピー 偽りの隣人』(黒沢清監督)
ホラーやサスペンスに共通して重要な要素に「不吉さの予感」がある。人がただ歩いているシーン、談笑しているシーン、食事しているシーン、そういうなんの変哲もない日常が次の一瞬にはもう粉々に砕け散っているかもしれない、そういう破壊的な恐怖がホラーをホラーに、サスペンスをサスペンスにならしめている。人間の一挙手一投足あるいは感情ですらも、すべて暴力的な所作になりうる空間があるとすれば――あるのか? ある。『クリーピー』は、それを作り出した。
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2.『ズートピア』(バイロン・ハワード&リッチ・ムーア監督)
仮想敵を立てるのは卑怯だと承知してはいるけれど、言わせてほしい、世間には『ズートピア』みたいなウェルメイドな作品を指して「完璧すぎてつまらない」という人がいる。いい子ちゃんすぎるというのだ。われわれは異常なものを観に映画館に来ているのであって、健常なものなんか映画館に溢れているじゃないかと。
大きな間違いだ。「完璧すぎる」というのは、そもそもが異常な事態だ。人や物事には、ふつう、なにかしら欠落がある。去年の映画でいえば、『スティーヴ・ジョブス』(ダニー・ボイル監督)を観た人ならわかるかもしれない。完璧さを徹底して追求する人、追求できてしまう人は何かがおかしい。
我々が『ズートピア』に惹かれてやまないのは、この映画が無限に汲み尽きない狂気の鉱脈だからだ。それはディズニーというブランドそのもののコンセプトでもある。完璧な狂気。
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3.『ハッピーアワー』(濱口竜介監督)
五時間半ある。二度の休憩を挟んで、六時間。個人的には三時間以上の尺を持つ映画を映画と呼びたくはないのだけれど、まあ実際に映画として公開されている代物だし、映画的なモーメントに満ちているし、なによりものすごくものすごくものすごく面白いのだから、個人的な定義などいくらでも曲げてよくないか?
なぜおもしろいのか。コミュニケーションとディスコミュニケーションをテーマにしたサスペンスだからだ。この組み合わせは、超々長尺の作品を撮るにあたっての最適解といえる。コミュニケーションが切れたり繋がったりするのは下世話な僕たちの本性を捉えるし、そこにハラハラドキドキのサスペンス性が加わればもう時間なんてものはなくなったに等しい。画面にかぶりついたまま光陰が矢のごとく過ぎていき、気がつけば陽はとうに暮れている。*1
5.『バタード・バスタード・ベースボール』(ウェイ兄弟)
Netflix 限定。
カーク・ダグラスのお父さんがかつて所有していたマイナー野球チームの伝説を負ったドキュメンタリー。ベースボールがアメリカの神話であることがよくわかるし、そういう意味ではフィリップ・ロスの『素晴らしきアメリカ野球』やケン・カルファスの『喜びと哀愁の野球トリビア・クイズ』、あるいは映画*2『フィールド・オブ・ドリームズ』にも比肩する。
まあ詳しくは以下。
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それにしても、このころはキチガイみたいな文章量書いてましたね。キチガイだったんでしょうか。
6.『人生はローリング・ストーン』(ジェームズ・ポンソルト監督)
めんどくさいワナビとめんどくさい作家のロード・ムービー。
インディーズの監督には人間のめんどくささを描く人も多いけれども、自分にはジェームズ・ポンソルトのそれがしっくりきます。
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人が人を殴る。とりあえず殴る。なにがなんでも殴る。そういうものが最高なのはしょうがないんです。映像は暴力を映すのに適したメディアなんですから。
10.『ミストレス・アメリカ』(ノア・バームバック監督)
なんだかよくわからないけどパワフルでクズな義姉(予定)についていって、それをネタに小説を書こうと目論むクズの話。去年は劇場公開された『ヤング・アダルト・ニューヨーク』もあったけど、バームバックの最高傑作はこっちだと思う。そうですね、アメリカの神話みたいな話ですよ。ゴッドではなく、ゴッデスの。
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+10
クズ野郎映画の傑作。「実際にいそう」なクリーピーさでは『クリーピー』に優るし、物語を悪用するのは物語によって復讐されるという説話の構造も巧い。
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13.『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』(スティーヴン・フリアー監督)
こういうダメ人間同士が支え合って世界を構築する話を観ると自動的に泣く。
玉音放送を聞いた皆が「あー戦争終わった終わった」モードに入るなか、すずさんだけが「一億総玉砕するんじゃなかったのかよ! だったら、最後までやれよ! みんな死ぬまでやれよ!」とキレるシーン良かったですよね。こういうキレかた好きです。
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永遠ではない永遠を永遠にするために映画はあるのだ、と気づいた最初の人類なんじゃないかな? リンクレイター。
19.『スロウ・ウエスト』(ジョン・マクリーン監督)
新人としては今年最大の収穫。ウェス・アンダーソンっぽく西部劇をやる、とそれだけ聞いたら Youtube でよくみかけるパロディ映画以上のクオリティにはならないな、と思うんだけど、ちゃんとどう語れば映画になるのかを監督が熟知しているのでおもしろい。
ウェス・アンダーソンフォロワー映画といえば、昨年は『僕とアールと彼女のさよなら』がありましたね。こちらもなかなか観せてくれる。
20.『神聖なる一族 24人の娘』(アレクセイ・フェドルチェンコ監督)
寒い土地で性にまつわる益体のない寓話を24篇垂れ流すだけで極上の時間を過ごせるという新発見。
+5
『DOPE ドープ!』
『さざなみ』
『ロブスター』
『サウルの息子』
『日本で一番悪い奴ら』
各部門賞
(自分の中で)ブレイクスルー俳優
☆ ジェシー・プレモンス - 『ブラック・スキャンダル』、『ファーゴ』S2、『疑惑のチャンピオン』、『ブリッジ・オブ・スパイ』
ドーナル・グリーソン - 『エクスマキナ』、『ブルックリン』、『ソング・オブ・ザ・シー』、『ブラックミラー』S2、『レヴェナント』
シャメイク・ムーア - 『DOPE』、『ゲット・ダウン』
テッサ・トンプソン - 『ディアー・ホワイト・ピープル』、『ボージャック・ホースマン』
ジェニファー・ジェイソン・リー - 『ヘイトフル・エイト』、『アニマリサ』
ベン・キャロラン - 『シング・ストリート』
トム・スウィート - 『シークレット・オブ・モンスター』
あくまでの僕のなかでブレイクした俳優なので……『ナイト・オブ』観てりゃあリズ・アーメッド(『ローグワン』)も入ってたかも。ベン・ウィショー(『ロンドンスパイ』、『パディントン』、『ロブスター』、『白鯨との闘い』、『リリーのすべて』)も迷ったけど、やはり去年の『ホロウ・クラウン』S1だよな、ということで。
作曲部門
☆Disasterpeace 『イットフォローズ』
小野川浩幸『淵に立つ』
エイドリアン・ブリュー「ひなどりの冒険」
ブルーノ・クーレイス&キーラ『ソング・オブ・ザ・シー』
カーター・パーウェル『キャロル』
牛尾憲輔『聲の形』
坂本秀一『溺れるナイフ』
クマ映画オブザイヤー(Kumamiko d'Or)部門
☆『レヴェナント』
『ジャングル・ブック』
『パディントン』
『ディズニーネイチャー/クマの親子の物語』
『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ』(DVD発売)
Netflix でしか観られないでしょう部門
☆『バタード・バスタード・ベースボール』
2『タンジェリン』
3『最後の追跡』
『13th ――憲法修正第十三条――』
『サイレンス』
『ディヴァイン』
『ディアー・ホワイト・ピープル』
『カンフー・パンダ3』
『マイ・リトル・ポニー:エクエストリア・ガールズ - フレンドシップ・ゲーム』
『粒子への熱い想い』
Netflix is 神。
『タンジェリン』はiPhoneで撮影した低予算映画。トランスジェンダーの売春婦が刑務所から出所してきて元カレを探す話。アツい友情話です。
『最後の追跡』は Netflix オリジナル映画で、アメリカでは各紙の年度ベストテンにランクインしてますよね。「奪ったものもまた奪われゆくのだ」という無常さが佳い。
『13th』は『グローリー(Selma)』の監督がとった黒人差別についてのドキュメンタリー。あらゆる意味で、観るべき映画です。『ディアー・ホワイト・ピープル』とセットでね。
特に推したいのは『サイレンス』。スプラッタホラー版『聲の形』ですね。ぜんぜん違うぞ。監督のマイク・フラナガンは間違いなく今後のアメリカホラー界を代表する人物になる(というか、もうなっている)ので、『オキュラス』と伏せてよろしくお願いします。
ソフトスルー部門*8
☆『人生はローリング・ストーン』
2『ミストレス・アメリカ』
3『スロウ・ウエスト』
『ワイルド・ギャンブル』
『遥か群衆を離れて』
『愛しのグランマ』
『ミニー・ゲッツの秘密』
『アノマリサ』
『ナイト・ビフォア』
『僕とアールと彼女のさよなら』
『ワイルド・ギャンブル』はクズ野郎俳優ベン・メンデルソーンのクズ野郎っぷり(ダメ人間方面)が遺憾なく発揮されたクズ野郎映画。お相手はデッドプールさんことライアン・レイノルズだから二度クズ美味しい。
『遥か群衆を離れて』はトマス・ヴィンターベア待望の新作。名作文学を映画化した恋愛文芸映画なんですが、ほとばしる変態性が止まらない。特に男がフェンシングの剣をヒロイン(キャリー・マリガン)に素振りするシーン。メタファーにしてもはしたなすぎです!『愛しのグランマ』、佳作とはこういう映画を指すのでしょう。
クズ野郎映画アンサンブル賞トップ10
☆『日本で一番悪い奴ら』
『アンフレンデッド』
『ミストレス・アメリカ』
『クリーピー 偽りの隣人』
『エブリバディ・ウォンツ・サム!!』
『ヤング・アダルト・ニューヨーク』
『人生はローリング・ストーン』
『人と超人』
『淵に立つ』
『何者』
基本的にここに挙げた映画に出てくるキャラは漏れなくクズです。でもまあ一口にクズといっても色んなタイプがあって、『日悪』のクズたちは犯罪者だけど犯罪者である点さえなければ気のいいアンちゃんばかりなのでほのぼのします。犯罪者なんですけどね。
『アンフレンデッド』の人らはホラー映画に出てくる典型的なクズティーンなんですけれど、そのクズっぷりの演出が半端じゃない。胸くそ悪いクズどもが無残な目にあってスカッとしたいアンチクズ野郎映画ファンにもオススメです。
『エブリバディ・ウォンツ・サム!!』の人たちはクズっていうか、大学内では割りとエリートなんですけれど、まあ愛嬌のあるクズで、むしろバカと言ったほうがいいのかな。『日悪』と似ていないこともない。
姉映画賞
☆『ライト/オフ』(姉弟)
『ブルックリン』(姉妹)
『ミストレス・アメリカ』(義姉妹)
『ブレア・ウィッチ』(姉弟)
『ドント・ブリーズ』(姉妹)
『この世界の片隅に』(姉妹・小姑)
『スーサイド・スクワッド』(姉弟)
姉映画はやはりホラー映画が強いわけですが、直球の姉弟愛を見せてくれた『ライト/オフ』に栄冠を。
ホラー姉映画といえば、姉はだいたい味方サイドに位置することが多いわけですけど、『ブレア・ウィッチ』は敵対サイド(厳密には違う気もするけど)に立っていて興味深い。
『ドント・ブリーズ』のどこが姉映画だ、という意見は多いかもしれません。しかし、考えてみてください。物語後半で大金を手に入れた主人公(姉)が異常なまでに金に執着するあまり、脱出の選択を間違えてしまう。傍から見ると、単に金に汚い女の自業自得です。が、ここに姉映画という視座を導入することによってシーンの意味合いが変わる。そもそもなんで主人公に金が必要かというと、最悪な家庭環境から妹を救い出すためなわけです。つまり、彼女にとって老人の金とは妹の命や未来とイコールなのです。そういう目で観てみると、醜悪な狂態が崇高な愚行に見えてきませんか。見えませんか。ならいいです。
『スーサイド・スクワッド』はラッキー姉映画(姉映画と期待してなかったのに姉映画だった姉映画のこと)でしたね。弟が倒されると一気にヘナヘナとしおらしくなる魔女姉さん、百点。
ドラマ
☆『シリコンバレー』シーズン1〜3
『ファーゴ』シーズン2
『ストレンジャー・シングス』シーズン1
『ゲットダウン』シーズン1(半分)
『ハウス・オブ・カード』シーズン4
『Empire 成功の代償』シーズン2〜シーズン3途中
『レディーダイナマイト』シーズン1
『ロンドン・スパイ』
『Veep』シーズン1
『ホロウ・クラウン 嘆きの王冠』シーズン2